住宅購入資金の生前贈与|非課税制度の要件や手続き、注意点を解説
住宅購入資金の生前贈与で活用できる非課税制度には、「父母・祖父母が子・孫へ贈与する際に使える非課税制度」と、「20年以上の婚姻期間がある夫婦が使える非課税制度」があります。
しかし、非課税だと思っていても贈与税以外の税金が発生したり、用途によって贈与税の対象となってしまったりすることがあります。
また、実家などを相続する際、マイホームを持っていることで相続税で不利になることもあるので、本当に住宅購入資金の生前贈与をするべきかは、慎重に検討すべきです。
この記事では、住宅購入資金の生前贈与で活用できる2つの非課税制度について、適用要件や、注意点、手続き方法などをわかりやすく解説します。
目次
住宅購入資金の生前贈与(1)子・孫への贈与での非課税制度
まずは、子・孫への住宅購入資金の生前贈与で使える非課税制度を紹介します。
最大1,000万円まで非課税|他の控除とも併用可
直系尊属(父母・祖父母)から、居住用住宅の新築や既存住宅の購入・増築などのための資金を贈与された場合には、以下の金額までが非課税です。
- 省エネ等住宅:1,000万円
- 一般住宅:500万円
※省エネ等住宅とは、以下のいずれかを満たすものを指します。
- 断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上である
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物である
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上である
この非課税制度は正式には「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」といいます(以下、住宅取得資金の非課税特例と表記します)。
住宅取得資金の非課税特例は、年間110万円の基礎控除や相続時精算課税の特別控除2,500万円、教育資金の贈与の非課税、結婚・子育て資金の贈与の非課税とも併用可能です。
なお、現行の適用期限は令和8年12月31日までとなっているため注意してください。
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「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」の適用条件
住宅取得資金の非課税特例が適用されるには、受贈者と対象となる住宅がそれぞれ条件を満たしている必要があります。
まず、受贈者の主な要件はこちらです。
- 贈与者の直系卑属(子や孫など)であること
- 贈与を受けたときに日本国内に住所を有していること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
- 贈与を受けた年の合計所得金額が原則2,000万円以下であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用家屋の新築等を行うこと
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住すること、または、同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること
次に、対象になる住宅の主な要件は以下のとおりです。
- 登記簿上の床面積が50㎡以上240㎡以下であること(ただし、贈与を受けた年の所得金額が1,000万円以下の場合は床面積が40㎡から適用可能)
- 床面積の2分の1以上が受贈者の居住用であること
- 既存住宅の場合は、新耐震基準に適合している住宅用家屋であること(なお、登記簿上の建築日付が1982年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅用家屋とみなされる)
住宅購入資金の生前贈与(2)夫婦間の贈与での非課税制度
続いて、夫婦間での住宅購入資金の生前贈与で使える非課税制度を見ていきましょう。
2,000万円まで非課税|基礎控除とも併用可
20年以上の婚姻期間がある夫婦間で、居住用不動産、または居住用不動産の取得資金を贈与された場合には、贈与税が2,000万円まで非課税になります。
この非課税制度は正式には「贈与税の配偶者控除の特例」といい、通称では「おしどり贈与」とも呼ばれています(以下、配偶者の非課税制度と表記します)。
配偶者の非課税制度は年間110万円の基礎控除と併用できます。
「贈与税の配偶者控除の特例」の適用条件
配偶者の非課税制度の適用を受けるための主な要件は、次のとおりです。
- 贈与の時点で、婚姻期間が20年以上経っていること
- 同じ配偶者との間でこの制度の適用を受けたことがないこと
- 居住用不動産の購入に充てる金銭を贈与された場合は、翌年の3月15日までにその金銭で実際に居住用不動産を取得・居住して、その後も引き続き住み続ける見込みがあること
なお、この適用を受けるには、贈与税額がゼロとなるときでも贈与税の申告書を所轄税務署に提出しなければならないので注意してください。
住宅購入資金の生前贈与における注意点・デメリット
住宅購入資金の生前贈与では多額のお金を非課税で贈与でき、一見お得です。しかし、実は以下のような形で思わぬ税金が発生したり、思っていたほど節税にならなかったりすることがあります。
