同居したまま離婚できる?離婚調停や離婚裁判は可能?

離婚を考えたとき、先に別居を始める夫婦も多くみられます。ただ、経済的な事情や子どもへの影響を踏まえると、すぐに家を出る決断ができない場合もあります。
同居を続けたままでも、離婚手続きを進めることは可能です。協議離婚に限らず、離婚調停や離婚裁判も同居中に進められます。
法務省の調査では、協議離婚をした人の57.0%が離婚前に別居しておらず、半数以上が同居のまま離婚に至っていることが分かります。
もっとも、同居を続けながら離婚を進める場合には注意点もあります。
実際に「同居しながらの調停は精神的に負担が大きかった」という声もあり、心身への影響が生じることもあります。とくに裁判離婚を視野に入れている場合、同居が続いていることを理由に「夫婦関係は破綻していない」と判断されるおそれがある点には留意が必要です。
本記事では、同居したまま離婚を進める具体的な方法と留意点、さらに別居を検討すべき場面について、実務の観点から解説します。
同居のままでも離婚手続きは可能
多くの夫婦は、正式に離婚する前に別居を始めます。ただ、同居を続けたままでも離婚手続きを進めることは可能です。
離婚の方法は大きく三つに分かれます。 夫婦の話し合いによって成立する「協議離婚」、家庭裁判所の調停委員会が間に入り合意を目指す「調停離婚」、そして裁判官の判断によって成立する「裁判離婚」です。
調停離婚や裁判離婚では、原則として当事者同士が直接顔を合わせない形で手続きが進みます。そのため、実務上は別居している夫婦の割合が高い傾向にあります。
しかし、同居していること自体が手続きの障害になるわけではありません。
半数以上の夫婦は同居のまま協議離婚している
法務省が実施した「協議離婚に関する実態についての調査」では、離婚前に別居していなかった人が57.0%に達し、別居していた人(43.0%)を上回りました。数字からも、同居を続けたまま離婚に至る夫婦が一定数いることが読み取れます。
また、同省が令和3年4月に公表した「財産分与を中心とした離婚に関する実態調査」でも、離婚前に別居していない人が50.9%を占めています。複数の調査結果を踏まえると、同居のまま離婚するケースは特別なものとはいえません。
さらに、離婚成立後に同居を続けているケースも存在します。面会交流の取り決めをしなかった理由として「離婚しても同居しているから」と回答した事例も報告されており、離婚後の生活形態が一様ではない実態もうかがえます。
同居のまま離婚手続きを進める際の流れ
同居中の協議離婚の流れ
同居したままであれば、顔を合わせる機会が多いため、協議離婚に向けた話し合いは比較的簡単に行えるでしょう。
話し合いで離婚することや離婚条件に合意ができたら、離婚届に記入して提出します。また、取り決めの内容を記した離婚協議書や公正証書を作成することがあります。
その後は、離婚と同時に引っ越してもよいですし、しばらく同居を続けることもできます。
同居中の調停離婚の流れ
話し合いでの合意が難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。離婚調停とは、家庭裁判所の調停委員会が夫婦の間に入って意見を調整し、合意を促す手続きです。
離婚調停の申立を行うと、双方に家庭裁判所から調停の日時を知らせる手紙が届きます。あらかじめ相手に調停について伝えていなかった場合、相手はこれを受け取ったときに初めて離婚調停を申し立てられたことを知るでしょう。
調停期日には、夫婦が家庭裁判所に出向いて、男女2人組の調停委員と交互に面談を行います。これを月に1回程度の頻度で繰り返し、合意の形成を目指します。
夫婦が同じ日に家庭裁判所に出向くことになりますが、調停室には1人ずつ入りますし、控室も別で用意されているため、基本的には裁判所で顔を合わせることがない仕組みになっています。
離婚調停の後は同じ家に帰ることになるため、うまく気持ちを切り替えられなければ、家では気まずい空気になってしまうかもしれません。
調停の中で合意ができたら、最後には2人が同じ部屋に入り、調停を成立させます。調停成立後は、10日以内に離婚届を提出します。
同居中の裁判離婚の流れ
離婚調停を行っても合意することができなかった場合は、家庭裁判所に離婚裁判を申し立てることができます。
裁判の段階まで進むと、ほとんどの方が弁護士を立てます。月に1回程度行われる口頭弁論期日には、基本的に弁護士が出廷し、本人が出廷する必要があるのは本人尋問の一回のみです。法廷で夫婦が顔を合わせるのは、基本的にはその日だけです。
裁判中に、裁判官から和解を促されることがあります。双方が和解案に同意したら和解が成立し、離婚することができます。和解をしなかった場合、判決によって離婚するかしないかが決まります。
同居中に弁護士へ依頼した場合の流れ
