ペーパー離婚とは?メリット・デメリットや通常の離婚との違いを解説

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ペーパー離婚とは

「ペーパー離婚と偽装離婚の違いがわからない」
「ペーパー離婚のメリットやデメリットを知りたい」

近年「ペーパー離婚」という離婚の形が注目を集めています。なかには、「初めてペーパー離婚という言葉を聞いた」という方もいらっしゃるかもしれません。

「ペーパー離婚」とは、法律上婚姻関係にある夫婦が、離婚届を提出して事実婚(内縁)状態になることを指します。

法律的には離婚して姓を変えることになるものの、結婚生活は今までどおり続けていくことになります。法律婚から事実婚へ移行するという「書類上の手続き」であることから、「ペーパー離婚」と呼ばれています。

今回は、ペーパー離婚のメリット・デメリットや、通常の離婚との違い、ペーパー離婚の手続きの流れなどについて解説します。

ペーパー離婚のメリット

ペーパー離婚のメリットとして、以下のようなものが挙げられます。

ペーパー離婚のメリット

  • 夫婦別姓が可能になる
  • 法律上の夫婦の義務から解放される

夫婦別姓が可能になる

ペーパー離婚のメリットとして、夫婦別姓が現行の制度で可能になるということが挙げられます。

近年では「選択的夫婦別姓」という言葉をよく耳にすると思います。基本的に、法律婚では夫婦が同じ苗字を名乗らなければならないことになっています(夫婦同氏の原則)。

一般的には、妻側が夫の姓に合わせることが多いです。しかし、姓を変える側には、公的書類の苗字を変更しなければならないなどの手間がかかります。仕事をする上でも周囲の人に説明する必要が生じ、わずらわしさを覚える方もいらっしゃるようです。

また、パスポートに旧姓を併記していたとしても、苗字が2つあることについて、海外ではダブルネームとして不正を疑われることもあるようです。

夫婦が共働きで妻側が旧姓で働くことを望んでいたり、自分の旧姓に思い入れがあったりという理由で、旧姓を使用するためにペーパー離婚をする、というケースがあります。

また、母や妻としてではなく、自分が自分らしくいられるにはどうすればよいかと考えた結果、ペーパー離婚をすることで戸籍上も旧姓に戻す、という決断をする女性もいらっしゃいます。

法律上の夫婦の義務から解放される

ペーパー離婚をすることで、法律上存在している夫婦の義務から解放されるというメリットもあります。

夫婦は、相手と同居する義務、お互いに協力して扶助する義務を負っています。

(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

民法752条
  • 同居義務:同じ場所に居住して夫婦としての生活を共にする義務
  • 協力義務:共同生活を送る上でお互いに協力をし合う義務
  • 扶助義務:相手方に自己と同一程度の生活を保障する義務

夫婦という関係性を維持したいが、法律上の義務や責任を背負うのにわずらわしさを感じるという方もいらっしゃいます。

いわば「縛り」から抜け出せることになるため、ペーパー離婚を選択するケースがあります。

ペーパー離婚のデメリット

ペーパー離婚のデメリットとして、以下のようなものが挙げられます。

ペーパー離婚のデメリット

  • 法定相続人になるには遺言書の作成が必要
  • 旧姓に戻す手続きなどが手間になる
  • 戸籍にバツがつく
  • 親権の扱いが通常の離婚と異なる
  • 偽装離婚と間違われるなど、周囲の理解を得づらい

法定相続人になるには遺言書の作成が必要

ペーパー離婚のデメリットとして、どちらかが死亡したとき、遺言書を作成していないとお互いの法定相続人になれないということが挙げられます。

通常の法律婚においては、夫婦のどちらか片方が亡くなったときには、その配偶者は「法定相続人」として、亡くなった人の財産を相続する権利を得ることになります。

ただし、ペーパー離婚の場合、夫婦は法律上は他人になります。そのため、離婚した元配偶者は、相続権がなくなります。離婚した相手(元夫、元妻)が死亡して相続問題が発生しても、お互い相続人にはならず、財産を相続することはできません。

そのため、「自分が亡くなった場合は、配偶者が法定相続人となる」といった旨の遺言書を作成しておく必要があります。法的に有効な内容にするためにも、できるだけ公正証書遺言の形で作成することをおすすめします。

