離婚したら保険はどうなる?生命保険・健康保険はそのまま?
離婚時に忘れてはならないことの1つに、保険に関する手続きがあります。
万が一の備えとして多くの人が加入している生命保険(民間保険)は、離婚時に契約内容を見直した方がよいケースがほとんどです。
また、日本国民なら誰でも加入している健康保険(公的保険)は、多くの場合離婚に伴って何らかの変更が発生するため、手続きが必要です。
こういった保険の見直しや変更手続きは、きちんと行わなければ損をしてしまう可能性もあります。
この記事では、離婚したら生命保険や健康保険がどのように変わるか、どのような手続きが必要かを解説します。
離婚したら生命保険はどうなる?
離婚する前に必ず生命保険の契約内容を確認!
離婚時に生命保険の契約内容を見直しておかないと、将来損をしてしまう可能性があります。契約者・被保険者・保険金受取人が誰であるか、保険料、保障の内容を必ず確認しておきましょう。
確認した結果、何らかの手続きが必要と分かった場合は、離婚前に手続きを済ませておくことを強くおすすめします。
生命保険の変更手続きは契約者本人でなければできませんが、配偶者が契約者であった場合、離婚後に連絡が取れなくなってしまうおそれがあるためです。
離婚しても生命保険はそのまま?解約してもいい?
離婚して独身になるからといって、むやみに生命保険を解約するのはおすすめできません。
後で再加入したくなった時、健康状態によっては加入できなかったり、保険料が高くなってしまう可能性があるため、子どもがいなくても解約は慎重に考えなければなりません。
また、仮に自分が子どもを引き取らなかった場合も、養育費を支払う義務は残ります。しかし、自分が働けなくなったら養育費を支払うことができません。そういった時のために、保険金の受取人を子どもとして生命保険に加入し続けるというような取り決めを離婚時に行うことがあります。
解約返戻金を財産分与することも
積立型・貯蓄型の保険に入っている場合、解約返戻金が財産分与の対象になります。
離婚時に生命保険を解約した場合は実際の解約返戻金を、解約しない場合は、仮にその時点で解約した場合に受け取れる返戻金を、財産分与の額に含めることができます。
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離婚時には契約内容を見直そう!
離婚時に、契約内容や保障内容を見直した方がよいケースもあります。
生命保険の契約者を変更しよう
生命保険には、契約者・被保険者・保険金受取人という3つの立場があり、契約者と被保険者が異なる場合があります。
例えば、契約者が夫で、妻が被保険者といった形です。
この場合、離婚の際に契約者を夫から妻に変更しておく必要があります。
契約者が夫のままになっていると、離婚後に夫が勝手に保険を解約し、解約返戻金を持ち逃げしてしまう可能性があります。
生命保険の受取人を変更しよう
多くの夫婦が、互いを死亡保険金の受取人にしているのではないでしょうか。しかし、保険金の受取人が元妻・元夫のままだと、万が一の時の保険金はそのまま元妻・元夫に振り込まれます。
つまり、自分の子どもや再婚相手は、保険金を受け取ることができないということです。
さらに、元妻・元夫が再婚していた場合は、新しい配偶者やその子どもにまで保険金が渡る可能性があるほか、元妻・元夫が既に死亡していた場合は、その相続人が保険金の受取人となってしまいます。
このような不本意な結果を防ぐために、離婚時には保険金の受取人を変更するのを忘れないでください。
新たな受取人は、自分の子どもや親、再婚相手などがよいでしょう。
生命保険の保障を厚くするケース
生命保険の契約者や受取人だけでなく、保障内容も見直しましょう。
ひとり親家庭になる場合は、自分が働けなくなってしまったら子どもの生活が立ち行かなくなるおそれがあるため、保障を厚くしておくと安心です。
生命保険の保障内容を厚くするには、主に3つの方法があります。
①追加契約
現在契約している生命保険に加えて、新たに保険を契約する方法です。
②特約の中途付加
現在契約している生命保険に、新たに特約を付ける方法です。死亡保障を増額するための定期保険特約や、病気やケガに備えるための疾病入院特約などが代表例です。
③転換
現在契約している生命保険を解約し、より手厚い保障のある生命保険に入り直す方法です。
現在契約している保険の積立部分や積立配当金を「転換(下取り)価格」として、新しい契約の保険料に充てることができるため、保険料の負担を抑えられる場合があります。
生命保険の保障を減らしてもいいケース
一方、離婚によって養うべき家族が減る場合は、保障内容を減らすことで保険料の負担を少なくすることができます。
保障内容を減らすには、以下の2つの方法があります。
①一部解約(減額)
現在契約している保険の一部分のみを解約する方法です。保障内容は少なくなりますが、保険料を安く抑えることができます。解約した部分について、解約返戻金が支払われる場合もあります。
②特約の解約
現在契約している保険の特約のみを解約する方法です。特約部分の保障は受けられなくなりますが、保険料を安く抑えることができます。
離婚したら健康保険はどうなる?
