岡野武志弁護士

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

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筆跡鑑定の証拠能力を弁護士が解説|アトム法律事務所

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刑事事件において筆跡鑑定が証拠能力を持つのは、刑事訴訟法の要件を満たし、鑑定内容や手法に信頼性がある場合に限られます

もっとも、筆跡鑑定は民事事件で行われるケースがほとんどであり、遺言書の真実性の証明をしたり、契約書の偽造を確認したりするために使われることが多いです。

しかし、刑事事件であっても、脅迫状や偽造文書の作成者を特定する際などに、筆跡鑑定が重要な役割を果たすこともあります

この記事では、刑事事件における筆跡鑑定の証拠能力について弁護士が解説し、筆跡鑑定の証拠能力を認めた判例と、証拠能力を否定した判例もそれぞれ紹介します。

刑事事件における筆跡鑑定の証拠能力

筆跡鑑定とは?

筆跡鑑定は、問題となっている文書の筆跡と、比較対象となる筆跡を詳細に分析し、異なる部分や同じ部分などを判定することです。

筆跡方法の鑑定には、伝統的方法、計測的方法、科学的方法の3種類があり、それぞれ精度に違いがあります。各方法の違いは下記の通りです。

鑑定方法の主な手法

  • 伝統的方法:筆跡を約50の要素に分けて、目視で比較・分析
  • 計測的方法:文字の長さや角度、面積などを数値化して、より客観的に比較
  • 科学的方法:特殊な光を照射して筆圧や書き順を観察し、筆跡の違いを判別

刑事事件で筆跡鑑定が使われるケースと重要性

刑事事件では、脅迫状や偽造文書などの書類が、犯罪の証拠として扱われる場合があります。

筆跡鑑定は、そうした証拠の信用性を裏付け、被疑者と犯行との結びつきを立証する重要な手段となりえます。また、被告人の防御にとっても、偽造や冤罪を主張する際の重要な反証手段です。

もっとも、筆跡鑑定は筆跡鑑定人の主観や判断による影響が大きくなりやすいため、刑事事件で証拠として採用されるケースは限定されます。しかし、以下のような条件を満たせば、筆跡鑑定が証拠として採用される可能性が高くなるでしょう。

筆跡鑑定が証拠として採用されやすい要件

  • 筆跡鑑定人が適切な専門的知識と経験を有している
  • 科学的な鑑定手法が用いられている
  • 伝統的な鑑定手法の場合は複数の筆跡鑑定人が同じ結論である
  • 鑑定資料の同一性が確保されている
  • 鑑定過程が適切に記録されている

刑事事件で筆跡鑑定に証拠能力が認められるのか

刑事事件において筆跡鑑定は、筆跡鑑定人が公判期日に尋問を受け、嘘偽りなく作成したことを証言する場合に、証拠能力を持つ可能性があります(刑事訴訟法321条3項・4項)。

なお、筆跡鑑定が刑事事件で証拠となりうるのは、原則として裁判所の鑑定命令に基づくケースか、捜査機関の嘱託を受けて実施されるケースです。

被告人や弁護人には、裁判官に鑑定請求をする権利があるとされています(刑訴法179条)。そのため、私的に筆跡鑑定を依頼したとしても、刑事裁判において証拠となる可能性は低いです。

なお、筆跡鑑定が実際に証拠として認められるかどうかは、その鑑定が信用に足るものかを裁判官が判断して決まります

鑑定を求める主体行動証拠となる可能性
裁判所鑑定命令を出す高い
捜査機関鑑定人に嘱託する高い
被疑者・弁護人私的に鑑定を依頼する低い

※被疑者・弁護人が裁判所に鑑定請求を行い、裁判所が鑑定命令を出す場合には証拠となる可能性が高くなります。

証拠能力とは?

証拠能力とは、証拠として許容されるための法律上の資格のことです。刑事事件においては、伝聞証拠禁止の原則や、違法収集証拠の排除など、重要な原則があります。

刑事裁判では、証拠能力のある証拠のみが事実認定の資料として採用されます。

ここでは、筆跡鑑定の証拠に関連する「伝聞証拠禁止の原則」について説明します。

伝聞証拠とは?

伝聞証拠とは、証言者が直接的に経験した事実ではなく、第三者から聞いた内容を証言するものです。

例えば、Aという証言者が「『犯人は黒いジャケットを着ていた』とBが言ってました」と証言する場合、また聞きの証言となり、伝聞証拠として扱われます。

伝聞証拠禁止の原則とは?

