国際離婚の手続き│外国人の離婚・親権・ビザ・弁護士費用等を解説
国際結婚した夫婦が、日本で離婚する場合、どの国の裁判所で、どの国の法律に従って離婚問題を解決すればよいのでしょうか。
日本人同士が日本で離婚する場合は、当然、日本の法律にもとづいて離婚手続きを進めることができます。
ですが、外国人×日本人など国際結婚したカップルの離婚は、複数の国がかかわる法律関係になるところ、全世界で統一された法律はないのでどの国の法律を適用するかが問題になるのです。
この記事では、国際離婚手続きのルールをわかりやすく解説します。
日本人と外国人との離婚、日本に住む外国人同士の離婚などにおいて、日本で離婚を成立させる方法、親権や養育費の決め方、ビザの問題についてもご紹介します。
国際離婚問題は非常に複雑です。できる限り早期に弁護士に相談することが、スムーズな問題解決につながります。
目次
国際結婚の場合の離婚手続きとは?
国際結婚の場合の離婚率
いまや日本における国際結婚は当たり前、その分、離婚されるカップルも多いというのが常識です。
そこで、まず始めに国際結婚した夫婦の離婚率についてご説明いたしましょう。
厚生労働省の2021年度人口動態調査によると、「夫婦とも日本人の場合」と「夫婦のうち一方が外国人の場合」の離婚率は、下表のとおりです。
夫婦とも日本人 | 夫婦のうち一方が外国人 | |
---|---|---|
婚姻件数 | 484,642 | 16,496 |
離婚件数 | 175,992 | 8,392 |
離婚率 | 36.3% | 50.9% |
(引用元:厚生労働省人口動態調査「夫妻の国籍別にみた年次別婚姻件数・百分率」、同「夫妻の国籍別にみた年次別離婚件数及び百分率」)
この結果を見ると、国際結婚をした夫婦の約半数にも上るケースで離婚に至っていることが分かります。
国際離婚の方法は?
日本国内で離婚する方法としては、おもに協議離婚、調停離婚、裁判離婚があります。
協議離婚は、話し合いによる離婚です。
協議離婚ができない場合は、裁判所を利用する離婚手続きとして調停離婚、裁判離婚などを目指すことなります。
あくまでケースによりますが、国際離婚をおこなう場合も、これらの離婚手続きによって離婚できる可能性があります。
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国際離婚をする場合のルール|国際裁判管轄と準拠法
日本人同士の離婚の場合、日本法が適用されるので、さきほどの離婚方法をとることになります。
しかし国際離婚では、必ずしも日本法が適用されるとは限りません。日本法による離婚が認められなかったり、日本法による裁判離婚ができなかったりするケースがあります。
国際離婚をする場合、次の2点について事前に検討しておく必要があります。
- ①どの国の裁判所で離婚できるか(国際裁判管轄の問題)
- ②日本の裁判所で判断される場合、どの国の法律で離婚できるか(準拠法の問題)
国際結婚した夫婦が離婚する場合、協議離婚の場合を除き、まずは①の国際裁判管轄の問題を考える必要があります。
①の問題をクリアして日本の裁判所で離婚手続きをとることができる場合、次に考えなければならないのが②の準拠法の問題です。
以下では、国際裁判管轄と準拠法について、詳しく解説します。
国際結婚の離婚手続きは何法による?
国際裁判管轄|日本で離婚裁判できる?
日本人の妻と外国籍の夫が離婚することになり、話し合いがまとまらない場合は、裁判所の離婚手続きを利用することになります。
ですが、国際離婚の場合、どの国の裁判所で裁判や調停を行うことができるのでしょうか。
これが「国際裁判管轄」の問題です。
離婚裁判の国際裁判管轄
日本の裁判所で離婚裁判を行うことができるのは、以下のいずれかの事情に該当する場合です(人事訴訟法3条の2)。
- ①被告住所地が日本である場合
- ②夫婦の双方が日本の国籍を有する場合
- ③原告及び被告の最後の共通住所地が日本である場合
- ④原告が日本に住んでおり、被告が行方不明であるなどの特別の事情がある場合
例えば、国際結婚した夫婦が、ともに日本在住の場合は①に該当します。
また、別居直前まで夫婦で日本で同居していたものの、外国人配偶者が、母国へ帰国してしまったような場合は、③に該当します。
家事調停の国際裁判管轄
日本の裁判所で家事調停を行うことができるのは、以下のいずれかの事情に該当する場合です(家事事件手続法3条の13)。
- ①調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき
- ②相手方の住所が日本国内にあるとき
- ③当事者が日本の裁判所に家事調停の申立てをすることができる旨の合意をしたとき
例えば、国際離婚を予定する夫婦がともに日本在住の場合や、もともと日本で同居していた外国人配偶者が帰国してしまった場合は①に該当します。
準拠法|離婚に日本の法律は適用される?
