医療訴訟とは?医療ミス(医療過誤)の裁判の流れと弁護士に依頼するメリット
医療訴訟とは、医療事故が発生した場合に患者側が医療従事者の医療ミス(医療過誤)が原因であると主張して医療機関側に損害賠償請求する民事訴訟の一類型です。
発生した医療事故の原因が医師や看護師といった医療従事者の医療ミス(医療過誤)といえる場合は、患者やその家族(遺族)は、医療機関側(医師や病院など)に損害賠償請求できます。
医療機関側への損害賠償請求は裁判だけではありませんが、病院がミスを認めなかったり、賠償金額の折り合いがつかなかったりなど、話し合いでは解決できない場合は医療訴訟の提起が必要です。
また、医療訴訟は、法知識と医学知識の両方が必要であること、証拠を集めて交渉する解決力が求められることなどハードルが高い部分があるため、信頼できる弁護士を見つけることが重要です。
本記事は医療訴訟の流れや弁護士に相談・依頼するメリットについて解説しています。医療訴訟を行ううえで患者やそのご家族が知っておきたい要点もまとめていますので、あわせてお読みください。
医療訴訟の基礎知識・特色・注意点
医療訴訟は、その専門性の高さから、一般的な民事訴訟とは異なる部分があります。
医療訴訟の特色や注意点を知らないと、医療訴訟を提起してから後悔したり、提起すべき医療訴訟をあきらめたりする可能性があります。
そこで、まずは医療訴訟の提起を検討をしている方に向け、医療訴訟の基礎知識や特色、注意点を解説していきたいと思います。
医療訴訟における損害賠償請求の3つのポイント
医療訴訟では主に、以下の3つのポイントが争点となります。
- 医師や看護師などの医療ミス(医療過誤)が認められるか(法的には「過失」の有無)
- 医療ミス(医療過誤)により損害が発生したといえるか(法的には「因果関係」の有無)
- 損害賠償金額
医療訴訟で損害賠償請求するには、医療事故が発生したという結果だけでなく、その原因が医療従事者(医師や看護師など)の医療ミス(医療過誤)であるという、法的には「過失」や「因果関係」の立証が必要となります。
1.過失について
「過失」については、具体的には医師の手術方法が不適切であったこと(手技上の過失)や治療薬の過剰投与、手術の合併症リスクについて事前の説明がなかった(説明義務違反)などがあります。
2.因果関係について
「因果関係」については、たとえば、緊急搬送された患者が手術後に死亡したケースで、医療ミス(手技上の過失)があったとしても、搬送された時点で適切な手術が行われたとしても助かる見込みがなかった場合には、死亡と過失との因果関係がないとして損害賠償請求が認められません。
3.損害賠償金額について
医療機関側が医療ミスを認めているケースでも、損害賠償金額で折り合いがつかず、裁判まで持ち込まれるケースもあります。
医療事故で損害賠償請求するための要件についてより詳しく知りたい方は、関連記事を参考にしてみてください。
注意点:医療訴訟で追及できるのは民事上の責任
病院が医療事故で負う法的責任は、刑事責任、民事責任、行政責任の3つです。
法的責任 | 概要 |
---|---|
刑事責任 | 業務上過失致死傷罪など犯罪への刑罰 |
民事責任 | 被害者に与えた損害への賠償責任 |
行政責任 | 医業停止や免許の取消しなどの処分 |
刑事責任は、病院がおこなった行為を犯罪行為として警察・検察が捜査をおこない、検察の判断のもとで裁判にかけられることです。
よって、被害者やその家族が「病院側に刑罰を負わせたい」と希望しても、主な決定権は持ちません。
行政責任も同様に、患者や家族が行政処分の申し入れはできますが、最終的な行政処分の判断は厚生労働大臣が決定します。
本記事では民事訴訟を主に扱います。患者や家族の方が今回の医療事故で病院や医師に何を望むのかを整理しておくと、弁護士やその他相談窓口での対応もスムーズです。
関連記事『医療過誤の法的責任を病院側に追及したい|刑事訴訟と民事訴訟の違い』も参考にして、どんな責任追及ができるのかを検討しておきましょう。
医療訴訟で請求できる損害賠償金
医療ミスで患者が負った損害として、医療訴訟で請求できる主な損害賠償金の内訳は以下のとおりです。
損害賠償金の主な内訳
- 治療費用・入院雑費
- 通院交通費・入通院付添費
- 慰謝料
- 休業損害
- 逸失利益
- 葬儀費用
医療事故によって損害を受ける患者はもともと何らかの怪我や疾病を負っており、医療事故によって怪我や疾病が悪化したり、新たな怪我や疾病を負うことになります。