伝聞証拠禁止の原則とは、「公判廷外で行われた他の者の供述を内容とする供述または書面」を事実認定の基礎とすることを禁止する原則です。言い換えると「裁判で使う証拠は、証人が実際に公判で話した内容を基にするべきだ」という考え方です。

具体的には、目撃者が他人に話した内容やそのメモなどが該当し、これらは刑事訴訟では証拠能力がないものとされます。

伝聞証拠は、下記の理由により原則として禁止されています。

  • 反対尋問の機会がない(=証言の信用性を直接確認できない)
  • 伝聞過程で内容が変容する可能性がある(=誤解や誇張が入りやすい)
  • 証拠の適正手続を確保するため(=公判で直接証言することが重要)

筆跡鑑定は伝聞証拠の例外になる

筆跡鑑定は、被告人以外の第三者が公判廷外で行い、鑑定書として提出するため、伝聞証拠に該当しますが、条件を満たす場合に伝聞証拠の例外として扱われます。

筆跡鑑定が伝聞証拠の例外となる条件は、公判期日において供述者である筆跡鑑定人が証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述することです(刑事訴訟法321条4項)。

筆跡鑑定の証拠能力に関する裁判所の判断

筆跡鑑定の証拠能力が認められた刑事裁判

伝統的な鑑定の場合には、筆跡鑑定人の主観が入ってしまう懸念が残りますが、その場合であっても、裁判所の判断で証拠にすることができます。

最高裁判所の判例において、伝統的な筆跡鑑定は、筆跡鑑定人の経験と感に頼る部分があるものの、長年の経験に基づく判断は単なる主観ではないとされています。

いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と感に頼るところがあり、ことの性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定方法が非科学的で、不合理であるということはできないのであつて、筆跡鑑定におけるこれまでの経験の集積と、その経験によつて裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観にすぎないもの、といえないことはもちろんである。

したがつて、事実審裁判所の自由心証によつて、これを罪証に供すると否とは、その専権に属することがらであるといわなければならない。

最高裁 昭和40年2月21日決定

この事件では、下記のようなポイントがあったため、筆跡鑑定の証拠能力が認められました。

  • 筆跡鑑定人の経験が豊富
  • 複数の筆跡鑑定人が同じ結論に至っている(本件では4人の筆跡鑑定人が同じ結論)
  • 証拠調べの手続きに問題がない

筆跡鑑定の証拠能力が否定された刑事裁判

筆跡鑑定により、被検文書と対照文書との間に類似点があるとされた場合であっても、その類似点に希少性があることを証明し、相違点については筆者の個性的相違点でないことを証明しなければ、証拠能力を欠くと裁判所は判断しています。

被検文書と対照文書

被検文書:証拠として扱われる可能性のある文書。例えば、脅迫事件における脅迫文書など。

対照文書:被検文書と照らし合わすための文書。例えば、脅迫文書の作成者と疑われている人が別に作成した書類や文書など。

被検文書及び対照文書の双方が同一人の筆跡に係るものであることを合理的な疑を挾む余地がない程度に判定するには、単に両文書に記載された諸文字を比較対照して、その符合し類似する諸点を検出指摘しただけでは足りず、その符合し類似すると認められた筆癖が当該筆者に特別固有のもので他に殆ど見受けられないこと及び右筆癖が偶然的なものでないこと(所謂希少性及び常同性)を証明し且符合類似しない幾多の相異点があつても、それらが筆者の個性的相異点とは認められないことに付納得の行く説明を加えなければならない

東京高裁 昭和44年6月26日判決

個性的相違点でないことの証明とは、筆跡の違いが個人の筆跡特徴とは異なることを証明することです。例えば、ハガキとメモ紙など、比較する文書が同一でなく、筆記状況が異なっているため、筆跡に相違点が現れる場合などが該当します。

この事件では、下記のようなポイントが総合的に判断され、犯罪行為と被告人とを結びつける証拠能力がないと判断されました。

  • 被検文書が葉書で、対照文書がメモや原稿だった
  • 単に似ていることだけを示すだけであり、希少性や常同性の説明が不足していた
  • 点の打ち方や偏の形態などの相違点に関する説明が不足していた
  • 文書間で同一の字画部分を比較していない

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了