学校における体育の事故で怪我をした場合の責任追及と保険の利用
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学校で体育活動中に怪我をすることは不思議なことではありません。
怪我の程度が軽症で済めば、さほど悩むこともないと思います。
ですが、怪我の程度が重いと治療費や入通院交通費といった経済的損失を受けるだけでなく、精神的にも大きなショックを受けることになるのです。
事故が学校側の落ち度によるものであった場合、学校側に責任追及することができますが、スムーズに事を進めるためには、その仕組みを知っておく必要があります。
今回は、学校で体育活動中に怪我をした場合の責任の所在、学校側に責任追及する際に必要な条件などをわかりやすく解説します。
目次
学校の体育で怪我をした場合の責任
体育活動中に起きた事故で怪我を負った場合、学校側に損害賠償を請求できる可能性があります。
それでは、具体的にどのような条件が揃えば、学校側に損害賠償を請求できるのでしょうか。
公立学校の場合と私立学校の場合に分けて解説していきます。
公立学校における損害賠償請求
公立学校において損害賠償を請求するためには、教員による故意もしくは過失が存在し、それが原因となって怪我を負ったといえることが必要です。
そのため、怪我を負ったのが自身の不注意によるものである場合には、損害賠償を請求することはできません。
なお、公立学校の場合、教員の故意や過失に起因して体育活動中に怪我を負ったときには、教員が直接責任を負うのではなく、学校を設置している国や公共団体が損害賠償責任を負う仕組みになっています。
私立学校における損害賠償請求
私立学校の場合、公立学校の場合とは異なり、教員の故意や過失を原因として怪我を負ったことが認められれば、直接、教員に対して損害賠償を請求することができます。
また、一定の条件を満たしている場合には、学校に対しても損害賠償を請求することが可能です。
学校は、生徒が安全に学生生活や体育活動などを行うことができるように配慮すべき義務を負っており、これを「安全配慮義務」といいます。
たとえば、体育活動との関係でいえば、怪我をする危険のある行為を禁止したり、注意喚起するなどして生徒の安全に配慮しなければなりません。
この安全配慮義務に違反していると認められる場合には、学校に損害賠償を請求することができます。
過失や安全配慮義務違反の判断方法について
学校教員の過失や、学校の安全配慮義務違反とは具体的にどのようにして判断を行うのでしょうか。
基本的に、学校体育の活動中に事故が発生することを予見可能であり、事故防止のために適切な対応を取らなかった場合に認められます。
そのため、具体的には以下のような事実をもとに評価がなされるでしょう。
- 事故の危険がある運動を行う前に安全指導が実施されていたのか
- 事故の危険がある器具について不備がないのかを確認していたのか
- 体育活動中に事故が起きないように適切な監督がなされていたのか
- 事故が起きた際の対応方法について事前の確認がなされていたのか
まとめ
- 教員による過失や安全配慮義務違反があるとき、損害賠償請求が認められる可能性がある
- 公立学校で起こった学校事故の損害賠償請求先は、学校を設置している国や地方公共団体である
学校の体育活動中に起きた事故の事例|裁判所の判断は?
学校の管理下で発生する事故のなかでも、特に多いとされているのが体育活動中の事故です。体育活動には、部活動をはじめさまざまな種目がありますが、その中でも「球技」は、事故の発生率が高くなっています。
以下で、体育活動中に実際に起きた事故の事例について、見ていきましょう。
野球の部活動中に起きた事故
高校野球の試合開始前に行う練習において、監督がノックした打球が三塁コーチ・ボックスにいた生徒に当たったという事例です。
これにより負傷した生徒は、学校を相手方として、損害賠償請求訴訟を起こしました。
この事例において裁判所は、ノックをするに際しては、周囲の状況に注意を払い安全を確認したうえでノックをすべきであるとしたうえで、選手の態度によってはノックを一時中止するなどして注意を喚起し、危険の発生を防止すべき義務があったと判示しています。
本事例において、監督は上記義務に違反していたとして、学校側の損害賠償責任を認めました。
ラグビーの部活動中に起きた事故
高校ラグビー部の部員が紅白試合中に頚椎脱臼骨折、頚椎損傷の重傷を負ったという事例です。
重傷を負った部員は、学校を相手方として損害賠償請求訴訟を起こしました。
この事例において裁判所は、試合の経過を観れば、両チームの力の差から事故につながるスクラムの危険な状態が客観的に現出していたと判断しています。
そのうえで、指導教諭は、部員のラグビー経験などを考慮して安全に配慮するとともに、状況によってはスクラムを中断させるなどして、安全を確保するための措置を講ずるべき義務があったと判示しました。
本事例において、指導教諭は上記の義務に違反していたとして、学校側の損害賠償責任を認めています。
学校の体育活動中における怪我に利用できる保険
体育活動中に怪我を負った場合、怪我の症状によっては治療が必要となるケースもあります。
また、怪我の症状が重いと入院が必要となるケースもあるでしょう。
