感電事故で賠償金を得るための法的根拠|労災と安全配慮義務違反 | アトム法律事務所弁護士法人

感電事故で賠償金を得るための法的根拠|労災と安全配慮義務違反

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労働災害|感電事故で賠償金を得る!安全配慮義務違反

工事現場や作業現場では、作業中に送電線と接触したために感電事故が発生する危険があります。また、アーク溶接作業中に高温のアークと触れることで感電する場合もあるでしょう。

感電・火災事故は、障害や死亡など重篤な事態を引き起こします。

労災保険の給付以外にも、会社に安全配慮義務違反や使用者責任、工作物責任が認められる事故の場合、賠償金を獲得できる可能性があります。労災事故が起きたのであれば適切な補償を受け、治療やその後の生活費を確保すべきです。

今回は、感電事故で賠償金を獲得するための法的根拠や賠償金について解説します。本記事を読めば、労災の感電事故で被害者はどのような主張をすべきかわかるようになるでしょう。

感電事故の賠償は安全配慮義務違反の立証がポイント

感電事故をはじめ多くの労災事故ではまず、会社に安全配慮義務違反があったかどうかを検証し、損害賠償請求できるか検討していくことになるでしょう。

安全配慮義務違反とは一体どのような状態を指すのかといった基本的なことから、具体例をあげて解説していきます。

安全かつ健康に働ける環境でない状態

会社は雇用する従業員に対して、安全配慮義務を負っています。安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に働ける環境を整えることです。

感電事故を含め労災事故が発生した場合、会社は安全配慮義務違反を犯している場合が多いです。安全配慮義務は労働契約に付随して発生する法的義務なので、違反を立証できれば賠償金を獲得できます。

たとえば、機械や設備の不備がある、操作方法や安全面における教育を行っていない、人員配置や作業体制に問題があると安全配慮義務違反を主張できる可能性が高いです。

関連記事『安全配慮義務違反で慰謝料を損害賠償請求できるか?』では、安全配慮義務違反を判断するための基準について、より深く解説しています。あわせてご確認ください。

安全配慮義務違反にあたる感電事故の具体例

感電事故の事例を通して、会社がどのような義務を怠ると安全配慮義務違反になるのか見ていきましょう。

高所作業車で作業中に送電線へ接触し感電したケース

作業範囲内に送電線があることに気付かず、旋回した際に作業員が接触し、重大な事故を引き起こす場合があります。事前に、地形や障害物などの状況に配慮した作業計画の策定・実施が必要です。

また、高所作業車の作業範囲内に送電線へ接する危険区域が存するなら、作業指揮者を置く必要があります。

上記の対応を行わずに作業を遂行して感電事故の被害に遭ってしまった時は、会社に安全配慮義務違反を問える可能性があります。

雨の中でアーク溶接作業を行い感電したケース

雨の影響で濡れた作業着を身にまとったままアーク溶接作業を行ったために感電することもあります。アーク溶接は数千度に達する電流が流れる作業なので、火傷や火災を引き起こす危険もあります。また、有害な紫外線や青色光を発するため、目の障害を起こす原因です。

アーク溶接作業を実施する事業所では、降雨や雷の発生状況も考慮した作業標準を作成して、安全管理体制を整備する必要があります。

さらに、アーク溶接機を用いて金属の溶接や溶断などの業務を行う作業者は、特別教育を受けなくてはなりません。特別教育は労働安全衛生法第59条3項にも記載された法的な義務です。

特別教育を受ける必要がある危険または有害な業務で何の指導も受けていなかったら、会社側の法的責任を主張できます。

脚立が配線を踏み作業者が感電したケース

配線の絶縁被覆に不備があったり、配線を踏まないための養生を怠ったりすると感電事故が起きることもあります。

脚立の滑り止めに損傷がある状態で使用を継続したために、配線に触れてしまう可能性もあります。作業中に脚立が容易に移動することがないよう、補修や部品の交換といった処置が必要です。

また、会社は感電時の緊急対策マニュアルを準備する必要があります。マニュアルが整備されていなければ、会社側の安全配慮義務違反を問える可能性は高いです。

安全配慮義務違反以外に賠償を主張できる法的根拠

感電事故では安全配慮義務違反以外にも、会社側の法的責任を問うことが可能です。たとえば、使用者責任(民法715条)や工作物責任(民法717条)が該当します。

会社側が安全配慮義務違反は犯していないと主張しても、これらの観点に立てば損害賠償を請求できる場合もあります。使用者責任と工作物責任の内容について詳しく見ていきましょう。

使用者責任にもとづく請求

使用者責任とは、従業員が業務の執行につき不法行為を犯してしまった場合に会社も連帯して責任を負うことです。労災事故では一緒に働く同僚の行為が原因で被害を被る場合もあります。

たとえば、高所作業車の運転手に不注意があり、高所の作業員が送電線に触れてしまったケースです。この場合、当然のことながら運転手は不法行為責任を負います。

ただ、従業員は個人なので、負担できる賠償額には限度があります。何百万円、何千万円の賠償金を1人で支払うのはむずかしいでしょう。不法行為をした従業員だけでなく使用者である会社にも責任を負わせることで、被害者がしっかりと救済を受けられるよう保障しているのです。

