離婚後のペットの所有権と引き取り方法を弁護士が解説

離婚の際、ペットは法律上「物」として扱われます。結婚中に飼い始めた場合は、夫婦の共有財産とみなされることがあり、どちらが引き取るかを話し合いで決める必要があります。
もっとも、ペットは財産分与になじまないとして対象外とする実務上の考え方もあり、裁判所の判断が一律に定まっているわけではありません。
この記事では、ペットの所有権の決め方や裁判所が考慮する事情、実際の裁判例を解説します。
目次
離婚におけるペットの法的な位置づけ
ペットは法律上「物」として扱われる
「子どものように大切に育てている」「ペットは家族同然」と考えている方も多いとは思います。ただし、ペットは法律上、「物」として扱われます。
いくら飼い主が愛情を注いでペットを育てていたとしても、法律上は「物」とみなされる点に注意が必要です。
婚姻中に飼い始めたペットは財産分与の対象になる
結婚中に飼い始めたペットは、夫婦の共有財産とみなされることがあります。この場合、財産分与は原則として2分の1ずつとされますが、個別の事情によって割合が調整されることもあります。
ただし、ペットは現金のように分けることができません。
そのため、一方が引き取り、もう一方に評価額の半分にあたる金額を支払う方法が考えられます。しかし実際には、ペットの市場価値が0円と評価されることも多く、結果としてどちらかが無償で引き取る形になりがちです。
もっとも、ペットは財産の清算という財産分与の趣旨になじまないとして、対象外とする実務上の考え方もあります。裁判所の判断は一律ではなく、別居後に帰属を争う場合には、財産分与ではなく民事訴訟で解決を図るケースも見られます。
なお、財産分与を請求できる期間は、2026年4月1日以降に離婚した場合は離婚後5年以内です(民法第768条)。2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり2年以内となります。
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結婚前から飼っていたペットはどうなる?
どちらかが結婚前から飼っていたり、どちらかの両親や親戚から譲り受けたりしたペットは、特有財産とみなされます。
特有財産とは、「夫婦の一方が婚姻前に取得した財産」「夫婦の一方が相続した財産」「夫婦の一方が贈与された財産」のことをいいます。
結婚する前からどちらかが飼っていたペットは、財産分与の対象とはならず、原則としてもともと飼っていた方がペットを引き取ることになります。
この場合、必ず引き取らなければいけないというわけではなく、話し合いによってペットの引き取り手を決めることも可能です。
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離婚でペットを引き取るときの離婚条件
養育費とペット飼育費の法的な違い
「ペットの養育費は請求できるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。子どもの養育費とペットの飼育費では、法的な位置づけが大きく異なります。
養育費は、まだ自立していない子どもを育てるために必要な費用で、親の「生活保持義務」に基づく強い支払い義務があります。
一方で、ペットは法律上「物」として扱われるため、引き取らなかった側に飼育費を負担する義務はありません。ただし、婚姻中に飼育していた犬について、離婚後の飼育費用の負担を命じた判例があります(福岡家裁久留米支部令2・9・24)。
ペットの飼育費をめぐる裁判所の判断は事案によって異なり、一定の結論が定まっているわけではありません。
なお、当事者同士で話し合うことで、「飼育費を払ってもらう」などという形で離婚条件に盛り込むことは可能です。
面会を定める法律の規定はない
「ペットを引き取ることができなかった。面会はしてもらえるのか」と悩む方もいらっしゃるでしょう。しかし、ペットとの面会交流を請求する法的な手続きはありません。
離婚した場合、離婚や別居で子どもと離れて暮らす親は、定期的に子どもと会ったり、電話や手紙、メールなどで連絡を取ったりする権利があります。これを面会交流権といいます。
ペットは法律上「物」とみなされるため、離婚後の面会交流権は認められていません。つまり、離婚後、元配偶者に「ペットに会わせてほしい」と法的に請求することはできません。
ただし、当事者同士で話し合うことで、「月1回はペットと会う」といった形で面会について取り決めることは可能です。あくまでも、面会を請求する法的な手続きはないということを押さえておきましょう。
離婚でペットを引き取るときに考慮される事情
ペットの引き取り手について夫婦間ではまとまらず、話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に対して調停や審判を求めることになります。
子どもの親権の場合は、「母性的なかかわりをしているか」「継続的にかかわってきたのはどちらか」といった点から、母親に親権が与えられることが一般的です。
