離婚の財産隠しの手口と調査方法|隠し口座やタンス預金を見抜くには?

離婚の話が進む中で、「相手が貯金を隠している気がする」「給料の額をごまかしているのではないか」といった疑念を抱いていませんか?
財産分与は夫婦が築いた財産を公平に分け合う正当な権利ですが、相手が隠している財産を特定できなければ、本来受け取るべき金額を大きく損したまま離婚することになりかねません。
しかし、周到に隠された財産を個人の力だけで全て見つけ出すのは容易ではないのが現実です。
本記事では、タンス預金や別口座への送金といった典型的な隠蔽手口だけでなく、近年見落としがちなネット銀行・電子マネー・暗号資産(仮想通貨)などの隠し場所を洗い出す方法を解説します。
また、ご自身でできる通帳や給与明細のチェックポイント、弁護士や裁判所を通じた強力な調査手続きの仕組といった隠し財産を暴くための具体的な手段もまとめました。
適正な財産分与を勝ち取るための手引きとしてお役立てください。
目次
どこにある?よくある財産隠しの手口と隠し場所
ネット銀行や地方銀行の口座に隠す
よくある財産隠しの手口として、ネット銀行や地方銀行に隠し口座を作り、そこにお金をためておくケースがあります。
ネット銀行の場合は、通帳や店舗が実在せず、通常の口座よりも見つけにくくなっています。名義人以外は取引履歴を見ることが難しいという特徴もあります。
また、現住所から離れた、縁もゆかりもない場所の地方銀行に口座を作ることもあるようです。
ネット銀行の口座を見つけるのはかなり難しいです。しかし、口座を開設するときにキャッシュカードが自宅に届いたり、利用状況の書類が郵送されたりすることがあります。
すでに開示されている銀行口座の取引履歴に、見知らぬ銀行口座への送金履歴があるというケースもあります。粘り強く探してみることがポイントです。
貸金庫に隠す
財産隠しの手口として、貸金庫に隠すというものがあります。貸金庫とは、一定の使用料を支払うことで、備え付けの金庫を貸し出してくれるという、銀行などがおこなっているサービスです。
基本的には自分が口座を開設している金融機関の貸金庫サービスを利用することが多いです。使用料はほとんどの場合、通帳から自動で引き落とされます。そのため、通帳の取引履歴に「貸金庫」の印字がある場合がありますので、確認してみることをおすすめします。
また、貸金庫であれば、金庫のカギやカードが手元にあるはずですので、家のなかを探してみるのも、財産隠しを見破る一つの手です。
子ども名義の通帳に隠す
子どもや実の両親など、親族名義の通帳に入金して財産隠しをするというのもよくあるケースです。
郵便物が家に届いていないかどうか、配偶者名義の通帳に知らない口座への送金履歴が残っていないかどうかを確認することができれば、財産隠しを見破ることができるかもしれません。
現金をタンスなどに隠す
現金や貴金属などといった形で、へそくり(タンス預金)として財産隠しをするケースがあります。
タンス預金の場合は、金融機関間での取引履歴が残ることがなく、開示請求や調査嘱託も利用することができません。
タンス預金がないかどうか調べる方法として、自分が把握している通帳から、高額な使途不明の出金がないかを確認してみる、というものがあります。不自然に高額な出金がないかどうか、今一度調べておくことをおすすめします。
純金・保険・不動産など別の形に換えて隠す
現金を金の延べ棒などの貴金属や、有価証券、不動産、自動車といったものに換えるというケースもあるようです。一見価値があるとはわかりにくいようなアイテムに交換することで、配偶者の目を欺くという場合もあります。
定期的に相手の持ち物を確認しておくことで、こういった形での財産隠しを見破ることができるかもしれません。