健康保険の制度をおさらい
まずは、日本の健康保険制度について見てみます。
離婚によって健康保険を切り替えなければならない方も多いため、日本の健康保険制度について理解し、自分がどの保険に入ればよいかを確かめておきましょう。
日本国民は、全員が何かしらの健康保険に加入しています。
大きく分けると、会社員・公務員やその家族が入る社会保険(被用者保険)か、自営業や無職の方などが入る国民健康保険のいずれかです。なお、75歳以上の方は、全員が後期高齢者医療制度に入っています。
パート・アルバイトの方も、労働時間など一定の要件を満たせば社会保険に入ることができます。要件を満たさない方や勤務先に社会保険がない方は、国民健康保険に加入します。
広義の社会保険は、健康保険や雇用保険、介護保険、厚生年金保険などを含みます。ただし、この記事では社会保険のうち健康保険の部分(被用者保険)のみを扱います。
自分の勤務先で社会保険に入っている方は、配偶者や子どもを自分の扶養に入れることができます。
扶養されている配偶者や子どもは、被扶養者という立場で勤務先の社会保険に入っていますが、離婚すると被扶養者としての資格を失うため、健康保険の加入手続きが必要です。
一方、国民健康保険には扶養という概念がありません。一家の大黒柱が国民健康保険に入っている場合も、配偶者や子どもは、扶養に入るのではなく単独で国民健康保険に入っています。
そのため、離婚したことによって国民健康保険の資格を失うことはありません。
離婚時に健康保険の手続きが必要なのはこんな人
以下の条件にあてはまる方は、健康保険の手続きが必要です。
離婚時に健康保険の手続きが必要な人
- 離婚によって住所・氏名が変わる人
- 離婚によって配偶者の扶養を外れる人
- 離婚によって扶養家族に変更がある人
いずれかにあてはまる方は、離婚前の保険の加入状況に応じて、次の①~③いずれかの手続きが必要です。
これらの手続きには期限があります。また、健康保険に加入していない期間ができてしまうと、その間は医療費を10割負担しなければなりませんので、早めに手続きを済ませましょう。
離婚時の健康保険の手続き
①離婚前に国民健康保険に加入していた人の手続き
自分自身や配偶者が自営業、農業や漁業の従事者、フリーランスなどの場合は、個別に国民健康保険に加入しています。
離婚に伴い氏名・住所が変わった場合は、保険証の書換え手続きが必要です。詳しい手続きは後述します。
離婚後も国民健康保険に加入し続ける場合は、世帯主の変更手続きが必要になります。国民健康保険は世帯主が世帯員の分をまとめて支払うため、世帯主を元夫のままにしていると、元夫に保険料が請求され続けてしまいます。
元夫は別れた妻の分まで払いたくはないでしょうから、離婚後のトラブルのもとになってしまいます。また、長期間滞納されると保険が使えなくなる可能性がありますので、確実に手続きを行いましょう。
なお、異なる市区町村へ引っ越す方は、元の市区町村役場で資格喪失の手続きを行い、転入先の市区町村役場で再度加入の手続きを行う必要があります。これは、国民健康保険が自治体ごとに管理されているからです。
これらの手続きは、離婚から14日以内に市区町村役場にて行う必要があります。
もし国民健康保険をやめて社会保険に加入する場合は、国民健康保険の脱退手続きを自分で行わないと、保険料が二重で請求されてしまうため注意してください。
②離婚前に自分の勤務先の社会保険に加入していた人の手続き
勤務先の社会保険に加入している方は、退職しない限りは離婚後に特別な手続きは必要ありません。
