みなし贈与税がかかる9ケース|計算方法や取り消し・軽減法を解説
財産を贈与した場合に発生するのが贈与税ですが、実は贈与のつもりがなくても、実質的に贈与とみなされると「みなし贈与税」がかかります。
みなし贈与税が生じていることに気づかないままでいると、加算税まで支払うことになる場合があります。しかし、条件を満たせばみなし贈与を取り消すことも可能です。
本記事を通して、みなし贈与の概要やみなし贈与税が課税されるケース、みなし贈与税を回避・軽減する方法を確認していきましょう。
みなし贈与税とは?
まずは、みなし贈与税とはどういうものなのか、税額はいくらなのかを見ていきましょう。
意図はなくても実質的な贈与に課される贈与税
みなし贈与税とは、「当事者には贈与の認識がなくても実質的に贈与に当たる行為」が行われた際、課される贈与税です。
通常、贈与は贈与者と受贈者の契約により成り立つため、双方に「これは贈与である」という認識があります。
しかし、中にはそうした契約・認識がなくても実質的に贈与とみなされるケースがあり、この場合は「みなし贈与」として贈与税が発生するのです。
みなし贈与の基準は法律で定められておらず、みなし贈与に該当するかどうかはケースごとに、税務署が個別に判断します。
たとえば
たとえば、「社会通念上著しく低い価格で何かを売買をする」という行為は、実質的に贈与だと判断されることがあります。
自覚がないままみなし贈与税の納付が遅れるケースに注意
自覚がないままみなし贈与にあたる行為をしてしまい、みなし贈与税の支払い期限を過ぎてしまうと、加算税が課されます。
そうならないためにも、後ほど紹介するみなし贈与税が発生するケースをよく確認しておきましょう。
加算税については、『贈与税申告を忘れると無申告課算税の対象|ほかの加算税もあわせて解説』をご覧ください。
みなし贈与税の税率・計算は通常の贈与税と同じ
みなし贈与税の税率や計算方法は、一般的な贈与税と同じです。そもそも相続税法上、贈与税とみなし贈与税には区別がありません。
贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」がありますが、今回は一般的な暦年課税の税率と計算方法を解説します。
みなし贈与税の税率
みなし贈与税の税率は、以下のとおりです。
みなし贈与税の計算方法
納付すべき贈与税=(贈与財産の課税価格-110万円[基礎控除額])×税率-控除額
みなし贈与税では通常の贈与税と同じく、年間110万円の基礎控除が適用されます。また、税率も通常の贈与税と同じく10〜55%の超過累進課税です。税率と控除額は以下をご覧ください。
みなし贈与税の計算例
「1年間で、父から20歳の子どもへ500万円のみなし贈与があった場合」を例すると、みなし贈与税の計算方法は以下のとおりです。
(500万円-110万円[基礎控除額])×20%[税率]-10万円[控除額]=68万円
このケースでは特例税率が適用されるので税率は20%となり、みなし贈与税は68万円です。
みなし贈与税が課税されるケース
みなし贈与については、明確な基準が法律で定められているわけではありません。
しかし日常生活の中には、みなし贈与と判断され、みなし贈与税が課税されてしまうことが多くあります。そこで、社会通念に照らしてみなし贈与と判断されるケースを以下の9つに分けて紹介します。
- 対価を負担していない人が不動産の名義人になった
- 対価を負担していない人が非上場株式の名義人になった
- 著しく低い価額で財産を譲渡された
- 借りていたお金の返済を免除してもらった
- 債務を肩代わりしてもらった
- 代わりに税金を払ってもらった
- 共同名義で購入した不動産の持分割合と出資額が違う
- 保険料を負担していない保険の保険金を受け取った
- 離婚の財産分与で極端に多くの財産を受け取った
(1)対価を負担していない人が不動産の名義人になった
たとえば親が所有している土地の上に、親のお金1,000万円で家を建てた場合、将来相続税がかかってしまうからと家の名義を子どもにすると、みなし贈与税の課税対象になってしまいます。
これは、子どもに1,000万円を現金で贈与して、子どもが家を建築した場合と変わらないからです。親子の間で贈与の意図がなかったとしても、贈与税の対象となるので注意しましょう。