入通院をしながら治療をするにあたっては、治療費や通院交通費、入院費等がかかり、治療が長引けば長引くほどその負担も重くなります。
このような場合に利用できる保険があることをご存知でしょうか。
災害共済金給付制度の利用
「災害共済金給付制度」は、生徒が学校の管理下で怪我を負った場合にその保護者に対して一定の給付金が支払われる制度です。
学校が日本スポーツ振興センターとの間で加入契約を行っている場合には、支給の対象となりえます。
すべての学校が加入しているとは限りませんが、入学時に保険加入への同意書を提出した記憶があるという方は、学校が保険に加入している可能性があります。一度、加入の有無を学校に確認してみてください。
学校が保険に加入していれば、学校で怪我を負った子どもの保護者は保険を利用することが可能です。
給付金の3つの種類
災害共済給付金制度において、給付金は医療費・障害見舞金・死亡見舞金の3つに分類されます。
「医療費」は、療養のために負担した費用のことです。自己負担割合である3割に療養に伴って要する費用として1割を加算した金額が給付されます。
次に、「障害見舞金」とは、怪我により障害が残った場合に給付されるものです。障害は、その症状に応じて等級が分かれています(第1級~第14級)。
そのため、障害見舞金として具体的に給付される金額も障害の等級によって異なります。たとえば、もっとも症状の軽い第14級では88万円であるのに対し、もっとも症状の重い第1級では4,000万円です。
最後に、「死亡見舞金」は怪我により死亡してしまった場合に給付されます。具体的な給付額は、3,000万円です。
具体的な給付の対象や、給付を受けるための手続きについては『学校で起きた事故で怪我をした場合に利用できる保険は?』の記事をご覧ください。
給付金では不十分な部分は損害賠償請求
災害共済給付制度による給付金には上限額が設定されているので、生徒側の被害額すべてを補てんしてくれるわけではありません。
なかでも重い後遺障害が残ったり、お子さんを亡くされた場合には、災害共済給付制度の給付金だけでは十分な補償が受けられない可能性があります。
そこで、事故の原因次第では、学校や教員への損害賠償請求も視野に入れるべきでしょう。
まずは学校側との話し合いから始まることが多いです。そのとき、学校側から提案された示談案の判断をするには、どういった内容について、どれくらいの算定額になるのか、被害側も知っておく必要があります。そういった場合には、あらかじめ弁護士に相談・依頼をして、損害賠償請求額を見積もっておくことが大切です。
学校事故におけるトラブルは弁護士に相談しよう
学校事故が起きると、場合によっては学校側との話し合いが必要となります。双方の言い分が食い違うなどして解決に至らない場合、裁判に発展する可能性すらあるのです。
そのため、以下のような事態を想定して、早期に弁護士に相談することをおすすめします。
裁判に発展する可能性がある
生徒の怪我が教職員の過失による場合であっても、学校や教職員が非を認めないケースもあります。このような場合、学校側と話し合いを続けても埒があかないため、裁判を起こすことも検討しなければなりません。
裁判になれば、教職員における過失の有無や学校側の安全配慮義務違反の有無などを争っていかなければなりません。そのためには、法律の知識や経験があることが必須となります。
この場合、学校側にも弁護士がつくことが通常であるため、早いうちから弁護士に相談・依頼しておくことで、適切な対策を講じることが可能になるのです。
特に、死亡事故では請求できる金額が高額になる傾向があります。適切な主張を行うためにも、弁護士への依頼が欠かせないでしょう。学校を訴えたいと考えてる方は、以下の関連記事も参考にしてください。
後遺障害が残った場合には等級認定申請手続きを行う必要がある
怪我により後遺障害が残ったとして、学校側に対して損害賠償を請求したり、災害共済金給付制度を利用したりする場合、後遺障害について等級認定を受ける必要があります。
認定される等級によって、損害賠額や障害見舞金として給付される額に違いが出るため非常に大切な手続きです。
しかし、申請時に提出を求められる書類は多岐にわたっており、手続き自体も簡単なものではありません。
そのため、納得のいく等級認定を受けるためには弁護士などの専門家によるサポートが有効です。
無料の法律相談はこちらからご連絡ください
学校の体育活動中に起きた事故で、お子さまに重い後遺障害が残ったり、亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
- 重い後遺障害が残ってしまい、どう対応していいかわからない
- 学校側から示談案を提案されているが、内容についてどう判断してよいかわからない
このような今度の対応についてもアドバイスを受けられる可能性があります。
弁護士への相談を検討されている方は、以下のフォームより法律相談のご予約をお取りください。
法律相談は無料ですし、法律相談を利用したからといって契約を迫ることはありませんので、「法律相談をしてから契約を考えたい」という方にも安心してご利用いただけます。一度気軽にご連絡ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了