労災の休業補償給付は確定申告が必要?知っておくべき給付金の課税面
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労災で受け取った休業補償については確定申告が必要かとお悩みではありませんか?
確定申告は、主に個人事業主やフリーランスが行う税金の申告手続きです。一定の条件に該当すれば、会社員の方も確定申告が必要です。
確定申告が必要な会社員や会社を退職した人が休業補償給付の確定申告で困らないように、申告の有無や手続について解説します。本記事を読めば、確定申告における休業補償給付やその他給付金の扱いがわかるようになります。
目次
会社員は労災の休業補償を確定申告する必要がある?
確定申告とは、1年間に得た収入について所得税の額を確定し、国に税金を納付する手続きを指します。
確定申告は期限が決まっており、原則、毎年2月16日~3月15日の間に手続きを行わなければなりません。
こちらでは、労災の休業補償は確定申告の対象なのか解説します。
会社員は年末調整により原則、確定申告は不要
基本的に会社員は年末調整が行われるため、自ら確定申告をしなくても問題ありません。
労働者1人ひとりが納める所得税は、毎月受け取る給与から天引きされています。社員の年間給与が確定する12月に1年間の税金を清算する手続が年末調整です。
会社は税金の計算だけでなく税務署への申告も行ってくれます。源泉徴収で支払っていた税金が本来納める額よりも高かった場合は、年末調整によって還付金を受け取ることが可能です。
会社員で確定申告が必要な場合
繰り返しになりますが、会社員は年末調整があるため、確定申告の必要はありません。
したがって、労災の休業補償が確定申告の対象になるか考えなくてもよいといえます。
しかし、場合によっては会社員でも確定申告が必要なケースがあります。確定申告が義務だとすれば、休業補償の申告が必要なのか把握する必要があるでしょう。
会社員で確定申告が必要となる代表的なケースは以下の通りです。
- 給与の年間収入が2,000万円を超える人
- 副業等で給与所得および退職所得以外の収入が年間20万円を超える人
上記の該当者は確定申告が必要なので、休業補償の申告が必要なのか知っておきましょう。
休業補償給付は確定申告の必要がない
結論からいうと、労災の休業補償は非課税所得の扱いとなるため、確定申告の必要はありません。非課税所得とは所得税がかからない収入のことです。
原則では儲けや収入を得た時は、その金額に対して所得税が発生します。所得税は収入の額に応じて徴収額が変わるので、収入が増えれば税額も多くなります。
一方、非課税所得はいくら稼いだとしても所得税の計算には関係ありません。節税の観点からいえば、非課税所得は有利な扱いを受けられます。
労災における休業補償の仕組み
ここでは労働基準法に規定された休業補償の仕組みを見ていきましょう。休業補償の支給要件や計算方法、請求方法を解説します。
休業補償の支給条件
労働基準法による休業補償を受け取るには、以下の条件を満たす必要があります。
- 業務中や通勤時の災害が原因で働くことができない
- 休業中に賃金が支給されていない
- 労働基準監督署が労災事故として認定を出している
- 休業してから3日間の待期期間を経過している
労災保険から休業補償を受け取るためには上記4つの条件をすべて満たさなければなりません。
労働災害によるケガや病気を治療するために、休業していることがポイントです。たとえば、疾病や傷病が治癒した後に、外科後処置のために通院する場合、休業補償の対象とはなりません。
4つの条件のうちの一つである「休業中に賃金が支給されていない時」とは、給与が1円も支払われていない場合はもちろん、平均賃金の60%未満のみ支給されているケースも含みます。
また、休業開始日から3日目までは待期期間とされ、休業補償の給付を受けられません。待期期間の3日間については、別途、事業主側が賃金を支払う必要があります。(業務災害の場合のみ)
つまり、労災が原因で働けなくなったとしても、収入が完全にストップする事態は避けられます。
労災であるという認定を受けるためには、業務上の行為を原因とした業務災害、または、通勤途中に生じた災害である通勤災害であることが必要です。
業務災害または通勤災害に該当するといえるための要件については、以下の関連記事で確認することができます。
休業補償の計算方法
休業補償給付は、1日につき「給付基礎日額×80%」の支給が受けられます。
給付基礎日額とは、事故発生日の直前3ヵ月間に労働者が得た総賃金を、期間中の暦日数で割った値です。7月~9月の3ヵ月間で毎月20万円が支給されていたとしたら、20×3÷92日という計算式で給付基礎日額を算出可能です。