工作物責任にもとづく請求

工作物の設置や保存に問題があることで他人に損害を生じさせた場合、工作物の占有者が被害者に対する賠償責任を負うことになります。

所有者ではなく占有者であることに注意しましょう。土地や設置物を実際に使用している者を占有者、所有する権利を保持している者を所有者と呼びます。

たとえば、工事現場の足場が崩壊したり、作業中に土砂崩れに巻き込まれたりしたケースでは工作物責任を問える可能性があります。

感電事故の賠償金で確認しておくべきこと

感電事故において労災保険の申請だけでなく損害賠償請求も検討すべき理由や、請求できる賠償金の項目と留意点について紹介します。

労災保険の申請と賠償金の請求を併用できるか検討する

感電や火災、爆発などの事故の被害者は重度の後遺症が残るほか、最悪のケースだと死亡することもあります。

こういった事故では被害が大きいため、労災保険によって多額の給付金を受け取れる場合も多いです。数百万円~数千万円の保険給付を受け取ることができれば、十分な補償を受けたと満足するかもしれません。

しかし、労災事故の場合、労災保険の給付とは別に会社や元請け会社に対して損害賠償金を請求できる場合もあります。特に、感電や火災、爆発などの大きな労災事故で会社側に一切の過失がないとは考えにくいです。

職場で感電事故の被害に遭った方は、会社に対して損害賠償を請求できないか一度検討してみることをおすすめします。

賠償金を漏れなく請求するために損害項目の種類を知る

感電事故に限らず、労働災害ではさまざまな賠償項目が存在します。請求漏れを防ぐためにも、どういった項目があるか確認しておきましょう。

人身損害は大きく財産的損害と精神的損害に分かれます。財産的損害はさらに積極損害と消極損害に区分できます。

財産的損害

積極損害とは、事故が原因で実際に拠出を迫られた費用のことです。治療費や通院費、看護費、葬儀費用、弁護士費用などが該当します。

消極損害とは、事故が原因で得られたであろう利益を失ってしまった時に受けられる賠償金のことです。休業損害や逸失利益が該当します。

たとえば、自宅療養が必要な期間は働くことができないので賃金を受け取ることができません。また、死亡の場合は、将来受け取るはずだった年金も受け取れなくなります。消極損害では、賃金や年金に対して補償を受けられるのです。

  • 積極損害:治療費・通院費・看護費・葬儀費用・弁護士費用
  • 消極損害:休業損害逸失利益

精神的損害

精神的損害とは、事故が原因で被った精神的苦痛に対する賠償金のことです。入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などの種類があります。

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

慰謝料の種類ごとの相場額などについては、関連記事『労災事故で慰謝料を請求できる?』で解説しています。慰謝料の具体的な金額が気になる方は、あわせてご覧ください。

過失の有無や大きさが賠償金額に影響する

感電事故が起きた原因が、会社側に100%存するとは限りません。きっちりとマニュアルが整備されていても、被害者がマニュアルを無視して事故が起こったのであれば、事故の原因が被害者にもあると判断されることになるでしょう。事故の原因があるのなら被害者であっても責任を負わねばなりません。

被害者にも事故の原因がある、つまり過失がある場合は、その過失の度合いだけ賠償金が控除されることになります。このように、過失の度合いに応じて賠償金から控除する仕組みを「過失相殺」といいます。

たとえば、被害者の事故に対する責任が3割だとしたら、本来受け取れる賠償金から30%が差し引かれ、残りの70%しか手元に入りません。過失の有無や過失の大きさは、賠償金の金額を大きく左右することなるのです。

過失割合の争いでは被害者側も、管理体制の問題点や教育の不足、法的基準との不適合などを証明する必要があります。

労災事故における過失については、関連記事『労災で自分に過失があるときの損害賠償』でも詳しく解説しています。

感電事故の被害は弁護士にご相談ください

感電事故によってご家族を亡くされり、重い障害を負ったという方は、弁護士に相談してみることをおすすめします。

  • 会社に感電事故に関する責任を問いたい
  • 重篤な後遺症が残ったことに対する慰謝料を請求したい
  • 会社から提示を受けた示談金の金額が適正なものか知りたい

弁護士に相談すれば、どのような感電事故なら会社の責任を問えるのか、どのくらいの賠償金が見込めるのかなどについてお話しすることができるでしょう。

弁護士に依頼するか迷っているという方は、こちらの関連記事『労働災害は弁護士に法律相談|無料相談窓口と労災に強い弁護士の探し方』をお読みください。弁護士に依頼するメリットや、弁護士の必要性が大きいケースについて解説しています。

アトム法律事務所の弁護士による無料法律相談

感電事故によってご家族を亡くされたり重い障害を負ったりして、弁護士への依頼を検討されている方は、アトム法律事務所の無料法律相談をご利用ください。被害に遭われた事故では、会社に対する損害賠償請求が可能なケースかどうかや、弁護士に依頼することで得られるメリットなどについて無料で弁護士に相談することができます。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了