しかし、ペットの所有権の場合は、「妻だから」「夫だから」という理由で、どちらかが有利になるということはありません。
調停や裁判においては、ペットについて、以下のような事情が考慮されるといわれています。
ペットの所有権で考慮される事情
- 主にペットの世話はどちらがしていたか
- どちらになついているか
- ペットの飼育ができる環境か
- 飼育する方に経済力はあるか
主にペットの世話はどちらがしていたか
離婚をするまでに、主にどちらがペットの世話をおこなっていたかが重要になります。
日ごろからペットの世話を重点的におこなっていた場合は、「離婚後でもペットの世話を怠らない」「ペットに対する愛情が深い」とみなされ、引き取り手として相当と考えられる可能性があります。
どちらになついているか
ペットの世話をしていたかと関係する内容ですが、ペットがどちらになついているかといったところも重要なポイントです。
「よりなついている方がペットを引き取ることで、今後もペットが安心して暮らせるはずだ」とみなされる可能性が高いです。
ペットの飼育ができる環境か
「離婚後、どちらの方がペットの飼育環境として適切か」というところもポイントです。
ペットを引き取りたいと考えたとしても、「ペット可のマンションに入居できるかどうか」「離婚後、一緒に暮らす家族にアレルギーがないかどうか」といった点は重要になります。
飼育する方に経済力はあるか
飼育するうえで経済力があるかというところも重要になります。
ペットは基本的に健康保険がないため、ペット保険に加入していない場合は、医療費を全額自己負担することになります。
ペットについて、急に手術が必要になってしまったり、重病になってしまったりしたときに、責任をもって治療を受けさせてあげられるだけの経済力があることが望ましいでしょう。
もちろん、経済的に余裕がないという専業主婦(夫)が引き取り手であった場合でも、「飼育費用は夫に負担してもらう」「夫が引き取り手になるが、世話は妻がする」といったようにすれば、離婚後もペットと過ごすことは可能です。
離婚とペットをめぐる裁判例
離婚に伴うペットの問題は、飼育費の負担や所有権の帰属など、さまざまな点に及びます。ここでは、実際の裁判例をもとに、裁判所がどのような基準で判断しているのか、その傾向をわかりやすく解説します。
飼育費用の負担を命じた事例
犬3頭(大型犬2頭・中型犬1頭)の帰属と飼育費用が争われた離婚訴訟で、裁判所は犬が夫婦共有の財産にあたると判断しました(福岡家裁久留米支部令2・9・24)。
定職・持ち家のある夫と無職・借家の妻という生活状況を考慮し、持分を夫3分の2・妻3分の1と定めた上で、妻が引き続き飼育するために必要な費用として、家賃相当分(月1万5,000円)と餌代(1頭につき月900円)を夫が負担するよう命じています。
共有物の管理費用は持分に応じて負担するという民法第253条第1項の規定が適用された事例であり、引き取ることが困難と認定された側にも飼育費用の負担が命じられた珍しい判断です。
所有権の主張が認められなかった事例
「犬の購入費用は自分が出した」と主張した夫が、犬2頭の引き渡しと慰謝料を求めた事案です(東京地判令和4・8・8)。
裁判所は、購入費が引き落とされた口座が家族の生活費にも使われていたことを理由に、購入原資は夫婦共有財産から支出されたと認定し、犬は夫婦共有財産と判断しました。
また、日常的な世話の実績や夫名義の飼犬登録といった事情も、単独所有を裏付けるものとは認められませんでした。このため、夫が求めた引き渡し請求および慰謝料請求はいずれも棄却されました。
婚姻費用(生活費)の算定にペットの飼育費が考慮された事例
高額所得者夫婦の別居中の婚姻費用算定において、妻が引き取って飼育を続けていた犬2匹の飼育費(月額約12万円)が算定過程で考慮されています(東京高決平29・12・15)。
同居時の生活費から犬の飼育費をいったん除いて按分計算を行った後、改めて加算するという手法が取られており、婚姻費用の算定においてペットの飼育費が考慮要素となり得ることを示した事例です。
離婚でペットを引き取るときの流れ
よく話し合って決めるべき
「ペットを引き取りたい」という場合は、まず当事者間でよく話し合って決めることが重要です。
離婚に伴う環境の変化は、ペットにとって大きなストレスとなり得ます。「どちらがペットの幸せになるか」「どちらがペットが快適に過ごせる環境か」など、ペット中心に立って事情を考慮したうえで引き取り手を決めることをおすすめします。
話し合いの結果は書面にまとめる
話し合いがまとまった場合は、合意した内容を「離婚協議書」などの形で書面に残し、公正証書化しておくことをおすすめします。
公正証書があれば、裁判で有効な証拠にできるほか、強制執行認諾文言を入れておくことで、金銭の支払いが履行されなかったときには裁判などを経る必要なく強制執行をおこなうことができるようになります。
