IPアドレスで特定できるものは?個人情報の特定方法と誹謗中傷の開示請求
インターネット上で誹謗中傷などの被害を受け、加害者を特定して法的措置を取りたいと考えている人もいるでしょう。
誹謗中傷による権利侵害が認められた場合、加害者を特定して法的措置をとることが可能です。そのためには、加害者のIPアドレスを知る必要があります。
ただしIPアドレスを知るだけでは、相手の個人情報を知ったことにはなりません。氏名・住所・電話番号といった個人情報については、IPアドレスからは分からないのです。
この記事はIPアドレスからどんなことが分かるのか、誹謗中傷の犯人を特定するまでの方法について分かりやすく説明します。
IPアドレスで個人情報はどこまで特定できる?
IPアドレスは数字やアルファベットの羅列から成る、インターネット上の端末を特定するための番号です。
IPアドレスからどんな情報がわかるのかを説明します。
IPアドレスから個人情報は特定できない
IPアドレスだけでは誹謗中傷を書き込んだ人物の氏名や住所などの個人情報は特定できません。
IPアドレスから特定できることは、その書き込み時に接続したプロバイダや回線事業者、国やおおよその地域などです。
IPアドレスの特定は意味がないって本当?
IPアドレスの特定は、誹謗中傷を書き込んだ人物の身元特定のための第一歩といえます。
しかし「IPアドレスを特定しても意味がない」という人もいるようです。
その理由としては、次のようなことが考えられるでしょう。
- IPアドレスからは直接犯人を特定できない
- 運営管理者はIPアドレスを開示してくれない
それぞれの理由について、少し詳しく説明します。
IPアドレスから直接犯人を特定できない
繰り返しますが、IPアドレスとは数字とアルファベットの羅列です。そのため、IPアドレスからは誹謗中傷を書き込んだ人物の犯人特定はできません。
しかし、誹謗中傷を書き込んだ人物の特定のためには必要なプロバイダー情報がわかります。
IPアドレスを元にプロバイダーが特定できれば、その契約者情報を開示請求するという次のステップに進むことが可能です。
ただし、誹謗中傷の書き込みがインターネットカフェなどの公共の場でおこなわれている場合、集合住宅の共有Wi-Fiである場合、海外サーバーを経由している場合などは、個人特定が難しいこともあります。
IPアドレスの特定に詳しい弁護士に相談して、IPアドレスを特定するメリットとあわせてデメリットについても聞いておきましょう。
運営管理者はIPアドレスを開示してくれない
IPアドレスの開示請求をする先は、その誹謗中傷がなされた掲示板やSNSです。
しかし、そうした掲示板やSNSは匿名で気軽に利用できることを特徴としているため、被害者側が「IPアドレスを開示してほしい」と主張してもあまり応じてもらえません。
利用者の個人情報を簡単に開示するようでは、信用にかかわるからです。
こうした理由から、IPアドレスの開示請求は難しいと言われています。
しかし、「誹謗中傷による権利侵害が起こっている」と認定されればIPアドレスの開示を受けることは可能です。
IPアドレスを特定する方法とは?
