工事現場の事故で発注者や元請けが負うべき責任と慰謝料の賠償事例 | アトム法律事務所弁護士法人

工事現場の事故で発注者や元請けが負うべき責任と慰謝料の賠償事例

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工事現場の事故。発注者・元請けの賠償事例

工事現場で作業員として働く人の中には、作業中に重大な事故が発生した時に、どこに対して責任を追及すればいいかわからない方もいるでしょう。実際に現場作業を担うのは下請け会社の社員でも、指示を出している発注者や元請けが責任を負うケースもあります。

今回は、工事現場の事故で事業者が負うべき責任の種類や損害賠償の事例を紹介します。本記事を読めば工事現場で発生した事故における責任の所在がわかり、請求できる賠償額の相場も判断できるようになるでしょう。

工事現場の事故で事業者が負うべき責任

まずは、工事現場で発生した事故について事業者が負うべき責任を紹介します。

事業者は事故を起こすと大きく「民事責任」「社会的責任」「刑事責任」の3つが問われます。事業者が担うべき責任の具体的な内容を把握し、事故の被害者となった時にきちんと加害者に対して責任を追及できるようになりましょう。

民事責任

民事上の責任とは、被害者が被った損害を加害者が金銭で補償することです。損害賠償責任を規定している法律は、民法です。

民法709条では、故意または過失によって他人の法律上保護されるべき利益を侵害した者は、これを賠償する責任を負うと規定しています。(不法行為責任)

また、事故と加害者の間に契約関係がある場合、加害者が契約上の義務を履行せず被害者が被害を被った関係が認められるのであれば、被害者が被った損害を賠償しなくてはなりません。(債務不履行責任)

工事現場の事故では不法行為責任と債務不履行のどちらも適用される可能性があります。工事現場の事故によって被害者はどのような法的権利を阻害されるかという点を知っておきましょう。

社会的責任

社会的責任とは、企業として社会的に果たすべき責務のことです。重大な労働災害を起こした企業は、マスコミ等の報道によって社会的責任を追及されるケースがあります。コンプライアンスの重要性は年々増しています。

倫理的・道徳的に恥ずべき行為をしないことも事業継続のために不可欠な要素になっているといえるでしょう。近年はSNSの発達により、事件・事故といったトラブルが発生した事実が拡散されやすくなっています。

社会的責任は主に事業者側の問題ですが、そこで働く社員も企業の評判について意識すべきだといえます。企業の社会的な評判が落ちることが原因で、事業の継続がむずかしくなり、倒産に追い込まれる可能性も無きにしも非ずです。そうなった時でも収入に困らないために、早めに行動へ移すことが大切になります。

刑事責任

刑事責任は犯罪に該当する時に問われるもので、事業者に問われる法的な責任の中で最も重度の制裁です。刑事責任を追及するには、厳格な要件を満たさなくてはなりません。

工事現場の事故では死亡事故や重大災害の場合、刑事責任を問われるケースも考えられます。死亡等、被害の程度が著しい事故が発生した場合、刑事責任の有無を判断するために、警察や労働基準監督署が立ち入り調査を行います。

警察と労基署では見るポイントが異なるので、異なる視点からより正確な判断が可能になるのです。刑事責任では重いものになると、懲役や死刑の罰則が課されれます。

工事現場の事故で元請け企業が負う義務

工事現場の重大な事故によって、働けなくなったり死亡してしまったりした時は、金銭による補償をうけたいと強く思うでしょう。

民事上の責任に違反していると立証できれば、直接雇用関係にない元請け会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
そのためには、前述した通り、相手側が法的義務を果たしていないことを明らかにしなければなりません。

ここでは工事現場で元請け企業が担う民事上の義務を解説します。

安全配慮義務|損害賠償義務の根拠

安全配慮義務とは、作業現場や工事現場で作業員が安全に作業を遂行するために必要な環境を整える義務のことです。
安全配慮義務に関しては、労働契約法の第5条において「使用者は労働契約に伴い、労働者が身体、生命等の安全を確保して働けるよう、配慮しなければならない」と規定されています。

この安全配慮義務に違反した結果、作業員が事故によって負傷したり死亡した場合には、元請け会社が損害賠償責任を負う可能性があるのです。

元請け会社も安全配慮義務を負うことがある

作業員の雇用主である下請け会社だけでなく、作業を依頼した元請け会社にも安全配慮義務が認められる可能性があります。外部に対して業務発注をかけた企業も、使用者として扱われることがあるのです。

書面による労働契約を締結していなくても、安全配慮義務は発生します。民法上、契約は当事者に意思があれば、口頭だけでも成立すると考えられています。元請け会社が下請けに対して危険な指示を与えたり、作業現場の安全性確保の処置を怠った時は、安全配慮義務違反を問える可能性が高いです。

また、労働安全衛生法においては、注文を行う元請け会社に請負業者の安全に関する指示や指導を行うことを義務付けている規定が存在します。
このような規定の存在は、請負会社が実質的に安全配慮義務を負う使用者であることの根拠とすることが可能でしょう。

