親権と監護権はどちらが強い?分ける手続きやメリットは?

親権と監護権のどちらが強いかは、観点によって異なります。子どもの財産管理や進学・医療などの重要な判断は親権者が行うため、法的権限の面では親権が強いといえます。一方、子どもと同居し日々の世話や生活を支えるのは監護権者であり、実生活の面では監護権が強いといえます。
離婚時に親権で合意できない場合、親権と監護権を父母で分けることで解決を図るケースもあります。ただし、実際に分けるケースは非常に限られており、2024年の統計では離婚調停全体の約0.4%(16,859件中75件)にとどまっています。父母の継続的な協力が不可欠であるため、慎重な検討が必要です。
なお、2026年4月からは離婚後の共同親権が選択可能になり、監護者を指定することで日常生活の運用を円滑にする仕組みも導入されます。
この記事では、親権と監護権の違い、どちらが強いのか、分けるための手続きとメリット・デメリットを実務の視点から解説します。
目次
親権と監護権はどちらが強い?
未成年の子どもを持つ夫婦は、離婚時に親権や監護権について話し合って決めなければなりません。
親権に比べると、監護権は耳なじみがない方も多いのではないでしょうか。
以下に、親権と監護権の定義をまとめました。
親権とは
親権とは、未成年の子どもを成人まで育て上げるために親が負っている権利と義務の総称です。親権は、財産管理権、身上監護権の2つの権利から成り立ちます。

財産管理権
財産管理権とは、子どもの財産を管理する権利で、以下の2つの要素から成り立っています。
- 包括的な財産管理権
- 法律行為に対する同意権
具体的には、預貯金や不動産などの財産の管理を行うほか、子どもの財産に関する法律行為、すなわち財産の売買などを同意・代理することができます。
身上監護権
身上監護権(しんじょうかんごけん)とは、子どもを養育し、教育する権利と義務です。
身上監護権は、以下のような権利を含みます。
- 監護教育権
- 居所指定権
- 職業許可権
具体的には、子どもと一緒に住み、衣食住の世話、教育、医療などを行うことができるほか、職業に就くのを許可することもできます。
以前は、親の権利として「懲戒権」が認められていました。これは、親が必要な範囲内で子どもにしつけを行う権利です。 しかし、これが体罰などの口実に使われていたことから、令和4年12月16日の民法改正によって懲戒権が削除され、体罰や児童虐待の禁止が明文化されました。
監護権とは
監護権とは、親権のうち身上監護権のことを指します。監護権を持つ人が、子どもと一緒に暮らし、身の回りの世話をします。
親権を持つ親を親権者、監護権を持つ親を監護権者または監護者と呼びます。
婚姻中、夫婦は共同で親権と監護権を持ちます。ただし、婚姻中でも、夫婦が別居している場合には監護権者をどちらか一人に定めることがあります。
離婚後は、親権者が監護権も持つことが一般的です。
親権者と監護権者を分けることができる
日本では、離婚後は原則として単独親権となるため、父母のどちらか一方を親権者として決める必要があります。しかし、どちらも親権を希望して譲らず、離婚の話し合いが進まなくなるケースも少なくありません。
このような場合、親権者と監護権者を別に定めることで解決につながることがあります。
たとえば、親権者が海外赴任などで子どもと一緒に生活できないときには、もう一方の親が監護権者となり、日常の世話を担う形が取られることがあります。
このように親権と監護権を分けることは「分属」と呼ばれます。具体例として、父が親権者、母が監護権者となった場合、子どもの財産管理や重要な決定は父が行い、子どもは母と暮らすことになります。
ただし、決定権を持つ人と日常の世話をする人が異なるため、実務上の調整が必要になり、運用が複雑になる場合があります。
実際に親権と監護権を分けるケースは非常に少なく、2024年の離婚調停では、親権者を定めた16,859件のうち分属は75件で、全体の約0.4%にとどまっています。内訳は、父が親権者で母が監護者となったケースが46件、母が親権者で父が監護者となったケースが29件でした。特に父が親権者となる場合、母が監護権を担う例が一定数見られます(令和6年 司法統計年報 家事編より)。
共同親権と監護者の指定について
2026年4月1日から、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を選べるようになります。これまでは離婚後は必ず単独親権でしたが、改正後は父母の話し合いや裁判所の判断によって共同親権を選択することが可能です。
重要なのは、共同親権を選んだ場合でも「監護者」を定められる点です。監護者に指定された親は、子どもと同居して日常の世話を担うだけでなく、以下の重要事項も単独で判断できます。
- 居所の指定(転居の決定)
- 進学先などの教育に関する決定
- 職業の許可
通常、共同親権ではこれらの事項は父母の合意が必要ですが、監護者が定められている場合は単独で決定できます。一方、財産管理や養子縁組などの身分行為は、監護者の権限には含まれず、父母が共同で行う必要があります。
この制度により、「共同親権で両親が子育てに関わりたいが、日々の判断で揉めたくない」というニーズに応えることができます。監護者を指定することで、円滑な養育と両親の関与のバランスを図ることが可能です。
なお、改正法の具体的な運用については、施行後の実務動向も踏まえて専門家への相談をおすすめします。
親権と監護権、どっちが強い?
