医療訴訟で看護師に問う法的責任とは?過失を認めた裁判例も紹介 | 事故慰謝料解決ナビ

医療訴訟で看護師に問う法的責任とは?過失を認めた裁判例も紹介

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医療訴訟で看護師に問う法的責任とは?過失を認めた裁判例も紹介

医療現場では、患者の状態を確かめたり、治療に専念できるようにと尽力されている看護師が多数います。
医療事故のなかには、どうしても避けようがなかった事故もあれば、看護師に何らかの落ち度があって起こってしまった事故も存在するでしょう。

医療訴訟を起こして看護師へ法的責任を問いたいという方に向けて、患者が看護師にどんな法的責任を問えるのか損害請求の相手は誰か看護師の過失が認められた裁判例などを紹介していきます。

医療訴訟を起こして看護師を訴えることはできる?

医療訴訟によって看護師を訴えることは可能です。ただし、すべての場合において患者の請求が通るわけではありません。看護師が負う責任と医療訴訟による損害賠償請求を整理していきましょう。

看護師が医療ミスで問われる3つの責任

医療ミスの当事者になった看護師は、民事責任、刑事責任、行政責任の3つを負います。

民事責任とは、民法に基づく患者への損害賠償責任です。
患者が主として看護師に責任を問えるのは、民事責任になります。

刑事責任とは、患者への刑法に基づく処分のことです。
たとえば医療ミスで患者を死なせてしまった場合には業務上過失致死などがあたるでしょう。

行政責任とは、看護師免許に対する処分のことで、業務停止や免許の取り消しなどが該当します。

過失があれば損害賠償請求できる

医療ミスが起こったとき、看護師に過失があれば損害賠償請求が可能です。過失の有無を検討する上で重要なのは、安全配慮義務になります。

安全配慮義務とは、患者が危険にさらされないように配慮する義務のことです。
看護師としての安全配慮義務に違反して医療ミスが起こった場合、看護師による故意または過失があったとして賠償責任を問うことができます。

どんなとき安全配慮義務違反にあたる?

安全配慮義務に違反しているかどうかは、次の2点で判断されます。

安全配慮義務違反を判断する2つのポイント

予見可能性 医療ミスは予測できたか
結果回避性 適切な対応を取れば結果を避けられたか

安全配慮義務は立場や職業によって異なります。
看護師という職業で考えて「予測できたもの」や「適切に対応していれば結果が変わったもの」については、看護師の落ち度といえるのです。

いいかえれば、看護師であっても予測できない場合や、適切な対応をとっても結果は変わらなかった場合などは、看護師の安全配慮義務違反にはあたりません。

損害賠償請求の相手は看護師だけではない

看護師に安全配慮義務違反があり、故意または過失による賠償義務を負った場合、看護師を雇用する医療機関も使用者責任に基づいて同じく賠償義務を負います。

そして、患者やそのご家族が医療ミスの損害賠償請求先を検討するとき、医療機関に対する賠償請求が極めて重要です。
なぜなら看護師いち個人の資力には限界があり、患者側が賠償請求をしてもきちんと支払われない可能性があるからです。

介護現場における医療ミスも同様

看護師が介護施設や訪問介護業者に雇用されている場合も、看護師を雇う側に対して使用者責任に基づく損害賠償請求ができます。

介護事故の損害賠償請求については関連記事でより詳しく解説していますので、参考にしてください。

看護師の過失が認められた医療ミスの訴訟事例

医療ミスの訴訟のうち、看護師の過失が認められた2つの判例を紹介します。

誤嚥事故|パンを詰まらせて後遺障害が残った

くも膜下出血で搬送されて緊急手術を受けた患者がいました。入院中の昼食の際に蒸しパンを喉に詰まらせて窒息し、重篤な後遺障害が生じてしまったのです。裁判では看護師が適切な食事介助を怠った注意義務違反を認めました。ただし、後遺障害にはくも膜下出血の影響も一定程度認められることから、損害賠償額は限定的なものとなったのです。(東京地方裁判所 平成23年(ワ)第27601号 損害賠償請求事件 平成26年9月11日)

判決のポイント

  • 患者の判断能力低下を踏まえて危険を予測すべきだった
  • パンは窒息の危険がある食品と念頭に置き適切な対応を取るべきだった
  • 窒息事故と後遺障害に因果関係が認められる

投薬ミス|エタノールとの取り違えによる死亡

看護師は患者の人工呼吸器に用いる滅菌精製水タンクを、消毒用エタノールと取り違えてしまいました。その後に引き継いだ看護師も気づかず、患者に約53時間にわたってエタノールを吸引させた結果、アルコール中毒で死亡させてしまったのです。遺族の損害賠償請求は認められましたが、医師や病院による組織ぐるみの隠ぺい行為があったという主張は認められませんでした。(京都地方裁判所 平成13年(ワ)第2820号 損害賠償請求事件 平成18年11月1日)

判決のポイント

  • タンクのラベル確認を徹底することは看護師としての注意義務である
  • 被害患者の生命予後が不良であっても「死」という苦痛に差異はないので、死亡慰謝料の金額と予後不良は関連しない

医療訴訟に至るまでの流れ

医療訴訟は損害賠償請求の方法のひとつです。しかし、訴訟は損害賠償請求の終局的な方法であり、まず最初に選択される方法とは言い切れません。

ここからは医療訴訟に至るまでの流れと、各請求方法の違いを解説します。ご自身のケースで取るべき方法に悩んでいる方は参考にしてください。

病院側との示談交渉をおこなう

医療ミスにとどまらず、民事上の紛争の大半は、示談交渉から損害賠償請求を始める場合が多いでしょう。

示談交渉とは、紛争相手と話し合うことで解決を目指す方法のことです。お互いの納得をもって解決するので、結果への納得感を得やすい、解決までの期間が比較的短いというメリットがあります。また、示談交渉に決まった手数料などはかからないので費用を抑えることも可能でしょう。

