離婚後に生活保護は受給できる?申請できる条件や注意点を解説
「離婚したあとに生活保護は受給できるのか」
「離婚後の生活費が不安」
離婚後の生活費に不安があるという方のなかには、生活保護を受給できるのかどうか気になるという方も多いのではないでしょうか。
生活保護とは、生活に困窮している人に対し、程度に応じた必要な保護をおこなって、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。
参考:厚生労働省|生活保護制度
離婚をしたあとであっても、収入が最低生活費に達していなければ、生活保護を受給できます。
離婚の結果シングルマザー(母子家庭)となり養育費をもらうことになったとしても、生活保護を受けられなくなるといったことはありません。
今回は、離婚後に生活保護を受けられるケースや、申請するときの方法、生活保護を受けるときの注意点について解説します。
離婚後に生活保護を受けられるケース
以下のケースに該当する場合は、離婚後に生活保護を受けることができます。
生活保護を受けられるケース
- 世帯収入が最低生活費を下回る
- 保有している資産があっても最低生活費を下回る
- 子どもが小さいなどの事情で働けない
- 親族からの援助を受けられない
世帯収入が最低生活費を下回る
最低生活費とは、厚生労働省が定める最低限の生活費のことをいいます。
最低生活費は、住んでいる地域の等級や、世帯の人数などによって異なるので注意が必要です。
たとえば、東京都23区に30代女性と4歳と1歳の子どもが3人で住む場合は、生活扶助基準額144,800円、母子加算23,600円、児童養育加算20,380円、住宅扶助基準額69,800円の、合計258,580円が最低生活費となります。
参考:厚生労働省|生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和5年10月)
母子家庭や父子家庭など、ひとり親家庭への手当や、養育費を受け取っていたとしても、最低生活費に達していなければ生活保護の対象となります。
なお、生活保護を受給したいと考えている方は、ひとり親家庭への手当などほかの公的支援を先に受給する必要があります。
ほかの公的支援を受給しても最低生活費に達していない場合に生活保護の対象となるので、注意が必要です。
保有している資産があっても最低生活費を下回る
資産を保有したままだと、生活保護の対象とはならない点に注意が必要です。
保有している資産の例には、預貯金や不動産、自動車、株式に加え貯蓄型の保険といったものが挙げられます。
それらをすべて充当しても最低生活費を下回る場合、生活保護の対象となります。
子どもが小さいなどの事情で働けない
子どもが小さかったり、離婚などのストレスで精神的な病気を患ってしまったりした場合は、生活保護の対象となります。
働くことができる場合は、基本的に生活保護の対象とはなりませんが、「子どもがまだ小さく働ける状況にない」「持病やうつ状態で職が見当たらない」といった場合は、対象とみなされるケースもあります。
親族からの援助を受けられない
民法では、3親等以内の親族には扶養義務があると定められているため、親族から援助を受けられることになっています(民法877条)。
したがって、生活が苦しい場合は、まず親族に援助を求めましょう。
生活保護を受給するときには、3親等以内の親族に援助ができないかどうか、自治体から連絡が入ることになっています。
事情があってどうしても援助が受けられず、最低生活費を下回ってしまうということであれば、生活保護の対象になります。
離婚後に生活保護を申請する方法
申請する前に養育費や慰謝料の請求を検討
生活保護制度は生活に困窮している人であれば誰でも利用できる制度ですが、まずは財産分与や養育費、慰謝料など請求できるものはないか確認しましょう。
また、3親等以内の親族に援助を頼めないかも合わせて確認しておくことをおすすめします。
福祉事務所の生活担当に必要書類を提出
居住地を管轄している福祉事務所の生活担当に、必要書類を提出します。必要な書類には以下のようなものがあります。
生活保護申請に必要な書類
- 生活保護の申請書・申告書
- 運転免許証など身分証明書
- 戸籍謄本といった、離婚したことがわかるもの
- 住民票といった、家族構成がわかるもの
- 通帳や給与明細など、収入や資産がわかるもの
- 障害者手帳など、働けない事情を証明できるもの
窓口では、「現状どの程度困窮しているのか」「借金はないのか」などについて、面談することになります。
面談で受給条件を満たしていると判断されれば、申請手続きに移行します。申請後すぐに生活保護を受給できるわけではないという点に注意しましょう。
担当者から調査が入る
申請を終えた後は、担当者から調査が入ります。
申請した本人の現状の所得や資産だけでなく、元配偶者や3親等以内の親族に対しても調査がおこなわれます。
調査に対しては、申請を通そうと嘘をつくのではなく、正直に答えるようにしましょう。
原則14日以内に受理され受給が始まる
審査をしてから原則14日以内に「生活保護の受給が可能かどうか」の通知が届きます。
生活保護の審査に通れば、毎月月初に生活保護費を受給することができるようになりますが、受給日については地域によって異なるので注意しましょう。
また、弁護士に相談すれば、生活保護の申請を代行できるほか、ケースワーカーとの交渉もおこなうことができます。
離婚後の生活保護でもらえるお金
生活保護は、8つの基本的なお金と9つの加算項目から構成されています。
基本的な8つのお金
基本的な8つのお金は以下のようになっています。
- 生活扶助……日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費など)
- 住宅扶助……アパートの家賃など、住まいに関する費用
- 教育扶助……義務教育を受けるために必要な費用
- 医療扶助……医療サービスに関する費用
- 介護扶助……介護サービスに関する費用
- 出産扶助……出産に関する費用
- 生業扶助……就労に必要な技能の修得等にかかる費用
- 葬祭扶助……葬祭に関する費用
