離婚のときペットの所有権はどうなる?養育費はもらえる?
「離婚したらペットはどちらが引き取るのか」
「もし引き取れたら、相手に養育費は請求できるのか」
いざ離婚をするということになったとき、「家族同然であるペットと離れたくない」「愛犬や愛猫と一緒に住みたい」と考える方は多いのではないでしょうか。
実際、離婚のときペットはどちらが引き取るのか、財産分与や養育費の対象になるのか気になるという方もいらっしゃるでしょう。
ペットは、法律上は「モノ」として扱われるため、理屈上は財産分与の対象となり得ます。
また、ペットには子どものように「親権」のようなものはなく、「所有権」について争うことになります。加えて、養育費や面会交流を法的に請求することはできません。
この記事では、法律におけるペットの扱いや、離婚するときにペットについて考慮される事情、ペットを引き取るときのポイントについて解説します。
目次
離婚におけるペットの扱い方
ペットは法律上「モノ」として扱われる
「子どものように大切に育てている」「ペットは家族同然」と考えている方も多いとは思います。ただし、ペットは法律上、「モノ」として扱われます。
いくら飼い主が愛情を注いでペットを育てていたとしても、法律上は「モノ」とみなされる点に注意が必要です。
ペットの所有権は理屈上は財産分与の対象になりうる
ペットが法律上「モノ」として扱われる以上、夫婦が結婚後に飼い始めたペットは、夫婦の共有財産(婚姻中に二人で築いた財産)とみなされ、理屈上は財産分与の対象となります。
財産分与の割合(寄与割合)は、2分の1、つまり半分ずつ分けるのが原則です(2分の1ルール)。しかし、ペットは生き物であるため、貯金のように簡単に分けることができません。
ペットのように、簡単に2つに分けることができないような財産を分与するときには、「どちらかがペットを引き取って、引き取ったほうが相手に現在の評価額の半分に相当する金額を支払う」という方法がとられます。
ただし、市場においてはペットの評価額が0円となることが多いです。そのため、どちらかが無償でペットを引き取ることになります。
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結婚する前から飼っていたペットは?
どちらかが結婚前から飼っていたり、どちらかの両親や親戚から譲り受けたりしたペットは、特有財産とみなされます。
特有財産とは、「夫婦の一方が婚姻前に取得した財産」「夫婦の一方が相続した財産」「夫婦の一方が贈与された財産」のことをいいます。
結婚する前からどちらかが飼っていたペットは、財産分与の対象とはならず、原則としてもともと飼っていた方がペットを引き取ることになります。
この場合、必ず引き取らなければいけないというわけではなく、話し合いによってペットの引き取り手を決めることも可能です。
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離婚でペットを引き取るときの離婚条件
親権はないため、養育費を請求することはできない
「ペットの養育費を請求することはできるのか」と考える方も多いと思います。離婚でペットを引き取ることができても、相手に養育費を請求できる法的な手続きはありません。
どちらかの親が親権を取得した場合は、もう一方の親には子どもを扶養する義務がありますので、親権を得たほうの親に対して養育費を支払う義務が生じます。
しかし、ペットは「モノ」としてみなされるため、親権ではなく「所有権」について争うことになります。そのため、ペットを引き取らなかったほうが飼育費用を負担する義務はありません。
離婚でペットを引き取ったとしても、相手に養育費を支払うよう強制することはできないことを覚えておきましょう。
ただし、当事者同士で話し合うことで、「飼育費を払ってもらう」などという形で離婚条件に盛り込むことは可能です。
かなり特殊なケースですが、婚姻中に飼育していた犬について、離婚後の飼育費用の負担を命じた判例もあります(福岡家裁久留米支部令和2年9月24日)。
面会を定める法律の規定はない
「ペットを引き取ることができなかった。面会はしてもらえるのか」と悩む方もいらっしゃるでしょう。しかし、ペットとの面会交流を請求する法的な手続きはありません。
離婚した場合、離婚や別居で子どもと離れて暮らす親は、定期的に子どもと会ったり、電話や手紙、メールなどで連絡を取ったりする権利があります。これを面会交流権といいます。
ペットは法律上「モノ」とみなされるため、離婚後の面会交流権は認められていません。つまり、離婚後、元配偶者に「ペットに会わせてほしい」と法的に請求することはできません。
ただし、当事者同士で話し合うことで、「月1回はペットと会う」といった形で面会について取り決めることは可能です。あくまでも、面会を請求する法的な手続きはないということを押さえておきましょう。
離婚でペットを引き取るときに考慮される事情
ペットの引き取り手について夫婦間ではまとまらず、話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に対して調停や審判を求めることになります。
子どもの親権の場合は、「母性的なかかわりをしているか」「継続的にかかわってきたのはどちらか」といった点から、母親に親権が与えられることが一般的です。
しかし、ペットの所有権の場合は、「妻だから」「夫だから」という理由で、どちらかが有利になるということはありません。
調停や裁判においては、ペットについて、以下のような事情が考慮されるといわれています。
ペットの所有権で考慮される事情
- 主にペットの世話はどちらがしていたか
- どちらになついているか
- ペットの飼育ができる環境か
- 飼育する方に経済力はあるか
主にペットの世話はどちらがしていたか
離婚をするまでに、主にどちらがペットの世話をおこなっていたかが重要になります。
日ごろからペットの世話を重点的におこなっていた場合は、「離婚後でもペットの世話を怠らない」「ペットに対する愛情が深い」とみなされ、引き取り手として相当と考えられる可能性があります。
どちらになついているか
ペットの世話をしていたかと関係する内容ですが、ペットがどちらになついているかといったところも重要なポイントです。