給付基礎日額の60%が休業補償給付、残りの20%が特別支給金として支給されます。
先述の通り、休業補償は確定申告の必要がありません。所得や税金に影響しないため、給付金の細かい金額まで把握しなくていいといえるかもしれません。
ただし、会社側が適切な金額の休業補償を支払っていない可能性も無きにしもあらずです。
そのため、休業補償に関する情報を理解し、自分で休業補償の額を計算できる強い人材になっておいて越したことはないといえます。
休業補償の申請方法
休業補償を受け取るには休業補償給付支給請求書を記入し、所轄労働基準監督署に提出する必要があります。
休業補償給付支給請求書は、業務災害と通勤災害で様式が異なることに注意が必要です。業務災害では「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)、通勤災害では「休業給付支給請求書」(様式第16号の6)が使われます。
書式は厚労省のホームページからダウンロードして入手可能です。休業補償給付支給請求書は、事業主側の証明が必要な部分もあります。迅速な給付を受けるためには、早めの提出を心がけましょう。
休業補償の関連記事
休業補償以外に受け取れるお金の確定申告の取扱い
何らかの原因で働けなくなった場合、休業補償以外にも受け取ることだできるお金があります。休業補償以外に受け取れるお金について確定申告が必要となるのかを解説していきます。
休業手当
休業手当は会社都合で従業員が労働できない場合に、平均賃金の6割以上を支払う制度です。休業手当が支払われる具体的なケースは、経営不振や資材不足による休業の場合となっています。
休業手当は賃金としての扱いを受けるため、所得税の課税対象となります。休業手当と休業補償は名前が似ていますが、所得税の算定では扱いが異なるので注意が必要です。どちらも労働者を守る目的がありますが、支給事由や支給元が異なる別の制度です。
傷病手当金
傷病手当金は、疾病や傷病を理由に長期入院を迫られた場合、健康保険から支払われる給付金です。
傷病手当金は、労働基準法の休業補償と同様、非課税です。
したがって、傷病手当金については確定申告の必要がありません。
規模が大きい健康保険組合では上乗せ分の付加金が支給される場合もあるでしょう。もっとも、こちらも非課税扱いを受けます。
ちなみに、傷病手当金の支給を受けるためには以下の条件を満たす必要があります。
- 業務以外の病気やケガが原因で休業を余儀なくされていること
- 休業している間に給与の支払いがないこと
- 連続する3日間を含み、4日以上休業していること
注意してほしいのは、原則、労災保険の休業補償と傷病手当金は同時に支給を受けられないことです。
傷病手当金は休業中の生活保障として支給されるものです。したがって、休業補償を受け取っていれば、生活の保障は果たされていると判断できます。
ただし、休業補償給付の金額が傷病手当金でもらえる額を下回っている場合、同時に受給することも可能です。
他の労災保険給付や損害賠償金
休業補償以外の労災保険給付について
労災が原因で休業する場合には、労災保険により休業補償以外の給付も受けることが可能です。
その他の労災保険給付として考えられるのは、以下のようなものとなります。
- 療養補償給付
労災によって生じた負傷等の治療費用に対する給付 - 障害補償給付
労災によって生じた負傷等が完治せず、後遺障害が残った場合になされる給付 - 傷病補償年金
休業してから1年6ヶ月経過しても治療が終了せず、傷病等級に該当する症状が認められる場合になされる給付
以上のような労災給付についても、休業補償と同様に非課税となります。
損害賠償請求により得られる賠償金について
労災発生の原因が事業主や第三者にある場合は、事業者や第三者に対して損害賠償請求を行うことが可能なケースがあります。
労災保険による給付では、労災によって生じた損害全てを補てんできるとは限りません。特に、慰謝料については労災保険による給付がなされないため、慰謝料に関しては損害賠償請求を行うことが欠かせないのです。
損害賠償請求により得られる賠償金については、損害に対する補てんといえる部分は非課税となります。
そのため、慰謝料や治療費用などは基本的に非課税となるでしょう。
ただし、慰謝料の金額が過度に高額であるために損害の補てんといえる範囲にあたらない場合は、課税対象となる恐れがあるので注意してください。
事業主や第三者に対してどのような場合に損害賠償請求が可能となるのかについては『労災の損害賠償算定と請求方法!労災と民事損害賠償は調整される』の記事が参考になります。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了