労災と労働基準法との関係は?関連法令についても解説 | アトム法律事務所弁護士法人

労災と労働基準法との関係は?関連法令についても解説

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労災保険制度の規定。労働基準法の関連法令も解説

「労災」という言葉自体をお聞きしたことがある方は多いと思います。勤務中の事故等では労災保険が適用されることにより、一定の補償を受けることができます。

しかし、労災保険制度がどのような法令の下、規定されているのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。

そこで、本記事では、労災保険制度に関連する法律上の規定や利用方法を解説します。本記事が参考になれば幸いです。

労災で利用する労働基準法の規定とは

労災に対する補償に関しては、労働基準法や労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます)に規定されています。

これらの規定が実際にはどのように利用されているのかについて解説を行います。

労災で主に利用するのは労災保険法

労災保険制度は、労災保険法にもとづき補償を行う制度になります。労災保険法が制定する以前は、労働基準法上の補償規定のみが適用されていました。

しかし、労働基準法上の補償規定では、労災が生じてしまった場合に使用者のみが補償を負担するという規定になっており、使用者に資力が無い場合は十分な補償を受けることが出来ないという問題点がありました。

そこで、昭和22年に労災保険法が制定されるようになり、同法の改正等により通勤災害にも補償の範囲が及ぶようになったという経緯があります。

このように、労災保険法は、労働基準法では不十分な補償について十分に補償を受けることができるように制定をされたものであり、労災保険の規定は労基法に対する特別法という位置づけになります。

現在では、労災が発生した場合には労災保険法にもとづいて給付がなされるので、労働基準法に基づいた補償が行われるのは、労災保険法により給付がなされない範囲に限られるのです。

労災保険法による補償範囲|労働基準法より広い

労災保険法の対象となる人とは

労災保険法で「労働者を使用する事業を適用事業とする」(労災保険法3条1項)と規定されているように、労働者を使用する事業者は、労災保険に強制的に加入をしなければなりません。

そのため、会社が労災保険の届け出や加入手続きをしていなくても、労働者は労災保険の適用を当然に受けることができます。自分の会社では労災保険を受けることが出来ないのではという心配する必要はありません。

また、労災保険における労働者とは、事業所等に使用されて賃金を支払われる者すべてをいいますので、正社員だけでは無く、パート・アルバイト・日雇いなども含まれます。

労災保険法による給付の対象となる労災とは

労災保険による給付対象となる労災とは、以下のようなものとなります。

  1. 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付(業務災害)
  2. 複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付
  3. 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付(通勤災害)

これらの内、特に大事なのは業務災害と通勤災害です。

労災保険では、労災を原因とする傷病等であれば、被災労働者の過失の有無にかかわらずに補償の対象となります。
ただし、故意や重過失により傷病の結果を生じさせた場合などは例外になりますので、補償目的での事故などでは給付が制限されます。

業務災害や通勤災害に該当するために必要な要件については、以下の関連記事で確認可能です。

労災保険法による給付の内容とは

労災保険により給付される給付内容は、以下の通りです。

  • 療養補償給付、療養給付
    労災によって生じた傷病を療養するために必要な治療費などの費用を給付
  • 休業補償給付、休業給付
    労災による傷病の療養をするために仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付
  • 障害補償給付、障害給付
    労災による傷病が完治せずに後遺症が残った場合に給付される一時金や年金
  • 遺族補償給付、遺族給付
    労災により労働者が死亡した場合に、遺族が受け取ることができる一時金や年金
  • 葬祭料、葬祭給付
    労災により死亡した労働者の葬祭を行うために支給される
  • 傷病補償年金、傷病年金
    労災による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過しても完治せず、傷病の内容が傷病等級に該当する場合に給付される年金
  • 介護補償給付、介護給付
    障害年金や傷病補償年金の受給者であり、症状が重く現に介護を受けている人に対する給付

業務災害である場合は補償給付、通勤災害である場合は給付という名称となりますが、給付内容について基本的な違いはありません。
また、労働者の社会復帰事業の一環として、給付とは別に特別支給金が支給されるケースがあります。

