同居したまま離婚できる?離婚調停や離婚裁判は可能?
離婚する前に別居を始める夫婦は多いですが、金銭的な事情や子どもへの影響を考えると、すぐに別居に踏み切れないこともあるでしょう。
そういった場合は、同居したままで離婚の話し合いを進めることも可能です。
同じ家にいると顔を合わせる機会が多いため、話し合いを進めやすいというメリットがある一方、相手からの嫌がらせのおそれがあるなどのデメリットもあり一長一短です。
この記事では、同居したまま離婚する方法やその注意点、別居した方がよいケースについて解説します。
目次
同居のまま離婚できる?
同居のまま離婚する人はいる?
多くの夫婦は、正式に離婚する前に別居を始めます。とはいえ、同居したままで離婚を進めることも可能です。
離婚するための手続きとしては、夫婦が話し合って決める協議離婚、家庭裁判所の仲裁を受けて話し合う調停離婚、裁判官の判断によって離婚する裁判離婚という、大きく分けて3つの方法があります。
法務省の報告書によると、協議離婚をした夫婦のうち、離婚前に別居をしていた割合は43%となっており、半数以上が同居のまま離婚していたことが分かります(協議離婚に関する実態調査結果の概要より)。
一方、調停離婚と裁判離婚は、双方が顔を合わせないことが前提の手続きですので、別居をしている夫婦の割合はより高いと考えられます。
とはいえ、同居したまま離婚調停や離婚裁判ができないわけではありません。
離婚問題を弁護士に依頼する方も、多くは別居していますが、同居したままで弁護士に交渉を任せることもできます。
同居のまま離婚する際の流れ
同居中の協議離婚の流れ
同居したままであれば、顔を合わせる機会が多いため、協議離婚に向けた話し合いは比較的簡単に行えるでしょう。
話し合いで離婚することや離婚条件に合意ができたら、離婚届に記入して提出します。また、取り決めの内容を記した離婚協議書や公正証書を作成することがあります。
その後は、離婚と同時に引っ越してもよいですし、しばらく同居を続けることもできます。
同居中に離婚交渉を弁護士に任せる場合
弁護士に離婚問題を依頼すると、弁護士は相手方に向けて受任通知を発送します。夫婦が同居している家に受任通知が届くことになるでしょう。
受任通知には通常、今後の連絡は弁護士を通すようにと書かれています。
しかし、家庭内別居の状態でない限り、同じ家に暮らしながら完全に連絡を取り合わないというのは現実的ではないでしょう。少なくとも、家で直接相手と離婚の交渉をすることは避けてください。
交渉の場面で弁護士は、夫婦の話し合いに同席するか、代理で話し合いを行います。後者の場合、「妻の弁護士と夫との話し合い」または「妻の弁護士と夫の弁護士との話し合い」のような形になります。
同居中の調停離婚の流れ
話し合いでの合意が難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることができます。離婚調停とは、家庭裁判所の調停委員会が夫婦の間に入って意見を調整し、合意を促す手続きです。
離婚調停の申立を行うと、双方に家庭裁判所から調停の日時を知らせる手紙が届きます。あらかじめ相手に調停について伝えていなかった場合、相手はこれを受け取ったときに初めて離婚調停を申し立てられたことを知るでしょう。
調停期日には、夫婦が家庭裁判所に出向いて、男女2人組の調停委員と交互に面談を行います。これを月に1回程度の頻度で繰り返し、合意の形成を目指します。
夫婦が同じ日に家庭裁判所に出向くことになりますが、調停室には1人ずつ入りますし、控室も別で用意されているため、基本的には裁判所で顔を合わせることがない仕組みになっています。
離婚調停の後は同じ家に帰ることになるため、うまく気持ちを切り替えられなければ、家では気まずい空気になってしまうかもしれません。
調停の中で合意ができたら、最後には2人が同じ部屋に入り、調停を成立させます。調停成立後は、10日以内に離婚届を提出します。
同居中の裁判離婚の流れ
離婚調停を行っても合意することができなかった場合は、家庭裁判所に離婚裁判を申し立てることができます。
裁判の段階まで進むと、ほとんどの方が弁護士を立てます。月に1回程度行われる口頭弁論期日には、基本的に弁護士が出廷し、本人が出廷する必要があるのは本人尋問の一回のみです。法廷で夫婦が顔を合わせるのは、基本的にはその日だけです。
裁判中に、裁判官から和解を促されることがあります。双方が和解案に同意したら和解が成立し、離婚することができます。和解をしなかった場合、判決によって離婚するかしないかが決まります。
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同居のまま離婚する際の注意点
婚姻関係の破綻が認められない可能性がある