子どもや孫の住宅購入を支援したい場合には、住宅取得等資金の非課税制度を利用して贈与をおこなうことがおすすめです。
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住宅購入資金の生前贈与|非課税制度の要件や手続き、注意点を解説
(2)対価を負担していない人が非上場株式の名義人になった
資産価値のある非上場の株式を対価を得ることなく名義変更した場合も、みなし贈与と判定されます。
非上場企業は、株主が社長のみのオーナー企業も多く、社長から子どもに事業承継する親族内承継も広く行われています。その際、会社の株式についても一定の手続きを経て子ども名義に変更することがあるのです。
ただし、非上場株式については、会社の財産状況や業績により株式の評価額が0円とされる場合があります。このような場合は、贈与税の課税対象が0円であるため、みなし贈与でも税金の問題は生じません。
(3)著しく低い価額で財産を譲渡された
時価に比べて著しく低い価額で不動産や株式などの財産を譲り受けた場合は、その財産の時価と支払った対価との差額は贈与により取得したものとみなされます。これは美術品や車などの財産も同様です。
著しく低い価額は、個々の具体的事案に基づき判定されますが、実務上は「時価の80%未満」がひとつの目安とされています。これは、時価の80%未満で譲渡した際に、みなし贈与に該当するとした前例があるためです。
たとえば、親が子どもに、時価が8,000万円の土地を3,000万円で売却した場合、差額の5,000万円に対してみなし贈与税が課税されます。
(4)借りていたお金の返済を免除してもらった
借金の返済などの債務を免除してもらった場合は、贈与により経済的な利益を受けたものとされ、みなし贈与と判定されます。
たとえば、「500万円貸したけれど、返済は100万円だけで良い」と400万円の返済を免除してもらった場合は、「400万円を贈与された」とみなされて、400万円に対してみなし贈与税が課されます。
また、親から子どもに「出世払いで良い」とお金を貸して、その返済が滞った場合も、貸し借りではなく贈与だと判定され、みなし贈与税が課税されることがあります。
(5)債務を肩代わりしてもらった
消費者金融からの借入れや、奨学金などを代わりに払ってもらった場合などは、みなし贈与とされみなし贈与税が課されます。
代わりに払ってもらった金額分を贈与されるのと、同じだからです。
ただし、肩代わりしてもらった金額を返済するのであれば、みなし贈与にはならず、みなし贈与税も課税されません。
子や孫の教育資金を支援したい場合は、必要な都度贈与をおこなうか、教育資金贈与の非課税制度を利用しましょう。
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(6)代わりに税金を払ってもらった
税金を代わりに支払ってもらった場合は、代わりに支払ってもらった金額分がみなし贈与として判定されます。
直接贈与を受けたわけではないですが、このような場合にもみなし贈与税が課税されてしまいます。
なお、民法で定められている「扶養義務者(父母、祖父母など)からの必要に応じた生活費や教育費の贈与」には贈与税がかかりません。
(7)共同名義で購入した不動産の持分割合と出資額が違う
共同名義で購入する不動産の「持分割合」と「出資額」は、同じ比率にする必要があります。たとえば持分割合を1/2ずつにするには、購入資金も1/2ずつ負担しなければなりません。
しかし、以下のケースはどうでしょうか。
- 6,000万円の自宅について、親子の持分割合は2/1ずつ
- 出資額は親4,000万円、子2,000万円
持分割合に従うなら、出資額は親子それぞれ3,000万円にならなければなりません。しかし、子は2,000万円しか出資していません。
つまりこの場合、子は親から1,000万円のみなし贈与を受けたとされるのです。
(8)保険料を負担していない保険の保険金を受け取った
保険の契約者(保険料の負担者)と保険金(死亡保険金を除く)などの受取人が異なる場合は、受け取った保険金などが贈与により取得したものとみなされ、みなし贈与税が課されます。