旧姓に戻す手続きなどが手間になる

ペーパー離婚のデメリットとして、旧姓に戻す手続きなどが手間になってしまうことが挙げられます。

ペーパー離婚では、役所に離婚届を提出する必要があります。多くの場合は結婚して配偶者の姓に変更しているはずですので、旧姓に戻す手続きが必要になります。

自分で「旧姓に戻したい」という理由でペーパー離婚をする方が多いと思います。しかし、自分が希望したことであっても、手続きが多いと負担になってしまうでしょう。

戸籍にバツがつく

ペーパー離婚のデメリットとして、戸籍にバツ(離婚歴)が記録されてしまうということが挙げられます。

形式上の離婚とはいえ、戸籍には離婚歴が記録されてしまう点に注意が必要です。

親権の扱いが通常の離婚と異なる

ペーパー離婚をするときに、もし子どもがいるという場合は、通常の離婚とは親権の扱い方が異なるので注意が必要です。

未成年の子どもがいる場合、夫婦のどちらを親権者にするか決めなければ、ペーパー離婚をすることはできません。

また、夫婦のどちらかが亡くなってしまった場合は、通常の夫婦であればもう一方の親に自動的に親権が移動します。しかし、ペーパー離婚をした夫婦の場合は、もう一方の親に親権が自動的に移動せず、遺言書や戸籍謄本などを役所に提出することで親権を得る必要が生じます。

子どもが幼い場合は、自分たちがペーパー離婚をしているということをいつ伝えるかということも重要な懸念点になってきます。やはりペーパー離婚はまだ珍しい家族の形になりますので、子どもが学校などでほかの人と家族の形が違うことに気づき、ショックを受けることもあるかもしれません。

子どもがいる場合は、「ペーパー離婚をしている」と伝えるタイミングをできるだけ逃さないようにしましょう。

偽装離婚と間違われる

ペーパー離婚のデメリットとして、偽装離婚と勘違いされるなどして、周囲からの理解を得られにくいといったことが挙げられます。

偽装離婚とは、生活保護・児童扶養手当などの不正受給や、子どもを保育園に優先的に入園させることを狙って、離婚届を提出して法律上離婚することをいいます。

離婚後に同居したり、出かけたりすること自体は違法ではありません。ただし、生活保護を不正に受給するなどの行為があれば、もちろん犯罪となります。

ペーパー離婚と偽装離婚は別物です。しかし、「生活保護の不正受給のために偽装離婚をしている」などと、周囲から噂を立てられるおそれがある点に注意しましょう。

事実離婚や偽装離婚との違いとは?

ペーパー離婚とよく似た言葉に、「事実離婚」や「偽装離婚」といった言葉があります。

「言葉は似ているけれども、実際の違いや区別がまったくわからない」という方も多いでしょう。ここでは、事実離婚や偽装離婚と、ペーパー離婚がどのように違うかについて解説します。

以下は簡単に「ペーパー離婚」「事実離婚」「偽装離婚」についての違いをまとめた表になります。

ペーパー離婚事実離婚偽装離婚
離婚届出す出さない出す
夫婦の義務ないあるない
相続関係存在しない存在する悪用すると犯罪に
犯罪にあたるかあたらないあたらないあたる場合も

事実離婚とは離婚届を出さずに事実上別れること

事実離婚とは、離婚届を提出することなく、事実上婚姻関係を解消することを指します。

たとえば、離婚をすることで子どもにとって環境が悪化してしまうのではないかといった懸念から、「離婚届は作成するけれども、子どもが成人してから提出する」といった判断をする夫婦がいます。また、「別居することにして、今後帰ることはないけれども、離婚届は提出しない」という決断をする夫婦が該当します。

両親の事情を子どもに負担させたくないという理由で、事実離婚を選択する夫婦が多いです。ペーパー離婚とは違い、離婚届を提出しないため、夫婦の義務や相続関係が存在していることに注意が必要です。

偽装離婚は犯罪のおそれも

先述の通り、偽装離婚とは、生活保護・児童扶養手当などの不正受給や、子どもを保育園に優先的に入園させることを狙って、離婚届を提出して法律上の離婚をすることをいいます。

偽装離婚をして生計はそのままに、母子家庭(シングルマザー)という体で児童扶養手当を不正に受給したり、子どもを保育園に優先的に入園させたりする夫婦がいます。

ペーパー離婚とは離婚届を出して形式的に離婚するというところは似ています。

ただし、「配偶者と形式的に離婚したことにして、生活保護や児童扶養手当を申請しよう」などといった行為は、れっきとした犯罪です。

もし発覚した場合は、生活保護費やそれまで受け取っていた手当の返還を求められ、悪質だと判断されればさらに徴収金を支払わなければなりません。

偽装離婚は犯罪にあたるおそれが大きいというところが、ペーパー離婚と異なる点になります。

ペーパー離婚の手続きの流れ

離婚届を提出する

通常の離婚と同じように、離婚届を提出します。

離婚届は夫婦のどちらか一方や、当事者以外の人でも提出できます。

関連記事

離婚届の書き方・出し方・必要書類を徹底解説!