国際結婚した夫婦が、日本の裁判所で離婚裁判をすることになった場合、どの国の法律が適用されるのでしょうか。
このように国籍の違う当事者間の紛争解決のために、どの国の法律を選択し適用するかが「準拠法」の問題です。
準拠法の選び方は、「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」といいます。)などの法律に書かれています。
準拠法は、離婚問題の内容・性質に応じて、選択・決定されます。
たとえば、離婚の効力が問題になる場面では、通則法27条(および準用される同法25条)によって選択される準拠法によって、その当否が判断されます。
(離婚)
第二十七条 第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。
法律の適用に関する準拠法27条
(婚姻の効力)
第二十五条 婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
法律の適用に関する準拠法25条
つまり、離婚の効力については、以下のような順番で、どこの国の法律を適用するか検討することになります。
離婚の効力の準拠法の選び方
- 夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、日本法
- 夫婦の本国法が同一であるときは、本国法
- 夫婦に共通本国法がない場合は、夫婦の常居所地法(※)が同一であるときは、常居所地法
- 夫婦に共通常居所地法がない場合は、夫婦の最密接関係地法
※常居所地とは、人が常時居住する場所で、一次滞在している場所とは異なり、相当期間にわたって居住する場所。
離婚の効力の問題とは、そもそも離婚がゆるされるのか、協議離婚で離婚が可能か、離婚原因が認められるか(日本の民法770条1項)などです。
また、離婚にともなう財産分与や、離婚慰謝料も、離婚の効力の問題として、離婚の効力の準拠法が適用されます。
一方、離婚にともなう親権者の決定や、養育費などは、離婚の効力ではなく、それ自体の準拠法を選択するところから始める必要があります。
まとめると、以下のとおりです。
問題の性質 | 準拠法の決定 |
---|---|
離婚の効力 | 通則法27条による |
財産分与 | 通則法27条による |
慰謝料 | ・離婚そのものによる慰謝料請求をする場合は通則法27条による ・傷害などの離婚の原因となった不法行為ついての慰謝料請求 →原則、加害行為の結果が発生した地の法律(通則法17条本文) |
親権者の指定 | 通則法32条による |
養育費 | 原則、子どもが普段生活している国の法律 (扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文) |
国際離婚は何法で判断?ケースで解説!
下表は、離婚の効力について、どの国の法律に基づいて判断されるかを定めた通則法27条の内容をまとめたものです。
なお、下表のルールは、財産分与を求める場合や、離婚そのものによる慰謝料請求をする場合にも適用されます。
離婚の効力・財産分与・離婚慰謝料の準拠法
事例 | 準拠法 | |
---|---|---|
① | 夫:A国籍 妻:日本国籍 夫はA国へ。妻は日本で生活 | 日本法 |
② | 夫:A国籍 妻:A国籍 夫婦ともに日本に居住 | A国法 |
③ | 夫:A国籍 妻:B国籍 夫婦ともに日本で生活 | 日本法 |
④ | 夫:A国籍 妻:B国籍 夫婦ともに日本で長年同居した後、夫がA国に帰国 | 日本法 |
日本に長年住んでいる日本人は、相手が外国籍であっても、日本の法律によって離婚できます。
また、夫婦双方が外国籍でも、長年、日本で生活した実績があれば、日本法で離婚できるケースはあります。
日本に縁が深いカップルであれば、日本の法律で離婚を進められる可能性が高そうです。
なお、日本で暮らしているアメリカ人同士が離婚する場合は、同じ州出身であればその州法によりますが、そうでなければ常居所地あるいは最密接関係地である日本の法律を適用して離婚を進めることになるでしょう。
CASE 国際離婚手続きの具体例(裁判~離婚の許否まで)
ここまで、裁判管轄や準拠法(適用される法律)について見てきたので、総合的な事例を用いて、その内容をおさらいしていきましょう。
