介護施設における入浴事故に対する損害賠償|請求できるケースとは | アトム法律事務所弁護士法人

介護施設における入浴事故に対する損害賠償|請求できるケースとは

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介護施設における入浴事故の損害賠償請求

介護施設で発生する入浴事故にはどのようなものがあるのか、入浴事故が起きた時に利用者はどうすればよいのでしょうか?

介護施設には利用者に対する安全配慮義務があり、安全配慮義務違反があれば過失が認められ、損害賠償の対象となります。
ただし、利用者側にも過失があれば過失相殺され、損害賠償額が減少する可能性があることに注意が必要です。

この記事では、介護施設における入浴事故の具体例と対策、介護施設に対する損害賠償請求のポイントなどについて解説します。

介護施設における入浴事故の具体例

介護施設では利用者の状況に合わせて、入浴介助がおこなわれることがあります。
介護施設における入浴事故の具体例には以下のようなものがあります。

  • 浴室内の転倒
  • 浴槽内での溺死や溺水
  • ヒートショック

具体的な状況や事故が起こる要因について解説します。

浴室内での転倒

浴室内の転倒は、身体を保護するものを身に付けていないため、注意が必要な事故です。

浴室の床が濡れていることが多いため滑りやすく、せっけんなどに足をとられてしまうことも予想されます。
また、足腰の弱い高齢者の場合、介助を受けて歩行していても身体のバランスを崩しやすいです。

転倒事故が発生する要因としては、介護者が目を離している間に自分で立ち上がろうとしたり、車椅子で不安定な姿勢を取ってしまったりする場合があるようです。

浴槽内での溺死や溺水

健康な人が浴槽内で溺死したり溺水したりすることは、あまり考えられません。

しかし、高齢者は湯船に顔をつけて身体を起こせなかったり、意識がもうろうとして湯船に顔をつけてしまうことが考えられます。介護施設内での溺死や溺水も、介護者が目を離した短時間の間に発生することが多いようです。

ヒートショック

ヒートショックとは、血圧の上昇と低下を繰り返すことで心臓に負担がかかることです。

暖かい場所から冷たい浴室に移動することで血管が収縮し血圧が上昇しますが、湯船につかると血管が広がるため血圧が低下し、ヒートショックが発生しやすくなります。
そのため、温度差のある場所へ移動することが多い冬季では、ヒートショックが原因で死亡する危険性が高くなるのです。

介護施設における入浴事故の裁判例

ここからは介護施設で起こった入浴事故について、入浴介助中の骨折事故、浴槽内での死亡事故に関する裁判例を紹介します。

入浴介助中の骨折事故

住居型有料老人ホームを利用していた高齢女性は、施設職員に入浴介助を受けていました。セーターを脱がせようと腕を挙げた際に上腕骨を骨折してしまったのです。

裁判所は、女性が91歳と高齢だったこと、要介護5の認定を受けていたなどの状況を踏まえ、施設職員の注意義務違反を認めました。骨折は入浴介助中の過失によって起こったとして、入通院慰謝料、入院費用、後遺障害慰謝料などを一部認めたのです。(東京地方裁判所 平成28年(ワ)第9813号 損害賠償請求事件 平成29年8月25日)

高齢者は、若い人と比べて骨がもろかったり、関節が動かしづらい場合があり、骨折につながる恐れがあります。骨折してしまった原因が介護施設側の落ち度によるとき、損害賠償請求が認められる可能性があるでしょう。

介護施設の浴槽内での死亡事故

介護老人保健施設に入所していた高齢者が、施設内の浴室ある浴槽を42度前後の湯で満たし、相当時間身を沈めた結果、心肺停止状態に陥って死亡してしまいました。利用者はほぼ完全に水没した状態で発見され、死因は溺死ではなく致死的不整脈疑いとされたのです。

裁判所は、当時の浴室内の気温と浴槽の温度差から不整脈につながった可能性を指摘しました。そして、施設管理が不十分であったという施設管理義務違反などを認め、死亡慰謝料、葬儀費用等の一部を認定したのです。(岡山地方裁判所 平成21年(ワ)第223号 損害賠償請求事件 平成22年10月25日)

この裁判例からもわかるように、入浴設備を適切に管理することも介護施設に求められるポイントです。もっとも、高齢者の徘徊で事故が起こったとき、どこまで介護施設に責任を問えるのかはケースバイケースといえます。

介護事故における損害賠償請求のポイント

介護施設で入浴中にケガや病気、死亡した場合、介護施設に対して損害賠償請求が可能です。

介護施設側には利用者に対する安全配慮義務があります。この安全配慮義務に違反があったのであれば介護施設側に過失が認められるため、損害賠償請求が可能となるのです。
一方、利用者側にも過失があったと認められる場合には、過失相殺され請求できる損害賠償額が減額される場合があります。

損害賠償請求できる項目

介護事故で請求できる主な損害賠償の項目は以下の通りです。

  • 治療費
    処置費用、手術費用、入院費用などの治療に必要な費用
  • 通院交通費
    通院するために発生した交通費
  • 入院雑費
    入院中の日用雑貨や通信費用など
  • 逸失利益
    事故によって後遺障害や発生したり死亡したために将来得られたはずの収入が得られなくなるという損害
  • 入通院慰謝料
    治療を行うために入院や通院を行うという精神的苦痛に対する慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
    後遺障害が生じたという苦痛に対する精神的慰謝料
  • 死亡慰謝料
    死亡したという精神的苦痛に対する慰謝料

