医療過誤の解決に必要な医療調査とは?弁護士に頼むメリットも紹介 | アトム法律事務所弁護士法人

医療過誤の解決に必要な医療調査とは?弁護士に頼むメリットも紹介

更新日:

医療過誤解決に向けて

「医療ミスにあったかもしれないけど誰に相談したらいいのだろう…」
「医療事故があったらすぐに医療機関へ損害賠償請求をすればいいのだろうか…」

自分や家族が医療事故にあった場合、医療機関側へ損害賠償請求をしたいと考える方も多いかと思います。

しかし、医療事故では、医療機関側に損害賠償請求をする前に医療調査という手続きをとる必要があります。

本記事では、医療事故の解決に必要となる医療調査とは何かを解説していきます。また、医療調査を弁護士に頼むメリットや実際に弁護士に頼む前に知っておきたいことについても紹介していきます。

医療調査の基礎知識

医療調査はなぜ必要?

医療調査は、医療事故があった場合に、医療機関側へ法的に責任追及できる見込みがあるかどうかを判断するために必要となる手続きです。

医療行為により、患者が死亡したり後遺症が残ったとしても、全ての事案で医療機関側(医師や病院)が患者や遺族に法的責任を負うわけではありません。

医療機関へ法的に責任追及するためには、当該医療行為が医療過誤(医療ミス)といえるか(法的には「過失」があったといえるか)、医療ミスがあったとして、死亡や後遺症などの被害がその医療ミスによって生じたものといえるか(法的には「因果関係」があるといえるか)を患者側が主張・立証する必要があります。

しかし、医療事件では、一般的な事案とは異なり、患者側がどのような医療行為を受けたかなどの事実関係を十分把握しておらず、過失や因果関係の有無の判断に医学的な知識が必要となるという特殊性があります。

そのため、医療事故では、責任追及手続きに先立って、そもそも責任追及できる見込みがあるかどうかを判断するため、どのような医療行為を受けたかや医学的な知識などを調査する必要があるのです。

医療調査の内容

医療調査の主な内容は以下のとおりです。

医療調査の主な内容

  1. 診療記録の入手・分析
  2. 医学文献の調査
  3. 協力医の意見聴取
  4. 相手方医療機関への説明会実施の申入れ
  5. 医療事故調査制度の利用を促す

ここからは、各内容について詳しく解説していきます。

診療記録の入手・分析

まず、患者の症状の経過、各段階に対応する診療行為の内容、診療当時の医師の認識・判断を知るために、診療記録(カルテ・画像・薬や注射の投与記録・検査記録など)を入手する必要があります。

診療記録の入手方法には、主に「カルテ開示」「証拠保全」という二つの方法があります。

カルテ開示

カルテ開示は、患者が医療機関に申し入れを行い、実費を払って診療記録のコピーをもらう方法です。厚生労働省の指針や個人情報保護法の適用により、多くの医療機関は、患者がカルテ開示を請求すれば応じるようになってきています。

カルテ開示は、後ほど紹介する証拠保全の手続きと比べて、短い期間・安い費用で診療記録を入手することができるというメリットがあります。

一方、事案によっては開示請求を拒否されることもあること、証拠保全の手続きと比べると、改ざんの危険性が高いというデメリットがあります。

証拠保全

証拠保全は、裁判所に申し立て、裁判官と一緒に医療機関に赴き、その場でカルテを提出させて、保存する方法です。

証拠保全は、裁判所からの命令のため、確実に診療記録を入手することができ、事前の予告なくカルテの提出を求められることから、カルテの改ざんの危険性は少ないというメリットがあります。

一方、裁判所を介して行う手続きであるため、カルテ開示に比べて時間や費用がかかるというデメリットがあります。

診療記録の入手方法メリットデメリット
カルテ開示短い期間・安い費用で入手できる・拒否されるおそれ
・改ざんの危険性高い
証拠保全・確実に入手できる
・改ざんの危険性低い
時間や費用がかかる

診療記録の入手・分析により、医療機関のどういった行動が問題になりそうかのあたりをつけます。

医学文献の調査

診療記録を分析した結果、医療機関のどういった行動が問題になりそうかのあたりがついたら、その問題に関連する医学文献を調査し、事案に即して検討します。

たとえば、診療記録を分析した結果、手術中の医師の対応に問題がありそうとあたりをつけたら、患者が受けた手術に関する医学文献を調査します。

そして、医師の実施した手術が、医学文献に記載されている通常・標準の手技・術式ではない場合、手術ミス(法的には「手技上の過失」)があったのではないかという見通しを立てることができます。

