離婚後の共同親権|単独親権との違いと法改正の影響を徹底解説
離婚する夫婦に未成年の子どもがいる場合、どちらが親権者になるかは最も対立する問題の一つです。
現行民法では離婚後は必ず単独親権となります。
しかし、2024年5月17日に、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」が導入された改正民法が参議院本会議で成立しました。改正民法は2026年までに施行される予定です。
離婚を考えている方にとって、離婚後共同親権によって具体的にどのような影響が出るのか、とても不安に感じる点だと思います。
そこで、この記事では、共同親権の内容、メリット・デメリット、親権者について合意できない場合の裁判所の判断方法、親権の行使方法について、アトム法律事務所の弁護士が具体例を交えながらわかりやすく解説します。
離婚を考えておられる方にとって、大きな影響を及ぼす共同親権。この記事を読んで今後の方向性を確認するとともに、少しでも不安があれば弁護士に相談することをおすすめします。
目次
共同親権についての改正民法の参考条文
(離婚又は認知の場合の親権者)
第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
7 裁判所は、第二項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第一項、第三項又は第四項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
8 第六項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
改正民法819条
(親権の行使方法等)
第八百二十四条の二 親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
一 その一方のみが親権者であるとき。
二 他の一方が親権を行うことができないとき。
三 子の利益のため急迫の事情があるとき。
2 父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3 特定の事項に係る親権の行使(第一項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
改正民法824条の2
離婚後共同親権とは?改正民法で変わるポイント
親権の意味|現行民法の定めと改正の経緯
親権とは、未成年である子どもの養育監護と財産管理をする親の権利であると同時に義務でもあります。
現行民法では、両親の離婚にあたり、父母のいずれかを子どもの親権者と定めなければなりません(民法819条1項、2項)。
つまり、現行民法下では、両親が離婚すれば必ず父母の一方のみが親権者となると規定されており、父母双方が親権者となる共同親権は例外なく認められていません。
しかし、離婚後であっても父母双方が子育てに関わることが望ましいという指摘や、諸外国での共同親権を原則とする動きを背景に、現行民法が見直されることになりました。
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共同親権とは?共同親権のメリット・デメリット
共同親権とは、離婚後も父母が共に子どもの親権を持ち、重要な決定を協力して行う制度です。
通常、離婚後の親権はどちらか一方にだけ与えられる「単独親権」が一般的ですが、今回の法改正により双方が共同で子育てに関わることを望む場合に、共同親権が選択できるようになります。
共同親権が認められた改正民法は2026年までに施行される予定です
共同親権の特徴
- 重要な事項は父母が協力して決定する
共同親権では、生活に大きく影響する事項(例:子どもの進学先や医療など)については、両親が協力して決定する必要があります。 - 日常の判断は単独でも可能
日常生活に関する行為(例:食事や服装の選択、通院など)については、どちらか一方が単独で親権を行使することができます。 - 急を要する場合は片方の親が行使可能
緊急時には、片方の親が単独で判断し、必要な対応を行うことが認められています。
離婚後の共同親権には、以下のメリット・デメリットがあります。夫婦で話し合う際は、子どもの利益につながる選択となるよう、これらの事情をよく検討する必要があります。
共同親権のメリット
- 離婚後も、子どもが両方の親と関わることができ、心理的な安定が得られやすい。
- 離婚時の親権争いを防止できる。
- 養育費の支払い意識が高まりやすく、安定した支払が期待できる。
- 面会交流の頻度や内容をスムーズに決めやすくなることが期待できる。
共同親権のデメリット
- DVや虐待の被害が続く懸念がある。
- DV等がある場合に裁判所が単独親権とする制度が設けられたものの、裁判所がどこまでDV等を見けるか人員不足等の問題もあり未知数。
- 二重生活をすることになると子どもへの負担が大きい。
- もともと協議が困難な父母間では、重要事項の決定について意見が対立しやすく、紛争の長期化につながるおそれがある。
共同親権が原則ではなく、単独親権・共同親権を選択できる
改正民法では、父母が協議上の離婚をするときは、話し合いによって、単独親権か共同親権かを選択できるようになります(改正民法819条1項)。
共同親権が原則となったわけではなく、父親と母親の双方が親権者となるか、一方が親権者となるかを、まずは当事者の話し合いで決める制度とされている点がポイントです。
父母間で親権者についての話し合いがまとまらない場合や、裁判離婚をする場合は、裁判所が父母の双方又は一方を親権者と定めます(改正民法819条2項、5項)。
では、裁判所が共同親権か単独親権か判断するポイントは何なのでしょうか?