満期保険料の受取人が契約者と異なる場合に贈与とみなされるのはもちろんですが、満期を迎える前に契約者を親から子どもなどに名義変更した場合でも、親が支払っていた金額分についてはみなし贈与と判定されます。
また、年金形式で満期保険金を受け取る場合にも、みなし贈与税が課されます。
(9)離婚の財産分与で極端に多くの財産を受け取った
通常、離婚の財産分与で受け取った金額については、贈与税の課税対象ではありません。夫婦の財産関係の清算や、離婚後の生活保障のための給付だと考えられているからです。
しかし、どちらか一方が極端に多くの財産を受け取った場合や、贈与税・相続税逃れのための離婚だったとみなされた場合には、みなし贈与税が課される可能性があります。
みなし贈与が発覚した場合の注意点
みなし贈与税が発覚した場合は、期限内に申告・納付することが重要です。また、場合によってはみなし贈与を取り消すこともできるので、確認していきましょう。
翌年2月1日〜3月15日に申告・納付する
みなし贈与を受けた場合、暦年課税であればその翌年の2月1日〜3月15日までの間に贈与税の申告・納付をしましょう。
ただし、贈与額が基礎控除額以下であれば申告・納税は不要です。
なお、みなし贈与税には通常の贈与税と同じように時効があります。しかし、税務署にバレずにみなし贈与税の時効成立を待つのは現実的ではありません。
贈与税の申告方法は、『贈与税の申告方法|必要書類や申告書の書き方、納付方法を解説』でご確認ください。
みなし贈与税の時効は6年
みなし贈与税の時効(除斥期間)は、通常の贈与と同じく「贈与税の申告期限日の翌日から6年」です。
6年が経過すると国は贈与税を徴収する権利を失い、受贈者が贈与税を納付する義務もなくなります。
はじめから脱税目的で贈与を隠し、故意に申告をしなかった場合などには贈与税の時効が7年に延長されますが、みなし贈与税は当事者に贈与の意識がないことが前提なので、時効は6年だと考えて良いでしょう。
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みなし贈与は条件を満たせば取り消せる
みなし贈与は、贈与税の申告・納付期限内に、以下の3点をすべて満たした状態で贈与者に財産を返せば、取り消すことが可能です。
- 贈与財産を処分しておらず、また担保にもしていない。
- 贈与財産について、所得税等の申告や届出をしていない。
- 贈与財産から発生した賃料収入や配当収入を受け取っていない。または受け取った金額を贈与者に支払っている
みなし贈与が取り消されれば、取り消された贈与に対する贈与税を支払う必要はありません。
なお、贈与税の申告前であるため、「贈与を取り消した」旨の申告や手続きも不要です。
みなし贈与税を回避・軽減する方法
最後に、みなし贈与税を回避・軽減する方法を解説します。
生活費や教育費として必要な都度贈与する
贈与において、父母や祖父母などの扶養義務者が、「必要な都度、直接生活費や教育費に充てるためのもの」として子や孫に金銭を贈与するのであれば、原則として贈与税は課税されません。
ただし、生活費や教育費のための贈与であっても、多額の資金をまとめて提供すると贈与税の課税対象になりますので注意しましょう。
贈与税の課税条件の例
一人暮らしの大学生に仕送りする場合
- 課税されない
- 毎月、生活費10万円を4年にわたり贈与(合計480万円)
- 課税される
- 4年分の生活費480万円を入学初日に贈与
- 毎月、生活費100万円を4年にわたり贈与(社会通念上妥当と認められない)
非課税制度を活用する|6つの制度を解説
贈与税には、非課税制度があります。みなし贈与税も同様にこれらの制度を適用できるので、具体的な非課税制度を6つ紹介します。
(1)暦年贈与の非課税枠(年間110万円)の利用
通常の暦年課税方式の贈与においては、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から110万円の基礎控除があります。つまり、受贈者が受けた贈与の合計額のうち年間110万円までは贈与税はかからず、申告も不要となっています。
