離婚してくれないモラハラ夫の法的対処法|なぜ離婚できない?なかなか進まない理由

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夫からのモラルハラスメント(モラハラ)を理由に離婚を決意したものの、夫が「絶対に離婚しない」と拒否する。あるいは、夫の反応を恐れて離婚を切り出せない。
離婚がなかなか進まない状況は、精神的にも非常に追い詰められるものです。

しかし、たとえ夫が頑なに拒否しても、モラハラを理由に離婚することは法的に可能です。

この記事では、離婚に応じないモラハラ夫の心理的側面と、離婚できない不安を解消する法的根拠、着実に離婚を進めるための具体的なステップを解説します。

離婚してくれないモラハラ夫の心理的理由

離婚がなかなか進まない原因の一つに、モラハラ加害者特有の心理があります。

なぜ彼らが離婚を頑なに拒否するのか、その典型的な理由を解説します。

支配欲が強く手放したくない

モラハラ加害者は、配偶者をコントロールすることで自尊心を保っています。自分の思い通りになる支配対象と考えているのです。

その対象が自分の意思で離れていくことは、自身の存在価値を揺るがす最大の脅威であるため、強く拒絶します。

「自分は悪くない」という歪んだプライド

モラハラ加害者の多くは、「自分は常に正しい」と信じている傾向があります。

離婚を切り出されることは自分への否定と捉え、異常なまでにプライドが傷つきます。相手に見限られたと感じることを受け入れられないのです。

世間体や体面への固執

対外的には「良い夫」「理想の家庭」を演じているケースも多く、離婚によって周囲にモラハラの本性がバレるのを恐れます。

世間体を守るために離婚を拒否します。

モラハラの自覚が全くない

最大の問題として、自身の言動がモラハラであるという自覚が全くないケースが挙げられます。

「愛情表現だ」「お前のためを思って指導している」と本気で考えているため、離婚理由が理解できず応じません。

モラハラは法的な離婚理由になる

離婚を拒否されると、「モラハラだけを理由に法的に離婚できるのか」という根本的な不安に直面します。しかし、モラハラは法的な離婚理由になります。

モラハラと法定離婚事由

相手が離婚に同意しない場合、最終的には裁判で離婚を求めることになります。
裁判で離婚が認められるためには、法律で定められた5つの理由(法定離婚事由)のいずれかが必要です。

(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

民法 第七百七十条

モラハラは、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性が非常に高いです。

継続的な暴言、無視、経済的圧迫、行動の監視といった精神的DV(モラハラ)によって、夫婦関係が修復不可能なほどに破綻していると裁判所に認められれば、夫が拒否し続けても離婚は成立します。

裁判離婚には証拠による立証が不可欠

裁判でモラハラを理由に離婚を認めてもらうためには、客観的な証拠が不可欠です。

裁判離婚では「夫からモラハラを受けていた」という主張が事実であると立証しなければなりません。

モラハラは家庭内の密室で行われることが多く、裁判所に事実として認定してもらうには立証が極めて重要になります。

モラハラの証拠になる具体例

  • 音声データ(録音)
    夫の暴言や侮辱的な発言を録音した内容
  • メールやLINEの履歴
    威圧的・侮辱的なメッセージ、過度な行動監視がわかるもの
  • 日記やメモ
    「いつ、どこで、何を言われ、何をされたか、どう感じたか」を時系列で具体的に記録したもの
  • 心療内科の診断書
    精神的ストレスによる通院・治療の記録
  • 第三者の証言
    友人や親族が、夫の異常な言動を見聞きしていた場合の証言や陳述書
  • 公的機関への相談記録
    警察や配偶者暴力相談支援センターなどに相談した内容

これらの証拠を複数組み合わせて提出することで信用性が高まり、モラハラの事実を立証する上で有利になります。

ただし、その収集方法が著しくプライバシーを侵害するなど違法性が高い場合、裁判所がその証拠を採用しない可能性があります。

どのような収集方法が法的に問題ないか判断に悩んだときは、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

離婚がなかなか進まないときの5ステップ

夫が話し合いに応じない場合、感情的に訴えても進展は望めません。以下の手順を踏むことが、停滞した状況を動かす確実な方法です。

  1. モラハラの証拠を集める
  2. 別居で身の安全を確保する
  3. 離婚を切り出す
  4. 離婚調停を申し立てる
  5. 離婚訴訟(裁判)を起こす

各ステップを確認していきましょう。

ステップ1 モラハラの証拠を集める

離婚を進めるために最初に行動すべきことは、証拠の収集です。

モラハラは精神的な嫌がらせであり、身体的暴力のように外傷が残らないため、暴言や侮辱的言動を記録した客観的な証拠が後の交渉、調停、裁判において大変重要な役割を果たします。

相手に警戒されると証拠の確保が難しくなるので、離婚を切り出す前に収集を開始しましょう。

ステップ2 別居で身の安全を確保する

別居は、夫のモラハラから心身の安全を確保する上で重要であると同時に、「婚姻関係が破綻している」ことを示す客観的な事実となります。

ただし、一度家を出てしまうと、後で証拠や資料を確保するために自宅へ戻ることが困難になるリスクがあります。

別居の際は、居住先の確保、証拠や必要品(通帳、印鑑、保険証など)の持ち出しなど、事前の段取りと準備を最優先で行いましょう。

別居中の生活費は請求できる

離婚をためらう理由のひとつに、別居後の経済的な不安があります。

しかし、法律上、離婚が成立するまでの間、収入の低い側は高い側に対し、別居中であっても生活費(婚姻費用)を支払う義務があります。夫が支払わない場合は家庭裁判所に申し立てることもできます。