そのため、医療事故における損害賠償の対象となるのは、医療事故によって悪化した部分や新たに生じた部分を治療するために生じる費用等になるのです。
しかし、具体的に医療事故によってどの程度の悪化があったのか、医療事故が新たな怪我や疾病にどの程度影響しているのかをいうことを正確に判断することがむずかしいケースもあります。
以下の関連記事では医療過誤の慰謝料相場や裁判例を紹介しています。慰謝料請求のポイントがわかるので、併せてお読みください。
慰謝料の関連記事
注意点:休業損害や逸失利益の請求がむずかしいケースがある
休業損害や逸失利益は基本的に仕事による収入を得ていた人が対象となっています。
しかし、医療事故の対象となる人は怪我や疾病を治療しているため、医療事故の発生前から怪我や疾病により働けていない人も多いでしょう。
医療事故が起きる前から仕事による収入を得られない程度の怪我や疾病を負っているケースでは、医療事故が原因で休業損害や逸失利益が発生したと主張することが困難なことがあります。
もっとも、医療事故が原因で仕事の復帰が遅れることになったり、医療事故が起きる前から仕事を行えていたのであれば休業損害や逸失利益の請求も可能でしょう。
医療訴訟では過失(医療過誤)の判断が困難
医療訴訟では、医療機関側に過失があったのかどうかについてが大きな争点となることが多いです。
しかし、医療訴訟における過失の有無を判断することは、一般的な民事訴訟よりも非常に困難です。
まず、医師には治療を行う際に適切な治療を行うという内容の注意義務があります。注意義務に違反する医療行為があった場合には医師に過失(医療過誤)が認められるのです。
医師の注意義務違反があったかどうかについては、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」にもとづいた医療行為がなされていたのかという点から判断されることになるでしょう。
しかし、上記にいう医療水準とは、医師が属する医療機関の性格(最先端の医療を行う大学病院なのか、町の診療所なのかなど)、所在地域の医療環境、どのような治療法がどの程度普及していたのかといった事情を考慮しつつ決める必要があります。
医療訴訟の過失(医療過誤)の判断には上記のような医学的知識が必要となるため、過失があったことを主張立証するためのハードルが高く、過失の判断が難しいという特色があるのです。
医療訴訟の提起の前に医療調査が必要
医療訴訟では一般的な民事訴訟とは異なり、患者側がどのような医療行為を受けたかなどの事実関係を十分把握しておらず、過失や因果関係の有無の判断に医学的な知識が必要という特色があります。
そのため、医療訴訟では訴訟提起に先立って、損害賠償請求が認められる見込みがあるかどうかを判断するため、どのような医療行為を受けたかや医学的な知識などを調査する必要があるのです。
こうした調査を「医療調査」といい、非常に重要な事前調査になります。
医療調査をせずに医療訴訟を提起しても、判決が出るまで非常に時間がかかるだけでなく、損害賠償請求が認められる可能性も非常に低くなるので注意が必要です。
医療調査について詳細に知りたいという方は、下記の関連記事で解説をしているので、参考にしてみてください。
医療調査で重要視されるカルテ
調査のために最も重要となる証拠は患者の治療に関する情報が詰まっているカルテです。
カルテの入手方法には(1)医療機関に開示を求める方法(カルテ開示手続き)と(2)裁判所を通して確保する証拠保全手続きの2通りの方法があります。
証拠を確保する方法
- 医療機関に開示を求める方法(カルテ開示手続き)
- 裁判所を通して確保する証拠保全手続き
カルテは医療機関が保管しているため医療機関に開示を求める必要がありますが、悪質な医療機関では何かと理由を付けて開示を拒んだり、カルテの内容を改ざんしたりするケースもあるのです。
カルテの開示がスムーズにいかないのであれば、裁判所を通して証拠を確保する証拠保全手続きを行う必要があります。
カルテなどの診療記録を入手できたら、診療記録を検討した上で、医学文献の調査や専門医からの意見聴取などを行い、損害賠償請求が認められそうかどうかの見通しを立てる流れになります。
医療訴訟は判決までの期間が長い
医療訴訟は判決までの期間が一般的な民事訴訟よりも長くなることが多いのも特色の一つです。
