有責配偶者の婚姻費用|別居中の生活費はもらえる?
別居中の生活費について、「不倫をした側は一切もらえない」「有責配偶者には請求する権利がない」といった情報を目にして、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には有責配偶者であっても、状況次第では婚姻費用を請求できるケースがあります。特に子どもがいる場合、子どもの生活を支えるための費用(養育費に相当する部分)は、原則として支払われるべきものと考えられています。
この記事では、有責配偶者と婚姻費用の関係について、実務的な視点から分かりやすく解説します。
目次
有責配偶者とは?婚姻費用との関係
有責配偶者の意味
有責配偶者とは、夫婦関係が破綻した主な原因を作った側の配偶者を指します。代表的な例としては次のようなケースがあります。
- 不貞行為(不倫)をした
- 暴力や精神的な虐待を繰り返した
- 正当な理由なく同居を拒否し続けた
- 生活費を渡さず家族を困窮させた
有責配偶者でも婚姻費用を請求できるのか
婚姻費用とは、夫婦が生活を維持するために必要な費用のことです。別居中であっても、収入の多い側が少ない側に対して、生活費を分担する義務があります。
「有責配偶者だから生活費は一切もらえない」と思い込んでいる方も多いのですが、実際にはもう少し複雑です。
重要なポイントは、請求する側が有責なのか、支払う側が有責なのかによって扱いが大きく変わることです。
有責配偶者が婚姻費用を請求する場合と支払う場合の違い
有責配偶者が、婚姻費用を請求する側(権利者)なのか、それとも支払う側(義務者)なのかによって、婚姻費用の分担義務がどのように認められるかは大きく異なります。
| パターン | 婚姻費用の扱い |
|---|---|
| 請求する側が有責 | 子どもの養育費部分のみ認められる傾向 |
| 支払う側が有責 | 配偶者分・子ども分とも全額請求可能 |
それぞれのパターンについて、具体的に見ていきましょう。
婚姻費用を請求する側が有責配偶者の場合
不倫などをした妻が、夫に対して生活費を請求するケースです。
このパターンでは、自分自身の生活費部分については、請求が認められない傾向にあります。裁判所は「信義則違反」や「権利の濫用」として、配偶者本人の生活費部分を減額または免除することが多いです。
ただし、子どもがいる場合は話が別です。子どもの養育費相当分は、親の有責性とは無関係に支払われるべきものとされています。
また、婚姻費用の分担は、生活に困っている側を速やかに支援する必要があるため、有責性の有無やその程度がすぐには判断できない場合には、有責性を考慮せず、算定表に基づいて金額が算定されることもあります。
婚姻費用を支払う側が有責配偶者の場合
夫の不倫や暴力が原因で妻が別居するケースでは、有責配偶者である夫が、原則どおり婚姻費用を支払う義務を負います。
別居の原因が支払義務者にある場合、婚姻費用を分担する義務はより強く認められます。実務上も、「全面的に負担すべき」と判断されることが多く、有責であることを理由に支払いを免れたり、減額されたりすることはありません。
たとえば、夫が一方的に家を出た場合や、夫の暴力から逃れるために妻が別居した場合でも、法律上の支払義務はなくなりません。このようなケースでは、妻は算定表に基づいた満額の婚姻費用を請求することができます。
有責配偶者が婚姻費用を請求できる特段の事情
有責配偶者からの婚姻費用請求は原則として制限される傾向にありますが、すべてのケースで一律に認められないわけではありません。
状況によっては、自身の生活費部分も含めた婚姻費用が認められる余地があります。
ただし、これらのケースに該当するかどうかの判断は複雑です。自分の状況で婚姻費用が認められる可能性があるかどうかは、弁護士に相談して判断を仰ぐことをおすすめします。
有責性が明白でない
婚姻費用の分担は、生活に困っている側を速やかに保護する必要があるため、有責性の判断に時間を要する場合には、原則として算定表どおりの金額が認められることがあります。
有責性をめぐる争点が複雑な場合には、事実関係の厳密な判断は離婚訴訟などに委ね、婚姻費用については迅速な救済を優先するのが実務上の一般的な考え方です。