ここでは、具体例をもとに、日本国内で協議離婚、調停離婚、裁判離婚が利用できるかどうかをご説明します。
【具体例】
妻は日本人、夫は外国籍。夫婦で日本で同居していたが、夫婦喧嘩が絶えなくなり、夫は母国へ帰国してしまった。妻は、日本国内で離婚手続きを進めたいと考えている。
①協議離婚はできるか
協議離婚は、夫婦が離婚に合意すれば成立します。したがって、日本に国際裁判管轄がなくても協議離婚は可能です。
そして、日本法が準拠法になる場合、夫が離婚に合意すれば、協議離婚をすることができます。
具体例の場合、夫が離婚に合意し、日本の役所に離婚届を提出し、受理されれば協議離婚は成立します。
協議離婚が成立すれば、日本では再婚が可能になります。
注意点
日本国内で協議離婚したからといって、外国で離婚の効力がそのまま認められるとは限りません。
むしろ、国際的に見ると協議離婚が認められている国は少数です。したがって、日本で協議離婚をしても、外国人配偶者の母国では離婚が認められない可能性が高い点に注意が必要です。
国によっては、裁判離婚でなければ認められないケースや、母国で別途離婚手続きが必要なケースなどがあります。
外国でも離婚の効力を生じさせたい場合、大使館や相手国の弁護士等に必要な離婚手続きを事前に確認しておくのが重要です。
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②調停離婚はできるか
日本で調停離婚をするには、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められることが必要です。
具体例の場合、もともと日本で同居していた外国人配偶者が帰国してしまったケースなので、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められます。
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③裁判離婚はできるか
日本で裁判離婚をするには、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められることが必要です。
具体例の場合、もともと日本で同居していた外国人配偶者が帰国してしまったケースなので、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められます。
ポイント
- 国際裁判管轄は、配偶者の母国にも認められる場合がある
どちらの裁判所に訴訟等を提起した方が良いかは、財産の所在地等も考慮して慎重に検討する必要があります。
- 調停を申し立てずに離婚裁判を提訴するのも一つの選択肢
通常、離婚裁判を提起するには、先に離婚調停を経ていなければなりません(調停前置主義)。
しかし、国際離婚の場合、外国人配偶者が帰国してしまい、日本の裁判所への出頭が見込まれないケースも少なくありません。
このような場合、調停を申し立てずに離婚裁判を提訴するのも一つの選択肢です。ただし、「調停に付することが相当でない」事情(家事事件手続法257条2項ただし書)があることを、提訴と同時に裁判所に説明しておく必要があります。
- 1回目の裁判期日で判決を出してもらうように事前準備
国際離婚の場合、日本の裁判所で離婚裁判を起こしても、母国にいる被告に裁判手続きを無視される可能性があります。
被告が欠席する可能性が高い場合、1回目の裁判期日で判決を出してもらうよう事前に準備を整えておくと良いでしょう。具体的には、離婚裁判を提起する際、訴状だけでなく、必要な証拠もすべて提出しておきます。
このような訴訟活動には弁護士の関与が不可欠です。離婚裁判を考えておられる方は、ぜひ弁護士への相談をおすすめします。
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④日本の国際離婚は海外でも通用する?
日本国内で離婚が認められた場合でも、外国人の方の母国において離婚が認められるためには、別途手続きを要するものでしょう。
日本での離婚手続きを終えて、外国人側の母国での承認手続きをとるといった流れになることは多いでしょう。
⑤海外ですでに離婚判決がでていたら?