裁判で離婚を認めてもらうためには、法律で定められた離婚原因(法定離婚事由)が存在し、夫婦関係が修復不可能なほどに破綻していることが必要です。
同居が続いている場合、裁判官から「夫婦関係は破綻していない」「同居しているのだから修復可能」と判断されてしまう可能性があるため、客観的な証拠を用いて、夫婦関係が破綻していることを証明する必要があるでしょう。
また、同居を続けていると、別居していることを理由とした離婚はできない点に注意してください。
明確な法定離婚事由がない場合は、ある程度の長期間別居することで離婚が認められやすくなります。そのため、裁判離婚を目指す方はなるべく早く別居を開始するのが一般的です。
家で直接交渉しない
調停・裁判中や、弁護士への依頼中は、家で顔を合わせることがあっても、直接離婚の交渉をするのは避けましょう。
会話がヒートアップすると、暴力や暴言に発展してしまう可能性もありますし、自分の言動が記録されて、調停や裁判でDV・モラハラの証拠として使われてしまう可能性もあります。
家では離婚の話に触れず、冷静に過ごすよう心がけましょう。
子どもへの影響に注意
子どものために同居を続ける夫婦もいますが、それがかえって子どもに悪影響を与えてしまうことも考えられます。
険悪な雰囲気の両親と過ごすよりも、別居した方が子どもの心情的には望ましい可能性もあるでしょう。また、弁護士を立てたり調停を起こしたことへの腹いせとして、子どもに嫌がらせをするケースがあるようです。
同居したまま離婚するメリット・デメリット
同居のまま離婚手続きをするメリット
経済的な負担が少ない
別居すると、家賃や生活費が2倍になるなど、経済的な負担が大きくなります。同居したまま離婚を進めることで、離婚までの間の経済的な負担を抑えることができます。
また、こちらの方が収入が多い場合、別居中は相手に婚姻費用(生活費)を支払う必要がありますが、同居したままであれば従前の生活費の負担のままで済みます。
子どもへの影響が少ない
子どもがいる場合、別居すると子どもは両親どちらか一方としか暮らせなくなりますが、同居を続けていれば両親と過ごすことができます。
また、引っ越しがないため、転校や環境の変化を抑えることができます。
話し合いの機会が増える
同居していると、顔を合わせる機会が多いため、話し合いのチャンスも増えます。そのため、スムーズに離婚協議が進む可能性が高いです。
ただし、弁護士を入れたり調停や裁判を起こしている場合、家で直接話し合いをするのは望ましくありません。
証拠の収集がしやすい
DVやモラハラ、不貞行為などを理由に離婚や慰謝料を請求するためには、証拠が重要になります。
同居していると、相手の行動や言動を記録しやすいため、証拠の収集がしやすいというメリットがあります。
同居のまま離婚手続きをするデメリット
相手と顔を合わせる必要がある
同居を続ける場合、離婚で揉めている間も家で相手と顔を合わせなければなりません。特に、感情的な相手の場合、ストレスが溜まってしまいます。
家で嫌がらせを受ける可能性がある
こちらが弁護士を立てたり離婚調停や裁判を起こしたことに腹を立て、相手が嫌がらせをしてくるケースが見られます。また、離婚の話し合いを始めたことでDVやモラハラが激化する可能性もあります。
婚姻関係の破綻が認められない可能性がある
裁判所は、離婚原因の有無を判断するときに、客観的な証拠を求めます。しかし、同居をしていると外側からは夫婦円満な状態に見えるため、離婚が認められづらくなってしまいます。
離婚前に別居した方がよいケース
暴力や嫌がらせのおそれがある
現にDV・モラハラを受けているケースや、子どもが相手から虐待を受けているケース、離婚の話を出すことで相手から嫌がらせを受ける可能性のあるケースは、早期に別居を始めて自分や子どもの安全を守る方がよいといえます。
法定離婚事由がないが裁判離婚したい
裁判で離婚するには、法定離婚事由のうちいずれかが必要です。
法定離婚事由
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
相手に不倫やDVがあればそれを理由に裁判離婚が可能ですが、法定離婚事由にあたる明確な離婚原因がない場合でも、ある程度の別居期間を作ることで「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」が認められ、離婚できる可能性があります。
どのくらい別居すれば離婚できるという明確な基準はありませんが、3~5年程度が目安と言われています。裁判離婚を視野に入れている方は、なるべく早く別居を開始した方がよいでしょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了