協力医の意見聴取

もっとも、医学文献の記載はあくまで一般的な対応ですので、実際の事案に即して医療ミスといえるかを詳細に検討するには、協力医への意見聴取が必要となります。

具体的には、当該事案で問題となっている診療科目の専門医に、入手した診療記録などを検討してもらい、当該事案に関する医師としての意見を求めます。

診療科目の分野や争点となる医療行為の内容によっては、協力医の確保が困難なケースもあります。

意見聴取の方法としては、患者側が用意した質問に回答してもらうのが一般的ですが、協力医によっては、裁判所に証拠としても提出しやすいよう、意見書を作成してくれる場合もあります。

相手方医療機関への説明会実施の申入れ

相手方医療機関による説明会とは、担当医や当該診療科の責任者である医師と面談し、医療事故発生の原因や医療機関の落ち度などについて、相手方医療機関の認識や主張を明らかにする手続きです。

診療契約は、民法の準委任契約に該当し、医療機関と診療契約を締結している患者は、準委任契約に基づき、医療機関に診療内容について説明を求める権利があります。

そのため、多くの医療機関は、患者から説明会実施の申し入れがあれば、説明会を開催し、患者の質問に対し、回答をしてくれます。しかし、中には、説明会の開催を拒否したり、面談ではなく書面でのみ回答するという医療機関もあります。

説明会での相手方医療機関の回答を踏まえて納得のいかない部分が出てくれば、再度医学文献の調査を行ったり、協力医の意見を再聴取したりすることもあります。

医療事故調査制度の利用を促す

医療事故調査制度とは、医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで、再発防止につなげる医療法上の制度です。

院内調査が行われると、医療機関から遺族に対して、院内調査の結果について説明が行われます。遺族から調査依頼があった場合にはセンターによる調査も行われ、センターから遺族に対して、調査結果の報告が行われます。

もっとも、医療事故調査制度は、あくまで医療事故の再発防止により医療の安全を確保することが目的の制度であり、個々の事案の責任追及のための制度ではない点には注意する必要があります。

また、医療事故調査制度の対象となる「医療事故」は死亡事故に限られていることや制度の対象になるかどうかについては、遺族ではなく医療機関が判断する制度となっている点にも注意が必要です。

ただし、医療機関に直接申入れをしたり、センターへ相談し、センターから医療機関に対して相談内容を伝達してもらったりすることにより、医療機関に医療事故調査制度の利用を促すことは可能です。

医療調査にかかる期間は?

医療調査にかかる期間は、3〜6か月程度が目安ですが、事案の複雑さや協力医が見つかるかどうか、相手方医療機関の対応などに大きく左右されるので、ケースバイケースとなります。

たとえば、診療記録が多いとカルテの翻訳作業や協力医の診療記録の分析に時間がかかるので、期間は長引く傾向にあります。

また、相手方医療機関が診療記録の開示や質問に対する回答に協力的ではない場合も、医療調査の期間は長くなります。

医療調査を弁護士に頼むメリット

医療調査は、患者本人や遺族が行うことも不可能ではないですが、以下の点から弁護士に依頼することをおすすめします。

患者側の負担を抑えられる

医療調査は、資料の作成や収集など様々な手続きが必要となり、患者やその家族にとっては大きな負担となります。

この点、弁護士に依頼すれば、手続きの大半を弁護士が代わりに行ってくれるため、負担は大幅に軽減されます。

つまり、医療調査を弁護士に頼めば、患者やその家族は治療や看護・介護、その後の生活をどうすべきかといった対応に注力できるようになるのです。

医療調査を適切かつスムーズに行える

医療調査を弁護士に頼めば、具体的な事案に即した適切な方法を選択することができます。

たとえば、先ほどお伝えしたとおり、診療記録の入手方法には、カルテ開示と証拠保全という二つの方法があります。

どちらの方法を選択するかは、改ざんの危険性を考慮する必要がありますが、一般的に紙カルテよりも電子カルテは改ざんの危険性が低いこと、一方で過去には電子カルテの改ざんが認められた裁判例も存在することといった知識を弁護士は有しています。

そういった知識を前提に、弁護士であればカルテ開示と証拠保全のどちらの方法で診療記録を入手すべきか、具体的な事案の状況を踏まえて選択できるのです。

また、医療調査をスムーズに行うためには、カルテの翻訳業者や協力医を素早く確保する必要がありますが、医療調査をしたことのない人にとっては、これらの人々を確保するのは簡単ではありません。

