株の相続で名義変更が必要な理由と手続きの流れ|必要書類や費用も解説

親や配偶者が亡くなった後、遺産の中に株式や投資信託が含まれているとき、「どうやって自分の名義に変えればいいのだろう」と戸惑う方は少なくありません。
不動産の名義変更とは違い、証券会社を通じた独自の手続きが必要になるため、初めての方には複雑に感じられることもあります。
この記事では、株式(上場株式)・投資信託・証券口座の名義変更について、手続きの流れ・必要書類・費用・期限を一度にわかりやすく解説します。
「とにかく何から始めればよいかを知りたい」という方は、ぜひ最初から読み進めてください。

目次
株の相続で名義変更が必要な理由
被相続人(亡くなった方)名義の株式は、相続が発生した時点で相続人が権利を引き継ぎますが、名義が被相続人のままでは株式を売却することも、配当金を実際に管理・受領することも実務上困難になります。
また、証券会社は口座名義人が死亡したことを確認した後、その口座を凍結する(取引を停止する)ため、速やかに手続きを進める必要があります。
株式名義を変更しない場合に考えられるリスクは、以下の通りです。
| 放置した場合のリスク | 具体的な影響 |
|---|---|
| 株式の売却ができない | 相場が動いても換金できず、損失リスクが続く |
| 配当金・分配金の受領が困難になる | 配当金は被相続人宛に支払われることが多いため、受取方式や金融機関の取扱いによっては相続手続きが完了するまで払戻し等に制約が生じる |
| 手続きが複雑になる | 時間が経つほど必要書類の収集が難しくなる場合がある |
| 相続税申告に影響する可能性 | 保有資産の把握や残高証明書の取得に時間を要し、相続税申告の準備が遅れる可能性あり |
名義変更は「できれば早めに済ませたい手続き」ではなく、遺産を適切に管理・活用するために避けられないステップです。
株の相続による名義変更手続きの流れ
上場株式(証券取引所に上場している株式)の名義変更は、故人が口座を持っていた証券会社(または、特別口座の場合は信託銀行等の特別口座管理機関)を通じて行います。不動産のように法務局へ申請するわけではありません。
(1)証券会社へ死亡の連絡をする
まず、被相続人の口座があった証券会社に、名義人が死亡した旨を連絡します。
連絡後、証券会社は口座の取引を停止し(凍結)、相続手続き専用の窓口案内または必要書類の一覧を送付してくれます。なお、取引停止のタイミングや対応は証券会社によって異なります。
口座がどこにあるか不明な場合 被相続人が利用していた証券会社がわからない場合、郵便物・通帳・確定申告書・ネットのブックマーク履歴などを手がかりに探しましょう。
「ほふり(証券保管振替機構)」には相続人等が一定の書類を提出して情報開示を請求できる仕組みがあり、上場株式の保有状況を調査する手がかりになります。
ただし、取得できる情報の範囲や要件・手数料があるため、詳細はほふりの案内に従って確認が必要です。
(2)株式を相続する人を決める
被相続人が有していた株式が判明したのであれば、その株式を相続する相続人を決めます。
被相続人が遺言を残している場合は、遺言の内容に沿って株式の相続人を決めましょう。
遺言書がない場合は、法定相続人間の協議により、誰が株式を相続するのかが決まります。
(3)相続人の証券口座を開設する|未開設の場合
名義変更は、被相続人の口座から相続人が持つ口座へ株式を振り替える形で行われます。
相続人がまだ証券口座を持っていない場合は、同じ証券会社か別の証券会社で口座を開設しておく必要があります。
証券会社によっては他社口座への移管ができない場合があるため、その場合は被相続人と同じ証券会社に口座を新規開設しましょう。
(4)必要書類を準備して提出する
証券会社に指定された書類を揃えて提出します。必要書類の詳細は後述しますが、遺言書の有無や遺産分割協議の状況によって異なります。
(5)証券会社による審査・株式の振替
書類審査が完了すると、被相続人の口座から相続人の口座へ株式が振り替えられます。
書類に不備がなければ数週間程度で完了することもありますが、相続人の数や遺産分割の状況・書類の内容によっては1か月以上かかる場合もあるでしょう。
証券会社や案件の内容によって期間は大きく異なります。
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【補足】非上場株式のケース
非上場株式の場合は、株式が証券取引所に上がっていないため、株式を発行している企業に株式の名義変更の連絡を行う必要があります。
株式を相続するために必要な書類や手続きについて、会社独自のルールが存在する可能性があるので、どのような書類や手続きが必要となるのかについては、事前に会社に確認しておくとよいでしょう。
株の相続による名義変更に必要な書類一覧
必要書類は、遺言書があるかどうかと遺産分割協議の有無によって変わります。以下の表を参考に、自分のケースに当てはまるパターンを確認してください。
共通で必要な書類
どのケースでも基本的に求められる書類は以下のとおりです。
| 書類 | 取得場所・備考 |
|---|---|
| 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本 (死亡の事実が確認できる除籍謄本を含む)※ | 市区町村役場 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 市区町村役場 |
| 相続人の印鑑証明書(有効期間は証券会社の取扱いによる。発行から3か月以内を求めるケースが多い) | 市区町村役場 |
| 証券会社所定の相続手続依頼書 | 証券会社から取得 |
※法定相続情報一覧図で代替可
非上場株式の場合には、これらのほかに必要となる書類がないかどうか確認するとよいでしょう。
