審判離婚とは|調停・裁判との違いは?流れ・メリット・デメリットも解説
審判離婚とは、わずかな離婚条件の違い等で、調停離婚が成立しそうにない場合に、家庭裁判所の職権で成立させる離婚のことです。
調停離婚が不成立になれば、再度、夫婦の話し合いによる離婚を目指すか、今度は裁判離婚を考えなければなりません。
そこで、調停に代わる審判で、家庭裁判所が離婚を成立させる審判離婚が重宝します。
審判離婚はめずらしい離婚といわれていますが、この記事では、審判離婚が利用されるケースの具体例や、審判離婚のメリット・デメリットなど、わかりやすく解説します。
目次
審判離婚とは?調停や裁判とは違う?
離婚する方法とは?審判離婚を含め主に5つ
審判離婚についてご説明する前提として、まず離婚する方法についてご紹介します。
離婚する方法は、①協議離婚、②調停離婚、③審判離婚、④裁判離婚、⑤和解離婚の主に5つです。
離婚の方法と手続きの流れについてまとめた下図をご覧ください。
審判離婚の前提条件とは?
審判離婚(調停に代わる審判)
- 前段階として離婚調停が必要
- 調停に代わる審判をするかどうかは、裁判官が決める
先ほどの図からも分かるとおり、審判離婚は離婚調停の申し立て後に、実施できる離婚方法です(調停に代わる審判)。
つまり、審判離婚が成立するには、離婚調停の申し立てが前提となるのです。
また、審判離婚ができる場面も、実務上、非常に限られています。
審判離婚とは、離婚調停において、当事者が離婚や離婚条件の大部分については合意できているものの、わずかな離婚条件の違い等があるため離婚調停が不成立になるような場合に、家庭裁判所の裁判官が必要であると考えた時にのみ職権で、その離婚条件について判断し、離婚を成立させるものです。
審判は他の離婚方法とは何が違う?
それぞれの離婚方法の内容を簡単に整理すると、以下のようなものになります。
離婚方法 | 内容 |
---|---|
協議離婚 | 夫婦間で合意し、離婚届で離婚。 約9割の夫婦が協議離婚をする。 |
調停離婚 | 家庭裁判所の離婚調停を利用して、夫婦で離婚の合意をする。 |
審判離婚 | 調停に代わる審判。 わずかな離婚条件の違い等を、裁判官が判断する。 |
裁判離婚 | 離婚裁判をおこし、離婚判決をもらって離婚する方法。 |
和解離婚 | 離婚裁判の期間中、裁判官の仲裁で、離婚に合意する。 |
離婚方法の違いについて、以下の4つの視点で整理してみましょう。
- 離婚方法をおこなう時期
- 裁判所が関与するか
- 夫婦の合意が必要か
- 異議申し立てができるか
これらの4つ視点で整理すると、審判と他の離婚方法の違いは、以下のようになります。
時期 | 裁判所の関与 | 夫婦の合意 | 異議 | |
---|---|---|---|---|
協議離婚 | いつでも | ✕ | 〇 | ✕ |
調停離婚 | いつでも | 〇 | 〇 | ✕ |
審判離婚 | 調停の後 | 〇 | ✕ | 〇* |
裁判離婚 | 調停の後 | 〇 | ✕ | 〇 |
和解離婚 | 裁判期間 | 〇 | 〇 | ✕ |
* こちらは2024年6月19日現在の情報です。また、分かりやすくお伝えするため、一部簡略化して整理しています。最新情報の詳細については、ご自身でご確認ください。
* 審判離婚に際して、当事者から書面による共同の申し出がある場合は、異議を申し立てられない(家事事件手続法286条8項、同9項)。
審判離婚と裁判離婚の違いとは?(補足)
さて、審判離婚と裁判離婚の違いを補足しておきましょう。
おこなう時期
審判離婚も、裁判離婚も、離婚調停の後でなければ実行できません。
しかし、審判離婚は離婚調停が不成立になりそうな場合に、裁判官の判断で自動的に移行するものです。
これに対し、裁判離婚をおこなうには、夫婦のいずれか一方による離婚訴訟をおこすことが必要になります。
裁判所の関与の度合い
審判離婚は、離婚そのものや離婚条件の大部分に合意している場合に、裁判官が判断をするものです。
これに対し、裁判離婚は、離婚そのもの、離婚条件の大部分で争いがある場合でも利用できる離婚方法です。
異議の効果
審判離婚も、裁判離婚も、裁判官の判断に対して異議を出すことはできますが、異議の効果は違います。
離婚審判では、当事者のいずれかが審判の告知があった日から2週間以内に異議を申し出るだけで、審判は無効となります(家事事件手続法286条1項、同279条2項)。異議の理由にかかわらず、裁判官の審判に従う必要はなくなります。
一方、離婚裁判は、不服がある場合に控訴・上告といった異議をだすことができますが、異議には理由が必要です。
判決を変更すべき理由が認められないと、異議を出しても判決を無効にはできず、もとの離婚判決に従うことになるのです。
次の項で、審判離婚についてさらに詳しくご説明します。
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審判離婚の概要とは?割合・例・流れは?