「よりなついている方がペットを引き取ることで、今後もペットが安心して暮らせるはずだ」とみなされる可能性が高いです。
ペットの飼育ができる環境か
「離婚後、どちらの方がペットの飼育環境として適切か」というところもポイントです。
ペットを引き取りたいと考えたとしても、「ペット可のマンションに入居できるかどうか」「離婚後、一緒に暮らす家族にアレルギーがないかどうか」といった点は重要になります。
飼育する方に経済力はあるか
飼育するうえで経済力があるかというところも重要になります。
ペットは基本的に健康保険がないため、ペット保険に加入していない場合は、医療費を全額自己負担することになります。
ペットについて、急に手術が必要になってしまったり、重病になってしまったりしたときに、責任をもって治療を受けさせてあげられるだけの経済力があることが望ましいでしょう。
もちろん、経済的に余裕がないという専業主婦(夫)が引き取り手であった場合でも、「飼育費用は夫に負担してもらう」「夫が引き取り手になるが、世話は妻がする」といったようにすれば、離婚後もペットと過ごすことは可能です。
離婚でペットを引き取るときの流れ
よく話し合って決めるべき
「ペットを引き取りたい」という場合は、まず当事者間でよく話し合って決めることが重要です。
離婚に伴う環境の変化は、ペットにとって大きなストレスとなり得ます。「どちらがペットの幸せになるか」「どちらがペットが快適に過ごせる環境か」など、ペット中心に立って事情を考慮したうえで引き取り手を決めることをおすすめします。
話し合いの結果は書面にまとめる
話し合いがまとまった場合は、合意した内容を「離婚協議書」などの形で書面に残し、公正証書化しておくことをおすすめします。
公正証書があれば、裁判で有効な証拠にできるほか、強制執行認諾文言を入れておくことで、金銭の支払いが履行されなかったときには裁判などを経る必要なく強制執行をおこなうことができるようになります。
「ペットの飼育費や面会はどうするか」「ペットの引き渡し条件はどうするか」といったことも、公正証書にまとめておくようにしましょう。
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話し合いがまとまらない場合は調停や裁判に
ペットの引き取り手について夫婦間ではまとまらず、話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に対して調停や審判を求めることになります。
このとき、「主にペットの世話がどちらがしていたか」「ペットの飼育ができる環境かどうか」などといった点について、しっかりと調停委員に主張していくことが大切です。
調停で話がまとまらなかった場合は、裁判に移行することになります。このときも、自分がペットを引き取るのにふさわしいことを示すような証拠を提示していくことが重要です。
離婚でペットを引き取るときの注意点
離婚後にペットの引き渡しを要求するのは難しい
引き取り親を決めたものの、「離婚後に引き取り親がペットを飼える状況ではなくなった」といった理由で、所有権を持たないほうがペットを引き渡すように要求したいと考えるケースがあります。
しかし、離婚後にペットの引き渡しを要求できるような法律の手続きはありません。いったんペットを引き渡してしまうと、もう一度ペットを引き渡すことは困難になります。
離婚に踏み切る前に、「引き取り親が飼えなくなったら元配偶者に引き渡す」といったような取り決めをしておくことをおすすめします。
ペットの連れ去りは弁護士に相談する
別居中や離婚協議中に、相手にペットを連れ去られてしまうということがあります。
結婚する前からご自身が飼っていたペットを夫に連れ去られてしまったという場合は、所有権は原則としてご自身(妻側)にあります。そのため、訴訟を提起してペットの返還を求めることになるでしょう。
結婚してから飼い始めたペットを連れ去られたという場合は、基本的には相手を説得して任意に引き渡してもらうといった方法が採られます。
ただし、相手が引き渡しを認めないおそれが大きいです。共有財産のペットを連れ去られた場合は、取り返すことが難しくなってしまいますので、連れ去りには十分留意してください。
もし連れ去られてしまったという場合は、離婚問題に強い弁護士に相談することが大切です。
離婚問題に強い弁護士の選び方について詳しく知りたいという方は、『離婚弁護士の選び方【失敗しないための8つのポイント】』をご覧ください。
飼育放棄は違法!
場合によっては、双方がペットの引き取りを望まないということもあるでしょう。
どちらも引き取れないという場合は、里親を探したり、保健所に相談したりすることが必要です。
ただし、保健所に相談した場合、最終的には殺処分されてしまうおそれや、飼育がどうしても難しいと認められない場合はペットの引き取りを拒否されてしまうといったことがあります。
ペットを捨てることは動物愛護法で禁止されているため、責任をもって里親探しや相談をおこなうようにしましょう。
また、飼い犬は所有者の登録が義務付けられており、夫婦のどちらかが所有者として登録されているはずです(狂犬病予防法4条1項)。
離婚によって所有者が変わったという場合は、忘れずに登録を変更しておきましょう(狂犬病予防法4条5項)。
ペットなど離婚問題は弁護士に相談!
ペットは法律上は「モノ」として扱われるため、財産分与の対象となります。
子どものように「親権」のようなものはなく、養育費や面会交流を法的に請求することはできないということに注意が必要です。
家族同然であるペットの引き取りについて、場合によっては相手方ともめてしまうこともあるでしょう。
話し合いがまとまらないという場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、交渉や離婚協議書の作成を代理してもらえるほか、調停や裁判に発展した際もスムーズに対応することができます。慰謝料などほかの離婚条件についても法的なアドバイスをくれるでしょう。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了