安全配慮義務違反を主張する方法

安全配慮義務違反があるといえるためには、使用者といえる元請け会社が危険の発生を予見することができたにもかかわらず、危険の発生を回避するために適切な措置を取らなかったという事実が必要です。

例えば、建設工事を行っている際に、元請け会社が、工事現場の足場が不安定であるという報告を受けていたにもかかわらず何ら対策を行わなかったために事故が発生したという場合などになります。

また、労働安全衛生法においては、元請け会社が関係請負人やその労働者に対して労働安全衛生法に違反しないよう指導を行うという義務があるとされています。このような義務に違反している場合には、元請け会社に安全配慮義務違反が認められやすいでしょう。

損害賠償請求により、労働者に生じたい損害や慰謝料が支払われることになります。
損害賠償金や慰謝料の具遺体的な金額や計算方法については、以下の関連記事をご覧ください。

使用者責任|損害賠償の義務

元請け会社と下請けとの関係においては、使用者責任が問われる危険もあります。労働者を雇って事業を遂行する者は、その作業員が他人に対して損害を与えた時は、その損害を賠償する責務が生じるのです。

直接的な雇用関係がなくても、自らの事業遂行のために下請け会社を活用していれば、使用者責任を追及される可能性があります。

たとえば、現場作業員の故意・過失によって、共に働く労働者が死亡してしまったとしましょう。加害者本人が被害者の遺族に損害賠償金を支払うのはもちろん、元請け会社も賠償責任を問われる可能性があります。

労災保険の利用に関して

工事現場において業務中に生じた事故が労災(業務災害)に該当する場合は、元請け会社が使用者の立場にあるとして、元請け会社の労災保険を利用できるケースがあります。

下請け会社の労働者が業務中に生じた労災により労災保険を利用する場合には、どのような手続きを取ることになるのかをしっかりと確認しましょう。

業務中に生じる労災である業務災害とはどのようなものであるのかや、労災保険による給付内容を知りたい方は『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事をご覧ください。

工事現場の事故の損害賠償事例

最後に工事現場の事故で、発注者側の責任を認めた裁判例を紹介します。

裁判所がどのような観点から違法性を判断しているのかを確認しましょう

事例(1)

すでに施行を担当する建設会社から賠償金を得ていた作業員が、発注者の市を訴えた事案です。裁判所は、設計書通りに施工が行われていないことを市の担当者が把握していたと指摘しました。

また、施行者に対して具体的な安全対策を指示しておらず、安全確保が完了するまで工事の進行をストップする対策を怠ったとして、市側の過失を認定しています。

この判決によって、市は被災者に対して約9,300万円の賠償金を支払いました。しかし、市はこの判決に納得せず、施工主に賠償金の一部負担を求めます。

市は同社に発注をかけている別工事の支払いを止めることで、事実上、賠償金を負担させるという対応を取ったのです。反発した施工会社は裁判を提起し、市対施工会社の争いが起こります。

二次的に発生したこの裁判では、擁壁に関する安全措置を市に指示されていながら怠ったとして、施工会社の過失が認められました。
他方で市に対しても、擁壁の危険性を把握しておきながら、現場の対策状況を確認しなかったとして、一部過失を認めています。

結局、このケースでは市の過失割合は2割と判定されました。控訴審で、発注者は仕事の完成を待つだけにとどまらず、事故発生の回避に関する副次的・補充的な役割も担う必要があると述べられています。

事例(2)

下請けの1人親方が、元請け会社に対して事故の賠償金を求めた事例です。

本事例では現場に安全対策用のネットや足場が設置されていませんでした。
しかし、命綱をつけず、運動靴で作業していた等、親方側にも不注意の事実が認められます。

結論としては、控訴審において、元請けの安全配慮義務違反が認められました。慰謝料等の合計額は約3,000万円に達しましたが、過失相殺によって、支払われた賠償額はこの内の2割にとどまっています。

工事現場の事故が起きたなら弁護士に相談

工事現場において事故が起きた場合には、被害者は雇用されている会社だけでなく、元請け会社にも法的責任を追及できる可能性があります。

そのため、誰にどのような請求が可能であるのかが複雑になりやすく、法的知識が不十分な場合は適切な請求を行うことが難しいでしょう。

法律の専門家である弁護士に相談すれば、誰にどのような請求を行うことが最も適切なのかについてアドバイスを受けることが可能です。

また、弁護士に依頼すれば、請求のための手続きや交渉を代わりに行ってもらうことができます。
弁護士であれば請求のための手続きや交渉を適切に行ってくれるだけでなく、交渉がもつれて訴訟が必要となっても安心して任せることが可能です。

工事現場の事故で大きな後遺障害が残ったり、ご家族が亡くなられたりして、損害賠償請求を検討している場合はアトム法律事務所の無料相談をご活用ください。費用の負担を気にせずに弁護士に相談してアドバイスを受けることができます。

法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了