借金やローンの返済に充てる
預金口座から財産を引き出し、借金の返済に充ててしまうというケースもあります。
なかには、口座の預金を違う口座に移し替えるなどして、奨学金やローンの返済といった支払いに充当することもあるようです。
相手の預金通帳を確認して、不審な履歴が残っていないかどうかを確認することが重要です。
暗号資産(仮想通貨)や電子マネーに換える
近年急増しているのが暗号資産や電子マネー、ポイントを利用した財産隠しです。
スマホ一台で管理できるため、紙の通帳や証書が存在せず、配偶者に見つかりにくいという特徴があります。
デジタル資産の隠し場所の例
- 暗号資産(仮想通貨)
取引所の口座や、ネットに繋がっていないウォレットなどで管理 - 電子マネー
PayPay、Suicaなどのチャージ残高として保有 - ポイント・マイル
楽天ポイントや航空会社のマイルを貯め込む
これらは一見、お小遣いのようにも見えますが、婚姻期間中に築いた資産であれば、立派な財産分与の対象となります。
見破る方法としては、銀行口座の履歴から暗号資産取引所への送金記録や、クレジットカードから電子マネーへの高額チャージがないかを確認することが有効です。
財産隠しを暴く!疑わしいときの調査方法と対処法
相手が財産を隠している疑いがあっても、確実な証拠なしに本人を問い詰めるのは得策ではありません。「知らない」としらを切られたり、警戒されてさらに巧妙に隠されてしまうリスクがあるからです。
隠し財産を暴くためには、まずご自身でできる範囲の調査を行い、証拠を集めることが重要です。それでも全容が掴めない場合は、法的な手続きを利用して強制的に開示させるというステップへ進みましょう。
ここでは、通帳や給与明細のチェックポイントから、弁護士や裁判所を通じた強力な調査方法まで、具体的な対処の流れを解説します。
通帳と給与明細をチェックするポイント
まずは手元にある資料から隠し財産の痕跡を探してみましょう。
以下の項目に当てはまるものがないか、通帳と給与明細を確認してください。
通帳のチェックリスト
- 使途不明の高額出金
- 定期的な引き落とし
- 見知らぬ送金先
現在把握している口座については、通帳を記帳し、不自然な動きがないかを確認します。
特に注意したいのは、使途不明のまとまった出金です。
ボーナスの時期に高額な引き出しがあり、その金額が生活費などの実際の支出と合わない場合は、別の口座へ資金を移している可能性があります。
また、毎月決まった金額が引き落とされている場合、それが積立型保険の保険料や貸金庫の使用料であるケースもあります。
給与明細のチェックリスト
- 控除欄(天引き)の記載
- 振込額との不一致
給与明細では、控除欄に財形貯蓄や社内預金などの記載がないか必ず確認しましょう。いずれも給与天引きで自動的に貯蓄される仕組みで、見落としがちですが、きちんと財産分与の対象になります。
さらに、給与明細の手取り額と実際に銀行に振り込まれた金額が一致しているかもチェックする必要があります。
もし振込額の方が少なければ、勤務先に依頼して給与の受取口座を複数指定し、給与の一部を隠し口座へ振り分けている可能性があります。
有効な証拠を集めておく
配偶者が財産隠しをしていると疑われるときには、本人に直接開示を求めることは可能です。
ただし、本人が素直に開示してくれる可能性は低いうえに、開示しても実際の財産の総額よりも少なく見せるおそれもあります。
「相手が財産隠しをしているのではないか」と考えたときは、相手が保有している財産にはどんなものがあるか、有効な証拠を集めておきましょう。調停や裁判では、相手が貯金を隠していることを、請求する側が証明する必要があります。
有効な証拠には、以下のようなものがあります。