海外ですでに離婚判決が出ている場合でも、当然に日本国内で離婚が認められるわけではありません。
外国裁判所の確定判決は、以下の要件をすべて具備する場合に限り、その効力を有するとされています(民事訴訟法118条)。
- 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること
- 相手方が、訴訟開始に必要な呼び出し、命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと、又はこれらを受けなかったが応訴したこと
- 裁判の内容及び裁判の手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと
- 相互の保証があること
これらの要件をそなえた外国裁判所の確定判決をもとに、日本国内の離婚手続きが進められてしまった場合は、離婚無効確認の訴えなどをおこして離婚成立を争うことが考えられます。
国際離婚に関する子どもの親権等の問題
親権を決める法律は?(親権の準拠法)
ここでは、国際離婚する夫婦に子どもがいる場合、親権はどの国の法律に従って決まるかをご説明します。
親権については、通則法32条により、法律が決まります。
通則法32条を見ると、親と同じ国籍を有する場合は子供の母国法、その他の場合は子どもの常居所地法で親権を決めることが分かります。
(親子間の法律関係)
法の適用に関する通則法32条
第三十二条 親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。
なお、子どもが二重国籍の場合、子が日本国籍を有するなら、子どもの母国法は日本法とされます(通則法38条1項)。
ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする。
法の適用に関する通則法38条1項ただし書
以下は、親権の準拠法を決めるルールの内容を整理したものです。
親権を決める法律
- 子の母国法が、父母の母国法のいずれかと同じ場合
→子の母国法 - 子供が二重国籍の場合
子どもが日本国籍を有するときは、日本法が母国法となる。
両親のいずれかが日本国籍ならば、日本法で親権を判断する。 - 上記以外の場合
→子の常居所地法
子どもの親権を決める場合、日本法で決められるパターンとしては、以下のような組み合わせが考えられます。
具体例 | 法律 | |
---|---|---|
① | 父:日本国籍 母:A国籍 子:日本国籍 | 日本法 |
② | 父:日本国籍 母:A国籍 子:A国籍&日本国籍 | 日本法 |
③ | 父:A国籍 母:B国籍 子:B国籍。日本在住 | 日本法 |
・日本の法律で親権を決める場合の方法については、『離婚したら親権はどう決まる?親権を獲得する方法は?』の記事をご覧ください。
子どもがいる場合の国際離婚手続きの具体例
ここでは、具体例をもとに、離婚や離婚条件(財産分与、慰謝料、親権、養育費)について、どのように決めるか解説します。
【具体例】
・妻は日本人、夫は外国籍、未成年の子どもは日本国籍。
・家族全員で日本に住んでいる。
・妻は夫に離婚を切り出したものの、話し合いはまとまらなかった。
・妻は、日本の裁判所で調停や裁判を行いたいと考えている。
①協議離婚はできる?
こちらの事例では、家族全員で日本に住んでいることから、夫婦の最密接関係地法が日本法となり、その結果、日本法にしたがって協議離婚をおこなうことができそうです。
しかし、協議離婚をするには、夫婦が離婚や離婚条件に合意する必要があります。
こちらの事例では、夫婦で「話し合いがまとまらなかった」とのことなので、協議離婚はできません。
そのため、離婚をするには、裁判所を利用する離婚手続きを検討する必要があります。
②日本の裁判所で裁判等を行える?(国際裁判管轄の問題)
日本で離婚調停や離婚裁判を行うには、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められる必要があります。
具体例では、夫婦ともに日本に住んでいるので、調停も裁判も日本の裁判所で行うことができます。
③どの国の法律が適用される?(準拠法の問題)
離婚調停や離婚裁判では、離婚の成立のほか、離婚にともなう財産分与、離婚慰謝料、親権者、養育費などを決めることになります。
離婚問題の性質ごとに、準拠法を選びます。
こちらの事例では、準拠法選択の根拠は違えど、すべて日本法で判断されることになります。
離婚問題の性質 | 準拠法 |
---|---|
離婚の効力 財産分与 慰謝料 | 日本法*¹ |
親権者の決定 | 日本法*² |
養育費 | 日本法*³ |
*¹ 通則法27条により、夫婦の常居所地法となる。
*² 通則法32条により、子の本国法となる。
*³ 扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文により、子の常居所地法となる。
結果として、こちらの具体例では、日本の裁判所の手続きによって、日本法にもとづいて、離婚問題についての総合的な判断を受けることができます。
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ハーグ条約に基づく子どもの返還を申し立てられたら
国際離婚をする場合、ハーグ条約が問題になる事案もあります。
例えば、国際結婚して子どもが生まれ、家族で海外で生活していたものの、妻が離婚を決意し子どもを連れて日本へ帰国したケースを考えてみましょう。
この場合、海外に住む夫から、ハーグ条約に基づき子どもの返還を申し立てられる可能性があります。
ハーグ条約とは、国境を超えて子を連れ去った場合に、締約国に対し、連れ去られた子どもの迅速な返還や面会交流を実現するための手続きを求める条約です。