弁護士に離婚問題を依頼すると、弁護士は相手方に向けて受任通知を発送します。夫婦が同居している家に受任通知が届くことになるでしょう。
受任通知には通常、今後の連絡は弁護士を通すようにと書かれています。
しかし、家庭内別居の状態でない限り、同じ家に暮らしながら完全に連絡を取り合わないというのは現実的ではないでしょう。少なくとも、家で直接相手と離婚の交渉をすることは避けてください。
交渉の場面で弁護士は、夫婦の話し合いに同席するか、代理で話し合いを行います。後者の場合、「妻の弁護士と夫との話し合い」または「妻の弁護士と夫の弁護士との話し合い」のような形になります。
同居中の精神的負担を軽減する方法
法務省の調査では、協議離婚を選んだ理由として「同居しながら調停するのは苦痛だったから」という声が寄せられています。同居を続けながら離婚の手続きを進めることは、精神的な負担が大きい場合があります。
以下のような工夫をすることで、負担を軽減できる可能性があります。
- 離婚の話はリビングなど開放的な場所で行い、寝室など密室は避ける
- 子どもが寝静まった後など、冷静に話せる時間帯を選ぶ
- 感情的になったらすぐに話を切り上げ、日を改める
- 重要な取り決めはメモやメールで記録を残す
特に、相手が感情的になりやすいタイプの場合、第三者(弁護士や調停委員)を介した交渉の方が建設的に進むケースが多くあります。
無理に家庭内で解決しようとせず、早めに専門家に相談することも検討しましょう。
同居のまま離婚する際の注意点
裁判では婚姻関係の破綻が認められにくい
裁判で離婚を認めてもらうためには、法律で定められた離婚原因(法定離婚事由)が存在し、夫婦関係が修復不可能なほどに破綻していることが必要です。
同居が続いている場合、裁判官から「夫婦関係は破綻していない」「同居しているのだから修復可能」と判断されてしまう可能性があるため、客観的な証拠を用いて、夫婦関係が破綻していることを証明する必要があるでしょう。
また、同居が続いている場合、長期間の別居を破綻の事情として主張することはできません。
明確な法定離婚事由がない場合は、ある程度の長期間別居することで離婚が認められやすくなります。そのため、裁判離婚を目指す方はなるべく早く別居を開始するのが一般的です。
同居中の家での直接交渉は避ける
調停・裁判中や、弁護士への依頼中は、家で顔を合わせることがあっても、直接離婚の交渉をするのは避けましょう。
会話がヒートアップすると、暴力や暴言に発展してしまう可能性もありますし、自分の言動が記録されて、調停や裁判でDV・モラハラの証拠として使われてしまう可能性もあります。
家では離婚の話に触れず、冷静に過ごすよう心がけましょう。
家庭内別居のルール作りが重要
同居を続ける場合、「家庭内別居」のような状態を作ることで、お互いのストレスを軽減できます。
生活上のルールをあらかじめ決めておくと、無用な衝突を避けやすくなります。たとえば、寝室を分ける、リビングの使用時間をずらすなどして生活空間を区切る方法があります。
家事や育児の分担を明確にして接触の機会を減らすことも有効です。また、離婚の話し合いは日時を決めて行い、それ以外の時間は日常生活に持ち込まないようにする工夫も考えられます。
ただし、こうしたルールを設けて生活を分けていたとしても、同じ住所に住んでいる限り法律上は「同居」と扱われます。裁判で別居期間として評価されるわけではない点には留意が必要です。
子どもの精神的な影響に注意する
子どものために同居を続ける夫婦もいますが、それがかえって子どもに悪影響を与えてしまうことも考えられます。
険悪な雰囲気の両親と過ごすよりも、別居した方が子どもの心情的には望ましい可能性もあるでしょう。また、弁護士を立てたり調停を起こしたことへの腹いせとして、子どもに嫌がらせをするケースがあるようです。
同居したまま離婚するメリット・デメリット
同居のまま離婚手続きをするメリット
経済的な負担が少ない
別居すると、家賃や生活費が2倍になるなど、経済的な負担が大きくなります。同居したまま離婚を進めることで、離婚までの間の経済的な負担を抑えることができます。
また、こちらの方が収入が多い場合、別居中は相手に婚姻費用(生活費)を支払う必要がありますが、同居したままであれば従前の生活費の負担のままで済みます。
子どもへの影響が少ない
子どもがいる場合、別居すると子どもは両親どちらか一方としか暮らせなくなりますが、同居を続けていれば両親と過ごすことができます。
また、引っ越しがないため、転校や環境の変化を抑えることができます。
話し合いの機会が増える
同居していると、顔を合わせる機会が多いため、話し合いのチャンスも増えます。そのため、スムーズに離婚協議が進む可能性が高いです。
ただし、弁護士を入れたり調停や裁判を起こしている場合、家で直接話し合いをするのは望ましくありません。
証拠の収集がしやすい
