部活中の熱中症で学校を訴えることは可能か|損害賠償請求の争点は? | アトム法律事務所弁護士法人

部活中の熱中症で学校を訴えることは可能か|損害賠償請求の争点は?

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部活中の熱中症で学校を訴えられる?

中学や高校に入学し、部活動をはじめる学生は多いでしょう。運動系の部活動では夏場に向かうにつれて熱中症のリスクも考えられるため、注意が必要です。

熱中症対策や熱中症予防に注意を払っていても、毎年熱中症による死亡事故は絶えません。万一のことを考慮し、自分の子どもが熱中症に陥り、重度の障害が残ったり死亡してしまったりした時にどう対処すべきか知っておくことは大切です。

本記事では部活中の熱中症において、学校側に損害賠償責任を問うことができるのか、解説します。

部活動中の熱中症で損害賠償を請求する際のポイント

部活動中の熱中症により発生した治療費などの損害については、学校や部活の指導者である先生に損害賠償請求を行うことが可能です。

もっとも、損害賠償請求が認められる要件を満たしていなくてはなりません。損害賠償請求を認めさせる確率を高めるために、部活動の熱中症による損害賠償請求ではどういったことが争点になるのか確認しておきましょう。

争点(1)先生に過失があったかどうか

過失の判断基準

損害賠償請求を行う際には、基本的に先生に過失があったかどうかが争点になります。過失があったか判断するポイントは「予見可能性」と「結果回避可能性」です。

熱中症という結果が生じる予見可能性があるにもかかわらず、その結果を回避するために必要な措置を取らなかった場合には、先生に義務違反があったとして過失が認められることになります。

たとえば、熱中症を罹患することが予見可能であるにも関わらず、練習メニューの内容を減らしたり、いつもよりこまめに水分を摂取するといった結果回避を可能とする対策を実施しなかった場合は、教師の過失が問われる場合が多いです。

練習内容は部員の自主的な判断で決められるケースもありますが、先生の指示した内容を忠実に実行することが常態化した状況では、先生が部員の健康状態を損なわないようメニューを決定する注意義務を負います。

特に注目すべき事実

判例では、練習に先生が立ち会うことまでは求めておらず、先生の不在中に熱中症が生じたとしてもそのことを持って義務違反を問われる可能性は低いです。
何らかの事故発生の危険性が具体的に予測できるのであれば練習への立ち会い義務が生じますが、熱中症のリスクは「具体的」とまでは言えないようです。

そのため、先生の過失責任が問われるポイントとしては、部員が体調不良を訴えた後の対応が考えられます。

先生は生徒の状態をつぶさに観察し、危険な状態に陥っていることが確認できれば、予見可能性があるといえるため、練習の中断や病院を受診させるといった結果回避措置をとる必要があるといえるでしょう。

上記の対応をせず練習を継続させた場合は、熱中症の重症化を引き起こした点に対する結果回避義務違反があるとして過失が認められるケースがあります。

その他にも、以下のような事実について注目すべきです。

  • 気温やトレーニングの内容から熱中症の可能性があると予見できたのか
  • 体調や気分が悪くなる生徒がいないのかについてチェックできていたのか
  • 体調を崩した生徒を屋外から移動させたりといった対応をしたのか

争点(2)先生個人の責任を問うことができるか

一般的に損害賠償請求の相手方は公立学校の場合は県や市、民間設置型の場合は学校となります。

しかし、直接的に事故の原因を作ったのは先生ですから、顧問に対する責任を追及したいケースもあるでしょう。先生に対する責任を問えるかどうかは、公立学校か私立学校なのかによって扱いが異なります。

公立の教師は公務員の身分なので国家賠償法が適用されるのですが、国家賠償法1条には「公務員がその職務を行う上で他人に損害を与えた場合、国または公共団体がその責を負う」と規定されています。

つまり、熱中症の事故において顧問の対応に至らぬ部分があったとしても、原則的に学校側が損害賠償責任を負うのです。顧問に重過失が認められれば、学校側が損害賠償金の求償を求めることは可能ですが、被害者から先生個人に対して直接損害賠償を請求することは難しいのが現状となっています。

一方、私立学校の場合は民法709条の不法行為責任を問えるため、先生に直接損害賠償を請求することが可能です。

このように、子どもが部活で損害を負った場合には適宜必要な対応を取る必要があります。「学校側との対応に不安がある」という方は、関連記事『子どもが部活で怪我!親としてすべきことと学校への対応がわかる』をお読みください。部活中の事故についてどう対応すれば良いのか、全体像がつかめます。

また、損害賠償請求権にもとづいて請求できる内容については『学校事故の損害賠償|請求相手と請求内容は?示談についても解説』の記事もお役立てください。

部活動中の熱中症に関する裁判事例を紹介

学校や先生に対する損害賠償請求を行った場合に、相手方との交渉をスムーズに行うには、裁判においてどのような判断がなされているのかを知っておくべきです。

部活中の熱中症に関する裁判事例をまとめましたので、争点のポイントや判決を確認しましょう。

松山地方裁判所 平成6年4月13日判決

高校一年の女子バスケットボール部員が練習中に熱中症を発症し、心不全を起こし死亡してしまった事案です。本事例では女子生徒が2度も倒れていたにも関わらず、ただちに救急車を手配し病院の診察を受けさせなかったことに過失が認められ、市に対して3,000万円の損害賠償命令が発出されました。