次項では、裁判所が親権者を決める際の判断基準について詳しく解説します。
裁判所が共同親権・単独親権を決める基準
裁判所が親権者を定める際の考慮要素
裁判所は、共同親権か単独親権か決める際、以下の事情を考慮しなければなりません(改正民法819条7項前段)。
親権を決める際の考慮要素
子の利益のため、以下の事情を考慮しなければならない。
- ①父母と子との関係
- ②父と母との関係
- ③その他一切の事情
当事者の意見を考慮することや、子どもが意見を表明した場合にはその意見を適切な形で考慮することも含む。
裁判所が単独親権としなければならないケース
裁判所は、共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるときは、必ず単独親権と定めなければなりません(改正民法819条7項後段)。
具体的には、以下の場合が該当します。
裁判所が必ず単独親権と定めなければならない場合
- ①父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき(同項1号)
- ②父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、親権者の定めについての協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき(同項2号)
①・②の「おそれ」については、DVや虐待があったことを証明する客観的証拠(診断書など)の有無にかかわらず、様々な事情を総合考慮して判断されます。
②については、身体的なDVがある場合だけでなく、精神的DV、経済的DVがある場合や、父母が互いに話し合うことができない状態となり親権の共同行使が困難な場合も、事案によってこの要件に当てはまることがあります。
したがって、配偶者からいわゆるモラハラの被害を受けているケースも、単独親権と定められる可能性があります。
親権者の変更に関する規定の改正内容
親権者変更に関する変更点
親権者の変更について、以下のように改正されました。
現行民法(819条6項) | 改正民法(819条6項) | |
---|---|---|
請求権者 | 子の親族 | 子又はその親族 |
変更対象 | 親権者を「他の一方」に変更できる。 | ・父母の一方から他の一方への変更 ・父母の一方から双方への変更 ・父母双方から一方への変更 |
【Point】改正前に単独親権だった場合も、共同親権への変更が可能に
改正民法の施行後は、すでに離婚して単独親権となっているケースでも、共同親権への変更を求めることが可能になります。そのため、改正民峰施行後は共同親権への変更を求める審判等の申立てが増加すると見込まれています。
親権者変更の場面でも、「裁判所が共同親権・単独親権を決める基準」で解説した考慮要素(改正民法819条7項)が検討されます。例えば、離婚後に子の養育に対する責任をきちんと果たしてきたかという事情も重視されます。
具体例
改正民法の施行前に母親を単独親権者とする離婚が成立した。改正民法施行後、別居親である父親が共同親権への変更を求める申し立てをした。離婚後、父親は養育費を長期間にわたって合理的な理由なく支払ってこなかった。
→父は子の養育に対する責任をきちんと果たしてきたとはいえない。したがって、共同親権への変更を認めない方向に判断されやすくなる。
親権者変更の際の考慮要素
裁判所は、親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たって、以下の事情を考慮します(改正民法819条8項)。
裁判所が親権者変更の際に考慮する事情
- ①親権者を決める際の協議の経過
→当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事調停の有無、裁判外紛争解決手続の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情も勘案する。 - ②その後の事情変更その他の事情
この規定は、特に配偶者のDV等によって不本意ながら共同親権に合意して離婚した場合、子どもにとって不利益となるため、そのような事態を解決するために設けられました。
例えば、親権者を決める協議の際に、父母の一方から他方に暴力があったり、家事調停や裁判外紛争解決手続きの利用がなく、公正証書の作成がされていないといった事実があれば、「共同親権の合意は真意からなされたものではない→親権者変更を認めるべき」という判断につながりやすくなります。
親権の行使方法
親権の行使方法の概要
親権は、父母が共同で行使して行うのが原則です。ただし、以下の場合は、父母の一方が単独で親権を行使できます(改正民法824条の2第1項、2項)
単独で親権を行使できる場合
- ①単独親権の場合(同条1項1号)
- ②他の一方が親権を行うことができないとき(同条項2号)
- ③子の利益のため急迫の事情(※)があるとき(同条項3号)
- ④監護及び教育に関する日常の行為について親権を行使するとき(同条2項)
- ⑤家庭裁判所が特定の事項について父母の一方を親権行使者と定めたとき(同条3項)
※「急迫の事情があるとき」とは?