しかし、医療事故の経験豊富な弁護士であれば、過去に実施した医療調査で知り合ったカルテの翻訳業者や協力医などがおり、それらの人々に協力してもらうことで医療調査をスムーズに行えるのです。

損害賠償請求の見通しが立てられる

医療調査は、医療機関側に損害賠償請求できそうか見通しを立てるのに必要となる手続きです。

そして、医療機関側に損害賠償請求するには、医療機関側に「過失」が認められること、その過失と患者側に生じた損害との間に「因果関係」が認められることを主張・立証する必要がありますが、過失や因果関係というのは法的な概念であり、その有無を判断するには法的な知識が必要となります。

この点、弁護士は法律の専門家ですので、医療調査の結果を踏まえ過失や因果関係が認められそうか、つまり損害賠償請求が認められそうかの見通しを立てることができます。

また、弁護士であれば、類似事案の裁判例を調査・検討することでも、損害賠償請求が認められそうかの見通しを立てることができます。

その後の責任追及手続きも任せられる

医療事件で損害賠償請求をする場合、大きく医療調査手続きと責任追及手続きに分けられます。

このうち、医療調査手続きについては弁護士以外に頼むことも可能ですが、責任追及手続き(損害賠償手続き)については弁護士以外に頼むことはできません。

そして、先ほどもお伝えしたとおり、医療調査手続きは責任追及手続きするための前提となる手続きですので、どちらの手続きも一人の人に依頼した方が、手続きがスムーズにいく可能性が高いです。

そのため、その後の責任追及手続きも任せられる弁護士に医療調査の手続きを頼むことは、その後の責任追及手続きがスムーズにいきやすいというメリットがあるのです。

事案に即した適切な解決方法を判断できる

医療機関に対して責任追及をする場合、取り得る解決方法には主に、示談交渉、医療ADR、調停、裁判があります。

①示談交渉

患者側と医療機関側が、第三者を間に入れず、直接の話し合いによる解決を目指す方法です。

最もスムーズに解決が図れたり、柔軟な解決方法が実現できるというメリットがあります。

ただし、争点が多かったり、双方の主張の開きが大きい場合には示談交渉での解決は難しくなります。

②医療ADR

患者側と医療機関側が、あっせん委員という第三者に間に入ってもらい、話し合いによる解決を目指す方法です。あっせん委員は医療紛争の経験が豊富な専門家(弁護士や医師)で構成されます。

医療ADRは、医療機関の過失の有無という責任判定のみに終始することなく、患者側、医療機関側双方の話し合いの中で、適切妥当な解決を目指すことができるというメリットがあります。

ただし、医療ADRは任意の手続きなので、医療機関側が期日に出席しないと、手続きが進められないというデメリットもあります。

③調停

患者側と医療機関側が、裁判所において調停委員という第三者に間に入ってもらい、話し合いによる解決を目指す方法です。医療事件の場合、原則として調停委員のうち1人は医師が選ばれます。

また、調停は通常簡易裁判所で行われますが、東京や大阪など裁判所に医療集中部がある地域では、地方裁判所で医療調停が行われるケースもあります。

医療調停は、医療機関側が責任を争わず、損害額が少額な事案に適しています。

④裁判

患者側の意見と医療機関側の意見のどちらが相当であるかを、中立公正な立場である裁判官に判断してもらう手続です。

東京や大阪など大都市では、医療訴訟を専門的に取り扱う医療集中部がある裁判所もあります。

当事者の話し合いでは解決ができない場合でも、裁判官が結論を出してくれます。

もっとも、裁判の流れの中で話し合いでの解決(法的には「和解」)が図られることもあります。

裁判は、他の方法に比べ、解決までに時間がかかるのがデメリットです。

医療調査を弁護士に頼んでおけば、調査結果を検討し、依頼者の希望も踏まえた上で、事案に即した最も適切な解決方法を判断してくれるというメリットがあります。

医療調査を弁護士に頼む前に知っておきたいこと

医療調査を弁護士に頼むメリットを知り、実際に弁護士へのご依頼を検討されている方に、あらかじめ知っておいた方がよいことを最後にお伝えしていきます。

なお、医療調査以外の医療事故全般についてよくある疑問への回答を知りたい方は、下記の関連記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。

医療調査を頼んだ場合の弁護士費用は?