審判離婚の割合はわずか1.2%
ここでは、実際に審判離婚をする人がどれくらいいるのか見ていきたいと思います。下表をご覧ください。
離婚の方法 | 割合 |
---|---|
協議離婚 | 88.3% |
調停離婚 | 8.3% |
審判離婚 | 1.2% |
和解離婚 | 1.3% |
判決離婚 | 0.9% |
(出典:厚生労働省「令和4年度「離婚に関する統計」の概況)
この表を見ると、離婚する夫婦の大半が協議離婚しており、審判離婚するケースは非常に少ないことが分かります。
【今後予想される動き】
現在の家事事件手続法の下では、電話会議又はテレビ会議の方法によって、離婚離婚又は離縁の調停を成立させることはできないと規定されています(同法268条3項)。
しかし、「民事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立によって、将来的に当事者双方が裁判所に出頭しなくとも、ウェブ会議を利用して離婚調停等を成立させることができるようになりました。
この法改正の施行日は、令和4年5月25日から3年以内の政令で定める日とされています。具体的な施行日は今後決定されます。
法改正により、今後は当事者が遠方にいて出頭が難しい事案でも、調停離婚が成立しやすくなります。
その一方で、審判離婚を利用する場面は減少すると予想されます。
審判離婚に際して定められること
調停中に夫婦が離婚すること自体に合意できていたのであれば、養育費、親権者、面会交流、損害賠償、財産分与、年金分割等について、審判離婚で定めることができます。
審判離婚(調停に代わる審判)は、調停が成立しない場合に、紛争を適正かつ迅速に解決するために、調停に取って代わり、裁判所が解決案を示す制度なので、離婚調停と同様、定められる範囲は多岐にわたります。
家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。
家事事件手続法284条1項本文
審判離婚が成立する具体例
ここでは、審判離婚が成立する具体例をご紹介します。
- 弁護士や書面でのやりとりを通じ、実質的に合意できているが、当事者が遠方に住んでおり、調停への出席が難しい場合
- 婚姻費用や養育費の金額、面会交流の頻度等、わずかな離婚条件の相違で合意に至らない場合
- 別居や離婚に至る経緯等から感情的に対立しており、当事者間での合意は難しいが、裁判所から解決案を示されれば争わないだろうと考えられる場合
- 当事者が調停期日を連続して欠席しているが、離婚訴訟を提起しても離婚の判決がされることが予想される場合
- 当事者が調停期日を欠席しているものの、答弁書等から実質的に争わないと推測される場合
- DV事案で相手との接近を回避したい場合
- 年金分割の按分割合で合意できているものの、情報通知書の取得が期日までに間に合わなかった場合
など
審判離婚の成立までの流れ
審判離婚が成立するまでの大まかな流れは、以下のとおりです。
- 離婚調停の申し立て
- 離婚条件について意見が食い違ったり、相手方の欠席により調停が合意に至らない
- 調停委員会が当事者の話し合いがまとまるよう調整を尽くす
- 調停委員会は、調停に代わる審判の内容や理由をあらかじめ当事者に説明する
- 調停に代わる審判が出される
- 審判離婚の成立
以下では、それぞれの段階について詳しく解説します。
①離婚調停の申し立て
審判離婚の前提として、離婚調停を申し立てる必要があります。
離婚調停を経ずに、いきなり審判離婚を求めることはできません。
②離婚条件について意見が食い違ったり、相手方の欠席により調停が合意に至らない
離婚調停の中では、離婚だけでなく、養育費、財産分与、面会交流等の離婚に関連する問題を話し合います。
ときには、相手が離婚自体に合意しているものの、離婚条件に関するわずかな意見の相違から離婚調停が成立しない場合もあります。
また、相手が最初から調停に出席しないケースもあります。
このような場合、離婚調停を成立させることができません。
③調停委員会が当事者の話し合いがまとまるよう調整を尽くす
離婚調停が成立しない場合も、すぐに不成立となるわけではありません。
調停委員と裁判官で構成される調停委員会から解決案が示される等して、当事者間で合意に至るよう調整が尽くされます。
また、欠席を続ける相手に対しては、出席勧告を行います。
④調停委員会は、調停に代わる審判の内容や理由をあらかじめ当事者に説明する
上記③の調整を経ても、調停が成立しそうにない場合、調停委員会から調停に代わる審判の内容や、その判断理由についてあらかじめ当事者双方に説明される場合が多いです。
⑤調停に代わる審判が出される
家庭裁判所が、調停に代わる審判を出します。
⑥審判離婚の成立
当事者が調停に代わる審判の告知を受けてから2週間以内に異議申し立てがなければ、審判離婚が成立します。
審判離婚の効果・離婚の成立日
調停に代わる審判(離婚審判)の確定日が、審判離婚の成立日になります。
離婚審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に、当事者から異議申し立てがなければ、離婚審判は確定します。
離婚審判が確定した場合、確定判決又は確定審判と同一の効力を有します。
したがって、調停に代わる審判で養育費等の支払が命じられたにもかかわらず相手が支払わない場合、強制執行が可能です。
審判離婚が成立した後の手続き
審判離婚が成立した場合、忘れてはならないのが役所への届出です。
離婚の届出は、通常申立人が行います。
申立人は、離婚審判の確定日から10日以内に以下の必要書類を揃えて、役所の戸籍係に届け出なければなりません。
届出地は、夫婦の本籍地、住所地、所在地のいずれかです。
【審判離婚の届出に必要な書類】
- 離婚届
- 審判書の謄本
- 確定証明書
- 届出先の市区町村が本籍地でない場合は戸籍謄本(戸籍全部時効証明書)
審判離婚に異議が出た場合の流れ
当事者から2週間以内に異議が出た場合、調停に代わる審判は効力を失います。
実務では、審判離婚がおこなわれるケースも少ないですが、くだされた離婚審判に異議が出るケースも少ないです。
審判離婚にかかる費用とは?
