遺産分割協議に期限はある?10年ルール・申告期限との関係と放置リスク

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遺産分割協議は「いつまでに終わらせなければならない」という法律上の期限が原則ありませんが、相続開始から10年を過ぎると権利が制限されます。

また、相続税申告の期限(10ヶ月)までに遺産分割協議を行ったうえで申告を行わないと、ペナルティが生じることからも実質的な目安になるでしょう。

このほかに、協議が長引けば長引くほど相続人間の関係悪化や証拠の散逸など、現実的なリスクも増していくのです。

この記事では、遺産分割協議と遺産分割協議書に関わる期限の全体像を整理したうえで、特に注意が必要な「10年ルール」の詳細や、期限を過ぎてしまった場合に生じるそのほかのリスクなどを解説します。

遺産分割協議に「法的な期限」はあるの?

遺産分割協議に期限はないが期間経過のリスクがある

遺産分割協議そのものに、法律で定められた完了期限は原則ありませんが、長期間協議が終わらないことで生じるリスクがあります。

民法907条1項は「共同相続人は…いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる」と定めており、相続開始から何年後に協議を行っても理論上は問題ありません。

ただし、これはあくまで「協議自体を強制的に終わらせる期限がない」という意味です。

長期間協議が終わらないと、以下のようなリスクが生じるため、早期に協議を進めることが強く推奨されます。

  • 相続税の申告・納付には10か月という期限があり、遺産分割の結果が税額に影響する
  • 2021年の民法改正(2023年4月1日施行)により、相続開始から10年を経過すると遺産分割の内容(特別受益・寄与分の考慮)に制限が生じる

遺産分割協議をしないことによるリスク|10年ルールとは何か

2021年の民法改正(2023年4月1日施行)により、相続開始から10年が経過すると、特別受益・寄与分を反映した具体的相続分による調整が原則できなくなります。

  • 特別受益:生前贈与や遺贈など、特定の相続人が被相続人から受けた特別な利益
  • 寄与分:被相続人の財産維持・増加に特別な貢献をした相続人への上乗せ分

遺産分割には、相続開始から10年という実質的な期限が設けられたといえるでしょう。

特別受益や寄与分は、相続人間の不公平を是正するための制度です。

しかし10年を過ぎると具体的相続分による調整が制限され、原則として法定相続分、または、指定相続分を前提とした分割になります(当事者全員の合意など例外あり)。

なぜこのルールが作られたのか

長期未分割の遺産が社会問題化していたことが背景にあります。特に所有者不明土地問題への対応として、遺産分割を促進するための仕組みとして導入されました。

10年以上経過すると相続人の数が増加したり、証拠が失われたりすることで、遺産分割がさらに困難になるという問題もあります。

10年ルールの例外

以下のような事情があった場合には、10年経過後であっても、特別受益・寄与分を反映した遺産分割が可能です。

  1. 10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割請求をした場合
  2. 10年経過前の6か月以内にの間に遺産分割請求ができないやむを得ない事由があり、やむを得ない事由消滅から6か月以内に請求した場合

「家庭裁判所へ遺産分割請求」とは、遺産分割調停や遺産分割審判の申立を行うことです。

「やむを得ない事由」とは、「相続人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるが、成年後見人が選任されていない」「相続開始後10年が経過してから有効に相続の放棄がされて相続人となった者がいる」といったケースをいいます。

例外のケースに該当しているのかどうかについては、相続問題に詳しい弁護士に確認してもらいましょう。

10年ルールの経過措置

改正民法施行前(2023年4月1日以前)から既に相続が開始していた場合にも、この10年ルールは適用されます。

ただし、経過措置として以下のいずれか遅い日までに家庭裁判所への遺産分割請求(調停・審判申立て)を行えば、特別受益・寄与分の考慮が可能です(なお、10年経過後であっても相続人全員が合意すれば具体的相続分による協議分割も有効と解されます)。

  • 2028年3月31日(施行日から5年後)
  • 相続開始から10年を経過した日

つまり、すでに相続が発生しているケースでも、今すぐ動けば間に合う場合があります。長期間放置している相続案件がある方は、早急に確認することをおすすめします。

遺産分割協議に関係する主な期限一覧

遺産分割協議自体に期限はないとはいえ、関連する相続手続きには複数の期限があります。これらの期限を意識しながら協議を進めることが大切です。

手続き期限起算点
相続放棄・限定承認3か月以内相続の開始を知った日
準確定申告4か月以内相続の開始があったことを知った日の翌日
相続税の申告・納付10か月以内相続の開始があったことを知った日の翌日
遺留分侵害額請求1年以内※遺留分を侵害されている事実を知った時
10年経過後の遺産分割(特別受益・寄与分の考慮の制限)相続開始から10年相続開始時(協議自体は可能だが分割内容の調整が制限)

※相続開始から10年経過した場合も、除斥期間経過により請求できなくなる

相続放棄の3か月は遺産分割協議より前に判断が必要なため、まず各相続人が「相続するかどうか」を決めてから協議に入ることになります。

相続税の申告(10か月)については、分割が確定していない場合でも「未分割申告」という形で期限を守ることが可能ですが、特例の適用に制約が生じる場合があります。

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「遺産分割協議書」の期限はいつまで?