民事訴訟の第一審における平均審理期間は令和4年度で10.5ヶ月となっていますが、医療訴訟に関しては令和5年度で26.4ヶ月です。
一般的な民事訴訟は基本的に1年以内に審理が終了するのに対して、医療訴訟では2年以上かかることが珍しくないのです。
これは、医療訴訟において必要となる医療知識を裁判官が十分に有していないことが多いため、どの点が問題となっており、問題点を判断するために何が必要なのかを明確にすることに時間がかかることが原因の一つになっています。
また、医療の見解に関する主張が正しいものなのかを判断するためには、中立的な立場にある医師を選任し、その医師の調査にもとづいた見解を参考にするという鑑定手続きが必要となることがあります。
鑑定手続きを行えば当然審理期間も伸びてしまい、鑑定のための費用も必要となってくるのです。
医療訴訟の長期化を問題視した裁判所が打ち出した施策
医療訴訟の長期化を改善するため、東京や大阪などの大中規模都市の地方裁判所では、医療訴訟を集中的に取り扱う「医療集中部」という部署が設けられています。医療訴訟に熟練した裁判官が担当することで、迅速な審理となるよう工夫されるようになりました。
とはいえ、まだまだ通常の民事裁判と比べると医療訴訟は解決まで長い期間を要するのが実情です。
医療訴訟は勝訴率が低い
令和5年、医療訴訟の認容率は20%でした。
認容とは医療訴訟の患者側の主張が全てまたは一部認められたものをいいます。患者側の主張が一部でも認められることを「勝訴」とすると、医療事故の勝訴率は20%といえます。
下表に示す通り、医療事故の勝訴率はおおむね20%前後で推移しており、一般的な民事訴訟と比べると勝訴率が低いという特色があります。
年 | 医療訴訟 | 通常訴訟 |
---|---|---|
令和元年 | 17.0% | 85.9% |
令和2年 | 22.2% | 86.7% |
令和3年 | 20.1% | 84.3% |
令和4年 | 18.4% | 84.3% |
令和5年 | 20.0% | 86.3% |
最高裁判所 医事関係訴訟委員会について「医事関係訴訟に関する統計」より作成/令和5年は速報値
医療訴訟の勝訴率が低いのは、上記で解説したとおり、医療訴訟では一般的な民事訴訟と比べて、損害賠償請求の要件の一つである「過失」の立証が難しいからであると考えられます。
医療訴訟は和解で終わることも多い
医療訴訟の勝訴率が低いからといって、勝てないと思い、裁判をあきらめてしまうのは早計です。
下表に示すとおり、医療訴訟は一般的な民事訴訟より和解で終わる割合が高いという特色があります。
令和4年 | 判決 | 和解 | その他 |
---|---|---|---|
医療訴訟 | 31.8% | 52.9% | 15.3% |
通常訴訟 | 45.8% | 32.8% | 16.2% |
つまり、医療訴訟を提起した原告(患者やその家族)の半数以上が賠償金や和解金を受け取れているということになります。
審理期間の長期化や過失の判断がむずかしいといった理由もあり、医療訴訟では和解による早期の解決をすることが多くなっています。
訴訟が長期化するほど、弁護士へ支払うことになる費用も増加していきます。また、いつまで経っても勝てるかどうかがわからない状況が続くのは精神的に厳しく、患者や家族の負担も大きいです。
裁判所としても、和解により当事者双方が納得した形で早期に解決となった方がお互いのためになるとして、和解を勧めることが珍しくありません。
判決と和解の違い|それぞれのメリットを検討
裁判上の和解には確定判決と同じ効力があります。
医療訴訟における判決と和解を選択する際にポイントとなる点は以下のとおりです。
判決と和解のポイント
- 訴訟の終了時期
- お互いの譲歩
- 履行の実現可能性
訴訟の終了時期
判決の場合は、審理が終結したあとに出されるものです。また、原告・被告双方が控訴や上告ができるので、訴訟が一度で終わらずに続く可能性があります。
和解の場合は、その都度タイミングによって和解に至る可能性があるものです。争いが少ないものであれば早々に和解に至る可能性もありますし、裁判官の心証や当事者の意向から和解を促してくることもあります。
よって、訴訟の終了時期については和解のほうが早くなることが一般的です。
お互いの譲歩
判決は裁判官の判断によるものなので、患者側・病院側ともに譲歩の必要がありません。いいかえれば、患者側の主張がゼロになることも、100%認められることもあるでしょう。