ただし、休業補償給付や休業給付については、休業開始から3日間の部分が給付対象とならず、休業4日目から給付開始となります。
給付対象外の3日間については、業務災害であれば労働基準法にもとづいて使用者から休業補償を受けることが可能です。

そのため、業務災害により休業する場合には、使用者に対して労働基準法による補償責任が生じることになります。

労災保険法についてもっと詳しく知りたい方は、関連記事をお読みください。

労災請求の方法と注意点について

次に、労災保険の請求方法について解説します。
また、会社が作成した労災請求書に誤りがある場合の対策についてもあわせて解説を行います。

労災保険請求の方法|書類への記入と提出

労災保険は、被災労働者が労働基準監督署に労災請求用紙及び添付書類を提出することで請求が出来ます。
労災請求書は請求内容ごとに様式が異なるので、注意してください。

労災請求を行いたい旨を事業主に伝えると、労災請求書を用意してくれるでしょう。
また、厚生労働省のHPからダウンロードをすることが出来ます。(厚労省ホームページ「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」)

ただし、実際に労災請求用紙を記入していくと事業主の記名押印欄などがあり、ご自身だけではすべての欄を埋めることはむずかしいといえるでしょう。

請求書を記入する際には事業主の協力があればスムーズに行きます。
さらに、事業主が社会保険労務士と契約をしている場合は、社会保険労務士が代行してくれることもあるかと思います。

しかし、会社によっては労災申請を渋ったり、非協力的な対応をとってくることがあります。会社が労災を認めない場合の対処法は、関連記事を参考にしてください。

記入内容は必ずご自身で確認をしてください

事業主が労災請求に協力的であっても、その内容はしっかりとご自身で確認をしなければなりません。

特に「災害の原因及び発生状況」という欄では、事業主が自らの安全配慮義務違反を免れる目的で虚偽の記載をしていることが見受けられます。請求書の記載内容が虚偽であると、労災保険の受給が否定されることもある他、仮に事業主と裁判になった際に不利な証拠として提出されるおそれもあります。

仮に社労士等の代行であっても、内容をご自身でしっかりと確認をしてください。

事実と異なる記載は訂正する

ご自身で確認をした際に、事実と異なる記載がある場合は事業主等にその訂正を求める必要があります。

しかし、事業者との関係の悪化を恐れるあまり、訂正を求めることに躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、自ら労働基準監督署に説明をすることが考えられます。労働基準監督署は、すでに事業主から労災請求用紙が提出されていたとしても、労働者から事情を説明することでその点も考慮をしてくれます。

なお、労働基準監督署に説明をする際は後で証拠として確認をすることが出来るように、口頭で行うのだけでは無く、書面を用意した方がいいでしょう。

労災隠しに対する対処法

会社が労災隠しをしている場合に、労働者としてどのように労災請求すればいいのでしょうか。

また、労災事故が発生した場合、事業者は遅滞なくそのことを労基署に報告する義務を負っております(労働安全衛生法100条1項、労働安全衛生法規則97条)。事業主はこの義務に違反した場合、刑事罰を科されることもあります(労働安全衛生法規則120条5号)。

事業主が上記のような法律の定めにもかかわらず、労働者に対して強く労災隠しの圧力をかけてくることがあるのです。

その場合は、労働基準監督署に労災隠しが行われていることを伝えつつ、労災保険給付手続きを自力で行うことが考えられます。

労災で損害賠償請求を検討するなら弁護士に相談

労災により生じた損害は、労災保険給付だけでは補てんできないことがあり、会社や加害者に対する損害賠償請求が必要なケースもあるので、誰にどのような請求を行うべきなのかが分かりにくい場合があります。

労災で損害賠償請求を検討しているなら、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

また、損害賠償請求を行うには、適切な証拠を確保する必要がりますが、怪我の治療を行いながら証拠の収集や手続きを行うことは困難でしょう。

弁護士に相談をすることで十分な証拠を確保しつつ、適切な請求を行うことが可能となるのです。

会社に対する損害賠償請求が必要な場合には、実質的に会社と対立する立場となるので、弁護士によるサポートを受けるべきです。

労災で大きな後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりして、損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。相談費用の負担を気にせず労災に関する疑問点や不安について相談することができます。

法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了