マイナンバーと基礎年金番号が紐づけされている方であれば、氏名・住所変更の届け出も不要です。
自分が配偶者や子どもを扶養していた場合は、家族が扶養から抜けることを報告する手続きが必要です。「健康保険 被扶養者(異動)届」と家族の保険証を勤務先に提出します。この届出は、離婚から5日以内に提出しましょう。
なお、離婚を機に退職する場合は、次の項で社会保険の資格を喪失する場合について解説しますので、そちらをご覧ください。
③離婚前に配偶者の社会保険に入っていた人の手続き
専業主婦(主夫)の方や配偶者の扶養内で働いている方は、配偶者の勤務先の社会保険に加入しています。
配偶者の扶養に入っている方は、離婚と同時に社会保険の資格を喪失しますので、何かしらの健康保険に加入する手続きが必須です。
必要な手続きは、離婚後にどのような職業につくかによって変わりますが、いずれの場合も「健康保険 被扶養者(異動)届」を離婚から5日以内に元配偶者の勤務先に提出する必要があります。
- 就職しない場合
- 自営業・フリーランスとして開業する場合
- アルバイト・パートで勤務開始する場合
- 正社員として勤務開始する場合
- 同じ勤務先で引き続き勤務する場合
なお、手続きに「健康保険資格喪失証明書」が必要になりますので、忘れずに発行してもらいましょう。
健康保険資格喪失証明書とは?
健康保険資格喪失証明書とは、退職や離婚などによって健康保険の被保険者資格を喪失したことや、その日付を証明する書類です。
国民健康保険や新たな社会保険に加入する手続きの際に、提出が求められます。
健康保険資格喪失証明書を発行してもらうには、加入していた健康保険または勤務先に申請をする必要があります。
1.就職しない場合
離婚後も就職しない場合は、自分の親などの扶養に入るか、国民健康保険に加入する必要があります。子どもがいる場合、子どもを国民健康保険に加入させる手続きも必要になる場合があります。国民健康保険の加入手続きには、離婚から14日間という期限があります。
2.自営業・フリーランスとして開業する場合
離婚後に自営業やフリーランスとして開業する場合は、国民健康保険に加入する必要があります。
子どもがいる場合、子どもを国民健康保険に加入させる手続きも必要になる場合があります。国民健康保険の加入手続きには、離婚から14日間という期限があります。
3.アルバイト・パートで勤務開始する場合
離婚後に新たにアルバイトやパートを始める場合、その勤務先で社会保険に加入することができます。手続きは勤務先で行います。勤務先の社会保険に加入した場合は、子どもを自分の扶養に入れることができます。
ただし、アルバイト・パートの方が社会保険に加入するためには、勤務時間数や勤務期間などの条件があります。また、勤務先が社会保険に対応していない場合もあります。
勤務先で社会保険に加入できない場合は、国民健康保険に加入する必要があります。子どもがいる場合、子どもを国民健康保険に加入させる手続きも必要になる場合があります。
国民健康保険の加入手続きには、離婚から14日間という期限があります。
4.正社員として勤務開始する場合
離婚後に新たに正社員になる場合は、勤務先で社会保険に加入します。この場合の手続きは、会社が行ってくれます。子どもがいる場合は、子どもを扶養に入れることができます。
子どもを元夫の扶養に入れ続けることもできる
子どもを連れて離婚する場合、子どもの健康保険には以下の選択肢があります。
- 自分の社会保険の扶養に入れる
- 自分と同じく国民健康保険に入れる
- 元配偶者の社会保険の扶養に入れたままにする
