労災で失明した場合等の障害等級・労災保険・賠償問題を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災で失明した場合等の障害等級・労災保険・賠償問題を解説

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労災事故で失明|障害等級や賠償問題

仕事中・通勤中に眼を負傷して失明したり、その他眼に後遺障害を負ったりした場合、労災によりカバーされる範囲は具体的に決められています。

それでは、どのような眼の障害が労災保険により補償されているのでしょうか。

本記事では、労災によって失明など眼に対する障害が生じた場合に、労災保険による給付内容や金額の算定方法などを解説します。

失明など労災の対象となる眼の障害事例

眼球やまぶたの障害について労災として認められるものは、以下のように規定されています。

(1)視力障害

「視力障害」とは、失明・視力の低下を伴う障害のことです。視力は原則として万国式試視力表により測られます。

視力とは矯正視力のことを指しますが、矯正が不能な場合に裸眼視力により判断されます。

また、「失明」とは、眼球を摘出したりして亡失したもの、明暗の区別ができないものや明暗の区別が何とか判断できる程度の状態をさします。

さらに、暗室にて眼前で照明を点滅させ明暗が判断できる視力(光覚弁・明暗弁)や、他人の手のひらを眼前で上下左右に動かして動きの方向は判別できる視力(手動弁)がある場合も「失明」には含まれるのです。

(2)調節機能障害

「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」は労災の対象とされています。

著しい調節機能障害とは、調節力が通常の2分の1以下に減少してしまった状態を指します。

調節力とは、明視できる遠点から近点までの距離的な範囲(調整域)をレンズに換算した値のことです。(単位はジオプトリー)

要するに、眼のピントを合わせる機能がうまく働かなくなることで物が見にくくなるという障害です。

(3)運動障害

「眼球に著しい運動障害を残すもの」についても労災の対象となります。
著しい運動障害とは、眼球の注視野の広さが2分の1以下に減少してしまう状態です。

注視野とは、頭部を固定した状態で眼球を運動させて直視することのできる範囲をいいます。注視野の広さには個人差があるものの、多数人の平均では単眼視で各方面約50度、両眼視で各方面約45度といわれています。

また、「複視を残すもの」も後遺障害と認定されます。
複視とは、右眼と左眼の網膜の対応点に外界の像が結像せずにずれるために、ものが二重にみえる状態のことです。

(4)視野障害

視野障害とは、8方向の視野の角度の合計が正常視野の角度の60%以下に減少してしまった状態のことです。

視野障害には「半盲症」、「視野狭さく」、「視野変状」の症状が含まれます。

(5)まぶたの障害

まぶたの「欠損障害」とは、普通にまぶたを閉じた場合に、角膜を完全に覆うことができない等の状態のことです。

また、まぶたの「運動障害」とは普通にまぶたを開けた場合に、瞳孔領を完全に覆うもの又はまぶたを閉じたときに角膜を完全に覆うことができない状態をいいます。

労災による失明などで給付される内容

後遺障害が生じているかどうかが重要

労災によって失明などの障害が生じ、障害が完治しない場合には、障害の症状が後遺障害といえるかどうかが問題となります。

眼に生じた障害が後遺障害に該当するという認定を受ければ、労災保険から障害補償給付を受けることが可能となるためです。
後遺障害に該当する障害が生じているかどうかについては、医師が行う検査の結果から明らかにする必要があります。

障害補償以外にも、治療費用や休業によって生じる損害に対しても給付がなされます。
給付内容や給付を得るための手続きに関して詳しく知りたい方は『労働災害保険とは?給付の仕組み・内容とQ&A集』の記事をご覧ください。

眼に関する障害内容ごとの給付内容を紹介

眼に生じた障害が後遺障害といえる場合は、労災保険により、眼の障害の程度に応じて年金か一時金の障害補償給付が支給されます。

障害の種類ごとに障害等級と補償給付についてみていきましょう。(補償給付額は、障害等級ごとに当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の〇日分という風に計算します。)

