親からもらったお金や車は財産分与の対象?生前贈与の離婚時の扱い

結婚生活の中で、夫婦のどちらかの親から金銭的な援助や財産の贈与を受けたことがある方も多いかもしれません。特に離婚に直面したとき、そうした親からの援助が「自分のもの」と主張したくなるのは自然な感情です。
しかし、法律上は親からもらった財産が財産分与の対象になるかどうかは、ケースバイケースです。
本記事では、親からもらったお金や財産が財産分与の対象になる基準や、財産の使い方による取扱いの違い、実際の裁判例について解説します。
目次
親からもらった財産は財産分与の対象になるの?
離婚時の財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を、原則として半分ずつ分ける制度です。
財産の名義がどちらか一方のものでも、それが夫婦の協力によって得たのであれば財産分与の対象になります。ただし、夫婦それぞれが保有するすべての財産が財産分与の対象になるわけではありません。
夫婦の所有する財産は、「共有財産」と「特有財産」の2種類に分類されます。
種類 | 内容 | 財産分与の対象? |
---|---|---|
共有財産 | 結婚生活の中で夫婦が協力して築いた財産(給与、預金、不動産など) | ○ |
特有財産 | 一方がもともと持っていた財産や、個人的にもらった贈与・相続 | ✕(原則対象外) |
夫婦が協力して得た共有財産は離婚時に財産分与の対象となり、夫婦の一方が独力で得た特有財産は財産分与の対象とはなりません。
そのため、親からもらったお金や物が「特有財産」と認められれば、財産分与の対象から外れる可能性があります。
親からの生前贈与は分与対象になる?判断のポイントとは
生前贈与は原則として財産分与の対象外
生前贈与とは、親が生きている間に子に財産を贈与することです。例えば以下のような形があります。
- 親からまとまった現金を贈与された
- 親名義のお金で車や家を購入してもらった
夫婦の一方が親から贈与を受けた財産は、原則として特有財産にあたります。
一方で、夫婦のどちらかに贈ったのか、夫婦の婚姻生活に対する援助として贈ったのかが明確でないケースも存在します。贈与された名義がはっきりしなかったり、夫婦が共同で使っていた場合は、共有財産とみなされ財産分与の対象となる可能性があります。
生前贈与が特有財産と判断されやすい条件
- 贈与されたお金の名義が明確に片方のみ
- 贈与契約書など一方に贈与したことの証拠がある
- 一方の親が「明確に本人のため」に贈ったといえる事情がある
- 夫婦共用ではなく、贈与を受けた本人が単独で使用していた
このように、「夫婦の一方に対して贈ったこと」が明確だと、特有財産と判断されやすいです。親から贈与された財産の分与を求める相手方に対して「特有財産である」と主張するためには、こういった事情を証明する必要があります。
親に買ってもらった車や家は財産分与の対象?
親からの援助で購入した「車」や「住宅」についても、扱いはケースバイケースです。同じ親からの援助でも、名義や使用実態によって財産分与の対象になるかどうかが大きく変わります。以下に例ごとに整理します。
ケース | 分与対象? | 理由・ポイント |
---|---|---|
自分名義の車を、親が全額払って買った | ✕ | 明確な贈与であり、自分の特有財産として扱われる可能性が高い |
親に買ってもらった車を夫婦のお金で維持管理していた | ○ | 共有財産とみなされる可能性がある |
親が住宅ローンの頭金の一部を負担した | △ | 親が払った頭金に相当する部分のみ特有財産とみなされる可能性が高い |
自分名義の車を、親が全額払って買ってくれたケース
親のお金で買ってもらった自分名義の車を自分一人で使っていた場合は、特有財産として扱われる可能性が高いです。
親に買ってもらった車を夫婦のお金で維持管理していたケース
購入時にお金を出したのが一方の親であっても、車の税金や保険料、車検代などを夫婦の共有財産から支出していた場合は、実質的に共有財産とみなされる場合があります。
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親が住宅ローンの頭金の一部を負担していたケース
夫婦が住宅を購入する際に、一方の親がローンの頭金を負担していたケース、すなわち贈与された特有財産から住宅ローンの頭金の一部を支払った場合はどうでしょうか。