離婚後は、子どもを養育する親(母親の場合が多い)と同じ保険に子どもを入れるのが一般的です。
ただし、場合によっては子どもを元夫の社会保険の扶養に入れたままにできることもあります。
子どもを元夫の扶養に入れたままにすれば、妻にとっては子どもの保険料がかからないというメリットがあります。また、夫も扶養控除を受けることができます。
ただし、子どもを元夫の扶養に入れ続けるには、元夫が子どもを扶養しているという実態が必要です。すなわち、元夫が継続的に養育費を支払っていることが条件です。
また、子どもの健康保険に関する手続きをするときに、元夫と連絡を取り合わなければならないという点をデメリットに感じる人もいるでしょう。
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国民健康保険の加入手続きが14日を過ぎたらどうなる?
健康保険の資格を失ったあとは、14日以内に国民健康保険の加入手続きを行う必要があります。
14日以内に加入手続きをすれば、資格を喪失した日まで遡って医療費の給付を受けることができます。しかし、14日を過ぎてしまうと、手続きが完了した日以降しか医療費の給付を受けられない可能性があります。つまり、それまでの間は医療費の全額を自費で負担することになってしまいます。
一方で、保険料は本来加入すべきだった時まで最長2年遡って請求されるため、医療費の給付を受けられなかった期間の分も保険料を納める必要があります。
離婚したら保険証はどうする?
健康保険を切り替える方や、氏名・住所の変更がある方は、保険証を更新しなければいけません。
①離婚前に国民健康保険に加入していた人の保険証
離婚前に国民健康保険に加入していた方のうち、離婚時に保険証に関する手続きが必要なのは、以下にあてはまる方です。
- 氏名が変わる・・・役所で国民健康保険証を交換します。
- 同じ市区町村内で引っ越す・・・役所で国民健康保険証を交換します。
- 他の市区町村へ引っ越す・・・転出時に役所に国民健康保険証を返却し、転入先で新たに加入手続きをする必要があります。
- 国民健康保険から社会保険に切り替える・・・役所に国民健康保険証を返却し、勤務先から保険証を受け取ります。
氏名も住所も変更がない方は、国民健康保険証を更新する必要はありません。
②離婚前に自分の勤務先の社会保険に加入していた人の保険証
離婚前から引き続き自分の勤務先の健康保険に加入する方で、氏名の変更がある場合は、勤務先に保険証を返却して、新しい氏名の保険証と交換します。
マイナンバーと基礎年金番号が紐づけされている方であれば、勤務先に氏名変更の届出をしなくても、新しい保険証が自動で届きます。
苗字は変わらず住所にのみ変更がある方は、保険証を交換する必要はなく、手書きで住所を書き換えます。
家族が扶養を抜ける場合は、被扶養者異動届の提出とともに、家族の保険証を返却します。
詳しい手続きは勤務先にご確認ください。
③離婚前に配偶者の社会保険に入っていた人の保険証
離婚前に配偶者の扶養に入っていた方は、離婚時に配偶者の勤務先に健康保険証を返却しなければなりません。
その後、国民健康保険に加入するのであれば、役所で手続きを行って国民健康保険証を受け取ります。
自分の勤務先で新たに社会保険に加入する場合は、勤務先で手続きをして健康保険証を受け取ります。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
なお、掛け捨て型の保険は返戻金がないため、財産分与の対象にはなりません。