誹謗中傷をした人物のIPアドレスを特定する方法を2つ紹介します。
- 誹謗中傷が行われたサイトの運営者に、IPアドレスの開示を依頼する。
- 裁判所に仮処分を申し立て、サイト側にIPアドレスの開示を命じてもらう。
それぞれの方法に関する説明を続けます。
(1)運営者にIPアドレスの開示を依頼する
まずは誹謗中傷の書き込みがあったサイトやSNSの運営者に対して、IPアドレスの開示を依頼しましょう。
開示の依頼方法は各サイトやSNSによって所定の方法があるので、その方法に従うようにしてください。
もっとも権利侵害を訴える側の意見だけでIPアドレスの開示をしてもらえるケースはほとんどありません。
そのため多くのケースで裁判所に仮処分手続きをを利用することになります。
(2)裁判所に仮処分の申立てをおこなう
仮処分とは、正式な判決結果を下す前の暫定的な処置のことをいいます。これは被害者の権利を守るために裁判所が決定する処置です。
裁判所へ仮処分を申し立てる場合、仮処分の申立書、権利侵害を示す証拠、そして仮処分に必要な担保金を用意します。また、収入印紙や予納郵券費用もかかります。
申立て書、証拠、予納郵券をそろえて、サイト管理者の所在する地域を管轄する裁判所に提出しましょう。
申立てを受けると「審尋」という手続きに移ります。裁判所は、サイト管理者側の言い分と、被害者側の主張を聞いて、仮処分について判断を下す流れです。
仮処分申し立てが認められたら、サイト管理者側からIPアドレスの開示を受けられます。
IPアドレス特定のポイント
仮処分の申立てが認められるためには、誹謗中傷の書き込みによる権利侵害を証明するための証拠収集が欠かせません。インターネットトラブルを熟知した弁護士に相談し、必要に応じて対応を依頼することも検討しましょう。
IPアドレス特定のための仮処分申立てについて、関連記事『発信者情報開示請求の費用相場と内訳は?弁護士費用は相手に請求できる?』で費用相場を解説しています。
担保金について
仮処分が決まったら担保金を納付します。IPアドレスの開示請求にかかる担保金はおよそ10万円から30万円ほどです。
担保金は、もしも仮処分によって何らかの損害が発生した場合の補償に充てられる金銭になります。そのため、正当な申立てであれば後日返還されます。
ただしすぐに納められるように、仮処分申し立て時には用立てておきましょう。
IPアドレスを特定したら何ができる?
IPアドレスが特定できれば、そこからプロバイダー情報を得ることができます。
つぎにプロバイダーに対して契約者情報の開示を求めることで、誹謗中傷の書き込みをおこなった犯人の特定につながるのです。
ただし、プロバイダーに対して契約者情報の開示を依頼しても、任意なので応じてくることはほとんどありません。
そのためプロバイダーに対して「発信者情報開示請求訴訟」を起こして個人特定を目指します。
プロバイダーに契約者情報の開示請求ができる
「発信者情報開示請求訴訟」では、誹謗中傷によって起こっている権利侵害を、証拠と共に提示します。
特に重要な証拠は誹謗中傷のスクリーンショットやPDFです。投稿したアカウントや投稿日がわかるように保存しておきましょう。
また、誹謗中傷が続けておこなわれているときにはその一連の流れが分かるように保存しておいてください。
「この言葉は、私の権利を侵害しているのかな?」なと個人で法的な判断することは難しいものです。すべて証拠として残しておいて、弁護士の判断を仰ぐことが得策といえます。
発信者情報開示請求訴訟において権利侵害が認められれば、プロバイダー側から契約者情報の開示を受けることが可能です。
発信者情報開示請求については、関連記事『発信者情報開示請求とは?ネットの誹謗中傷の投稿者を特定する方法と要件』でも詳しく説明していますので参考にしてみてください。
IPアドレスと個人情報をまとめて開示請求できる
2022年10月1日に施行された改正プロバイダ責任制限法では、サイト管理者へのIPアドレス開示請求と、プロバイダーへの発信者情報開示請求が一度におこなえるようになりました。
また「非訟手続」という簡便な手続きであることからも、誹謗中傷の書き込み発見から犯人特定までにかかる時間短縮と負担軽減が期待されています。
ただし、サイト管理者やプロバイダー側の対応次第では非訟手続とならず、通常の裁判手続きに移行するため、想定より時間がかかってしまうことも起こりえるでしょう。
IPアドレス特定により犯人を突き止めたいという方は、どういった方法を採るべきか、弁護士に相談して助言をもらっておくことをおすすめします。
ネット上の誹謗中傷への開示請求にくわしい弁護士であれば、犯人特定の方法、今後の流れや想定されるメリットとデメリットを説明可能です。
書き込んだ人物への損害賠償請求もできる
プロバイダーから契約者情報が開示されたなら、損害賠償請求も検討していきましょう。損害賠償請求の主な内容は慰謝料や弁護士費用の一部です。
慰謝料の金額は、誹謗中傷の内容により様々です。ただし言い値が認められるわけではなく、名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害など、被害内容に応じてある程度相場は決まっています。
たとえば個人への名誉毀損ならば、10万円程度から50万円程度が慰謝料の相場です。
誹謗中傷で慰謝料請求を考えている方は、関連記事『誹謗中傷の慰謝料相場はいくら?損害賠償請求の流れと注意点をおさえよう』も参考にしてみてください。
誹謗中傷の書き込みをした人物に刑事責任を問う
誹謗中傷の書き込みが名誉毀損や侮辱罪などに該当する場合、警察に告訴状を提出して、刑事処罰を求めることができます。
名誉毀損や侮辱罪といった犯罪は親告罪といって、被害者がその犯人を知ってから6ヶ月以内におこなわねばなりません。
名誉毀損の刑罰は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金、侮辱罪の刑罰は拘留(1日以上30日未満の拘置)または科料(1,000円以上1万円未満)となっています。
IPアドレスに関するよくある質問
IPアドレスから住所特定は可能?
