離婚裁判の本人尋問では何が聞かれる?|本人尋問7つのポイント
離婚裁判を提起しようと思っている方、また、すでに離婚裁判を提起した方にとって、最も不安なのは「本人尋問」かもしれません。
本人尋問は、原告と被告が裁判所に出廷し、裁判官の前で弁護士等からの質問に答える手続です。裁判官は、本人尋問の内容も踏まえて判決を下します。そのため、本人尋問がうまくいくかどうかは、裁判の結果に大きく影響します。
この記事では、本人尋問が不安な方に向けて、離婚裁判と本人尋問の流れ、本人尋問のポイントについてわかりやすくご説明します。
目次
離婚裁判・本人尋問の流れ
離婚裁判の流れ
離婚裁判(離婚訴訟)は、離婚調停が不成立となった後に提訴することができます。
離婚裁判では、離婚に加え、財産分与、養育費、親権者の指定、年金分割、慰謝料なども求めることができます。
離婚裁判手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。
離婚裁判の流れ
- 原告が家庭裁判所に訴状を提出する
- 訴状の送達を受けた被告が、答弁書を送る
- 第一回口頭弁論期日が開かれる
- 月に1回程度の頻度で期日が開かれるー裁判所から和解を勧められるー
- 本人尋問、証人尋問が行われるー裁判所から和解を勧められるー
- 6.判決とその後の手続き
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和解離婚について
本人尋問が実施される前に、裁判所から和解が勧められるケースも多いです。和解離婚が成立すると、本人尋問の負担が回避できるメリットがあります。
また、本人尋問が終わった段階で和解が勧められる場合もあります。離婚裁判の判決に不服があり、控訴などを行い徹底的に争うと、2年以上かかるケースも多いです。この実情を考えると、和解離婚による早期解決のメリットも十分検討した方がよいでしょう。
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本人尋問の流れ
原告と被告の主張と証拠が出揃うと、本人尋問が行われます。
本人尋問とは、原告と被告が法廷で自分の経験した事実などを話し、弁護士や裁判官の質問に答える手続です。
離婚裁判の場合は、これまでの夫婦関係や離婚を決意した経緯などを話すことになります。
弁護士に依頼した場合は、基本的に裁判に出廷する必要はありませんが、本人尋問の日は出廷する必要があります。本人尋問は基本的に1日だけです。
本人尋問の大まかな流れは、以下のとおりです。
本人尋問の流れ
- 人定質問
- 宣誓
- 原告側の主尋問・反対尋問・補充尋問
- 被告側の主尋問・反対尋問・補充尋問
人定質問では、住所や名前が聞かれます。
宣誓では、真実を述べ偽りを述べないことを誓う旨の宣誓書を読み上げます。
そして、主尋問では、自分が依頼している弁護士からの質問に回答していきます。弁護士がいない場合は、裁判官が質問します。
反対尋問では、相手方の弁護士からの質問に答えます。弁護士がついていなければ、相手方の質問に答えます。
最後に、補充尋問があります。補充尋問では、裁判官が特に聞きたいと考えている事項について2,3個ほど質問がされます。主尋問や反対尋問の途中に、裁判官から質問される場合もあります。
事案にもよりますが、所要時間はおおよそ主尋問30分、反対尋問30分、補充尋問10分程度が一般的な印象です。
証人尋問とは?本人尋問との違い
裁判では、本人尋問の他に、証人尋問が実施される場合もあります。証人尋問とは、原告と被告以外の者が尋問を受ける手続です。
もっとも、離婚裁判の場合、原告と被告以外の者(両親や兄弟姉妹など)が証人として申請されても、必要性がないとして証人尋問が行われる場合は少ないでしょう。
もっとも。離婚原因や慰謝料請求の場面で相手方の不貞行為(不倫、浮気のこと)が問題になっている場合は、不貞相手への証人尋問が実施されることがあります。
本人尋問の7つのポイント
①入念な事前準備
本人尋問がうまくいくための一番のポイントは、弁護士をつけて入念な事前準備を行うことです。
本人尋問の前には、陳述書を裁判所に提出します。陳述書は、離婚に至る経緯などを詳しく記載した書類です。
本人尋問の事前準備では、この陳述書に沿って、尋問のシミュレーションを行います。
もっとも、陳述書の内容をすべて話していると尋問時間が足りなくなるだけでなく、一番強調したい事実が裁判官に伝わらないおそれがあります。
そこで、事前準備では、弁護士から「どの事実を特に詳しく話すべきか」などアドバイスを受けながら尋問の練習をすることが大切です。具体的には、争点になっている事実について詳しく話す必要があります。争点とは、こちらの主張と相手方の主張が食い違っている点を意味します。
また、相手方代理人からの反対尋問に備え、想定問答を準備しておくこともポイントです。
本人尋問の対策に弁護士は必要?