「急迫の事情があるとき」とは、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては、適時に親権を行使することができず、その結果として、子の利益を害するおそれがあるような場合を意味します。
共同親権でも単独で親権行使できる場合
離婚後に共同親権を定めた場合であっても、以下の具体例にあたるようなケースでは単独で親権を行使することが可能です。
単独で親権行使可 | 具体例 |
---|---|
他の一方が親権を行えないとき | – 長期旅行 – 行方不明 – 親権喪失 |
子の利益のため急迫の事情があるとき | – 入試後の入学手続 – DVや虐待からの避難(※) – 緊急の医療行為・中絶手術の許可 |
監護・教育に関する日常行為 | – 食事、服装、習い事の選択 – 短期間の観光目的での海外旅行 – 重大な影響を与えない医療行為 – 日常的な薬の投与・通常のワクチン接種 – 高校生の放課後のアルバイトの承認 |
家庭裁判所が定めたとき | 子どもの居所の指定などの日常行為に該当しない行為や、財産管理、身分に関する行為について、父母の意見が一致しない場合に、請求により家庭裁判所が単独行使を定めたとき |
「DVや虐待からの避難」が必要な場合は暴力等の直後だけに限りません。
危険が迫っており「急迫の事情があるとき」と判断されれば、父母の一方が単独で子どもを連れて別居することも可能です。
Point
共同親権であっても、急を要する場合や日常の行為においては、一方の親が単独で親権を行使することができる。
共同親権の場合に共同で親権行使すべきケース
共同親権では、特定の重要な事柄については両親が協力して決定を行う必要があります。
以下のようなケースでは、「日常の行為」(改正民法824条2項)には該当しないため、共同親権の場合は親権を共同で行使しなければなりません。
ただし、「急迫の事情」がある場合は、片方の親が単独で行使することも可能です。
共同で親権を行使すべき場合
- 子の転居
- 子の心身に重大な影響を与える医療行為
- 子の進路に影響するような進学先の選択及び入学手続(私立小中学校への入学、高校への進学、長期間の海外留学など)
- 高校に進学せずに又は中退して就職する選択
離婚後の共同親権の不安は弁護士に相談を!
離婚後の共同親権の制度はまだ施行されていない新しいルールです。そのため、一般の方にとって未知の部分がほとんどであり、特に今後離婚を考えている方は不安な面が大きいでしょう。
そのような方は、お一人で悩まず、ぜひ一度法律のプロである弁護士にご相談ください。
弁護士は、最新の実務の考え方について精通しています。また、改正民法施行後は、実際に問題になったケースやその解決法についても常に情報をアップデートしていきます。
弁護士に相談すれば、ご相談者様の不安をどうすれば解決できるか、その見通しが立つはずです。親権のみならず、財産分与や養育費などの離婚問題についても、弁護士が一つ一つ丁寧にアドバイスいたします。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
まずは、共同親権に関連する改正民法の条文をご紹介します。
詳しくはこの後でわかりやすく解説していきますので、必要でない方は読み飛ばしていただいて問題ありません。