遺言書がある場合
被相続人が遺言書を残している場合は、以下のような書類も必要となります。
| 追加書類 | 備考 |
|---|---|
| 遺言書(原本) | 公正証書遺言/自筆証書遺言(検認済みのもの) |
| 遺言執行者の印鑑証明書 | 遺言執行者が指定されている場合 |
被相続人が自筆証書遺言を残していた場合は、法務局で保管されていなかったのであれば家庭裁判所での検認手続きが必要です。
検認前の遺言書は原則として使用できないため、先に検認を済ませておく必要があります。
遺産分割協議書がある場合(遺言書なし)
被相続人が遺言を残しておらず、相続人間の遺産分割協議により誰が株式の相続をするのかが決まった場合は、以下のような書類も必要です。
| 追加書類 | 備考 |
|---|---|
| 遺産分割協議書(相続人全員の実印あり) | 株式の記載があること |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 協議書に押印したものと同じ印鑑 |
法定相続分通りに株式の相続を行う場合には、上記のような書類なしでも十分な場合が多いです。
ただし、証券会社所定の手続依頼書には相続人全員の署名・実印の押印と、全員分の印鑑証明書が必要になります。
株の相続による名義変更にかかる費用・手数料の目安
株式の名義変更にかかる費用は、証券会社に支払う手数料と、書類取得にかかる実費に分けられます。
証券会社への手数料
多くの証券会社では、名義変更(相続手続き)自体の手数料は無料です。ただし、株式を売却する場合は通常の売買手数料がかかります。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 相続に伴う名義変更手数料 | 基本的に無料(証券会社による) |
| 株式売却時の取引手数料 | 証券会社・取引金額によって異なる |
ほふり(証券保管振替機構)に対する開示請求を行う場合の開示費用は、1件につき6,050円となります。
書類取得の実費
名義変更のために必要となる書類を取得する際にかかる費用(実費)の金額は、以下の通りです。
| 書類 | 費用の目安 |
|---|---|
| 戸籍謄本(1通) | 450円 |
| 除籍謄本(1通) | 750円 |
| 改製原戸籍謄本(1通) | 750円 |
| 印鑑証明書(1通) | 300円前後 |
| 法定相続情報一覧図の認証 | 無料(法務局) |
戸籍謄本は被相続人の出生から死亡までの連続したものが必要なため、複数の市区町村から取り寄せるケースも多く、実費だけで数千円になることもあります。
専門家に依頼する場合の費用
株式の名義変更を含む相続手続きを税理士・司法書士・弁護士などの専門家に依頼する場合は、別途報酬が発生します。
相続手続き全般のサポートを依頼する場合の費用感は事務所によって異なりますが、株式の名義変更のみを単体で依頼するよりも、遺産分割協議書の作成や相続税申告とまとめて依頼する方がトータルコストを抑えやすい傾向があります。
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投資信託・証券口座の名義変更
株式以外に投資信託や証券口座が遺産に含まれている場合も、基本的な流れは上場株式の名義変更と同様です。ただし、いくつかの点で注意が必要です。
投資信託の名義変更の特徴
投資信託は株式とは異なり、相続後に換金(解約または売却)して現金で受け取るケースが多くあります。
投資信託を現物のまま相続人名義に移管することも可能ですが、商品によっては受け入れを制限している場合もあるため、証券会社や銀行に事前確認が必要です。
また、投資信託を保有している口座が銀行の窓口で開設したものの場合、手続きは銀行の相続窓口を通じて行います。
証券会社と銀行では手続きの書式や必要書類が異なる点に注意しましょう。
証券口座(MRF・MMF含む)の扱い
証券口座には株式や投資信託だけでなく、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)やMMF(マネー・マーケット・ファンド)などの短期運用商品が含まれている場合もあります。
これらも相続財産として名義変更または換金の手続きが必要です。
証券口座内の資産をすべて洗い出し、漏れなく手続きを進めることが重要です。
株の相続による名義変更の期限と注意点
名義変更自体に法定期限はない
株式や投資信託の名義変更について、法律で定められた期限(法定期限)はありません。
ただし、前述のとおり名義変更を放置すると株式の売却や配当受取ができなくなり、実務上の不利益が生じます。
また、相続税の申告・納付期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)とは別物であることも押さえておいてください。
相続税申告の期限との関係
株式の名義変更を行わなくても、期限内に相続税の申告が必要です。
申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)までに名義変更が完了していなくても、申告自体は可能ですが、名義変更が遅れると評価額の確認や資産の把握に時間がかかり、申告作業が滞るリスクがあります。
税理士など専門家に相続税申告を依頼する場合も、名義変更手続きと申告準備は並行して進めるのが望ましいでしょう。
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相続税の申告期限はいつまで?10か月の計算方法と遅れた際のリスク
相続放棄の期限にも注意が必要
相続放棄を検討している場合は、期限内に相続放棄の申述を家庭裁判所に行う必要があります。