一方で和解はお互いの合意を元にしているので、どちらか片方の主張だけが通るということはありません。患者側にも一定の譲歩が必要になることがあります。
よって、譲歩できるかどうか、裁判の進行から譲歩が必要かどうかで判断が分かれるところです。
履行の実現可能性
判決として裁判所から命じられた金額よりも、双方の合意のもとで決まる和解金のほうがきちんと支払いを受けられる可能性も高まるでしょう。とくに、相手方の資力が乏しいときにはなおさらです。
このような事情から、医療訴訟では和解によって解決となることが多いのです。
和解の内容としては、医療機関側の過失を認めることを前提として患者側の請求する金額のほとんどを認めるようなものや、医療機関側に過失がないものの解決金などの名目で数十万円から数百万円程度を支払うといったものがあります。
医療訴訟の勝訴率や和解と判決の違いなどを詳しく知りたい方は、関連記事を併せてお読みください。
併せて読みたい関連記事
医療訴訟の流れ|訴状提出から判決までのフロー
ここからは、医療訴訟を実際に提起しようと考えている方に向け、医療訴訟の流れを解説していきたいと思います。
医療訴訟も民事訴訟の一類型ですので、医療訴訟の流れは一般的な民事訴訟と基本的には同じです。
医療訴訟の大まかな流れは、次の通りです。
医療訴訟の流れ
- 原告が裁判所に訴状などを提出
- 裁判所が審理期日を決定
- 裁判所は被告に訴状と期日呼出状を送付
- 被告は裁判所に答弁書を提出
- 裁判所は原告に答弁書を送付
- 口頭弁論
- 和解の検討
- 判決
大まかな流れが分かったところで、もう少し具体的にどのようなことをするのかみていきましょう。
1.原告が裁判所に訴状などを提出
民事訴訟を提起するには、「訴状」という書面を裁判所に提出します。訴状とともに、証拠書類の提出も必要です。
民事訴訟を提起した人のことを原告といい、民事訴訟を提起される人のことを被告といいます。訴状を提出する裁判所は、原則として被告の住所地を管轄する裁判所です。
通常の民事裁判は、被告に対して請求する訴額140万円を境に簡易裁判所を利用するか、地方裁判所を利用するかが変わってきます。
しかし、医学に関する高度な知識を要する医療事故では、訴額にかかわらず地方裁判所に移送されることもあるでしょう。
医療訴訟の提起に必要な費用の内訳
医療訴訟を提起する際に必要となる主な費用は、申立手数料と郵送切手代です。
申立手数料
申立手数料は訴訟で相手方に請求する金額で異なり、次の金額を収入印紙で納付する必要があります。
請求額 | 手数料 |
---|---|
100万円まで | 10万円ごとに1,000円 |
100万円~500万円 | 20万円ごとに1,000円 |
500万円~1,000万円 | 50万円ごとに2,000円 |
1,000万円~10億円 | 100万円ごとに3,000円 |
※裁判所手数料を参考に作成
上表の計算はやや複雑ですので、700万円を請求する場合の申立手数料を例に説明します。
700万円は請求額500万円~1,000万円の範囲に収まるため、まず500万円との差額である200万円分の手数料として8000円かかります。
つぎに、100万円までの請求で1万円、100万円から500万円までの請求で2万円の手数料を支払わねばなりません。
すべて合計して、請求額700万円の場合の申立手数料は3万8,000円となります。
郵送切手代
郵送切手代は、裁判所が訴状を被告などに送付する際にかかる郵便費用です。費用は各裁判所により異なるため、詳細は訴状を提出する裁判所に確かめましょう。
たとえば東京地方裁判所では、当事者が1名ずつの時に6,000円、当事者が1名増えるたびに2,000円が加算されます。(出典:東京地方裁判所 郵便料の現金予納等のお願い)
医療訴訟は時効完成前に提起する必要がある
医療訴訟の時効は、医療ミスから20年または医療過誤であるとして法的責任追及の可能性を具体的に認識した時点から5年です。
時効完成後に医療訴訟を提起しても、基本的に医療機関側に消滅時効を主張され、損害賠償請求は認められません。
医療訴訟の時効の具体的な起算点や時効が近づいた場合の対処法など、医療訴訟の時効については関連記事でより詳しく解説しています。
理解が深まる関連記事
2.裁判所が審理期日を決定
原告が裁判所に訴状を提出したら裁判所で内容が審査され、審理期日が決定します。
