会社経営者の夫との離婚|3つの注意点を解説
会社経営者・社長である夫との離婚は、一般的な夫婦の離婚とは異なる点が多くあります。
例えば、財産分与の対象となる財産の範囲が広い、会社名義の財産が財産分与の対象となる可能性がある、養育費や婚姻費用の額が高額になる可能性があるなどです。
こういった特徴を理解した上で、対策を講じることで、経営者の夫との離婚を有利に進めることができるでしょう。
この記事では、経営者の夫との離婚の3つの注意点や、その対策について解説します。
目次
経営者は離婚が多い?
経営者は離婚率が高いって本当?
「経営者は離婚が多い」と言われることがありますが、国内の経営者の離婚率に関する明確な統計はありません。
しかし、経営者という職業の特殊性や、経営者になる人物の特徴には、離婚が多いと言われる十分な理由があるように思われます。
経営者の離婚が多い理由
経営者に離婚が多いと言われる理由を、その職業の特徴から考えてみます。
- 常に忙しく、家庭を顧みない
- アグレッシブな性格
- 事業が上手くいっていないと経済的に不安定
- モテるため浮気に走りやすい
- 夜の店に行く機会が多い
これらは一般的なイメージですし、全ての経営者がこうというわけではありませんが、経営者は離婚率が高いと言われるのも頷けます。
経営者との離婚の注意点①財産分与の問題
一般的に会社経営者は高収入であったり、特殊な財産を保有している場合が多いため、財産分与をめぐって特有の争いが生じるおそれがあります。
財産分与の割合が変わる可能性あり!
財産分与の割合は2分の1ずつというのが原則で、割合を争って調停や裁判を起こしても、ほとんどの場合は2分の1と決まります。
ただし、例外的に2分の1ずつ分けるのが公平ではないと考えられる場合には、財産分与の割合が修正されることがあります。
例えば、一方が医師や弁護士など特別な資格を持っており、その努力や能力によって多大な財産を築いた場合や、一方が経営者などとして多額の資産を築いているのに対し、もう一方の貢献度が低い場合などです。
経営者の夫と離婚する際には、こういった理由から夫が財産分与の割合を変更するように求めてくる可能性があります。
割合の変更に応じてしまうと、財産の形成に対するご自身の貢献が軽視されてしまう上に、受け取れる財産が減ってしまいます。
とはいえ、早期に離婚を成立させるためには、割合や金額の面で多少譲歩するという戦略もあり得ます。
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特殊な財産を財産分与の対象にできるか?
会社経営者は特殊な形の財産を保有していることが多く、それらを財産分与の対象にするかどうかは判断が難しいところです。
経営者特有の財産として、以下のようなものが挙げられます。
- 自社株
- 退職金(法人保険などを含む)
- 会社名義の財産
自社株
経営者が保有している自社株は、婚姻中に得たものであれば財産分与の対象になる可能性が高いでしょう。
ただし、婚姻中に得た株式であっても、妻の貢献によるものではないとして、夫の特有財産であることを主張してくる可能性があります。
また、株式の価値に相当する代償金や他の財産を渡すか、現物のまま分与するかの問題もあります。
現物で株式を渡した場合、妻が経営に口出しできる状態になってしまいます。これを避けるためにも代償金によって財産を分け与えるケースは多いですが、代償金を支払う場合に争いになりやすいのが株式の評価方法です。
会社が上場していない場合は、明確な時価が存在しないため、様々な評価方法の中から一つを選んで時価を決定することになりますが、どの評価方法を採用するかで争いが生じる可能性があります。
退職金
夫が退職金を既に受け取っている場合や、将来確実に受け取る見込みがある場合には、退職金の財産分与が可能です。
もし夫の会社に役員の退職金制度がなかったとしても、法人保険や中小企業共済に加入して退職金の積立を行っている可能性があります。夫がこのような保険に加入していないか、確認しておいた方がよいでしょう。
会社名義の財産
会社名義の財産は、法人格を持つ会社が保有する財産であり、夫婦の共同財産とは区別されます。したがって、原則として会社名義の財産は分与することはできません。
ただし、個人の財産と会社の財産が混ざっていて区別ができない場合は、それぞれの財産について個別に検討して、財産分与の対象にできる可能性があります。
また、夫が自己名義の財産を会社名義に変えるなどして財産隠しを行った場合も、その財産を財産分与の対象にできる可能性があります。
経営者との離婚の注意点②子どもに関する問題
養育費・婚姻費用の算定方法
経営者の夫に養育費や婚姻費用を請求する際は、収入が多いゆえの問題が起きます。
養育費・婚姻費用は、夫婦で話し合って自由に額を決定することができますが、裁判所が公開している養育費・婚姻費用算定表(裁判所HP)もよく用いられています。