一方で、医療ミスそのものを相手が否定していたり、金額面で折り合いがつかない場合などは、示談交渉での解決は難しいです。

POINT

  • 示談交渉のメリットには、納得をもちやすいこと、比較的早期の解決ができること、費用がかからないことなどがある
  • 双方の主張が対立しており譲歩できないときには示談は成立しえない

裁判所を通して話し合いをする

示談交渉がうまくいかないときには、第三者として裁判所に介入してもらい、話し合う方法があります。この方法は調停といいます。

示談交渉と同様に話し合いによる解決を目指すので、当事者同士の合意は不可欠です。

裁判所以外にはADR機関に介入してもらうこともできます。

裁判所を通して医療訴訟を提起する

示談交渉や調停でも解決が難しいときは、話し合いではなく、判決で紛争に決着をつけることになります。

判決とは裁判所が医療ミスについて損害賠償金額を決めることです。裁判所は患者側と病院側の主張を聞き、証拠を確かめて判決を言い渡します。

もっとも、判決はすぐには確定しません。三審制の範囲内で、判決に不服があれば上訴して上級審で訴訟をやりなおすことができます。

あるいは、判決前に裁判所から和解案を提示されることがあります。この和解案について双方が受け入れることになれば、和解が成立して訴訟終了となります。

関連記事では医療訴訟の流れや裁判所に支払う訴訟費用をまとめていますので、医療訴訟についてより詳しく知りたい方は参考にしてください。

医療訴訟に関するよくある疑問

医療訴訟に踏み切るべきかを悩んでいたり、いざ訴訟となっても様々な疑問は尽きないものです。
ここからは医療訴訟に関するよくある疑問にお答えします。

医療訴訟の勝算は?

令和2年、医療訴訟の認容率は約22%でした。このことから医療訴訟は勝訴率が低いともいわれています。

しかし、医療ミスで訴訟になった場合も必ず判決によって解決するわけではなく、和解によって争いを終了することもあるので、勝訴率が低いからという理由だけで損害賠償請求を諦めてしまうのは早計です。

医療ミスが疑われるときには、一度弁護士に相談して損害賠償請求の見通しについてアドバイスを受けることも有効でしょう。

医療訴訟ではどれくらいの賠償金が見込める?

医療訴訟を起こしたときの賠償金のトータルは個別に異なりますが、慰謝料においては一定の相場が決まっています。

死亡慰謝料は2,000万円~2,800万円程度が相場となるため、請求すべき賠償金はこの金額以上になるでしょう。

後遺障害慰謝料は110万円~2,800万円程度が相場となり、障害の部位や程度によって金額が決まります。なお医療ミスによって生じた後遺障害部分のみを対象とするため、既往症があれば金額は減額される見込みです。

これらの慰謝料は賠償金の一部に過ぎません。賠償金の内訳や相場観を掴みたい方は、関連記事をお読みください。示談金についての記事になりますが、示談であっても訴訟であっても請求すべき賠償金の相場に大差はありません。

医療訴訟を起こせるのはいつまで?

時効期間や時効の起算点は、発生時期および損害賠償請求の法的根拠により異なります。

不法行為にもとづく損害賠償については、2020年4月1日以降に発生した場合、損害および加害者を知った時から5年、医療ミスの時から20年となります。

債務不履行にもとづく損害賠償については、2020年4月1日以降に発生した場合、権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から20年になります。

2020年3月31日より以前の場合には、この時効期間が適用される場合と、適用されない場合に分かれるので注意してください。

関連記事『医療訴訟の時効はいつまで?医療ミスから何年経っても訴訟できるのか』では時効の詳細や、時効を延長させる方法についても解説しています。

医療訴訟ではどんな証拠が必要?

医療訴訟にかぎらず、損害賠償請求では証拠資料が極めて重要です。

実際に医療現場で何が起こっていたのかは、看護記録カルテに記載されています。またはCT・レントゲン・MRI、血圧や心電図などの検査結果も必要になるでしょう。

要は必要な証拠資料は「何を主張するのか」で変わるため、詳しくは弁護士に問い合わせることをおすすめします。証拠資料の収集には一定期間を要するものもあるので、『医療事故を弁護士に相談するメリット』も参考にして弁護士への相談も検討してみましょう。

弁護士に依頼すると費用はどれくらいかかる?

弁護士費用は法律事務所や弁護士によって設定料金が異なるので、「必ずこの金額で依頼できる」とは言い切れません。

ただし、過失調査や証拠収集など弁護士の作業負担が大きかったり、損害賠償金が高額になると、弁護士費用は高額になる可能性もあります。

以下の関連記事では弁護士費用の内訳や弁護士費用のシミュレーションを紹介しています。弁護士費用の相場観を掴みたい方は併せてお読みください。

重大な後遺障害が残ったり死亡した場合は弁護士に相談

医療事故において看護師に損害賠償請求できるケースなどについて解説してきました。最後に改めてポイントをまとめておきたいと思います。

  • 看護師の安全配慮義務違反があるとき、不法行為や債務不履行を法的根拠として損害賠償請求が認められる可能性がある
  • 看護師の過失を認め、医療機関側へ賠償を命じる判決が出た裁判もある
  • 医療訴訟は損害賠償請求の最終的な方法として取られることが多く、まずは示談交渉での解決を目指すことが多い

安全配慮義務違反などが認められるような医療事故で、重大な後遺障害が残ったり、ご家族が亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」「ネット削除依頼」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

英語:TOEIC925点