IPアドレスから住所を特定することは、原則としてできません。
IPアドレスからは、書き込みをおこなった端末がどのプロバイダを利用しているか、国やおおよその地域まで特定することができます。
しかし、氏名や住所などの個人情報は、IPアドレスだけでは特定できません。
IPアドレスの開示はいつまで可能?
IPアドレスの開示請求は、原則として投稿日から3ヶ月から6ヶ月程度を目途に、できるだけ早く取り掛かりましょう。
プロバイダがアクセスログ保存する期間は事業者ごとに異なります。そのためIPアドレスの開示請求はプロバイダーに情報が残っている間に速やかにおこなわねばなりません。
「IPアドレスの開示を求める仮処分」と併せて「情報を消さない仮処分」もおこないます。流れを詳しく知りたい方は、弁護士に相談してみましょう。
IPアドレスの開示請求は難しい?
IPアドレスの開示請求は、必ずしも容易ではありません。誹謗中傷によってどんな権利侵害が起こっているのかを法的問題として主張し、裁判所で認めてもらう必要があります。
書き込みをした人にとってIPアドレスは個人情報にあたるので、書き込みをした人と、書き込みをされた人の権利同士は相反することになるのです。
そのため書き込みをされた側に権利侵害がなければ、書き込んだ人物のIPアドレス開示はなされません。
誹謗中傷で問題になりやすい権利侵害は、名誉毀損、侮辱罪、プライバシー侵害などがあげられます。詳しい解説は関連記事をご覧ください。
IPアドレスを知っていると脅された…個人特定されてしまう?
「IPアドレスがバレている」「IPアドレスを特定しました」などとネット上で脅迫のように言われ、個人特定されてしまうのではないかと不安になる人もいるでしょう。
しかし、結論から言うと、IPアドレスから直接個人を特定することはできません。
ただし「おまえの住所を知っている。ずっと見張っている」「本名は〇〇だとわかっている、今から家へいってボコボコにしてやる」などと身体に危害を加える旨や、つきまといの予告を受けている場合は、早めに警察に相談してください。
警察に被害届を出すことを検討している方は関連記事『ネットトラブル・誹謗中傷で被害届が出せるケース』もあわせてお読みください。
IPアドレスを特定したいならまずは弁護士に相談
IPアドレスを特定することは、誹謗中傷の犯人を突き止めるためには欠かせません。
しかしIPアドレスの開示を依頼しても、サイト管理者は簡単には応じてもらえないので、裁判所の仮処分手続きを活用したり、発信者情報開示請求訴訟をおこしたりと、法的手続きを取ることになります。
誹謗中傷の犯人特定に欠かせない情報は、3ヶ月から6ヶ月ほどで失われてしまうので、準備に手間取っていてはタイムリミットが来てしまうのです。
IPアドレスの開示請求から本人の特定を考えている方は、インターネットのトラブルにくわしい弁護士に相談のうえ、必要に応じて、弁護士に任せることも検討していきましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了