世帯変更届を提出する

離婚届を提出して離婚が法的に認められた後は、世帯変更届を提出しましょう。世帯変更届を提出することで、住民票の住所を変更することなく、世帯の構成を変更することができます。

世帯変更届を提出して世帯を1つにすることで、住民票に「妻(未届)」または「夫(未届)」と記載してもらいましょう。そうすることで、公的に事実婚を証明することができます。

公正証書を作成する

事実婚の状態になったあとは、夫婦に問題が生じたときのため、公正証書を作成しておくことをおすすめします。

公正証書とは、公証役場にて公証人に依頼して作成してもらう公文書のことです。

とくに作成しておくべき公正証書は、事実婚の関係を証明する公正証書と、公正証書遺言の2つです。

事実婚の関係を証明する公正証書

日常生活や夫婦の問題が生じたときのために、事実婚状態にあることを証明する公正証書を作成しておきましょう。たとえば、以下のような項目を盛り込んでおくことが重要になります。

公正証書に盛り込むこと

  • 法定相続人になるには遺言書の作成が必要
  • 旧姓に戻す手続きなどが手間になる
  • 戸籍にバツがつく
  • 親権の扱いが通常の離婚と異なる
  • 偽装離婚と間違われるなど、周囲の理解を得づらい

公正証書遺言

先述の通り、ペーパー離婚をしている状況では、どちらかが死亡したとき、遺言書を作成していないとお互いの法定相続人になれません。

遺言書は自筆することもできます。しかし、遺言書が無効であるなどの主張がされるおそれはゼロではありません。そのため、できるだけ公正証書遺言を作成することをおすすめします。

自分と配偶者、どちらが先に亡くなるかわかりませんので、夫婦双方の公正証書遺言を作っておくようにしましょう。

名義変更の手続きをおこなう

ペーパー離婚をおこなったあとには、忘れずに自分の持ち物の名義変更をおこなっておきましょう。たとえば、名義変更が必要なものには以下のようなものが挙げられます。

名義変更が必要なもの

  • 国民健康保険や国民年金、厚生年金
  • 印鑑登録
  • 免許証、マイナンバーカード、パスポートなど本人確認書類
  • 不動産や自動車の名義
  • 銀行口座やクレジットカードの名義 など

ペーパー離婚のあとで関係を解消する場合

ペーパー離婚をしたあと、「夫婦仲が悪くなった」「不貞行為があった」などの理由で、事実婚を解消して相手と別れる場合があるかもしれません。

その場合は、財産分与や慰謝料については、ほかの夫婦と同じように請求することができます。

事実婚を解消するときについてくわしく知りたい方は、『事実婚の夫婦の離婚はどうなる?財産分与、慰謝料、養育費を解説』をご覧ください。

ペーパー離婚のポイント

ペーパー離婚は犯罪にはならない

「ペーパー離婚をすると犯罪になってしまうのではないか」と気になる方もいらっしゃるかもしれません。ペーパー離婚をする理由にもよりますが、単に「夫婦別姓がいい」などの理由であれば、犯罪にはなりません。

ただし、「形式的に離婚することで生活保護を受給したい」といった理由であれば、偽装離婚に該当し、罪に問われることになります。

ペーパー離婚後の再婚もできるが、注意が必要

ペーパー離婚をおこなった相手と再婚することもできます(ペーパー再離婚)。

ただし、「所得税について夫の扶養に入るために年末に婚姻届を提出し、年が明けたらすぐ離婚届を提出する」といったように、何度もペーパー離婚とペーパー再離婚を繰り返していると、偽装離婚とみなされるおそれがあるので注意が必要です。

ペーパー離婚をすべきかよく検討する

ペーパー離婚をする前に、現在の夫婦の状況を確認して、ペーパー離婚をするべきかどうかをよく検討することをおすすめします。

ペーパー離婚は夫婦別姓が可能になるなどのメリットがあります。しかし、「周囲の人からの理解を得ることが難しい」「公正証書などの手続きをする必要がある」といったデメリットがあるのもまた事実です。

ペーパー離婚に踏み切る前に、今一度よく考えてみることが重要です。

ペーパー離婚で気になることがあれば弁護士に相談!

ペーパー離婚をすることで、夫婦別姓が可能になったり、夫婦の義務から解放されたりといったメリットがあります。

ペーパー離婚に踏み切る前に、ペーパー離婚をするべきかどうかについてはしっかりと確認する必要はあるでしょう。

もし「ペーパー離婚すべきかどうかわからない」「公正証書の作成方法がわからない」という方は、弁護士に相談することをおすすめします。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了