協議書自体に提出期限はない

遺産分割協議書とは、相続人全員が遺産分割の内容に合意したことを証明する書面です。

この書面自体を「いつまでに作成・提出しなければならない」という法的な期限は定められていません。

協議が成立すれば、その時点でいつでも作成できます。

「相続税申告期限(10か月)」までに作成するのが基本

法的な期限はないとはいえ、実務的には相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)を目標に作成するのが一般的です。

なぜなら、以下のような手続きで遺産分割協議書の提出が求められるからです。

  • 不動産の相続登記(名義変更)
  • 預貯金・有価証券の名義変更・解約
  • 相続税申告(特例適用のため)
  • 自動車・各種権利の名義変更

特に相続税の申告では、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を受けるために、原則として申告期限までに遺産分割を確定させることが条件となります(例外あり)。

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申告期限までに遺産分割協議が終わらない場合の手続き

相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)までに遺産分割協議が終わらなかった場合でも、申告自体は「未分割申告」という方法で行うことができます。

各相続人が法定相続分に従って税額を計算し、いったん申告・納付することとなるのです。

ただし未分割申告の時点では、以下のような特例が原則として適用できないという大きなデメリットがあります。

  • 配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い額まで非課税)
  • 小規模宅地等の特例(土地の評価額を減額)

これらの特例を受けるためには、原則として申告期限までに遺産分割を確定させる必要があります。

なお、未分割申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」等を提出している場合は、遺産分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けられる場合があります。

また、3年を超える場合でも、やむを得ない事情があるときは一定の要件のもとで特例適用が認められる例外的な取扱いもあります。詳細は税理士にご確認ください。

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遺産分割を放置するとどうなる?具体的なリスク

法律上の期限はなくても、遺産分割を長期間放置すること、以下のようなリスクが伴います。

  • 遺産分割を行うことが難しくなる
  • 特別受益・寄与分の考慮が制限される
  • 相続税の特例が使えなくなる・ペナルティが発生する
  • 不動産が活用・売却できない
  • 相続登記義務違反が生じる
  • 相続税の延納・物納ができなくなる
  • 預貯金が凍結されたまま引き出せない

(1)遺産分割を行うことが難しくなる

遺産分割協議は長期化すると、協議がまとまりにくくなることがあります。

遺産分割協議が終わらないうちに相続人の一人が亡くなると、その方の相続人(子や配偶者)が新たに協議参加者に加わります。

これが繰り返されると、協議の参加者が増加していくために協議が複雑になり、まとまりにくくなるのです。

また、時間が経つと、金融機関の取引履歴の取得可能期間が過ぎたり、当時の事情を知る人がいなくなったりして、特別受益や寄与分を証明する証拠が失われていきます。

このほかに、協議が長引くほど感情的な対立が深まりやすく、最終的に家庭裁判所の調停・審判に発展するケースも少なくないでしょう。

(2)特別受益・寄与分の考慮が制限される(10年ルール)

民法の改正により、相続開始から10年を超えると特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分による調整が制限されます。

長年介護をしてきた相続人が寄与分を主張したかった場合でも、認められなくなる可能性があるのです。

(3)相続税の特例が使えなくなる・ペナルティが発生する

申告期限(10か月)に間に合わなかった場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えないため、納付する相続税額が高額になってしまいます。

一旦、『申告期限後3年以内の分割見込書』を添付して未分割申告や納付を行った後に、遺産分割協議を行うことで、特例の利用を前提とした納付額への修正や更正を行うことは可能ですが、使えない特例もあるのです。