弁護士事務所によって金額はさまざまであり、証拠保全手続きをした場合かどうかで金額が違うこともありますが、調査費用は11万円~44万円(税込)が一定の目安になります。

上記の弁護士費用に加えて、診療記録のコピー代、カルテの翻訳代、協力医への謝礼金、交通費などの実費もかかる場合があります。

証拠保全手続きをした場合は、申立て費用やカメラマン代などもさらにかかることがあります。

弁護士費用が安くても、上記のような実費を合わせると高額になる可能性もあるので、弁護士に頼む前に、上記のような実費を含めた総額の見積もりを出してもらうことが非常に重要です。

なお、先ほどお伝えしたとおり、医療事件で損害賠償請求をする場合、大きく医療調査手続と責任追及手続に分けられるところ、調査手続と責任追及手続のそれぞれにおいて弁護士費用の支払が必要となることが多いです。

責任追及手続の弁護士費用について、内容ごとの金額の目安は以下のとおりです。

費目金額
法律相談料1時間1.1万円程度~(初回無料の法律事務所もある)
示談交渉着手金:22万円程度~
調停・ADR着手金:22万円程度~
訴訟着手金:55万円程度~
報酬金支払われる金額(経済的利益)の11~22%程度
日当裁判所への出廷1回1.1万円程度~など
実費契約時に10万円程度を預かり終了時に清算

※ 金額はあくまで目安のため、具体的な金額は法律事務所により異なります。

医療過誤の事案解決には弁護士費用がどれくらいかかるか知りたい方は、下記の関連記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。

医療調査はどんな弁護士に頼むべき?

医療調査は弁護士が扱う事件の中でも専門性の高い分野ですので、どの弁護士に頼んでもいいというわけではありません。

医療調査を弁護士に頼もうとする際には、実際に契約をする前に、以下の点を確認することをおすすめします。

証拠保全手続きをどれくらいしたことがあるか

証拠保全手続きは、診療記録の改ざんを防ぐため、迅速さが要求される一方、保全したい証拠や保全が必要な理由などを具体的に記載したり、保全の必要性があることを証拠によって示さなければならないなど申し立て書類や資料の作成・収集には時間がかかります。

この点、証拠保全手続きの経験のない弁護士に依頼すると、証拠保全の申立てがスムーズにいかないで医療調査に時間がかかり、効果的な医療調査ができないおそれもあります。

そのため、証拠保全手続きが必要になる場合を想定して、事前に証拠保全手続きの経験を事前に聞いておくことは大切です。

事務所に医学文献をどれくらい揃えているか

医療調査の一部である医学文献の調査を行うには、そもそもどういった医学文献を調べればよいか検討するため、弁護士にも一定の医学的知識が求められます。

この点、弁護士事務所に基本的な医学文献が揃えられていれば、その弁護士事務所が医療事件に力を入れており、弁護士も一定の医学的知識を有していると推測することができます。

また、事務所に医学文献が揃っていれば、医学文献を収集する手間が省け、その分医療調査に要する期間を短縮することができます。

そのため、弁護士に法律相談をする段階で、事務所に医学文献をどれくらい揃えているか確認することは大切です。

連携する協力医がいるか

医療調査では、協力医の確保が困難なケースが数多くあります。

協力医の確保に時間がかかれば、その分解決までに時間がかかることになりますし、最終的に協力医が確保できなければ、効果的な医療調査を行うことができなくなります。

この点、依頼する弁護士に連携する協力医がいれば、医療調査をスムーズかつ適切に行える可能性が高くなるので、事前に連携する協力医がいるかを確認しておくことは大切です。

なお、医療調査だけでなく、その後の示談や訴訟に強い弁護士の探し方を知りたいという方は、下記の関連記事で解説をしているので参考にしてみてください。

まとめ|アトムの無料相談窓口の紹介

医療調査の基礎知識や弁護士に依頼するメリットを中心に解説してきました。弁護士への依頼を検討するなら気を付けたいポイントをまとめます。

  • 医療事故において医療機関に損害賠償請求を行うなら、医療調査が欠かせない
  • 弁護士に依頼すれば、医療機関側の過失の有無を適切に調査し、示談交渉や裁判を行える
  • 医療調査は弁護士費用が低額でも総額で高額になることもあるので、依頼の際にはしっかり確認が必要

医療事故によって重大な後遺症が残ったり、ご家族が亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。無料相談の予約受付は24時間365日対応しています。

無料法律相談ご希望される方はこちら

お取り扱いできない事案もあります。詳しくは受付にご確認ください。

アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了