3.裁判所は被告に訴状と期日呼出状を送付
裁判所は審理期日を決定したら、被告に訴状と期日呼出状を送付します。
4.被告は裁判所に答弁書を提出
訴状を受け取った被告は「答弁書」を作成し、裁判所に提出しなくてはなりません。
答弁書とは、訴状の内容に対する被告の見解を示した書面です。訴状の内容を認めるのか、反論するのか、その他に主張したいことなどが記載されています。
5.裁判所は原告に答弁書を送付
答弁書は、裁判所を通じて原告にも届けられます。
ここまで進むと、いよいよ開廷となるのです。
6.口頭弁論|争点整理手続き
以後は「口頭弁論」として、訴状や答弁書に沿った陳述、証拠調べがおこなわれます。なお、口頭弁論に回数の決定的な決まりはなく、裁判所が十分に証拠調べができた時点で終了です。
医療訴訟では争点整理が重要
医療訴訟に限らず、裁判では双方の主張が食い違う「争点」が何かを明らかになっていきます。
医療訴訟では、期日が一定程度進行したときに、裁判所によって「争点整理案」が当事者に示される流れです。この争点整理案を元に、原告と被告がそれぞれ意見を述べていくことで、争点整理案が完成されていきます。
こうして双方の主張を裏付ける書証(証拠)が提出されることのほか、医療訴訟では鑑定が必要になることも多いです。
鑑定とは?
専門性の高い分野について、特別の学識経験を有する第三者に意見を求める手続のこと
鑑定の申し出を受けると、誰に鑑定を依頼するかの検討も必要です。鑑定期間も含めると、鑑定手続には一定の時間を要します。
なお、鑑定が行われる場合には、鑑定費用を裁判所に納付する必要があります。
7.和解の検討
口頭弁論を行う中で、裁判所によって和解の可能性が検討されます。和解とは、当事者がお互いに譲歩し、争いをやめることです。
裁判上の和解は、判決と同一の効力を持ちます。
8.判決
和解とならなければ、裁判所によって判決が下されます。判決に対して不服がある場合、上級審に対する不服申立を行います。
なお、医療訴訟においては弁護士に依頼するケースがほとんどですが、請求認容額の約1割を弁護士費用として損害賠償金に含める判決が出されることが多いです。
医療訴訟を弁護士に相談・依頼するメリット
医療訴訟を具体的に検討するなら、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士だからできることについて知っておきましょう。
勝訴の可能性を知ることができる
医療過誤の解決に力を入れている弁護士に相談することで、訴訟の見通しを聞くことができます。
医療訴訟を行うためには、事前に医療機関側に過失があり、過失によって患者に損害が発生したこと(医療過誤の存在)を証明できる証拠を揃えることが必要です。
医療訴訟で勝訴できる可能性がなければ、訴訟提起を行うべきではないでしょう。
医療訴訟の判例を知ることもポイント
これまでの医療訴訟の判例をみれば、法的判断のポイントが見えてくる可能性があります。
関連記事『医療訴訟の判例集|患者側勝訴と敗訴の事例の判決ポイント』では、医療訴訟で患者側が勝訴した判例と敗訴した判例を解説していますので、お役立てください。
医療過誤の証拠収集や調査を任せられる
病院側の過失の有無についての調査や証拠収集のすべてを個人で行うことは非常に困難です。
弁護士に依頼すれば、過失の有無についての調査や適切な証拠収集を代わりに行ってくれます。
医療過誤の経験が豊富な弁護士であれば、医学的資料や普段から協力してくれている専門医(協力医)の見解をもとに過失の有無について判断を行ってくれるでしょう。
そのため、弁護士に依頼することで医療訴訟における勝訴の見通しの精度を高めることができ、訴訟準備を着実に進めることができます。
訴訟の手続きや対応を一任できる
医療訴訟による解決を図るのであれば適切な訴訟手続きを行う必要があり、そのためには専門的知識が必要となります。
また、医療訴訟は長期に及ぶ傾向にあり、患者自身やご家族が毎回裁判所に出廷することは大きな負担です。
弁護士に依頼すれば、適切な訴訟手続きを行いつつ、依頼者の代わりに裁判所に出廷できるため、患者自身の負担が軽くなります。
関連記事では、弁護士に相談や依頼するメリットをさらに詳しく解説しています。弁護士の探し方なども解説していますので、弁護士依頼を検討している方は関連記事もお役立てください。
次に読みたい関連記事
医療訴訟前の示談交渉・調停手続きなども弁護士に任せられる
