抵当権つきの不動産を相続するときの注意点は?相続税に影響はある?

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抵当権つき不動産

・不動産に設定される抵当権ってなに?
・抵当権が設定されていると相続税評価に影響はある?
・抵当権が設定されている不動産がある場合は相続放棄すべき?

抵当権とは、お金を借りる側である債務者の返済が滞った場合に、お金を貸した債権者が、担保物件などを売却して債権を回収できる権利です。

それでは、抵当権が設定された不動産を相続した場合、抵当権や、不動産の相続税評価はどうなるのでしょうか。

この記事では抵当権が設定された不動産を相続するときの注意点や、相続税への影響について解説します。

抵当権について

抵当権とは

抵当権とは、債務者の返済が滞った場合に、債権者が担保物件などを売却して未返済額を回収できる権利です。

たとえばあなたが住宅ローンを利用して家を購入するとき、この場合の債権者である銀行などの金融機関は、あなたが購入する家や土地に抵当権を設定します。万が一あなたの返済が滞ってしまったら、購入した家や土地が差し押さえられ、競売にかけられてしまい、その売価を金融機関が取得する、といったイメージです。

抵当権が及ぼす相続税評価への影響

抵当権の有無は、相続する不動産の相続税評価に影響しません

抵当権がついていても不動産の相続税評価額は減額されず、本来の相続税評価額がそのまま用いられます。

抵当権のような債務がついている不動産は消極財産といわれています。相続税上、借入金などの債務は控除されますが、抵当権が設定されている不動産は通常の不動産と同じく課税対象となります。

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抵当権の有無を確認する方法

相続する不動産に抵当権が設定されているかどうかは、登記簿謄本で確認できます。登記簿謄本は法務局の窓口で取得できるほか、郵送やオンラインでの請求も可能です。

登記簿謄本の中の、「権利部(乙区) 登記の目的」という欄に「抵当権の設定」という記載があれば抵当権が設定されていることになります。すでに完済しており、抵当権も抹消されている場合には、「権利部(乙区) 登記の目的」の欄に「抵当権抹消」と記載されています。

なお、不動産に抵当権が設定されていた場合に記載がある「債権額」は、抵当権設定時に、その不動産がいくらの債務を担保しているかを示しています。基本的にはその後、債務者が決められたペースで返済を進めているため、相続人が返済しなければいけない金額は、記載されている債権額よりも少ない金額であることが多いです。

抵当権つきの不動産を相続するときの注意点

不動産を相続していない法定相続人にも返済義務がある

抵当権がつけられている不動産と、その不動産に関する住宅ローンなどの返済義務は、別個の財産として取り扱われます。住宅ローンの返済義務などの消極財産については、債権者という相手先があるため、相続人同士の遺産分割協議により負担割合を決めることができません。

すなわち、不動産を相続していない法定相続人にも返済義務が生じることになります。自分が相続していない不動産の、返済義務だけを負うわけですから、不公平だと感じる法定相続人も少なくないでしょう。

こういった場合には、金融機関との協議で返済義務を相続人一人に設定してもらうことができます。一般的には不動産を相続する相続人に返済義務を設定することで、不公平感の解消を図ります。

住宅ローンの場合は、団体信用生命保険に加入しているか調べる

抵当権で担保されている債務が住宅ローンのみで、亡くなった方が団体信用生命保険に加入していた場合は、保険会社から債権者の金融機関などに住宅ローンの残額が直接支払われます

団体信用生命保険とは、住宅ローンの利用者が死亡または所定の高度障害状態になったときに、債務の残高相当分が保険会社から住宅ローンの債権者の金融機関に直接支払われるというものです。一般の生命保険のように、保険金が相続人に支払われ、それを住宅ローンの返済に充てるというわけではないため、団体信用生命保険の保険金が相続税の課税対象になることはありません。

住宅ローンが完済され債務がなくなれば、抵当権も消滅するため、相続人に債務の負担がかかることもなくなります。

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オーバーローンの不動産の相続について

不動産につけられている市場での評価額よりも、住宅ローンの方が高額な場合には、相続放棄の選択も視野に入ってきます。

相続放棄とは、被相続人の所有していた財産すべての相続を放棄することをいいます。そのため、家と土地は相続して、住宅ローンは放棄する、といった選択はできません。もちろん不動産や住宅ローンだけではなく、預貯金などの財産を相続することもできなくなります。

また、限定承認という選択肢もあります。

限定承認とはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐことをいいます。今回の不動産と住宅ローンを例にすると、「相続したプラスの財産で住宅ローンを返済後、まだプラスの財産が残っていれば、残りのプラスの財産を相続できる」といった制度です。

なお、相続放棄と限定承認は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、被相続人が住んでいた地域の家庭裁判所に申請をする必要があります。(民法915条)

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抵当権の抹消

借金の完済

抵当権を抹消するためには、まずは借金をすべて返済する必要があります。相続放棄などを選択せず、抵当権が設定された不動産を相続した場合には、相続人が借金を完済しなければなりません。

登記上の抵当権の抹消

借金を完済したら、次は登記上の抵当権を抹消します。

なお、相続した抵当権つきの不動産に関しても、すでに借金が完済されているのに、登記上の抵当権が残ってしまっているケースがあります。その場合も登記上の抵当権の抹消手続きをする必要があります。

抵当権の抹消手続きは司法書士などの専門家に依頼して行うほか、ご自身での手続きも可能です。ご自身で手続きする場合の抹消手続きの詳細は、『法務局|住宅ローン等を完済した方へ(抵当権の登記の抹消手続のご案内)』をご覧ください。

借金を完済した時点で抵当権の効力はなくなるため、登記上で残っていたとしても、抵当権を行使して家や土地が競売にかけられることはありません。抵当権の抹消手続きをしなかったからといって、なにか不利益が起こる可能性は低いといえます。

しかし、たとえば不動産を売却する際に、購入を検討している人からまだ借金が残っていると判断され、購入を見送られてしまうおそれなどはあります。また、抵当権を抹消したいと思ったときに、債権者である金融機関が合併していたり、相続により抵当権の設定や債務返済の経緯が不明瞭になってしまう可能性もあります。

そのため、抵当権の抹消手続きは気がついた時点で早めにするようにしましょう。

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まとめ

相続した不動産に抵当権がついていても不動産の相続税評価額には影響がなく、評価額が減額されるわけでもありません。

そのため、抵当権がついている不動産を相続するとマイナスの財産の方が大きくなってしまうおそれがある場合には、限定承認や相続放棄の検討をする必要もあります。

不動産の相続自体が複雑なものであり、加えて抵当権が設定されているとなると、相続する財産の全体像を把握するだけでも一苦労です。

不動産の相続を考えている方は、日常生活を行いながらスムーズに相続を進めるためにも、一度、相続問題に強い専門家に相談してみてください。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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