財産評価基本通達とは?記載内容や総則6項の注意点を解説

財産評価基本通達とは、相続財産の価額をどう評価すべきかについてまとめたものです。
財産評価基本通達には、土地や家屋、株式、美術品など、明確な定価のない財産の価額をどう評価するかが記載されています。
ただし、「総則6項」にもあるように、必ずしも財産評価基本通達に沿った評価がされるとは限りません。
この記事では、財産評価基本通達とは何なのか解説したのち、主な財産の評価方法、総則6項に関する注意点を解説します。
財産の評価が誤っていると、相続税を正確に算出できず、正しい相続税申告ができません。ぜひ最後までご覧ください。
目次
財産評価基本通達の意味や内容
財産評価の方法を定めた通達
財産評価基本通達とは、相続財産の評価方法を定めた通達です。
相続税法では、財産の価値は原則として「亡くなった時の時価」で評価すると定められています。
第二十二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
相続税法第二十二条
しかし、土地や建物、株式などは、現金のように明確な定価があるわけではありません。
たとえば同じ土地でも、不動産会社によって価格の評価が異なることは多くあります。
そこで、誰が計算しても一定の基準で公平に評価できるよう、国税庁が実務上の指針として定めているのが「財産評価基本通達」です。
通達は行政法上の内部的な指示文書であり法令ではないため、法的な拘束力はありませんが、実務上は重要な基準となっています。
財産評価基本通達は国税庁のホームページにて確認できます。
財産評価基本通達に書かれている内容
財産評価基本通達の内容は、以下のようになっています。
第1章 総則
第2章 土地及び土地の上に存する権利
第3章 家屋及び家屋の上に存する権利
第4章 構築物
第5章 果樹等及び立竹木
第6章 動産
第7章 無体財産権
第8章 その他の財産
その他の財産には株式や公社債、預貯金、ゴルフ会員権などが含まれています。
相続発生日の通達の内容が基準となる
相続税評価を行う際は、相続開始日に適用される財産評価基本通達を確認します。
ただし、相続開始後に改正通達が公表され、その適用時期が相続開始日に及ぶときは、改正後の取扱いが適用されるのです。
【資産別】財産評価基本通達に沿った相続税評価額の計算
財産評価基本通達では、相続財産の種類ごとに、評価方法があらかじめ決められています。
ここでは、代表的な資産について、相続税評価額がどのように計算されるのかを確認していきましょう。
(1)預貯金
預貯金の場合、相続開始日(被相続人の死亡日)時点の残高から評価額を算定します。
死亡日の預金残高に加えて、相続開始日時点の既経過利息(税引き後)を加えた金額が評価額となるのです。
預貯金の相続税評価額を確認する際には、金融機関から取得する残高証明書を利用するのが一般的な方法になります。
定期預金等の場合はあわせて「経過利息計算書」の発行も依頼し、正確な利息額を把握することが重要なポイントです。
預貯金を相続する場合の計算方法や注意点を知りたい方は『預貯金の相続税は?申告時の注意点や引き出す手続きを解説』の記事をご覧ください。
(2)土地(路線価方式・倍率方式)
土地の評価方法は、地域によって次の2つに分かれます。
路線価方式
道路ごとに定められた「路線価」に、土地の面積を掛けて評価額を算出します。
計算式:路線価(1㎡あたりの単価) × 面積(㎡) = 評価額
倍率方式
路線価が設定されていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価します。
計算式:固定資産税評価額 × 評価倍率 = 評価額
なお、土地の形状(いびつな形、奥行が長すぎる等)や騒音・高低差などのマイナス要因がある場合、補正によってさらに評価額を下げられる可能性があります 。
詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
関連記事
(3)家屋(固定資産税評価額)
家屋は、市区町村から届く「固定資産税の納税通知書」に記載された評価額をそのまま相続税評価額として使用しましょう。
なお、賃貸アパートや貸家など、人に貸している家屋は、所有者が自由に使えない分、価値が下がると考えられます。
そのため、借家権割合や賃貸割合を用いて計算を行うことで、評価額が低く抑えられます。
賃貸アパートの建物部分の相続税評価額
固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
貸家の相続税評価額
固定資産税評価額×(1-借家権割合)
詳しくは関連記事『建物の相続税評価額の計算方法|築年数の影響と家屋の評価』にて解説しています。
(4)株式(上場株式・非上場株式)
上場株式は、 以下の4つの価格のうち、最も低い価格で評価できます。
- 相続開始日の終値(最終価格)
- 相続開始月の終値(最終価格)の月平均
- 相続開始前月の終値(最終価格)の月平均