財産隠しを示すのに有効な証拠
- 見覚えのない口座の通帳やキャッシュカード
- 銀行や証券会社からの郵便物
- 貸金庫のカギやカード
- 不動産登記簿
- 自動車保険の契約書や明細書
- 退職金の明細書 など
証拠を集めるのが難しいという場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士会照会を利用する
銀行や証券会社の支店名などがわかっていれば、弁護士会照会制度を利用することをおすすめします。
弁護士会照会制度とは、弁護士が依頼を受けた事件について、弁護士会を通して夫の勤務先や金融機関などの団体に必要事項を照会する制度です。協議中、調停中、裁判中のいつでも利用することができます。
弁護士会照会を受けた団体には、原則として答える義務があり、相手方の口座の残高や振込先、給与額などを開示してもらえる可能性があります。
調査嘱託を利用する
弁護士会照会制度を利用しても、満足いく回答がもらえないことがあります。そういったときは、調査嘱託を利用するのもよいでしょう。
調査嘱託とは、裁判所を通じて勤務先や金融機関等に情報を開示させる方法です。弁護士会照会で開示を拒否されたケースでも、裁判所の調査には応じてもらえることもあるので、検討してみることをおすすめします。
離婚前に財産隠しを未然に防ぐポイント
相手の財産状況がわかるまで離婚しないでおく
離婚前に財産隠しを未然に防ぐポイントとして、相手が保有している財産がどれくらいあるかがわかるまで、離婚を切り出さないでおくということが挙げられます。
こちら側が離婚しようと考えていることが相手にバレると、相手が「自分の財産を取られないようにするにはどう隠せばよいか」を考えて、財産隠しに走るおそれがあります。
財産をもれなくリストアップするまでは、離婚の手続きを進めないようにしておくことをおすすめします。
離婚前に財産の保全処分をおこなう
場合によっては、財産分与をするときに、相手が内緒で不動産を売却したり、貯金を使い込んだりするなどして、財産分与の対象となるような財産を減らそうとすることがあります。
相手の財産状態がわかっており、相手が財産を減らすおそれがある場合は、財産の保全処分の手続きをおこなっておくことをおすすめします。
保全処分とは、裁判所が相手方に対して、相手方名義の財産の処分を禁止する「仮差押え(金銭債権を保全する)」や「仮処分(金銭債権以外を保全する)」といった手続きのことをいいます。
保全処分には、財産分与を請求するタイミングによって、大きく以下の2つの方法があります。
| 種類 | 人事訴訟法上の保全処分 | 家事審判手続における審判前の保全処分 |
|---|---|---|
| タイミング | 離婚前 | 離婚後 |
財産隠しは犯罪になる?警察は動いてくれるのか
結論から言うと、夫婦間での財産隠しは、犯罪自体は成立するが、刑罰は免除されるため、警察に捜査してもらうことはできません。
刑法には親族相盗例という特例があり、家庭内の窃盗や横領については刑罰を科さない(処罰を免除する)と決められているからです。
つまり、行為自体は違法ですが、逮捕や起訴はされません。
そのため、警察に「夫(妻)にお金を隠された」と訴えても、この特例を理由に捜査等の介入はしてもらえません。
しかし、離婚調停や裁判において、悪質な財産隠しが発覚した場合、裁判官の心証は極めて悪くなります。
その結果、隠していた財産が分与対象に組み込まれるのはもちろん、悪質性が考慮されて慰謝料が増額されたり、分与割合が修正されたりする可能性があります。
刑事責任は問えなくても、民事手続きの中で隠した方が損をする結果を勝ち取ることは十分に可能です。
離婚後に財産隠しが発覚したら?