加算されるお金
生活保護には、支給額が増額する加算項目が9つあります。
なかでも、妊産婦加算や母子加算、児童養育加算は、離婚後の親子の生活を支えてくれるものになっています。
- 妊産婦加算……妊産婦(妊娠中および産後6か月以内)の被保護者に対し、追加的に必要となる栄養補給などの経費の補填
- 母子加算……ひとり親世帯がふたり親世帯と同等の生活水準を保つために必要となる費用の補填
- 障害者加算……車椅子での生活を余儀なくされているなど、障害があることによって必要になる生活費の補填
- 介護施設入所者加算……介護施設に入所している被保護者に対し、理美容品等の裁量的経費の補填
- 在宅患者加算……在宅で療養に専念している患者(結核または3か月以上の治療を要するもの)である被保護者に対し、追加的に必要となる栄養補給等のための経費の補填
- 放射線障害者加算……原爆放射能による負傷、疾病の状態にある方に必要になる栄養補給等の生活費の補填
- 児童養育加算……児童の養育者である被保護者に対し、子どもの健全育成費用(学校外活動費用)の補填
- 介護保険料加算……介護保険の第1号被保険者である被保護者に対し、納付すべき介護保険料に相当する経費の補填
- 冬季加算……冬季において増加する暖房費などの経費の補填
たとえば、東京都23区に20代女性と4歳の子どもが2人で住む場合は、生活扶助基準額121,110円、母子加算18,800円、児童養育加算10,190円、住宅扶助基準額64,000円の、合計214,100円が生活保護費として支給されます。
離婚後に生活保護を打ち切られるケース
預貯金額が多い
生活保護を受給するためには、預貯金を生活費に充当しなければなりません。
そのため、生活保護を受給しているときは、まとまった金額の預貯金をしていないかどうか、ケースワーカーにチェックされることになります。
高額な預貯金をしていると発覚した場合は、生活保護が打ち切られることもあるので注意しましょう。
「子どもの学費のため」「社会的に自立するため」など、正当な目的があれば貯金が認められる可能性もあります。
借金をした
生活保護を受給する場合、借金をすることは禁止されています。
生活保護費は最低限度の生活を保障するためのお金ですから、借金の返済に充てることもできません。
新たに借金をしたり、生活保護費で借金を返済したりといった事態が発覚してしまうと、受給が打ち切りになるほか、これまでに受給した生活保護費の返還を求められるおそれがあります。
借金を抱えている状態で生活保護費を受給する場合は、自己破産を申し立てて借金を解消してから受給を申請する必要がある点に注意が必要です。
高価な資産をもった
生活保護の受給中に、新たに預貯金や不動産、自動車、株式に加え貯蓄型の保険といった資産をもつことは、基本的にできません。
ただし、テレビや冷蔵庫、冷暖房機、洗濯機といった生活必需品・電化製品の所有は認められています。
貯蓄型の生命保険に加入した
生活保護を受給しているとき、「解約返戻金を生活費に充てることができる」とみなされるため、新たに貯蓄型の生命保険に加入することはできません。
一切の保険の加入が認められていないというわけではなく、掛け捨て型の生命保険であれば加入が認められています。
具体的には担当のケースワーカーに相談してみましょう。
住宅扶助の上限以上の場所に住んだ
生活保護を受給しているときは、住宅扶助の上限値以内の家賃の住宅に住まなければなりません。
そのため、離婚後に新しく賃貸を契約したいという場合は、住宅扶助の上限値を超えないよう注意が必要です。
再婚や慰謝料などで最低生活費を上回った
生活保護を受けていたものの再婚し、世帯収入が増えたという場合には、最低生活費を上回ったことで生活保護が打ち切られる可能性があります。
慰謝料や養育費、財産分与をもらうケースがあります。それらの資産を生活費に充当して最低生活費を上回る場合は、生活保護は受給できません。
離婚後に生活保護を受けるときの注意点
受給費の使い方には十分気をつける
生活保護を受給した場合、資産になるような高価な買い物は控える必要があります。
また、公営ギャンブルといった娯楽に利用するのも、ギャンブルで得た収入は資産とみなされたり、場合によっては生活保護の打ち切りにつながったりするため控えるようにしましょう。
新しいパートナーとの同居が制限されるおそれも
生活保護を受給している場合、新しいパートナーや元配偶者との付き合い方の自由度が低くなり、同居等が制限される恐れがあります。
というのも、生活保護を受給している状態で、新しいパートナーと同居を始めたり、元配偶者との同居を再開したりすると、世帯収入が増加し、生活保護が打ち切られる可能性があります。
同居生活を送っていることが福祉事務所に発覚した場合、生活保護費の不正受給とみなされるおそれがあるので注意しましょう。
毎月収入の報告をする必要がある
生活保護を受給している間は、毎月収入を報告する必要があります。また、ケースワーカーが年に数回家を訪問し、生活状況をチェックしてもらうことになります。
「養育費も生活保護費も受け取っている」といったように、毎月の収入が前後する場合は、申告漏れや申告ミスがないように気をつけましょう。
生活に不審な点がある場合は、生活保護を打ち切りになってしまうおそれがあるので、ご注意ください。
ローンやクレジットカードの利用ができなくなる
生活保護費を借金の返済に充てることはできないため、生活保護を受給しているときに新たにローンを組んだり、クレジットカードを作成したりすることは原則としてできません。
ネットショッピングなどを現金以外で利用するときは、デビットカードやキャリア決済を活用するようにしましょう。
偽装離婚は不正受給
「配偶者と形式的に離婚したことにして、生活保護を申請しよう」といった行為は、いわゆる「偽装離婚」に該当します。
もし発覚した場合は、生活保護費の返還を求められ、悪質だと判断されればさらに徴収金を支払わなければなりません。
偽装離婚をおこなって生活保護を受給することは違法です。絶対にやめましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了