親権者と監護権者を分けた場合に、親権と監護権のどちらが強いかは、観点によって異なります。
子どもの財産を管理するのは親権者であるため、財産に関する行為など、子どもの重要な意思決定という観点で見れば親権者の方が強い力を持つでしょう。
一方、子どもの身の回りの世話や身分関係の管理をするのは監護権者ですので、子どもと一緒に暮らしたいという観点では、監護権の方が強いといえます。
「親権と監護権、どちらを獲ればよいのか?」と迷っている方は、自分がどちらを望むのかで判断するのがよいでしょう。
とはいえ、普通「親権」といって思い浮かべるのは、子どもと一緒に暮らし、成長を見守ることでしょう。その点では、監護権の方が親権のイメージに近く、より親らしいことができる立場であるといえます。
ただし、どちらを取るにしても権利に制約が付いてしまいますし、子どもの置かれる状況も複雑になります。むやみに親権者と監護権者を分けようとするよりも、親権と監護権の両方を獲る方向に努力した方がよいケースもあるでしょう。
親権と監護権を分けるとどうなる?
親権者と監護権者を分けるメリット
親権者と監護権者を別で指定すると、このようなメリットがあります。
- スムーズに離婚しやすくなる
- 親権者の変更よりも迅速に対応できる
- 両親が協力して子育てできる
- 監護権を持っていれば親権を取りやすくなる
スムーズに離婚しやすくなる
親権争いのせいで離婚ができない状況が続いている場合には、親権と監護権を分け合うことで、互いが納得しやすくなる可能性があります。
親権者の変更よりも迅速に対応できる
監護権者を指定する手続きは、親権者を変更する手続きよりも早く結論が出るのが一般的です。そのため、まずは監護者を定めることで、子どもを取り巻く環境を早期に安定させることができます。
両親が協力して子育てできる
親権者と監護権者を分けることで、子どもを引き取らなかった親も子育てに参加している実感を持てるため、養育費の不払いや面会交流の不履行などの問題が起きづらいと考えられます。
監護権を持っていれば親権を取りやすくなる
何らかの事情により離婚時に親権者になれない場合は、監護権だけでも手に入れておくと、後で親権者の変更を目指す際に有利に働く可能性があります。
離婚後に親権者を変更するには、家庭裁判所での手続きが必要です。裁判所は様々な事情を考慮してどちらが親権者にふさわしいかを判断しますが、その際に重視される要素のひとつが「これまでの監護実績」です。
そのため、早い段階で監護権を得て監護実績を作っておくと、大きなアドバンテージになります。
親権者と監護権者を分けるデメリット
親権者と監護権者を分けることの最大のデメリットは、子どもに関する意思決定が難しくなる点です。
監護権者が子どもと生活し、日常的な意思決定を行いますが、親権者の許可が必要な行為もあります。
以下は、親権を持つ人でなければできない事項の代表例です。
- 手術の同意
- 銀行口座の開設
- 養子縁組の同意
例えば、子どもが手術を受ける必要がある状況でも、監護権者は手術の同意ができないことがほとんどです。監護権者は、親権者に連絡して同意を取りつけなければ、子どもに手術を受けさせることができないのです。
このように、親権者と監護権者を分ける場合は、許可が必要になるたびに父母が連絡を取る必要があります。両親が不仲でコミュニケーション不足の状態のまま分属させると、迅速な意思決定が妨げられるために子どもが重大な不利益を被る可能性があります。
親権や監護権を得るにはどうすればいい?