医療機関に過失があり、勝訴の可能性があると判断できた場合でも、いきなり訴訟提起を行うことはあまりありません。
まずは話し合いによる解決を行うために、医療機関との交渉を行うことが多いでしょう。そして交渉が難航して解決がむずかしいときには医療訴訟へと移ることになるのです。
医療機関との交渉の方法としては、以下のようなものがあります。
- 示談交渉
- ADR機関の利用
- 調停手続きの利用
交渉の方法について、それぞれ簡単に解説していきます。
示談交渉
示談交渉とは、当事者間の話し合いにより和解内容を決めることで解決を図る方法になります。
他の機関を介在させないため、特に費用もかからないことから、まずは示談交渉を行うことが多いでしょう。
当事者間の合意さえあれば基本的に和解内容については自由に決めることができるので、個別の事案に応じた柔軟な解決が可能となります。
当事者間の合意が得られない場合は、他の方法による交渉を行う、または、訴訟による解決を図ることとなるでしょう。
医療事故の示談金相場や示談交渉の進め方については、関連記事『医療事故の示談金相場はいくら?内訳と示談交渉の流れや賠償金との関係を解説』を参考にしてください。
ADR機関の利用
ADR機関とは、仲介人をあっせんし、仲介人を通じた話し合いの機会を設けてくれる機関です。
医療事故に関するADR機関に申立てを行うことで利用することができます。
仲介人は医療事故の経験が豊富な弁護士や医師であり、当事者の意見を聞いたうえで和解案を提案してくれます。
ただし、あくまでも和解の提案に過ぎないため強制力はなく、当事者間の合意が得られない場合は解決とはなりません。
また、申立ての時点や解決となった際に費用が必要となることがあるので、利用する前にはどの程度の費用がかかるのかを確認すべきでしょう。
調停手続き
調停手続とは裁判所において話し合いによる解決を行うという手続きになります。
裁判所が選出した調停員を通じて話し合いを行い、解決を目指します。
訴訟を行うよりも安価であり早期の解決を行うことが可能となりますが、話し合いである以上、当事者間の合意が必要です。
調停による解決が困難となったのであれば、訴訟による解決が必要となるでしょう。
【コラム】医療訴訟を弁護士に依頼するとどんなお金がかかる?
弁護士に医療訴訟を依頼する際には、以下のような費用が発生することになります。
- 法律相談料
- 過失調査のための着手金
- 証拠保全手続きのための着手金
- 医療訴訟開始の着手金
- 報酬金
- 日当
- 諸経費
医療訴訟では訴訟を起こすまでの過失調査や証拠保全手続きなどに着手金がかかるケースが考えられます。
また、報酬金は法律事務所や弁護士によって設定があったり、医療機関側に請求する金額が高いほど高額になる可能性もあるでしょう。
関連記事『医療過誤の弁護士費用|医療訴訟までいくと高額になる?着手金無料の真実』では、医療訴訟を弁護士に依頼した場合の詳しい弁護士費用がわかります。金額シミュレーションで相場もつかめるので、あわせてお読みください。
まとめ|医療事故の悩みを弁護士に無料相談する方法
医療訴訟の流れや弁護士に相談・依頼するメリットなどを中心に解説を進めてきました。最後に、医療訴訟を検討されている場合に注意しておきたいポイントをまとめておきます。
まとめ
- 医療事故について医療機関側との話し合いがうまくいかない場合は医療訴訟による解決が必要
- 医療訴訟を行うなら、医療機関側の過失検討や証拠収集といった医療調査が欠かせない
- 医療訴訟は長期となりやすく、和解で終わることが多い
- 医療訴訟による解決を目指すなら弁護士に依頼して医療調査や裁判手続きを任せるべき
- 弁護士に依頼すれば、医療訴訟前の解決方法である示談交渉なども弁護士に任せられる
医療事故で大きな後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされた場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
医療事故の損害賠償問題を解決するには、医療訴訟だけでなく示談交渉や調停といった方法を選択することもできます。弁護士に相談して、ご自身のケースではどの方法がベストなのかアドバイスがもらえるでしょう。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了