実際にどのような内容の請求が可能であり、具体的な金額がいくらになるのかについては、専門家である弁護士に確認を取りましょう。

介護施設側の安全配慮義務違反

介護施設側には、利用者が事故を起こさないようにするという安全配慮義務があります。

安全配慮義務に違反しているかどうかは、事故発生の予見可能性と結果回避可能性から判断を行います。
つまり、介護施設側が事故の発生について予見することが可能であり、事故の発生という結果を回避するために必要な措置を講じなかったのであれば、安全配慮義務違反があるために過失の発生が認められるのです。

入浴事故においては、利用者が入浴中に転倒するのではないか、あるいは湯船で溺死や溺水するのではないか、ヒートショックが発生する可能性はないかなどを介護施設が予見できたことが必要になります。

そして、予見できる事故に対して、事故が発生しないように努力をするなどの対応も必要です。入浴中であれば、転倒しないように介助する、溺水しないように見守る、ヒートショックをおこさないように浴室内の温度調節を行うなどの対策が介護施設に求められます。

介護施設が適切な準備や防止措置を怠ったために事故が発生したと判断できる場合は、安全配慮義務が認められるでしょう。

介護施設側に安全配慮義務違反が認められないこともある

一方、事故を予見することが不可能な状況や、事故を予見していても回避できない状況の場合は、介護施設側には安全配慮義務違反がなく、過失も認められないと判断される可能性があります。
介護施設側に過失が認められない場合には、不法行為がないので損害賠償請求は認められません。

事故の発生を予見することができたのかどうかや、適切な措置がなされていたのかどうかについては、利用者の要介護の程度、利用者本人や家族からの介護方法に関する希望、介護施設内で過去に生じたトラブルの事例などを考慮して判断されます。

利用者側に過失があるなら減額となる

入浴中の過失は、介護施設側だけでなく、利用者側にも発生する可能性があります。利用者側の過失とは、立ち上がらないように指示していたにもかかわらず自分で行動した、既往症があるにもかかわらず適切に申告していなかったといったケースがあるでしょう。

また、介護施設側に過失があるために損害賠償責任が発生する場合でも、利用者側にも過失がある場合には、利用者側が請求できる損害賠償額が減額される可能性があります。(民法722条2項)

また、利用者に既往症があり、事故の発生に影響する場合には、損害賠償額を算定する際に考慮される場合があります。

利用者側の過失や既往症によりどの程度の減額が生じるのかは明確な基準がないため問題となりやすい部分です。
そのため、減額の程度に納得がいかないのであれば、専門家である弁護士に検討してもらうことをおすすめします。

増加する高齢者の入浴中の事故

高齢者の入浴中の事故は増加傾向にあり、交通事故を上回っています。また、冬季に集中しているため、脱衣所や浴室の温度に注意が必要です。

高齢者の入浴中の死亡者の推移

2009年から2019年における、不慮の溺死及び溺水、家・居住施設の浴槽の死亡、交通事故の死亡者数の推移は以下の通りです。

不慮の溺死及び溺水

件数
2009年4,963
2015年6,399
2016年6,738
2017年7,216
2018年7,088
2019年6,901

家・居住施設の浴槽の死亡者数

件数
2009年3,257
2015年4,465
2016年4,814
2017年5,176
2018年5,072
2019年4,900

交通事故の死亡者数

件数
2009年3,789
2015年3,187
2016年3,033
2017年2,883
2018年2,646
2019年2,508

不慮の溺死及び溺水については、2009年の4,963件から2019年の6,901件と、約39%増加しています。家・居住施設の浴槽の死亡者数については、2009年の3,257件に対して2019年は4,900件なので約50%の増加です。

一方、交通事故については、2009年には3,789件でしたが、2019年には2,508件と約34%減少しています。

入浴中の死亡事故は冬季に集中

高齢者の不慮の溺死及び溺水の、2019年の月別の死亡者数は以下の通りです。

高齢者の不慮の溺死および溺水による死亡者数(2019年)

件数
1月937
2月624
3月509
4月455
5月286
6月166
7月134
8月100
9月98
10月234
11月458
12月737

最も多い月は1月で937件、次いで多い月は12月で737件となっています。
一方、最も少ない月は9月で98件、次いで少ないのは8月で100件です。

入浴中の事故を防ぐポイント

入浴中の事故を防ぐポイントを以下に例示します。

  • 入浴前に脱衣所や浴室を暖めておく
  • 湯温は41度以下にし、長時間の入浴は避ける
  • 浴槽からはゆっくり立ち上がる
  • 食後や飲酒後の入浴は避ける

入浴時には、できるだけ身体に負担のかからない方法を採る必要があります。介護施設側でも、こういったポイントを押さえた入浴介助が行われていたのかなど、事実に基づく検討が必要です。

入浴事故が起きたら弁護士に相談

弁護士に相談してアドバイスをもらおう

介護施設において入浴事故が起きた場合には、介護施設に対する損害賠償請求も検討するべきです。

しかし、介護施設に安全配慮義務違反があるのか、利用者側の過失を原因としてどの程度減額を行うべきなのかという点については、法的知識が必要となります。

また、損害賠償請求を行うのであれば介護施設との交渉や裁判を行うことになりますが、適切な交渉や裁判手続きを行わないと、希望する損害賠償金を得られない恐れがあるのです。

弁護士に相談すれば、どのような主張を行うべきなのかや、必要な証拠の収集方法などについてアドバイスを受けることができます。
また、弁護士に依頼すれば、介護施設との交渉や裁判の手続きを代わりに行ってくれるのです。

弁護士に相談・依頼することで生じるメリットを詳しく知りたい方は『介護事故で弁護士に相談・依頼する代表的なメリット』の記事をご覧ください。

アトムの弁護士による無料相談

入浴事故によって、ご家族を亡くされたり、重い後遺障害を負われた場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。無料相談なので、費用の負担を気にせず介護施設に対する今後の対応について相談することが可能です。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了