離婚裁判を弁護士なしで行うことも一応は可能です。
しかし現実には弁護士なしで離婚裁判を行うのはかなり難しいです。
もちろん中には自分だけで尋問に臨む方もおられますが、弁護士がついている場合に比べ、発言内容が曖昧で、言いたいことが裁判官にうまく伝わっていないように感じることも多いです。
また、感情のコントロールがうまくいかず、相手を非難する内容をそのまましゃべり続けてしまい、結果的に本人の気づかないうちに不利になってしまっているようなケースもあります。
離婚裁判で有利な結果を得たいなら、最初から(できれば離婚調停段階から)弁護士をつけ、十分準備してから本人尋問に臨むことをおすすめします。
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単なるセリフ覚えにならないように注意
本人尋問の準備をするに当たって、陳述書の内容をよく振り返ることは大切です。
しかし、単なるセリフ覚えにならないように注意が必要です。
本人尋問の場で、覚えたことを一字一句間違えないようにあまりに慎重に話していると、臨場感が失われて尋問の意味がなくなってしまいます。
裁判官にとっては、陳述書を暗記して話しているだけかどうかはすぐ分かります。暗記した内容を話しているだけなら、「この人は体験したことを素直に話してないのかもしれない」と思われ、裁判官にあまり良い印象を持たれません。
あくまで体験した事実を誠実に話すことが何より重要です。もし尋問中に話す内容を忘れてしまっても、弁護士が適切な質問をして記憶を呼び起こせるようサポートするため、過度に心配する必要はありません。
なお、本人尋問にメモや原稿を持って臨むことはできません。
②具体性、一貫性をもって話す
本人尋問では、できるだけ日時や場所、態様、程度、金額など具体的に話すことが重要です。また、供述内容が一貫していることも大切です。
なぜなら、裁判官は、本人尋問の場で「供述内容がどれだけ信用できるか」という視点で当事者を見ているからです。供述内容が、具体的で一貫しているほど、信用性が増すことになります。
例えば、「〇年〇月〇日の午後〇時頃、相手の□□という発言に対し、私が△△と言ったところ、相手が私の●●を●回殴った」というように、具体的な供述をすると信用度が上がります。
反対に、重要な事実について、陳述書の内容と矛盾したり、尋問中に発言内容が何度も変わったりと、一貫性を欠いていると信用度が下がる結果になります。
③不利益な供述をしない
本人尋問では、自分に不利になる発言は避けましょう。
通常、わざわざ嘘をついてまで自分に不利になる発言をすることはないため、不利益な供述は一般的に信用できると考えられているからです。
中には、早く離婚したくて相手の言い分に沿った不利な供述をしてしまうというケースもありますが、一度不利な供述をしてしまうと、後から否定するのは簡単ではありません。
④質問に対し簡潔に答える
本人尋問でよくあるのが、質問に対し、延々と話を続けてしまうケースです。
ずっと耐えてきた辛さや苦しみを相手方や裁判官にわかってほしいという気持ちから、話す内容が長くなってしまうのは十分理解できることです。
しかし、限られた尋問時間の中で、自分の主張を正しく伝えるには、一問一答の形でわかりやすく答えるのも大切な戦略です。
裁判官は、判決書を書く際、本人尋問の内容を文字起こしした書面を見ながら結論を判断するため、文字にしたときに、質問と回答が簡潔にまとまっていると、一目見てこちらの主張が伝わりやすくなります。
⑤体験した事実をそのまま話す
本人尋問では体験した事実をそのまま話すことが重要です。
嘘をつくと10万円以下の過料を科されるおそれがあります(民事訴訟法209条1項)。
そうでなくても、後で嘘が明らかになったとき、供述全体の信用性が下がってしまう大きなリスクがあります。
また、「意見」ではなく「事実」を話すという視点も忘れてはいけません。
例えば、「相手は卑怯だと思う」といった発言は、「事実」ではなく「意見」です。意見を述べても、離婚問題の解決にはつながりません。尋問の場面では、供述内容を冷静に選別して自己に有利な結果につなげましょう。
⑥感情的にならない
離婚問題は、お互いに複雑な感情が絡んでいるため、どうしても激しい対立が起こりがちです。
しかし、本人尋問の場では冷静でいる方が賢明です。言葉遣いもできるだけはっきりと丁寧にするように心がけましょう。
相手を非難するような感情的な発言をしても、離婚裁判で有利になることはありません。むしろ、感情的な発言をすると裁判官の心証を悪くしてしまいます。
反対尋問の中で、感情を刺激されるような質問をされる可能性もありますが、それも想定の上で、当日は冷静に対処するようにすると結果的に有利になる可能性が高まります。
⑦清潔感のある服装で臨む
本人尋問に臨む際の服装は自由です。スーツで出廷しなければならないというルールはありません。
とはいえ、服装は人の印象に少なからぬ影響を及ぼします。あまりにだらしない服装だと、裁判官に「この人の発言は信用できるのだろうか」という疑念を抱かれかねません。
本人尋問には清潔感のある服装で臨むのが良いでしょう。
余計なところで損をしないことが大切です。
本人尋問が不安なら弁護士に相談!
本人尋問が不安な方は、離婚裁判を起こす前から弁護士へ相談されることをおすすめします。
弁護士は、入念な事前準備を行い、ご相談者様が安心して本人尋問に臨めるようサポートいたします。
また、相手方や相手方の弁護士が不適切な質問を行った場合は即座に反論し、ご相談者様を守ります。
離婚裁判はお一人で対応するにはとても負担が大きな手続きです。法律の専門家である弁護士がお力になりますので、いつでもお気軽にお問い合わせください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
主尋問は伸びがちで、反対尋問はあっさりと10分程度で終わることも多いです。
主尋問では通常2~30個程度は事前に質問事項を準備していきますが、反対尋問の場合は相手の弁護士のタイプによってかかる長さはまちまちです。