実際の裁判例では、妻に不貞行為の疑いがあったものの、うつ病により精神的に不安定な状態にあり、その後一度は夫と同居を再開して関係修復を試みていたことなどを踏まえ、妻からの婚姻費用請求は権利の濫用には当たらないと判断されました(神戸家審平成27年11月27日)。
もっとも、この判断は夫の即時抗告により控訴審で見直され、妻の不貞行為が認定された結果、婚姻費用の額は月額で約5万円減額され、子どもの養育費に相当する部分に限定されました(大阪高決平成28年3月17日)。
双方に責任がある
夫婦のいずれか一方だけに責任があるのではなく、双方に不倫などの事情があり、婚姻関係の破綻に両者が関与している場合には、婚姻費用は通常どおり認められる傾向にあります。
このようなケースでは、一方に責任があるとまではいえないため、信義則違反や権利の濫用には当たらないと判断されます。
親が有責配偶者でも子どもの養育費は守られる理由
婚姻費用を考えるうえで最も重要なのは、子どもの生活を支える権利は、親の不倫や過失といった有責性によって左右されてはならないという原則です。
子どもには何の責任もない
夫婦間のトラブルはあくまで大人同士の問題であり、子どもに責任はありません。どちらの親に不倫などの有責性があったとしても、子どもが適切な養育を受ける権利は守られるべきものです。
そのため、実際の調停や裁判では、「配偶者本人の生活費」と「子どもの養育費に相当する部分」は区別して考えられます。
子どもの養育費は別扱いとされる
請求する側が有責配偶者であっても、子どもと同居している場合には、少なくとも子どもの養育に必要な費用については、相手方に請求できるのが原則です。
婚姻費用を算定する際には、有責配偶者の生活費部分を除外し、子どもの養育費に相当する金額のみを算出する場合があります。このような場合には、養育費の算定表を用いて金額を導くという実務上の取り扱いが見られます。
婚姻費用の相場と計算方法
婚姻費用算定表の使い方
裁判所が公表している「婚姻費用算定表」で婚姻費用のおおよその相場を把握することができます。
婚姻費用算定表は、支払う側と請求する側それぞれの年収に加え、子どもの人数や年齢を基に作成されています。実務では、この算定表を用いて婚姻費用の目安を算出するのが一般的であり、調停・審判や裁判でも広く活用されています。
また、アトム法律事務所の婚姻費用・養育費計算機を利用すれば、簡単な操作で婚姻費用の相場を確認できますので、参考としてご活用ください。
有責配偶者が請求する場合の調整
請求する側が有責配偶者である場合、婚姻費用は算定表で算出された金額から、本人の生活費部分が減額されることがあります。
減額の程度は個別の事情によって異なりますが、実務では、子どもがいない場合には大幅に減額されたり、支払い自体が認められなかったりする一方で、子どもがいる場合には、子どもの養育費に相当する部分は確保されるのが一般的です。
判断にあたっては、有責の程度や別居に至った経緯、立証の難易度なども考慮されます。
子どもがいる場合の計算例
- 夫の年収1,000万円(会社員)
- 妻の年収200万円(パート)
- 有責配偶者の妻が子ども2人(10歳、7歳)を引き取って別居
裁判所が公開している婚姻費用算定表では、月20万円から22万円程度の婚姻費用が目安とされています。
請求する側である妻に有責性がある場合には、妻自身の生活費部分が減額され、子どもの養育費に相当する月14万円から16万円程度のみが認められる可能性があります。
子どもがいない場合の計算例
- 夫の年収1,000万円(会社員)
- 妻の年収200万円(パート)
- 有責配偶者である妻が別居
婚姻費用算定表に当てはめると、月12万円から14万円程度の婚姻費用が目安となります。
しかし、請求する側である妻に有責性がある場合には、生活費の支援が認められにくく、実務上は大幅に減額されたり、支払い自体が認められなかったりする可能性が高いとされています。
婚姻費用を請求する具体的な手順
話し合いから始める
まずは相手方と直接話し合い、婚姻費用の支払いについて合意を目指します。感情的にならず、子どもの生活のために必要な金額を冷静に伝えることが大切です。