この場合、住宅の現在価値のうち、特有財産から負担した金額に相当する部分は財産分与の対象外とするのが一般的です。以下の画像のように、特有財産を除いた部分を2人で分け合います。

もっとも、親からの贈与は、夫婦の一方への贈与か、双方への贈与かがはっきりしないことが多いため、特有財産であると立証するのは簡単ではありません。
特有財産であることを証明できなければ、全体が財産分与の対象になる可能性があります。
この例について、詳しい計算方法は『マンション購入後に離婚決定…どう財産分与する?ローンはどうなる?』の中で解説しています。
実務ではどう判断される?裁判や調停で重視されるポイント
家庭裁判所や離婚調停など、実務の場面でも表面的な「もらった」という主張だけで特有財産と認められるわけではありません。以下のような点が判断要素になります。
裁判・調停での主な判断要素
- 名義(車や不動産の登記や所有者名など)
- 使用状況(夫婦どちらが主に使っていたか、夫婦共用だったか)
- 管理状況(維持費用の負担者など)
- 贈与の意図(贈与契約書などの証拠があるか)
特に「口頭で親が援助してくれた」ようなケースでは、実務上、贈与の証明が難しくなります。書面や記録の有無が極めて重要です。
親からもらった財産に関する裁判例
①夫が親からもらった不動産の一部が共有財産とされたケース
東京高判昭和55年12月16日判タ437号151頁
婚姻後、夫が父から贈与を受けた借地権が財産分与の対象となるかが問題となった。
裁判所の判断
借地権は父からの無償譲渡であるため、その取得自体に妻の寄与・貢献があったとは認められないが、借地権の維持については妻の寄与が明らかに認められるため、本件借地権の価格の1割を妻の寄与分として認定する。
このケースで裁判所は、夫の親から贈与された財産の維持に妻が貢献していたことから、その一部を妻に分与すべきと判断しました。
②親から贈与されたお金の一部が共有財産とされたケース
東京高決令和3年12月24日判タ1501号94頁
妻は婚姻中、夫の両親が経営する会社の役員として報酬を受け取っていた。夫は、妻の役員報酬が振り込まれていた妻名義の預金は父母の特有財産であり、財産分与の対象にはならないと主張した。妻の役員としての稼働実態があったかについては争いがある。
裁判所の判断
妻名義の預金は、妻に一定の稼働実績があり、かつ稼働実態がない部分があっても、父が夫婦の生活支援として振り込んでいたものと推認されるため、夫婦の共有財産である。
このケースでは、夫の親が行った援助の趣旨が判断の理由となりました。
親からの贈与を巡るトラブルを防ぐためにできること
財産分与で親からの援助をめぐるトラブルを避けるには、以下のような備えが大切です。
事前にできる対策
- 親から援助や贈与を受けたときは、必ず証拠(贈与契約書、振込記録など)を残す
- 名義は必ず贈与を受けた本人にしておく
- 「誰のものか」があいまいにならないよう、親子間でも書面で確認
- 離婚時は専門家(弁護士)に相談し、財産の整理や主張の立証方法を確認する
よくある質問(FAQ)
Q. 離婚のとき、親から生前贈与された預金は相手に分けないといけない?
A. 原則として贈与された本人の特有財産とされるため、共有財産として分与の対象にはなりません。ただし、夫婦の生活費や購入資金に使われていた場合は、共有とみなされる可能性もあります。
Q. 親に買ってもらったマイカーは財産分与される?
A. 個人で使用していた場合には特有財産とされることが多いですが、夫婦で共有していた実態があると、財産分与の対象になることもあります。
まとめ|親からもらったお金も使い方で分与対象に
感覚的には「親にもらったものだから自分のもの」と考えがちですが、法律では「形式的な所有」だけでなく「実際の使われ方」も重視されます。とくに結婚生活で夫婦共同で使用していた財産は、親からの援助であっても財産分与の対象になってしまうこともあります。
争いを避け、納得のいく離婚を進めるためにも、相手との財産関係を冷静に整理し、必要に応じて弁護士に相談することをおすすめします。
離婚に関する財産トラブルは、早めの準備と専門家のアドバイスがカギです。
親からもらったお金や物の財産分与について不安がある方は、お近くの弁護士に一度ご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了