「ペットの飼育費や面会はどうするか」「ペットの引き渡し条件はどうするか」といったことも、公正証書にまとめておくようにしましょう。
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話し合いがまとまらない場合は調停や裁判に
ペットの引き取り手について夫婦間ではまとまらず、話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に対して調停や審判を求めることになります。
このとき、「主にどちらがペットの世話をしていたか」「飼育に適した環境があるか」などといった点について、しっかりと調停委員に主張していくことが大切です。
調停で話がまとまらなかった場合は、裁判に移行することになります。このときも、自分がペットを引き取るのにふさわしいことを示すような証拠を提示していくことが重要です。
離婚でペットを引き取るときの注意点
離婚後にペットの引き渡しを要求するのは難しい
引き取り親を決めたものの、「離婚後に引き取り親がペットを飼える状況ではなくなった」といった理由で、所有権を持たないほうがペットを引き渡すように要求したいと考えるケースがあります。
しかし、離婚後にペットの引き渡しを求めるのは簡単ではありません。いったん相手に渡してしまうと、再び引き取るのは難しくなります。
離婚に踏み切る前に、「引き取り親が飼えなくなったら元配偶者に引き渡す」といったような取り決めをしておくことをおすすめします。
ペットの連れ去りは弁護士に相談する
別居中や離婚協議中に、相手にペットを連れ去られてしまうということがあります。
結婚する前からご自身が飼っていたペットを夫に連れ去られてしまったという場合は、所有権は原則としてご自身(妻側)にあります。そのため、訴訟を提起してペットの返還を求めることになるでしょう。
結婚してから飼い始めたペットを連れ去られたという場合は、基本的には相手を説得して任意に引き渡してもらうといった方法が採られます。
ただし、相手が引き渡しを認めないおそれが大きいです。共有財産のペットを連れ去られた場合は、取り返すことが難しくなってしまいますので、連れ去りには十分留意してください。
もし連れ去られてしまったという場合は、離婚問題に強い弁護士に相談することが大切です。
離婚問題に強い弁護士の選び方について詳しく知りたいという方は、『離婚弁護士の選び方【失敗しないための8つのポイント】』をご覧ください。
飼育放棄は違法!
場合によっては、双方がペットの引き取りを望まないということもあるでしょう。
どちらも引き取れないという場合は、里親を探したり、保健所に相談したりすることが必要です。
ただし、保健所に相談した場合、最終的には殺処分されてしまうおそれや、飼育がどうしても難しいと認められない場合はペットの引き取りを拒否されてしまうといったことがあります。
ペットを捨てることは動物愛護法で禁止されているため、責任をもって里親探しや相談をおこなうようにしましょう。
また、飼い犬は所有者の登録が義務付けられており、夫婦のどちらかが所有者として登録されているはずです(狂犬病予防法4条1項)。
離婚によって所有者が変わったという場合は、忘れずに登録を変更しておきましょう(狂犬病予防法4条5項)。
離婚とペットについてよくある質問
Q. 離婚後にペットの飼育費を相手に請求できる?
ペットの飼育費は、原則として引き取った側が負担します。ただし、共有財産と認定されたペットについて、非飼育者への飼育費負担を命じた裁判例もあります。当事者間の合意で負担割合を取り決め、公正証書に記載しておくことも可能です。
Q. 離婚後にペットと面会できる?
離婚後のペットとの面会を法的に請求する権利はありません。子どもの面会交流権とは異なり、ペットは法律上「物」として扱われるため、面会の取り決めは当事者間の合意によってのみ可能です。合意した内容は書面化しておくことをおすすめします。
Q. 相手がペットを勝手に連れ去った場合はどうなる?
結婚前から飼っていたペットを連れ去られた場合は、所有権に基づいて返還請求ができます。婚姻中に飼い始めたペットの場合は共有財産にあたるため、任意の引き渡しを求めるか、調停・訴訟で所有権の帰属を争うことになります。
ペットなど離婚問題は弁護士に相談を
ペットは法律上は「物」として扱われるため、財産分与の対象となります。
子どものように「親権」のようなものはなく、養育費や面会交流を法的に請求することはできないということに注意が必要です。
家族同然であるペットの引き取りについて、場合によっては相手方ともめてしまうこともあるでしょう。
話し合いがまとまらないという場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、交渉や離婚協議書の作成を代理してもらえるほか、調停や裁判に発展した際もスムーズに対応することができます。慰謝料などほかの離婚条件についても法的なアドバイスをくれるでしょう。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