(1)「視力障害」の障害等級と補償給付

視力障害の「等級」「身体障害」「補償給付」は以下のように規定されています。

等級障害補償給付額
1級 両眼が失明したもの(1号)313日分(年金)
2級 一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの(1号)両眼の視力が0.02以下になったもの(2号)277日分(年金)
3級 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの(1号)245日分(年金)
4級両眼の視力が0.06以下になったもの(1号)213日分(年金)
5級一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの(1号)184日分(年金)
6級両眼の視力が0.1以下になったもの(1号)156日分(年金)
7級一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの(1号)131日分(年金)
8級一眼が失明し、又は他眼の視力が0.02以下になったもの(1号)503日分(一時金)
9級両眼の視力が0.6以下になったもの(1号) 一眼の視力が0.06以下になったもの(2号)391日分(一時金)
10級一眼の視力が0.1以下になったもの(1号)302日分(一時金)
13級一眼の視力が0.6以下になったもの(1号)101日分(一時金)

(2)「調節機能障害」の障害等級と補償給付

調節機能障害の「等級」「身体障害」「補償給付」については以下のように規定されています。

等級障害補償給付額
11級両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの(1号)223日分(一時金)
12級一眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの(1号)156日分(一時金)

(3)「運動障害」の障害等級と補償給付

運動障害の「等級」「身体障害」「補償給付」については以下のように規定されています。

等級障害補償給付額
10級正面視で複視を残すもの(1号の2)302日分(一時金)
11級両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの(1号)223日分(一時金)
12級一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの(1号)156日分(一時金)
13級正面視以外で複視を残すもの(2号の2)101日分(一時金)

(4)「視野障害」の障害等級と補償給付

視野障害の「等級」「身体障害」「補償給付」については以下のように規定されています。

等級障害補償給付額
9級両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの(3号)391日分(一時金)
13級一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの(2号)101日分(一時金)

(5)「まぶたの障害」の障害等級と補償給付

まぶたの障害の「等級」「身体障害」「補償給付」については以下のように規定されています。

等級障害補償給付額
9級両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの(4号)391日分(一時金)
11級両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの(2号)一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの(3号)223日分(一時金)
12級一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの(2号)156日分(一時金)
13級両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの(3号)101日分(一時金)
14級一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの(1号)56日分(一時金)

給付金額の算出方法について

後遺障害補償給付の金額は、認定された後遺障害等級と給付基礎日額によって決まります。

給付基礎日額とは、障害が生じた日の直前3ヶ月間に労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った金額です。ただし、臨時で支払われた賃金や3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金を除きます。

年金であれば算出された金額について毎年支給を受け、一時金の場合は一度だけ算出された金額の給付を受けることになります。

労災による失明では損害賠償請求も検討

労災保険では補償として不十分な恐れがある

労働者が障害を眼に負った場合、労災保険給付を受けられたとしても、すべての損害がカバーされているわけではありません。

たとえば、労働者に対する精神的損害を賠償するための「慰謝料」などは労災保険給付には含まれていないのです。

それでは、労災保険とは別に慰謝料などを請求できるのでしょうか。

会社が負う損害賠償責任の性質

会社が被災労働者に負う責任は、不法行為や債務不履行にもとづく損害賠償責任です。
会社は労働者に対して安全配慮義務を負っています。

安全配慮義務とは、被用者の生命および健康等を危険から保護するように配慮しなければならない会社の義務のことです。(労働契約法第5条参照)
会社が安全配慮義務に違反した結果、労災によって労働者に眼の障害が生じた場合は、会社に対する損害賠償請求が可能となります。

会社が労災により眼の障害が生じる恐れがあることを予見できたにもかかわらず、眼の障害が生じないようにするための対策を怠ったといえるのであれば、会社の安全配慮義務違反が認められるでしょう。

会社が対策を怠ったのかどうかは、適切に会社から情報開示を受けなければ判断が困難です。

労働災害に遭った場合にはぜひ一度、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

労災保険と損害賠償請求は両立しうる

労働者は労災保険給付で支給された部分については二重どりできません。

そこで、労災制度で補填される部分については労災保険を受給し、労災保険では補填できない慰謝料などは別途会社に請求することができます。

労災による失明は弁護士に相談すべき

労災によって失明など眼に障害が生じた場合には、労災保険からの給付や損害賠償請求によって得られる金額が大きくなることが多いでしょう。

そのため、適切な金額を得るためには専門家である弁護士に相談し、どのように対応するべきなのかについて確認することをおすすめします。

また、弁護士に依頼すれば請求のために必要な手続きを代わりに行ってくれるため、眼の治療に専念することが可能です。

失明など眼に大きな障害が残った場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
相談費用を気にすることなく、現在の不安点や疑問点を解消できるので、一度ご相談ください。

法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、いつでもご連絡可能です。

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詳しくは受付にご確認ください。

アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了