監護権者を決める手続き
①父母の協議で定める
監護権者は、父母が話し合って決めることができます。離婚後の子どもの監護について、民法は以下のように定めています。
民法第766条
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
条文は、父母のどちらが子どもを監護するかだけでなく、面会交流や養育費などの事項も話し合って決めると定めています。
財産管理権と身上監護権の区別には、明確な基準がありませんので、どちらが何を担うのかを具体的に決めておく必要があるでしょう。
また、話し合いに際しては、子の利益を最優先にすることが求められています。
監護権者は、親権者と違って戸籍に記載されません。後から言った言わないのトラブルになってしまうのを防ぐために、話し合って決めた内容は、離婚協議書や公正証書として残しておくのがよいでしょう。

弁護士
監護権者を変更しても、役所などに届け出る必要はありません。
②子の監護者の指定調停・審判を申し立てる
父母間での監護者に関する話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に子の監護者の指定調停を申し立てることができます。
調停とは、家庭裁判所の調停委員会を交えて父母間の話し合いの場を設け、合意に至るように促す手続きです。
調停を行っても合意に至らなかった場合、調停は不成立となり、自動的に審判の手続きに移行します。
審判とは、裁判官が双方の事情を聞いたうえで判断を下す手続きです。調停と違い、夫婦の合意がなくても監護権者が決定します。子の監護者指定に関しては、調停を経ずに審判を申し立てることも可能です。
子の監護者指定調停・審判は、離婚時や離婚後に監護者を定めたいときだけでなく、離婚前の別居の段階でも利用できます。

弁護士
実際に、離婚前の別居中であり、連れ去りのリスクが高いようなケースで使われることが多いようです。
参考
親権者を決める手続き
①離婚時に父母の協議で定める
親権者は、離婚時に父母が話し合って定めます。親権者の記載のない離婚届は受理されないため、必ずどちらか一人に決めなければなりません。
民法第819条
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
なお、民法改正により、2026年4月1日以降に離婚する場合は、父母双方が親権者となる「共同親権」も選択できるようになります。
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②調停・審判を申し立てる
親権者を決めるための裁判所の手続きは、離婚時と離婚後で異なります。
離婚する時に親権者が決まらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて話し合うことができます。調停で双方が合意に至ることができれば、離婚が成立し、親権者も確定します。
離婚時に決めた親権者を後から変えたい場合は、父母の合意があっても自由に変えることはできず、親権者変更調停・審判を申し立てる必要があります。
調停で話し合っても決着が付かない場合は、自動的に審判に移行します。
| 親権者を決める手続き | 監護者を決める手続き | |
|---|---|---|
| 離婚前(別居中) | – | 父母の協議、監護者指定調停・審判 |
| 離婚時 | 離婚調停 | 父母の協議、監護者指定調停・審判 |
| 離婚後 | 親権者変更調停・審判 | 父母の協議、監護者指定調停・審判 |
参考
監護権者を調停・審判で決めるメリットとデメリット
監護権者は父母間の協議で決めることもできますが、家庭裁判所の調停や審判を使って決めると、法的拘束力が生まれるというメリットが得られます。
調停や審判によって監護権者を定めると、相手方がそれに反して子どもを引き渡さない場合や、子どもを連れ去ってしまった場合に、履行勧告や強制執行を行って子どもの引渡しを実現できるようになります。
話し合いで監護権者を決めていた場合、連れ去られた子どもを取り戻すためには調停・審判と保全処分の申し立てを行うところから始める必要があり、時間がかかってしまいます。
その他にも、第三者である調停委員や裁判官の目線から見ることで、子どもにとって利益となる判断が得られるなどのメリットがあります。
一方で、調停や審判にはこのようなデメリットもあります。
- 時間と費用がかかる
- 精神的な負担が大きい
- 必ずしも希望通りの結果になるとは限らない
どちらを選ぶかは、父母の関係性や状況によって決めるのがよいでしょう。
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親権と監護権に関するよくある質問
Q.親権と監護権を分けると戸籍に記載される?
戸籍に記載されるのは親権者のみで、監護権者は記載されません。そのため、監護権者を定めた場合は、内容を明確に残しておくことが重要です。後の紛争を防ぐためにも、離婚協議書や公正証書などの書面にしておくことをおすすめします。
Q.監護権だけ持っていても子どもの名字や戸籍は変えられる?
子どもの氏の変更や戸籍の移動は、原則として親権者の権限です。監護権者が単独でこれらの手続きを行うことは、基本的にはできません。
ただし、子どもが15歳以上であれば、本人が家庭裁判所に申し立てを行うことで、親の同意なしに氏の変更が可能です。また、15歳未満の場合でも、子の利益を重視して監護権者による申し立てが認められた裁判例があります。
Q.共同親権で監護者を決めるとどうなる?
2026年4月施行の改正法では、離婚後も共同親権を選択できるようになります。共同親権を選んだ場合でも監護者として指定された親は、子どもの監護に関する事項について、単独で決定できる場合があります。例えば、子どもの居所や日常の教育に関する事項などがこれに含まれます。
これにより、日々の養育を円滑に行いながら、両親が子育てに関わる形を実現できます。ただし、財産管理などは共同で行う必要があります。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
父母が結婚している間は共同で親権を持っていますが、離婚する際にはどちらか一方を親権者に指定します。