指導する部活動の先生は熱中症の危険を予測し、事故発生のリスクが予見できるのであれば回避のための措置を講じる義務が生じます。これを予見義務および結果回避義務といい、本事例では結果回避義務違反を理由に損害賠償請求が認められています。

バスケットボールは試合も練習も屋内で行われますが、直射日光が当たらなくても熱中症を発症する危険はあるので十分注意しましょう。

静岡地方裁判所 平成7年4月19日判決

高校2年生のラグビー部員が夏合宿中の練習時に熱中症を発症し、死亡に至った事案です。本ケースも結果回避義務違反を理由に、学校法人と監督に対して約5,100万円もの損害賠償命令が発出されました。

部活動の合宿では通常時の練習と比較し過酷な環境が想定されます。加えて夏に行われるのであれば熱中症の危険も十分想定できるので、平時以上に熱中症には注意が必要であり、もし症状が疑われる生徒が出たら迅速かつ適切な措置が求められます。

具体的には当日の気候や気温、練習の強度、生徒自身の特性を総合的に勘案し、生徒が身体の不調を訴えた時点で休ませたり水分補給させたりといった対応が必要です。

上記のような措置を取らず練習を継続させたことが注意義務に違反したとみなされ、学校のみならず監督していた先生個人に対しても賠償責任が生じています。

大阪高裁の事例

高校のテニス部の練習中に女生徒が熱中症に陥り、結果的に重度の障害が残り寝たきり状態になってしまった事案です。大阪高裁は原告敗訴としていた一審を退け、兵庫県に約2億3,000万円の賠償命令を発出しました。

当時、先生は出張の必要性があったため、部活の練習には冒頭しか顔を出しませんでした。にも関わらず、熱中症等の危険を予測し通常時より軽めのメニューを命じるのではなく、むしろ通常時と比較し長時間・かつ密度の高いメニューを命じた点に過失があるとして学校側の責任を認めています。

一審では障害と熱中症の因果関係が証明できないこと、熱中症の症状が生じても途中で自主的に休憩を取ることが可能であったことを理由に、原告の請求は退かれていました。

部活動中の熱中症で利用できる保険

論点は変わりますが、熱中症にかかった場合、保険は利用できるのでしょうか?

損害賠償で賠償金を得るには裁判を提起しなければならず、請求が通ったとしても金銭を手にするまでにはある程度の時間が必要になります。
この点、保険金が入るのであれば安心です。熱中症で利用できる保険について解説します。

医療保険の入院給付金が受け取れる

民間保険会社の医療保険を利用している場合、熱中症の治療のために入院を余儀なくされたとしたら入院給付金を受け取ることが可能です。病気や怪我の治療を目的の入院では、事前に設定した入院給付金の日額に入院日数を乗じた金額を受け取れます。

保険会社によって入院給付金の対象は異なるので、請求したい場合は契約内容をきちんと確認しましょう。

傷害保険の熱中症危険特約が利用できるケースも

原則として傷害保険では熱中症を補償対象にしておりません。
しかし、熱中症危険特約がついている傷害保険であれば補償対象とすることが可能です。

災害共済給付制度を利用しよう

災害共済給付制度とは、学校の管理下で学生が怪我や障害を負った場合に、学生の保護者に対して給付金の支給を行う制度をいいます。

学校が日本スポーツ振興センターと契約を締結している場合は、保護者が同意することで災害共済給付制度に加入することが可能です。
共済掛金を学校と保護者が負担します。

学校の管理下において生じた熱中症は給付の対象となっており、部活の最中なら基本的に学校の管理下といえるでしょう。

災害共済給付制度を利用できないかについて、学校に確認してみてください。

災害共済給制度の給付内容や手続きについて詳しく知りたい方は『学校で起きた事故で怪我をした場合に利用できる保険は?』の記事をご覧ください。

部活動中に熱中症になったのなら弁護士に相談しよう

損害賠償請求を検討するなら弁護士相談がおすすめ

部活動中に熱中症となったことを原因として、保険制度を利用したり、損害賠償請求を起こすことは可能です。
しかし、損害賠償請求を行うには法律上の要件に該当することを明らかにする必要があるため、法的知識がない方にとっては簡単ではありません。

そのため、損害賠償請求を検討しているのであれば、請求のために集めるべき証拠の内容や、具体的に請求できる金額の計算方法などについて、専門家である弁護士に相談して確認をとるべきでしょう。

また、実際に損害賠償請求を行うのであれば学校側との交渉や裁判を行う必要があります。これらは経験のある弁護士に依頼して代わりに行ってもらうことで、よりスムーズな対応が可能です。
それだけでなく、交渉や手続きを弁護士に一任できるのでご自身の負担も減るでしょう。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了