そのため、遺産分割協議が申告期限に間に合わないことで、相続税が高額化してしまうケースは珍しくありません。

また、申告や納付自体が遅れてしまうと、延滞税・無申告加算税などのペナルティが発生する可能性があります。

(4)不動産が活用・売却できない

遺産分割協議が終了しないと、特定の相続人単独名義への相続登記はできません(法定相続分による共有登記は可能)。

相続登記が完了していない不動産は、売却・担保設定・活用が困難です。

(5)相続登記義務違反が生じる

相続登記が行えないことで、義務違反となってしまう恐れがあります。

2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されました。

相続によって不動産を取得した相続人は、相続開始と相続による所有権取得を知った日から3年以内に登記の申請をしなければなりません。

正当な理由なく期限を超えると10万円以下の過料が科される場合があります。

(6)相続税の延納・物納ができなくなる

相続税の納付を行う際に、延納や物納を行うことができなくなります。

延納とは、原則一括で納付する必要がある相続税について、分割払いにすることができる制度です。

物納とは、金銭の代わりに不動産などの相続財産で相続税を納付できる制度になります。

しかし、延納をするためには期限内に相続税申告をすることが必要です。

遺産分割協議が終わらず、未分割のまま相続税申告の期限が過ぎてしまうと、延納・物納の利用が難しくなる可能性があります。

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(7)預貯金が凍結されたまま引き出せない

遺産分割協議が終わらないと、被相続人名義の口座の凍結が解除されないため、預金を引き出すことが難しくなります。

被相続人が死亡を金融機関が確認すると、被相続人名義の口座が凍結されます。

多くの金融機関は、口座凍結の解除に必要な書類として、遺産分割協議書を要求してくるでしょう。

遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度(仮払い制度)を利用すれば、遺産分割協議が終了前でも預金を引き出せますが、限度額が存在します。

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遺産分割協議をスムーズに進める方法

遺産分割協議の流れとすべきこと

法定相続人を確定する

まずは、亡くなった被相続人の財産を相続できる法定相続人が誰であるのかを確定しましょう。

法定相続人を確定させるためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取得し、相続人となる人を調査する必要があります。

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相続財産の調査を行う

相続できる財産の調査を行います。

預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産についても調査が必要です。

このほかにも、死亡保険金や死亡退職金といった、本来は相続財産ではないが、相続税法によって相続財産と扱われるみなし相続財産についても明らかにしましょう。

みなし相続財産は遺産分割協議の対象ではないものの、相続税額の計算に必要となるためです。

法定相続人全員で遺産分割協議を行う

調査によって明らかとなった法定相続人全員で、遺産分割協議を行いましょう。

特別受益や寄与分がある場合には、協議の際に主張する必要があります。

相続人の中に所在不明者や行方不明者がいる場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申し立てを行うことで、協議を進められる場合があります。

遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議がまとまったのであれば、協議内容を書面化しましょう。

遺産分割協議書には、法定相続人全員の署名と捺印が必要です。

捺印は実印で行い、法定相続人全員の印鑑証明書を添付しましょう。

合意できない場合は調停・審判を検討

相続人間で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。

調停では、調停委員が中立的な立場で各相続人の主張を聞き、解決案の提示や助言を行うことで、合意を目指します。

調停でも合意に至らない場合は、審判により裁判官が分割方法を決定することとなるのです。

遺産分割協議をスムーズに進めるために専門家へ相談を

遺産分割協議をスムーズに進めたいのであれば、弁護士・税理士などの専門家への早期相談が解決への近道です。

相続人間の話し合いがうまくいかない場合は、専門家による意見を出してもらうことで、納得のいく形で解決する可能性が高まるでしょう。

特に10年ルールの経過措置期限(2028年3月31日)が迫っているケースや、相続税の未申告が長期に及ぶケースは、早急に専門家へ連絡してください。

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遺産分割協議の期限に関するまとめ

遺産分割協議に関する期限のポイントを整理します。

確認ポイント内容
協議自体の法的期限原則なし(ただし10年ルールあり)
10年ルール10年超えると特別受益・寄与分の考慮が制限
協議書の提出期限法的には定めなし(実務上は10か月を目安)
相続税申告との関係10か月以内に申告。未分割でも申告は可能だが、一旦特例なしで納付必要
放置のリスク遺産分割長期化・特例不適用・登記義務違反など

「期限がない」という安心感から放置してしまいがちな遺産分割ですが、時間が経つほど解決は難しくなります。相続が発生したら、できるだけ早い段階で全体のスケジュールを把握し、専門家を交えながら進めていくことが大切です。

遺産分割協議書は、相続人全員が署名・押印した法的効力のある重要な書類です。記載内容に不備・漏れがあると、金融機関での手続きが通らなかったり、後日トラブルになったりするリスクがあります。

また、相続税申告との整合性や、特例適用のための要件確認なども伴うため、税理士や弁護士など専門家のサポートを受けながら進めることを強くおすすめします。

「誰に頼めばいいかわからない」「費用がどのくらいかかるか不安」という方は、まず以下の記事で各専門家の役割と費用の目安を確認してみてください。

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高部孝之税理士

監修者


高部孝之税理士事務所

税理士高部孝之

2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。

保有資格

税理士・FP技能士1級・相続診断士

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