別居中の生活費を請求する方法は、関連記事『婚姻費用の請求方法|弁護士なしで自分で進める手順と注意点』で詳しく解説しています。

ステップ3 法的な交渉に切り替える

当事者同士での話し合いが困難な場合は、弁護士を代理人として立て、法的な交渉に切り替えることを検討しましょう。

一般的には、弁護士が代理人となったことを知らせる「受任通知」や、離婚の意思と条件を記した「離婚協議申入書」などを内容証明郵便で送付することから交渉が始まります。

夫に法的なプレッシャーを与えても交渉を拒否する、あるいは交渉が長引いて進展が見込めない場合は、次のステップである離婚調停の申し立てを視野に入れます。

ステップ4 離婚調停を申し立てる

当事者間や代理人による交渉でも夫側が離婚に合意しない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。

調停とは、裁判官と民間の調停委員で構成される調停委員会が中立な第三者として夫婦の間に入り、合意を目指して話し合いを進める手続きです。

調停委員が双方の主張を交互に聞く形で進められるのが一般的ですが、離婚の合意を双方から得られなければ調停は不成立として終了します。

ステップ5 離婚訴訟(裁判)を起こす

離婚調停が不成立となった場合の最終的な手段が離婚訴訟(裁判離婚)です。

離婚訴訟では、収集した証拠をもとに、裁判所が法的な観点から離婚原因の有無と慰謝料や親権など離婚の条件について判断を下します。

裁判所が離婚を認める判決を出し、その判決が確定すると、法的に離婚が成立します。

【パターン別】離婚してくれないモラハラ夫の対処法

離婚を切り出したり、調停を進めたりする中で、モラハラ夫は様々な方法で抵抗します。

典型的なパターンと対処法を知っておきましょう。

無視・拒否する

話し合いを求めても無視されたり、「絶対に離婚しない」と交渉を拒否したりするパターンです。

夫婦での話し合いは不可能と判断し、夫の上司や両親など夫が逆らえない人に同席してもらいましょう。

ただし、夫が逆上するリスクがないか、慎重に見極める必要があります。弁護士に交渉を依頼することも検討しましょう。

脅迫・高圧的になる

「離婚するなら子どもには二度と会わせないぞ」「お前の親に全部バラす」と脅し、恐怖によって離婚を諦めさせようとするパターンです。

このような脅しには、決して一人で交渉してはいけません。身の危険を感じる場合は、警察への相談やシェルターへの避難もためらわないでください。

急に優しくなる

「お前がいないとダメなんだ」「悪かった、反省している」と泣きついたり、急にプレゼントを買ってきたりして、情に訴えかけるパターンです。

モラハラ加害者が支配対象を失いそうになった時に見せる典型的な行動であり、一時的な懐柔である可能性が高いです。

情に流されず、冷静に手続きを進めてください。

子どもを理由にする

「子どものために離婚はダメだ」「親権は絶対に渡さない」と主張し、子どもを盾にして離婚を妨害するパターンです。

離婚訴訟では、モラハラのある家庭環境が子どもに与える悪影響も、裁判所は考慮します。親権は、これまでの養育実績や子の福祉が最優先されます。

弁護士に相談して親権獲得に向けた戦略をしっかり練りましょう。

モラハラ夫との離婚でよくある質問

Q.離婚してくれない夫とどうすれば離婚できる?

夫の同意を得られない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。調停でも合意に至らなければ、離婚訴訟(裁判離婚)に進みます。

裁判で「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められれば、夫の同意がなくても離婚が成立します。

モラハラ夫との離婚に必要な準備や心構えをまとめて解説した関連記事『モラハラ離婚の完全ガイド|準備や注意事項を徹底解説』もあわせてご覧ください。

Q.証拠がないと離婚できない?

協議離婚や調停離婚であれば、証拠がなくても、双方が合意すれば離婚が成立します。

しかし、離婚訴訟で裁判所に離婚を認めてもらうには、モラハラを立証する客観的な証拠が原則として必要です。

実際に、夫のモラハラを立証する上で、会話の録音や家族に相談したメッセージが重要な証拠として大きな役割を果たした裁判例もあります。

関連記事

モラハラ夫の「死ね」「子どもをおろせ」という暴言-裁判所が認定した慰謝料200万円

Q.身の安全を守るための法的な措置はある?

役所でDV等支援措置の申請をおこない、住民票等の閲覧・交付の制限をかけることができます。

夫のモラハラ言動により身体的な暴力の危険性がある、生命や身体への脅迫がある場合は、DV防止法に基づく保護命令(接近禁止命令、退去命令等)の申立てが可能です。

Q.モラハラの慰謝料を請求できる?

夫のモラハラを証明する証拠があれば、慰謝料の請求が認められやすくなります。モラハラに対する慰謝料の相場は、50万~300万円と言われています。

慰謝料額は、モラハラの期間や程度、被害者への影響、婚姻期間の長さなどにより変動します。

モラハラの慰謝料について詳しく知りたい方は、関連記事『モラハラ離婚で慰謝料を請求できる?相場と慰謝料請求できる条件を解説』をご覧ください。

ひとりで抱え込まず、まずは専門家に相談を

モラハラ夫が離婚に応じてくれない状況は、本当に苦しく、出口が見えないように感じるかもしれません。

しかし、夫が拒否しても、モラハラという深刻な被害を理由に離婚することは法的に可能です。 離婚できないと諦める必要はありません。

もし今、夫との交渉が停滞している、あるいは怖くて切り出せないなら、一人で抱え込まず、専門家のサポートを受けましょう。特に、弁護士の介入は単なる手続き代行ではなく、状況を動かす推進力となります。

弁護士は、どんな証拠が有効か、どのタイミングで別居や調停に進むべきか、最適な戦略を一緒に考えてくれます。その一歩が、停滞した状況を動かす最大の力になるでしょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了