金額等について合意ができた場合は、合意書や公正証書を作成しておきましょう。
関連記事
婚姻費用分担請求調停を申し立てる
相手が支払いを拒否したり、金額で折り合いがつかない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てます。
婚姻費用は、原則として調停を申し立てた時点以降の分が支払の対象とされることが多いため、話し合いがまとまらない場合には、できるだけ早めに申立てを行うことが重要です。
調停では、裁判官や民間から選ばれた調停委員が間に入り、双方から収入や支出、資産状況を聴取した上で、合意を目指して話し合いが進められます。
関連記事
・婚姻費用調停は何回で終わる?期間の目安と手続きの流れを解説
調停が不成立なら審判へ
調停で話し合いがまとまらず不成立となった場合には、手続きは自動的に審判へと移ります。審判では、裁判官が当事者双方の事情を総合的に考慮したうえで、婚姻費用の分担額を決定します。
請求する側が有責配偶者である場合、審判においても、信義則違反や権利の濫用といった観点から自身の生活費分については認められないか、制限・減額されることがあります。
ただし、子どもがいる場合には、親の有責性にかかわらず、子どもの養育費に相当する部分は確保される傾向にあります。
弁護士に相談するメリット
婚姻費用の請求では、法的な判断が複雑になることも多いため、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 金額の見通しと適切な判断
- 調停での主張の組み立てとサポート
- 相手方との交渉の代理
弁護士は、解決まで継続的にサポートする存在として、法的な支援だけでなく、依頼者の心情を汲み取りながら精神的な支えとなる役割も担います。
とりわけ、婚姻費用の請求は日々の生活に直結する重要な問題であるため、専門家である弁護士が関与する意義は大きいといえます。
有責配偶者の婚姻費用に関するよくある質問
Q.不倫をしたら別居後の生活費はもらえない?
不倫をしたからといって、必ずしも生活費(婚姻費用)が一切もらえなくなるわけではありません。本人の生活費については、減額されたり、支払いが認められなかったりする可能性は高くなりますが、子どもがいる場合には、子どもの養育費に相当する部分は請求できるのが原則です。
また、不倫の程度や別居に至った経緯、その後の夫婦関係の状況なども考慮されるため、最終的な判断は個別の事情に応じて行われます。
Q.お互いに不倫していた場合、婚姻費用はどうなる?
夫婦の双方に同程度の責任があると判断される場合には、信義則違反には当たらないとして、婚姻費用の請求が制限されることはなく、通常どおりの分担が認められる傾向にあります。もっとも、どちらの責任がより重いかについては、個別の事情を踏まえて慎重に判断されます。
Q.支払う側が有責でも支払い拒否できる?
支払う側が有責配偶者である場合、有責性を理由に婚姻費用の支払いを拒否することは認められません。相手が支払わない場合は、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てて、適切な金額の支払いを求めることができます。調停や審判で決まった金額を相手が支払わない場合は、強制執行によって給与や預金口座から回収することも可能です。
有責配偶者の婚姻費用請求は専門家に相談を
別居中の生活費について、有責配偶者であることだけを理由に、必要以上に悲観する必要はありません。特に子どもがいる場合には、養育費に相当する部分は、親の有責性にかかわらず支払われるべきものと考えられています。
また、支払う側が有責配偶者である場合には、相手が「払わない」と主張したとしても、法律上の支払い義務は消えません。適切な手続きを通じて、必要な生活費を確保することができます。
まずは弁護士に相談して、あなたの状況で認められる婚姻費用の見通しを確認することをおすすめします。
法律は、困難な状況にある方を支援するための仕組みです。適切な手続きを踏めば、必要な生活費を確保できる可能性があります。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