裁判所の利用手数料
調停に代わる審判を受ける場合に必要な費用としては、調停申立ての際に納付した収入印紙代1200円程度のほかに、通常、追加費用はかかりません。
連絡費用として、調停申立ての際、郵便切手代1000円程度納付しますが、これについては追加費用がかかる場合も多いでしょう。
各裁判所によって必要になる手数料は異なるので、ご自身で手続きを進める場合は、各裁判所にお問い合わせください。
弁護士費用
弁護士のサポートを得て、離婚を目指す場合は、弁護士費用もかかります。
弁護士費用の内訳としては、相談料、着手金、成功報酬、実費、出張日当などがあります。
内容 | |
---|---|
相談料 | 弁護を依頼する前、単発の相談にかかる費用 例)初回60分無料 例)初回30分1万円 |
着手金 | 正式に依頼する時、かかる費用 例)離婚調停〇〇万円 例)離婚裁判〇〇万円 |
成功報酬 | 弁護活動の成果に対する報酬 例)離婚の成立で〇〇万円 例)経済的利益の〇〇% |
実費 | 郵送費、交通費等の実費 |
出張日当 | 調停や審判等、外出時の日当 |
同じ離婚問題をあつかう弁護士でも、弁護士事務所ごとに、料金体系は違います。必ず、担当の弁護士に費用を確認してください。
審判離婚のメリット・デメリットとは?
審判離婚のメリット
- 離婚問題が早期に解決する
調停に代わる審判が確定すれば、裁判をすることなく早期に離婚が成立します。
また、調停に代わる審判が確定すれば、将来不払があっても強制執行ができるため、離婚に関するお金の問題も解決できます。
- 離婚裁判よりも柔軟な解決が可能
審判離婚のメリットは、調停離婚と同じように柔軟な解決ができる点です。
離婚裁判になると、法律に規定された事項しか判断されません。
しかし、審判離婚の場合は、法律に規定されていない事項についても、当事者の意向や提出された資料等を考慮して、決めることができます。
例えば、住宅ローンが残っている場合、審判離婚では、住宅ローンの負担者、支払方法等を、当事者の事情に合わせて柔軟に決めることができます。
審判離婚のデメリット
調停に代わる審判に対し、異議申し立てがされると、その効力が失われる点が、審判離婚の最大のデメリットです。
調停に代わる審判が無効になると、離婚調停を不成立にしてすぐ離婚訴訟を提起した場合よりも、離婚問題の解決に時間がかかってしまいます。
そのため、実務では、異議申し立てされる可能性が高い事案では、調停に代わる審判の利用は促されません。
例えば、離婚調停の段階で、妻が、夫の不貞行為が主張し、離婚と慰謝料の支払を求めている場合に、夫が不貞行為を強く否定しているときなどは、調停に代わる審判が利用される可能性は低いです。
調停に代わる審判を出したとしても、夫から異議が出される可能性が高いでしょうから、裁判による解決・決着が望ましいといえます。
審判離婚を始めとする離婚問題の相談は弁護士へ
審判離婚のまとめ
- 審判離婚(調停に代わる審判)をするかどうかは、裁判所が決める
- 離婚審判を受けるには、前提として、離婚調停の申し立てが必要
- 離婚審判を受けられる場面は、限定されている
- 異議は、離婚審判から2週間以内に申し立てる
離婚する方法は様々です。ご本人の抱える事情によって、どの方法で離婚するのが最適かは異なります。
最適な離婚方法は、法律の専門家である弁護士にぜひご相談ください。
弁護士は、ご相談者様のお話を丁寧に聴き取った上、証拠を十分に検討します。
審判離婚はマイナーな離婚方法ですが、現在、離婚審判が下されて異議を出すべきかどうか迷っている方もおられるでしょう。
期限が迫っているなかで、自分だけで判断するのは難しいものです。
最適な離婚方法、有利になる離婚条件とその実現方法などでお悩みの方は、離婚にくわしい弁護士の無料相談などを活用してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了