暦年贈与などの生前贈与の非課税枠については『生前贈与は110万円まで非課税|制度利用で2500万円も非課税になる』の記事もご参照ください。
(2)相続時精算課税の非課税枠(累計2,500万円)の利用
60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫への贈与において、相続時精算課税制度を選択した場合には、贈与者ごとに、贈与財産の価額の合計額から累計で2,500万円の特別控除があります。
ただし、相続時精算課税制度を選択するには届出をしなければならず、また、いったんこの制度を選択すると暦年課税方式に戻すことはできません。
なお、税制改正により、2024年1月以降の贈与には、2,500万円の特別控除以外に、暦年課税と同じく毎年110万円の基礎控除が設けられました。
相続時精算課税制度は大幅な非課税枠を利用できる制度である反面、利用に際していくつか気を付けたい点も存在します。
知っておきたい相続時精算課税制度のデメリットは、関連記事『【令和6年最新】相続時精算課税制度のデメリット7つとメリット5つ』で詳しく解説していますのでぜひお読みください。
(3)居住用不動産やその取得資金の贈与における配偶者控除(2,000万円)の利用
夫婦間での一定の居住用不動産または居住用不動産の取得資金の贈与においては、婚姻期間20年以上などの一定の要件を満たす場合に、課税価格から最高2,000万円の配偶者控除を受けることができます。
この配偶者控除は、婚姻期間20年以上という条件から「おしどり贈与」とも呼ばれています。
ただし、この適用を受けるには贈与税額がゼロとなるときでも贈与税の申告をしなければならないため注意しましょう。
(4)住宅取得等資金の贈与の非課税枠(1,000万円)の利用
直系尊属から18歳以上の者への一定の住宅の新築・取得等のための資金の贈与においては、受贈者が一定の所得要件を満たす場合に、一定の金額(省エネ等住宅は1,000万円、一般住宅は500万円)まで贈与税が非課税となります。
住宅購入に使える生前贈与の非課税枠について、詳しくは関連記事『住宅購入資金の生前贈与|非課税制度の要件や手続き、注意点を解説』をお読みください。
(5)教育資金の贈与の非課税枠(1,500万円)の利用
直系尊属から30歳未満の者への教育資金の一括贈与においては、受贈者が一定の所得要件を満たす場合には、1,500万円(学校等以外への支払は500万円)まで贈与税が非課税となります。
ただし、この適用を受けるには教育資金管理契約を締結しなければならず、また、受贈者の死亡以外の事由で契約が終了した場合は、非課税拠出額の残額は贈与税の課税対象となります。
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(6)結婚・子育て資金の贈与の非課税枠(1,000万円)の利用
直系尊属から18歳以上の50歳未満の者への結婚・子育て資金の一括贈与においては、受贈者が一定の所得要件を満たす場合には、1,000万円(結婚費用は300万円)まで贈与税が非課税となります。
ただし、この適用を受けるには結婚・子育て資金管理契約を締結しなければならず、また、受贈者の死亡以外の事由で契約が終了した場合は、非課税拠出額の残額は贈与税の課税対象となります。
結婚・子育て資金の贈与の非課税枠について詳しくは、関連記事『子育て・結婚資金は1,000万円まで非課税|条件や注意点、手続きは?』をお読みください。
生前の財産の移転や生前贈与のご相談は税理士へ
本記事で解説したように、生前に財産の移転を行う場合には、意図せずともみなし贈与と判断され、みなし贈与税が課税されることがあります。
みなし贈与に当たると気づかずみなし贈与税の納付が遅れると、加算税も支払わなければなりません。
そのため、生前に高額の財産などを移転する場合は早めに税理士にご相談されることをおすすめいたします。
税理士は、税金の申告など個別具体的な税務相談に応じることができる唯一の専門家です。贈与税の申告のサポートや代行にとどまらず、節税や相続などについてもご提案させていただきます。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士