これは、夫婦それぞれの年収や子どもの人数などをもとに標準的な金額を算定する方法です。
しかし、この表の中では、給与所得者の場合は年収2,000万円、自営業者の場合は年収1,567万円が上限となっています。
したがって、これ以上の収入がある場合は、上限で計算した額をそのまま採用するか、この算定表のもととなっている計算式を用いて、自分で計算することになります。
夫にとっては、算定表上の上限値を採用した方が支払う額は少なくなりますので、どちらを採用するかで争いが生じるおそれがあります。
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・高額所得者の婚姻費用・養育費は?算定表を超える場合の考え方
養育費・婚姻費用の算定のための収入の確定
養育費・婚姻費用の算定には年収を用いるため、年収を確定させる必要があります。しかし、夫が会社経営者の場合、役員報酬以外にも様々なルートで収入を得ていることが多いため、収入の確定が難しいという問題があります。
役員報酬以外に考えられる収入としては、以下のようなものがあります。
- 副業収入
- 株式の配当金
- 利子所得
- 不動産の賃料
- 不動産の売却益
夫がこれらの収入を隠していると、養育費や婚姻費用の額が不当に低く算出されてしまいますので注意が必要です。
夫が収入資料の開示に応じない場合は、弁護士に依頼すると、弁護士会照会という制度を用いて関係機関に開示を求めることができます。
また、裁判になった場合、調査嘱託といって、裁判所を通じて関係機関に情報を開示させる手続きを利用できることもあります。
子どもの親権に関する問題
特に家族経営の企業の経営者は、自分の子どもに跡継ぎとなってくれることを期待するでしょう。しかし、離婚して妻に親権を取られてしまっては、跡継ぎにすることができません。
このように、親権をめぐって争いになり、なかなか離婚できないという事態が考えられます。
経営者との離婚の注意点③夫婦で経営している場合
雇用関係の問題
夫婦で会社を経営している場合、妻は役員または従業員として働いていることが多いでしょう。
離婚後もその会社で働き続けたい方は、離婚を理由に解任・解雇されるリスクに留意しなければなりません。
仮に解任・解雇されてしまっても、正当な理由がない限りは違法であり、解雇の無効を主張したり、損害賠償を請求することができます。
また、退職金を請求できる可能性もあります。不当に解任や解雇を言い渡されても、諦めずに戦うことで、自身の地位や利益を守ることができるでしょう。
家族経営の事業用の財産はどうなる?
家族経営の会社であっても、法人の財産と夫婦の財産は区別されるため、原則的に事業用の財産は財産分与の対象にはなりません。
とはいえ、法人名義とは名ばかりで、その実態が夫婦の財産といえる場合は、財産分与の対象にできる可能性があります。
なお、夫が個人事業主の場合は、事業用の財産も個人に帰属するため、財産分与の対象になります。
工場の設備や店舗の備品なども財産分与の対象となりますが、経営者からすればこれらを手放す訳にはいきませんので、実際には相当する金額を代償金として支払うことになるでしょう。
しかし、これも経営者の手元に資金がないと難しいため、夫が財産の分与に反発することが予想されます。
このように、個人事業主の離婚は財産分与で揉めてしまう可能性が高いといえます。
経営者との離婚は弁護士に相談
財産の評価や調査は弁護士に!
経営者との離婚は、その職業の特殊性から、財産分与や慰謝料、養育費、婚姻費用の金額の算定において、通常の基準や相場を適用せず、ケースごとに判断することが多くあります。
また、経営者は様々な形で財産を保有しており、それらを明らかにするには綿密な調査が必要です。
弁護士は、弁護士会照会などの法的な手段を用いて財産や収入の調査を行うことができます。
経営者との離婚でご自身の利益を守るためには、弁護士に任せて適正な金額を請求していくのがよいでしょう。
経営者との離婚は弁護士にご相談ください
以上のように、経営者との離婚は、交渉が難航する可能性が非常に高いため、対策が必要です。
夫が事業で築いた財産であっても、それは妻の内助の功がなければ得られなかったものです。その貢献を離婚時に正当に評価し、妻が最大限の経済的利益を得ることが公平であるといえます。
弁護士はこのような活動であなたの利益を守ります。
- 財産の調査や評価
- 相手方との離婚交渉の代理
- 離婚手続きの代行
- 離婚協議書・公正証書の作成サポート
- 離婚調停・離婚裁判のサポート
経営者の夫との離婚を有利に戦いたいとお考えの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
こういったケースにおいては、非常に難しい判断が求められます。また、財産を渡したくない夫と争いになることが予想されるため、弁護士に調査や交渉を任せておくと安心です。