「離婚成立後に隠し財産が見つかった」「当時はお金がないと言っていたのに嘘だった」という場合でも、諦める必要はありません。
相手が意図的に隠していたなどの事情があれば、不法行為として損害賠償請求が認められる可能性があります。
離婚後の状況別に、とるべき法的手段を見ていきましょう。
清算条項があっても交渉はできる可能性はある
「離婚するときに清算条項を入れ離婚協議書を作成してしまった」という方もいらっしゃると思います。
清算条項のある離婚協議書を作成して離婚した場合でも、意図的に相手が財産隠しをしているというケースであれば、財産分与のやり直しの請求が認められる可能性はあります。
清算条項とは、「この協議書に書いてあること以外に金銭の請求はしません」といった旨の宣言です。基本的には、清算条項を締結した場合は、その後、財産分与のやり直しを請求することは非常に難しくなります。
しかし、財産分与の対象となる財産について騙されていたようなケースでは、清算条項があったとしても、例外的に財産分与のやり直しができる可能性があります。
錯誤による財産分与の無効を主張する
相手が意図的に財産隠しをしていたときは、財産分与について「錯誤」として無効を主張できる可能性があります。
「錯誤」とは、民法において勘違いで意思表示をしてしまうことを指します。
財産分与をするとき、相手が財産隠しをしていることをもし知っていれば、その財産を財産分与の対象に入れずに合意することはあり得ないでしょう。そのため、「錯誤」を理由に財産分与の合意を取り消せる可能性があります。
不法行為で損害賠償請求をする
相手が財産隠しをしていたという場合は、不法行為として損害賠償請求が認められる可能性があります。
離婚時に財産分与について話合いをしていなかった場合などには、財産分与調停または審判の申立てができます。申立ては、離婚時から2年以内にしなくてはなりません。つまり、離婚後に財産隠しが発覚しても、離婚成立から2年以上過ぎていると財産分与の請求は認められません。
ただし、不法行為に基づいた損害賠償請求権は、「加害者および損害を知ってから3年以内」かつ「不法行為のときから20年以内」であれば行使することができます。
そのため、離婚が成立してから2年以上が経過した場合でも、3年が経過していなければ不法行為として損害賠償を請求することができることを覚えておきましょう。
財産開示手続を利用する
「離婚するときに慰謝料や養育費を相手が支払うと約束したものの、払われていない」という事態がしばしば起こります。その理由として、実際には払えるだけの経済力があるにもかかわらず、「財産隠し」を目的に、慰謝料や養育費といった金銭の支払いを拒否するというケースがあります。
もし離婚調停や離婚裁判の結果として離婚していたり、離婚協議書を公正証書にしていたりした場合には、裁判所に申し立てることで、債務者(元配偶者)に対して財産の開示を命じる手続きをとることができます(財産開示手続)。
財産開示手続きは、「確定判決の結果離婚している」「公正証書などで執行力のある債務名義を得ている」といった場合に利用できる手続です。
離婚後、相手が離婚条件に関する金銭を支払わず、「財産隠し」をしている疑いがある場合は、こちらの手続きを利用してみるのも一つの手です。
第三者からの情報取得手続で勤務先や口座を特定する
離婚成立後に相手が支払いを怠ったり、財産を隠して「金がない」と主張する場合には、第三者からの情報取得手続が非常に有効です。
この手続きは、裁判所を通じて役所や金融機関などから相手の財産情報を取り寄せるものです。
自分で調べるのが難しい勤務先(給与)や、預貯金口座の取扱店舗などを特定することができます。
利用するには、確定判決や執行認諾文言付きの公正証書といった債務名義が必要であり、単に疑っているだけの段階では使えません。
すでに離婚が成立しており、公正証書や判決があるのに支払われないというケースでは、隠し財産や逃げた相手の就職先を暴くための切り札となります。
手続きは複雑ですので、養育費や慰謝料の未払いに悩んでいる方は、この制度が使えるか弁護士に相談してみてください。
離婚直後の自己破産による財産隠しに注意
離婚をするとき、財産分与として夫から妻に預貯金や不動産を譲渡するケースがよくあると思います。このとき、夫が多額の負債を抱えており、離婚した後にすぐ自己破産してしまったという場合は、注意が必要です。
離婚のときの財産分与が、破産申立人(ここでは夫)の「財産隠し」とみなされるような過大な財産分与であるときには、破産手続のなかで財産分与自体が取り消されるおそれがあります。
「夫に借金があるなかで離婚する」という方は、こういったリスクがあるということを理解しておくことが重要です。もし不安であれば、弁護士に相談することをおすすめします。
借金問題を抱えた相手との離婚や財産分与は関連記事『旦那の借金で離婚|支払い義務はある?財産分与や慰謝料を解説』をご覧ください。
財産隠し対策は弁護士に相談!
「相手が財産隠しをしているのではないか疑っている」「財産隠しが離婚後に発覚した」という方は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、離婚する前に財産を適切に評価・調査してもらえます。また、財産隠しについて損害賠償請求をするときにも代理で交渉をしてもらえます。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