締約国は、日本、イギリス、フランス、カナダ、韓国、フィリピンなどです。
ハーグ条約に基づく子どもの返還が認められるための要件は、子どもが16歳に達していないことや、子が日本国内に所在していることなどです(ハーグ条約実施法27条)。
もっとも、返還拒否事由が1つでも認められる場合、裁判所は、子の返還を命じてはならないと規定されています(同法28条1項本文、1号ないし6号)。
例えば、返還の申立てが連れ去りの時から1年を経過した後になされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応しているときは返還拒否事由に該当します。
ハーグ条約に関する問題は、高い専門性が求められます。ご自分が当事者になった場合は、できる限り早く弁護士に相談することをおすすめいたします。
日本の法律で国際離婚できる夫婦の例
韓国人夫×日本人妻
こちらは日本の裁判所で判断された国際離婚事件のうち、一部についてご紹介するものです。
国籍 | 法律 |
---|---|
夫:韓国 妻:日本 子:韓国 | 離婚:日本 親権:日本 |
※東京地判平2・11・28判時1384-71
インドネシア夫×日本人妻
国籍 | 法律 |
---|---|
夫:インドネシア 妻:日本 子:インドネシア | 離婚:日本 親権:日本 |
※東京地判平2・12・7判時1424-84
フィリピン共和国夫×日本人妻
国籍 | 法律 |
---|---|
夫:フィリピン 妻:日本 子:フィリピン | 離婚:日本 親権:フィリピン |
※浦和地判昭59・12・3判タ556-201
日本の法律が適用されないからといって、日本人が親権者になれないことはない。この裁判では、日本の裁判所がフィリピン共和国法を適用して、親権者を母とした。
個別のケースによっては、準拠法が異なる場合もあるので、あくまで参考程度にご覧ください。
また、準拠法が海外の法律になったからといって、日本人側に不利な内容となるとは限りません。
ご自身の国際離婚の場合に、どの国の法律で離婚手続きを進めればよいか具体的に知りたいときは、離婚問題をあつかう弁護士の無料相談などをご活用いただき調べてみてください。
国際離婚をする場合の注意点
外国人は離婚すると配偶者としての在留ビザ取り消し?
国際離婚をして、6か月以上経過すると、日本国籍を有する配偶者の在留資格(配偶者ビザ)が取り消されるおそれがあります。
外国人配偶者が離婚後も日本に居住し続けたい場合は、他の在留資格への変更について早めに準備しておく必要があります。
例えば、定住者への在留資格変更や、入管法別表第一の在留資格(経営、教育など)などのビザに変更することが考えられます。
離婚した外国人のビザ
- 定住ビザに変更
- 就労者ビザに変更
etc.
ビザの変更にそなえて、具体的な事情やそれを証明する証拠を早めに整理しておくことが重要です。
なお、「日本人の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可が認められた事例や認められなかった事例については、法務省入国管理局が資料を公開しています。
一部の事例について、少しだけ見ておきましょう。
こちらは、配偶者ビザなどから、定住者ビザへの在留資格変更許可が認められた事例です。
在留 | 婚姻 | 子 | 事案 | |
---|---|---|---|---|
① | 約6年 | 約6年6か月 | 有 | 子の親権者。収入あり |
② | 約5年1か月 | 約3年 | 無 | 婚姻関係が事実上破綻。別居。収入あり |
② | 約8年1か月 | 約4年5か月 | 有 | DVで離婚。子の親権者 |
③ | 約8年3か月 | 約7年9か月 | 有 | 月額3万円の養育費を支払う |
平成24年7月 法務省入国管理局(平成29年3月改定)「「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可が認められた事例及び認められなかった事例について」より抜粋編集。
こちらは、配偶者ビザなどから、定住者ビザへの在留資格変更許可が下りなかった事例です。
在留 | 婚姻 | 子 | 事案 | |
---|---|---|---|---|
① | 約4年10か月 | 約3年 | 有 | 詐欺・傷害で有罪判決。 |
② | 約3年4か月 | 約1年11か月 | 無 | 同じ相手と離婚・再婚をくり返す。 |
③ | 約4か月 | 約3か月 | 無 | 前配偶者のDVあり。 |
平成24年7月 法務省入国管理局(平成29年3月改定)「「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可が認められた事例及び認められなかった事例について」より抜粋編集。
子どもを連れて別居する際はできる限り承諾を得る
外国人配偶者に黙って子どもを連れて別居すると、日本人同士のケース以上に激しいトラブルにつながる可能性があります。
なぜなら、国によっては相手方配偶者の同意なしに子どもを連れて別居する行為が刑事罰の対象になることもあるからです。
そのため、子どもを連れて別居する場合は、できる限り事前に相手方の承諾を得る方が良いでしょう。
それが難しければ、別居後、なるべく早期に家庭裁判所に監護者指定の審判や調停を申し立てる必要があります。
面会交流について柔軟な取り決めを目指す
離婚後の面会交流について、日本では月1回程度の頻度で行うケースが一般的です。
しかし、海外の場合、離婚後も非監護親と宿泊付きの面会を行ったり、特別な行事の際は一緒に過ごすケースも多いです。
そのため、面会交流の条件を決めるに当たっては、相手方の価値観や文化にも配慮しながら柔軟な取り決めを行うと、離婚問題全体のスムーズな解決につながりやすいでしょう。
国際離婚に弁護士は必要?弁護士費用は?