DVやモラハラ、不貞行為などを理由に離婚や慰謝料を求める場合、客観的な証拠の有無が大きく影響します。
同居中は相手の言動を把握しやすいため、記録を取りやすいという側面があります。ただし、方法を誤るとかえって不利になるおそれがあるため注意が必要です。
たとえば、相手のスマートフォンやパソコンを無断で閲覧すると、プライバシー侵害と評価される可能性があります。録音や録画は、自分が会話の当事者である場合に行うのが原則です。
日記やメモを残す場合は、日付と具体的な内容を記載し、継続して記録することで証拠としての信用性が高まります。
証拠収集の方法に迷いがあるときは、事前に弁護士へ相談し、適法な手段かどうかを確認したうえで進めるのが安全です。
同居のまま離婚手続きをするデメリット
相手と顔を合わせる必要がある
同居を続ける場合、離婚で揉めている間も家で相手と顔を合わせなければなりません。特に、感情的な相手の場合、ストレスが溜まってしまいます。
家で嫌がらせを受ける可能性がある
こちらが弁護士を立てたり離婚調停や裁判を起こしたことに腹を立て、相手が嫌がらせをしてくるケースが見られます。また、離婚の話し合いを始めたことでDVやモラハラが激化する可能性もあります。
婚姻関係の破綻が認められない可能性がある
裁判所は、離婚原因の有無を判断するときに、客観的な証拠を求めます。しかし、同居をしていると外側からは夫婦円満な状態に見えるため、離婚が認められづらくなってしまいます。
離婚前に別居した方がよいケース
暴力や嫌がらせのおそれがある
現にDV・モラハラを受けているケースや、子どもが相手から虐待を受けているケース、離婚の話を出すことで相手から嫌がらせを受ける可能性のあるケースは、早期に別居を始めて自分や子どもの安全を守る方がよいといえます。
法定離婚事由がないが裁判離婚したい
裁判で離婚するには、法定離婚事由のうちいずれかが必要です。
法定離婚事由
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
※2026年4月1日の民法改正により、「回復の見込みのない強度の精神病」は法定離婚事由から削除されます。
相手に不倫やDVがあればそれを理由に裁判離婚が可能ですが、法定離婚事由にあたる明確な離婚原因がない場合でも、ある程度の別居期間を作ることで「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」が認められ、離婚できる可能性があります。
どのくらい別居すれば離婚できるという明確な基準はありませんが、3~5年程度が目安と言われています。裁判離婚を視野に入れている方は、なるべく早く別居を開始した方がよいでしょう。
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同居のまま離婚に関するよくある質問
Q. 同居中でも弁護士に依頼できる?
同居中であっても、弁護士に離婚問題を依頼することは可能です。依頼を受けた弁護士は相手方に受任通知を送り、その後の連絡や交渉は原則として弁護士を通じて行われます。
同じ家に住んでいる以上、日常生活で一切の会話をなくすことは現実的ではありません。そのため、家庭内では離婚の話題に触れないようにし、具体的な条件交渉は代理人に任せるという整理が重要になります。
実務上も、同居を続けながら弁護士に依頼するケースは珍しくありません。状況に応じた進め方を取ることで、手続きを適切に進めることが可能です。
Q. 同居していると離婚裁判で不利になる?
同居が続いていると、裁判所から「夫婦関係はまだ破綻していない」「修復の余地がある」と判断されるおそれがあります。とくに、不貞行為やDVといった明確な法定離婚事由がない場合、同居の事実が不利に評価される可能性は否定できません。
裁判離婚を視野に入れているのであれば、客観的な資料を準備して関係の破綻を示すことが重要です。状況によっては、早めに別居を始めることも検討対象となります。
なお、同居を続けている限り、長期間の別居を理由に離婚を求めることはできません。この点も踏まえて方針を考える必要があります。
Q. 離婚成立まで同居を続けても問題ない?
法律上、同居を続けること自体に問題はありません。ただし、精神的な負担や、相手から嫌がらせを受けるおそれがある点は考慮する必要があります。
DVやモラハラがある場合や、相手が感情的になりやすい状況では、安全確保の観点から早めの別居を検討する方が現実的です。経済的な事情ですぐに転居できない場合でも、家庭内別居の形をとるなど、生活上の距離を保つ工夫が求められます。
同居を続けるのであれば、家庭内で離婚の話題を持ち出さず、調停や弁護士を通じた手続きに集中するほうが、結果的に紛争を拡大させにくい対応といえます。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