- 相続開始前々月の終値(最終価格)の月平均
非上場株式は、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて「類似業種比準方式」「純資産価額方式」などを使い分けます。
計算が非常に複雑で、会社の財務内容によって評価額が大きく変わるため、専門家へ依頼すべき財産といえるでしょう。
関連記事
(5)マンション(区分所有財産)
令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与によって取得した一定の「居住用の区分所有財産」については、従来の方法による評価額に区分所有補正率を乗じて評価します。
ただし、事業用物件や一棟所有マンションなど、対象外となるものもあります。
| 部分 | 評価方法 |
|---|---|
| 土地(敷地利用権) | 従来の方法による敷地利用権の価額× 評価乖離率に基づく区分所有補正率等 |
| 建物(区分所有権) | 固定資産税評価額 × 評価乖離率に基づく区分所有補正率等 |
これは、マンションの相続税評価額が市場価格と大きく乖離していたことを受けての対応です。
築年数や所在階、総階数、敷地持分狭小度などの要素を基に区分所有補正率が計算され、その結果として評価額が調整されます。
詳しくは関連記事『マンションの相続税はいくら?評価額の計算方法と新ルールを解説』にてご確認ください。
(6)書画・骨董品・貴金属
書画や骨董品、貴金属などは、類似品の売買実例価額、または専門家による鑑定評価額で評価します。
価値の判断が難しく、税務署との見解が分かれやすい分野でもあるため、高額なものについては事前に評価方法を慎重に検討するべきでしょう。
詳しくは関連記事『骨董品や美術品(書画骨董)の相続税評価方法|申告時の注意点や納税猶予も解説』にて解説しています。
財産評価基本通達どおりに評価されないケースがある
財産評価基本通達の総則6項により異なる方法で評価される場合あり
財産評価基本通達は、相続財産の評価方法についてまとめたものであり、各財産は基本的に通達の規定に沿って評価します。
しかし、財産評価基本通達の方法で評価することが著しく不適当と認められる場合には、通達とは異なる方法で評価できるとされています。
これが、財産評価基本通達の「総則6項」です。
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
財産評価基本通達6項
財産評価基本通達による評価が著しく不適当であり、租税負担の公平を著しく害するような特段の事情がある場合には、総則6項に基づき国税庁長官の指示を受けた評価が行われることがあるということです。
ポイント
- 相続税評価額は財産評価基本通達に基づいて計算するのが原則
- 通達による評価が著しく不適当な場合に限り、総則6項が適用される
- 総則6項は例外規定であり、すべてのケースで適用されるわけではない
総則6項により通達どおりの評価が否認されるケース
総則6項が問題となるのは、相続税評価額と財産の実質的な価値との乖離が大きく、租税負担の実質的公平が損なわれる特段の事情があるケースです。
例えば、次のようなケースでは税務署が取引の経緯や目的を詳しく確認する可能性があります。
- 相続発生直前に多額の借入れを行い、不動産を購入した
- 相続開始から短期間で取得した不動産を売却した
- 相続税対策を主目的とする取引であることが資料や記録から確認できる
近年の裁判例では、評価額と実際の取引価格に差があるだけで総則6項の適用が認められるわけではなく、租税負担の公平を損なうような特段の事情があるかどうかが重視されています。
そのため、相続税対策として財産の組み換えや不動産購入などを行う場合は、節税以外の目的や経済的合理性を説明できるようにしておくことが重要です。
総則6項が適用された判例
令和4年4月19日の最高裁判例では、税務署が総則6項による評価を行ったことが適切であったと判断されました。
本判決では、相続税対策のために購入したマンションの評価方法について、税務署が一般的な財産評価基本通達により評価することが著しく不適当であると判断し、「財産評価基本通達」第6項に基づき、不動産鑑定によって評価するよう指示し、相続税の更正処分や過少申告加算税の賦課決定処分などを行ったことが適切であったとされたのです。
本判決では、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反する場合は、総則6項を適用する合理的な理由に当たる」として、「特段の事情」があると判断しました。
どのような事情が「特段の事情」に該当するのかについては、画一的な判断を行うことは困難です。
そのため、相続税対策のためにマンションなどの高額な財産を購入することを検討している場合は、専門家である税理士に相談することをおすすめします。
財産評価基本通達についてよくある質問
財産評価基本通達に載っていない財産の評価方法は?