相続放棄には自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間)という期限があります。
株式を受け取るかどうか迷っている間に期限が過ぎてしまわないよう、早めに方針を固めることが重要です。
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株の相続による名義変更と相続税の関係
株の名義変更により相続税は生じない
亡くなった家族の株式の名義変更をしたからといって、その手続き自体に相続税がかかるわけではありません。
株式の名義変更は、相続によって取得した株式の名義を、実際の所有者に合わせるための手続きです。
相続税は「名義変更したかどうか」ではなく、亡くなった時点でその株式が相続財産に含まれるかどうかで判断されます。
たとえば、亡くなった人が株式を持っていた場合、その株式は相続財産に含まれます。
名義変更をまだしていなくても、相続によって取得した財産として扱われ、遺産総額が基礎控除額を超えれば相続税の対象になる可能性があるのです。
国税庁も、相続や遺贈で取得した財産の価額の合計額が基礎控除額を超える場合、相続税の課税対象になると説明しています。
株式の評価額はいつの時点で計算するのか
上場株式の相続税評価額は、以下の4つのうち最も低い価額を使用します。
- 相続があった日の終値
- 相続があった月の毎日の終値の平均額
- 相続があった月の前月の毎日の終値の平均額
- 相続があった月の前々月の毎日の終値の平均額
名義変更が完了した時点の株価ではないため、株価が大きく変動していたとしても評価額の計算方法は変わりません。
評価額の算定方法や相続税の計算については、以下の記事で詳しく解説しています。
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株式の相続税はいくらかかる?上場・非上場株式の評価額と計算方法を解説
準確定申告の必要性に注意
被相続人が生前に株式の売買によって利益を得ていた場合には、準確定申告が必要となる可能性があります。
準確定申告とは、年の途中で亡くなった方(被相続人)について、1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続人が代わりに所得税の確定申告と納税を行う手続きです。
確定申告が必要な方が亡くなった場合でも、その年の所得税の申告義務が残るため、相続人により確定申告手続きとして準確定申告を行う必要があります。
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
相続人が複数人いる場合には、基本的に共同で申告を行ってください。
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準確定申告とは?期限・必要な人・誰がどこでやるかをわかりやすく解説
名義変更手続きでよくあるミスと注意点
名義変更手続きでよくあるミス一覧
相続手続きにおける、株式の名義変更を行う場合によくあるミスとしては、以下のようなものが考えられます。
| よくあるミス | 対策 |
|---|---|
| 証券口座の存在に気づかなかった | 郵便物・確定申告書・通帳を全件確認。ほふりへの開示請求も活用する |
| 相続人の口座を同じ証券会社に開設しなかった | 証券会社によっては同一社内でないと移管できないケースがある |
| 遺産分割協議書に株式の記載が漏れていた | 「その他一切の財産」という記載で対応できる場合もあるが要確認 |
| 自筆証書遺言の検認を忘れていた | 手続き前に家庭裁判所で検認を完了させる |
| 書類の有効期限が切れた状態で提出した | 印鑑証明書などの有効期間は証券会社の取扱いによる(発行から3か月以内を求めるケースが多い) |
| 複数口座のうち一部を見落とした | 証券口座は複数社にまたがっていることがある。全口座を把握してから手続きを始める |
複数の相続人がいる場合の注意点
相続人が複数いる場合、株式をどのように分けるかを遺産分割協議で決める必要があります。
株式は株数で配分することができますが、端数が生じる場合や相続人間の評価・調整が必要な場合もあるため、以下のような方法から選択することになります。
- 相続人の一人が取得して代償金を払う
- 売却して現金化し分配する
- 株数で配分する(単元未満株が発生する場合は売却や買取請求等を検討する)
- 複数人で共有する(後の管理が複雑になるため注意)
早い段階で相続人間の合意形成を進めることが、手続き全体のスムーズな進行につながります。
株の相続による名義変更は早めに動くことが大切
株式・投資信託・証券口座の名義変更手続きを整理すると、以下のとおりです。
- 名義変更は証券会社を通じて行う。不動産のように法務局へ申請するわけではない
- 手続きには被相続人・相続人の戸籍謄本、印鑑証明書、遺言書または遺産分割協議書(状況による)などが必要
- 証券会社への名義変更手数料は多くの場合無料。書類取得の実費が数千円かかる
- 名義変更の法定期限はないが、相続税申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)までに名義変更と申告準備を並行して進めるのが現実的
- 名義変更自体が新たな課税原因になるわけではない。株式の評価は相続開始日の最終価格(終値)の月平均額を比較し、最も低い金額を使用する
手続きが多く、書類の収集だけでも手間がかかります。
「何から手をつければよいかわからない」「相続税の申告も合わせて対応してほしい」という場合は、相続に詳しい税理士や弁護士への相談を検討してみてください。

監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士