国際離婚を弁護士に相談するメリット
国際離婚の法律を調べてくれる
国際離婚の場合、必ずしも日本法が適用されるとは限らず、離婚手続きを当事者だけではスムーズに進めることが難しい側面があります。
このような場合に、弁護士は、国際裁判管轄や準拠法をリサーチし、どの国の法律で離婚手続きを進めるべきか判断し、対応してくれます。
国際離婚の離婚手続きを進めてくれる
国際離婚を進める場合、相手方の居場所を調べたり、その時々に応じた手続きをとったりする必要があります。
弁護士会であれば、弁護士会照会などの制度を用いて、一般の方がリサーチしがたいものも調べられるケースも多いです。
国際離婚の弁護士選びは?
国際離婚の解決を弁護士に依頼したい場合は、その弁護士が、国際離婚をあつかう弁護士かどうかを確認する必要があります。
弁護士には取り扱い分野があるので、国際離婚をあつかっていない弁護士事務所には、国際離婚事件を依頼することはできません。
また、日本法が適用されるのであれば、国籍が違う方同士の離婚事件をあつかうという弁護士事務所もあります。
実際に法律相談をしてみて、依頼できるかどうか確認してみるのもよいでしょう。また、ホームページ上で取り扱い事件について確認できる弁護士事務所もあります。
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国際離婚の弁護士費用の内訳は?
弁護士費用は、弁護士事務所ごとに異なります。
そのため、具体的な弁護士費用の料金体系について確認するには、個別の弁護士事務所に問い合わせる必要があります。
ただ、弁護士費用の主な内訳としては、法律相談料、着手金、報酬金、実費、日当などの項目となるのが一般的でしょう。
- 法律相談料
弁護士に正式依頼する前の法律相談でかかる費用。
初回無料、初回1万円などの費用設定になっていることも多い。 - 着手金
離婚問題を正式依頼する際にかかる弁護士費用。
離婚事件の難易度に応じて、費用が設定されていることも多い。 - 報酬金
成功報酬のこと。
弁護活動で得られた成果に応じて、支払う。「裁判離婚成立で〇〇万円」「財産分与などで得られた経済的利益の何%」などと費用設定されていることも多い。 - 実費
弁護士の委任事務処理の過程で、実際にかかった費用。
郵送費、交通費などが含まれる。 - 日当
弁護士の出張のための費用。
1日いくら、片道何キロでいくらなどと費用設定されていることも多い。
実際に、弁護士に依頼する前には、見積もりをもらうなどして、弁護士費用の金額を確認しましょう。
法律相談のみなら費用は無料?
離婚の法律相談のみであれば、初回無料で実施している弁護士事務所も多いものです。
無料であれば、手軽に試すことができますね。
離婚問題の解決では、弁護士との相性も非常に重要です。
無料相談の機会を活用して、離婚問題の法律知識をつけながら、弁護士との相性を確認してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
日本に滞在している期間、婚姻期間が長いこと、お子様の親権者であるなどの事情が認められる場合などは、定住者ビザの申請が通りやすい傾向があるといえそうです。