財産評価基本通達に評価方法が定められていない財産については、財産評価基本通達5項に基づき、類似する財産の評価方法に準じて評価します。
この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。
財産評価基本通達5項
例えば、評価方法が明確に定められていない財産であっても、性質や内容が近い財産の評価方法を参考にして相続税評価額を算定することになります。
ただし、評価方法の判断が難しいケースもあるため、迷った場合は税理士などの専門家に相談するとよいでしょう。
相続税の負担を軽減できる特例はある?
主に以下のような特例があります。
- 小規模宅地等の特例
一定の要件を満たす土地について、評価額を軽減できる特例。
例えば自宅の土地(特定居住用宅地等)について、一定の要件を満たしこの特例を適用すれば、相続税評価額を限度面積330㎡までの部分について最大80%減額できる。
※適用には相続税申告が必要 - 配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者が相続する財産について、1億6,000万円または法定相続分に相当する金額のいずれか多い方まで相続税が軽減される特例。
※適用には相続税申告が必要 - 未成年者控除
相続税額から「(18歳−相続時の年齢)×10万円」を控除できる特例。
※満18歳に達するまでの期間を計算する際、1年未満の端数がある場合は切り上げて1年として計算 - 障害者控除
相続税額から「(85歳−相続開始時の年齢)×10万円または20万円」を控除できる特例。
※一般障害者は10万円、特別障害者は20万円を対象年数にかける
※満85歳に達するまでの期間を計算する際、1年未満の端数がある場合は切り上げて1年として計算
小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減については、適用により相続税が0円になったとしても、相続税申告が必要です。
未成年者控除や障害者控除によって納付すべき相続税額が0円になり、ほかに申告を要件とする特例を適用していない場合は、原則として相続税申告は不要です。
控除しきれない金額は、一定の扶養義務者の相続税額から控除できます。
相続税に適用できる特例については、関連記事『相続税の控除・特例一覧表|控除の金額や対象・要件をわかりやすく解説』にて詳しく解説しています。
補足
相続財産の合計が基礎控除以下の場合は、そもそも相続税は発生せず、相続税申告も不要です。
- 相続税の基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 相続放棄した人も、法定相続人の数に含められます
- 養子がいる場合、実子がいれば1人まで、いなければ2人まで法定相続人の数に含められます
詳しくは関連記事『相続税の基礎控除とは?控除額の計算式と超えた場合の手続き』をご覧ください。
財産評価基本通達に基づいた評価額の計算は自力でできる?
財産評価基本通達に基づいた相続税評価額の計算は、相続財産によっては自力で行うことが可能なものもありますが、専門家ではないと困難なものもあります。
- 自力で評価額を計算することが可能といえる相続財産
預貯金、上場株式、投資信託 - 自力で評価額を計算することが困難といえる相続財産
土地、非上場株式、骨董品
相続税評価額の計算を間違えると、相続税の申告・納付が必要にもかかわらず申告や納付を怠ったり、納付すべき相続税額を間違えてしまい、延滞税や無申告加算税などのペナルティが生じる恐れがあります。
そのため、自力で計算することに不安を感じた場合には、専門家である税理士に相談するべきでしょう。
適切な相続税申告や納付を怠った場合のペナルティについて詳しく知りたい方は『相続税の延滞税はいくら?税率・計算方法と無申告・過少申告加算税との違い』の記事をご覧ください。
まとめ|正確な相続税評価は税理士に相談
財産評価基本通達は、相続税法で定める「時価」を実務上どのように評価するかを示した国税庁の通達です。
土地や家屋、株式、骨董品など、財産ごとに評価方法が定められており、相続税申告では原則としてこの通達に基づいて相続税評価額を算出します。
ただし、すべてのケースで通達どおりの評価が認められるとは限りません。
総則6項により、評価方法が著しく不適当と判断された場合には、別の方法で評価されることもあります。
また、非上場株式や不動産などは評価が複雑で、適用できる特例によって税額が大きく変わることもあるでしょう。
相続財産の評価を誤ると、相続税の申告漏れや追徴課税につながる可能性があります。
正確な相続税申告を行うためにも、評価方法に迷った場合は税理士へ相談することをおすすめします。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士