- 家具購入費や余った資金は課税対象になる
- 住宅資金の生前贈与が相続税の対象になることもある
- 「小規模宅地等の特例」が使えず実家などの相続時に税金が高くなる
- 取得した不動産には不動産取得税がかかる
ぞれぞれについて詳しく確認していきましょう。
家具購入費や余った資金は課税対象になる
住宅購入資金は、住宅ローンの頭金などあくまでも住宅の購入、増改築のために使うものとされます。
したがって、家具や家電製品など住宅そのもの以外を購入するために使ったお金は、非課税制度の対象外となります。
また、生前贈与された住宅購入資金が余り、別の用途で使った場合も、非課税にはなりません。
住宅資金の生前贈与が相続税の対象になることもある
贈与者が亡くなった場合、以下の贈与は相続税の課税対象となることがあります。
- 暦年課税で死亡前3年以内に受けた贈与(税制改正により2027年1月1日から順次拡大されていき、2031年1月1日からは死亡前7年以内)
- 相続時精算課税制度を適用して受けた贈与
ただし、住宅購入資金の生前贈与では、非課税枠におさまる金額は上記に該当しても相続税は発生しません。
「小規模宅地等の特例」が使えず実家などの相続時に税金が高くなる
父母や祖父母から住宅購入資金を贈与されマイホームを持った場合、父母や祖父母の宅地を相続するときに「小規模宅地等の特例」が使えなくなります。
小規模宅地等の特例を受けられるのは、以下に該当する人です。
- 被相続人の配偶者か、被相続人と同居していた親族
- 上記に当たる人がいない場合、被相続人と別居していて、3年間以上借家に住んでいる親族
しかし、子や孫が父母・祖父母から住宅購入資金の生前贈与を受けてマイホームを持っていた場合、こうした条件に該当しないため小規模宅地等の特例が使えません。
よって、父母や祖父母の宅地を相続する際にかかる相続税が多くなってしまう可能性があるのです。
取得した不動産には不動産取得税がかかる
贈与された資金で不動産を購入すると、贈与税のほかに、不動産取得税と登録免許税が課税されます。
不動産取得税は、文字通り不動産を取得したことに対して課せられる税金です。
また、登録免許税は、取得した不動産の所有権を登記するための手続きに対して課せられる税金です。
既存住宅を取得した場合は、不動産の移転登記にかかる登録免許税の税率(2%)が相続の場合の税率(0.4%)より高くなります。
不動産取得税と登録免許税について詳しく知りたい方は、ぜひ関連記事をお読みください。
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住宅購入資金の生前贈与を非課税にする手続き
まず、子や孫が父母・祖父母から住宅資金の生前贈与を受ける場合は、「住宅取得資金の非課税特例」の適用を受けるため以下の手続きが必要です。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、この特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に以下の必要書類を添付して、所轄税務署に提出する。
- 受贈者の戸籍謄本
- 受贈者の源泉徴収票
- 登記事項証明書
- 売買契約書の写しと新築の工事請負契約書
その他、期限までに住宅に居住できないなど特別な事情がある場合や、対象の住宅が省エネ等住宅の場合は、別途所定の書類が必要。
続いて、「贈与税の配偶者控除の特例」を受けるためには以下の手続きが必要です。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、この特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に以下の必要書類を添付して、所轄税務署に提出する。
- 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の謄本または抄本
- 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
- 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
住宅購入資金の生前贈与のご相談は税理士へ
今回紹介した2つの住宅購入資金の贈与の非課税制度を利用して生前贈与を行うと、非課税内であれば贈与税がかからずに資金または居住用不動産を贈与できます。
しかし、場合によっては生前贈与ではなく相続で財産を取得した方が節税になることもあります。
もしご自身の状況にあった贈与や相続の仕方がわからないという方は、ぜひ一度税理士にご相談ください。
「両親や祖父母が元気なうちから財産や相続の話をするのは気が引ける」と思われる方もいるかもしれませんが、少しでも多くの財産を子ども・孫世代に渡すためには、税理士への相談が最も確実です。
実際に相続が始まってから「生前贈与を活用しておけばよかった」と後悔することはだれも望んでいないはずです。
また、生前贈与を受けたものの税金がいくらかかるかわからないとお困りの方や、贈与税の手続きに不安がある方も、お気軽に税理士にお問い合わせください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士