親権と監護権はどちらが強い?分ける手続きやメリットは?
親権争いに決着がつかず離婚できないようなケースでは、子どもの親権と監護権を父母が分け合うことがあります。
親権と監護権を分ける場合、どちらが強いのか、どちらを獲ればいいのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、親権と監護権はどちらが強いのか、親権と監護権を分けるための手続き、メリットとデメリットを解説します。
目次
親権と監護権はどちらが強い?
未成年の子どもを持つ夫婦は、離婚時に親権や監護権について話し合って決めなければなりません。
親権に比べると、監護権は耳なじみがない方も多いのではないでしょうか。
以下に、親権と監護権の定義をまとめました。
親権とは
親権とは、未成年の子どもを成人まで育て上げるために親が負っている権利と義務の総称です。親権は、財産管理権、身上監護権の2つの権利から成り立ちます。
財産管理権
財産管理権とは、子どもの財産を管理する権利で、以下の2つの要素から成り立っています。
- 包括的な財産管理権
- 法律行為に対する同意権
具体的には、預貯金や不動産などの財産の管理を行うほか、子どもの財産に関する法律行為、すなわち財産の売買などを同意・代理することができます。
身上監護権
身上監護権(しんじょうかんごけん)とは、子どもを養育し、教育する権利と義務です。
身上監護権は、以下のような権利を含みます。
- 監護教育権
- 居所指定権
- 職業許可権
具体的には、子どもと一緒に住み、衣食住の世話、教育、医療などを行うことができるほか、職業に就くのを許可することもできます。
以前は、親の権利として「懲戒権」が認められていました。これは、親が必要な範囲内で子どもにしつけを行う権利です。 しかし、これが体罰などの口実に使われていたことから、令和4年12月16日の民法改正によって懲戒権が削除され、体罰や児童虐待の禁止が明文化されました。
監護権とは
監護権とは、親権のうち身上監護権のことを指します。監護権を持つ人が、子どもと一緒に暮らし、身の回りの世話をします。
親権を持つ親を親権者、監護権を持つ親を監護権者または監護者と呼びます。
婚姻中、夫婦は共同で親権と監護権を持ちます。ただし、婚姻中でも、夫婦が別居している場合には監護権者をどちらか一人に定めることがあります。
離婚後は、親権者が監護権も持つことが一般的です。
親権者と監護権者を分けることができる
日本では、離婚した夫婦の共同親権が認められていないため、離婚時には父母のどちらが親権を持つかを決めなければなりません。
しかし、双方が子どもの親権を譲らないことが原因で、スムーズに離婚できないという夫婦は少なくありません。
そういった場合には、親権者と監護権者を分けることができ、それによって話し合いが落ち着くケースもあります。
また、親権者が子どもを監護できる状況にない場合にも、親権者と監護権者が別になることがあります。
親権者と監護権者を分けることを、分属させるともいいます。
親権者と監護権者を分けるケースの例
- 親権者が病気や海外赴任などで子どもの世話ができない
- 親権者が子どもを虐待している
- 親権者が決まらずなかなか離婚できない
例えば、父が親権を持ち、母が監護権を持つと定めた場合、子どもの財産に関する決定権を父親が保持した上で、子ども自身は母親と暮らすという状態になります。
とはいえ、財産を管理する人と身の回りの世話をする人が別にいることにより、実生活上の不都合が生じる場合もあるため、実際に親権と監護権を分けるケースは稀であるといえます。
実際の統計を見てみると、離婚調停で親権者を決めた夫婦のうち、親権者と監護権者を別に定めたケースは全体の1%以下でした。
ただし、親権者が父親の場合は、母親が監護権を得た割合が比較的高く、約4.5%が分属となっています(令和4年度 司法統計年報 家事編より)。
親権と監護権、どっちが強い?
親権者と監護権者を分けた場合に、親権と監護権のどちらが強いかは、観点によって異なります。
子どもの財産を管理するのは親権者であるため、財産に関する行為など、子どもの重要な意思決定という観点で見れば親権者の方が強い力を持つでしょう。
一方、子どもの身の回りの世話や身分関係の管理をするのは監護権者ですので、子どもと一緒に暮らしたいという観点では、監護権の方が強いといえます。
「親権と監護権、どちらを獲ればよいのか?」と迷っている方は、自分がどちらを望むのかで判断するのがよいでしょう。
とはいえ、普通「親権」といって思い浮かべるのは、子どもと一緒に暮らし、成長を見守ることでしょう。その点では、監護権の方が親権のイメージに近く、より親らしいことができる立場であるといえます。
ただし、どちらを取るにしても権利に制約が付いてしまいますし、子どもの置かれる状況も複雑になります。むやみに親権者と監護権者を分けようとするよりも、親権と監護権の両方を獲る方向に努力した方がよいケースもあるでしょう。
親権と監護権を分けるとどうなる?
親権者と監護権者を分けるメリット
親権者と監護権者を別で指定すると、このようなメリットがあります。
- スムーズに離婚しやすくなる
- 親権者の変更よりも迅速に対応できる
- 両親が協力して子育てできる
- 監護権を持っていれば親権を取りやすくなる
スムーズに離婚しやすくなる
親権争いのせいで離婚ができない状況が続いている場合には、親権と監護権を分け合うことで、互いが納得しやすくなる可能性があります。
親権者の変更よりも迅速に対応できる
監護権者を指定する手続きは、親権者を変更する手続きよりも早く結論が出るのが一般的です。そのため、まずは監護者を定めることで、子どもを取り巻く環境を早期に安定させることができます。
両親が協力して子育てできる
親権者と監護権者を分けることで、子どもを引き取らなかった親も子育てに参加している実感を持てるため、養育費の不払いや面会交流の不履行などの問題が起きづらいと考えられます。
監護権を持っていれば親権を取りやすくなる
何らかの事情により離婚時に親権者になれない場合は、監護権だけでも手に入れておくと、後で親権者の変更を目指す際に有利に働く可能性があります。
離婚後に親権者を変更するには、家庭裁判所での手続きが必要です。裁判所は様々な事情を考慮してどちらが親権者にふさわしいかを判断しますが、その際に重視される要素のひとつが「これまでの監護実績」です。
そのため、早い段階で監護権を得て監護実績を作っておくと、大きなアドバンテージになります。
親権者と監護権者を分けるデメリット
親権者と監護権者を分けることの最大のデメリットは、子どもに関する意思決定が難しくなる点です。
監護権者が子どもと生活し、日常的な意思決定を行いますが、親権者の許可が必要な行為もあります。
以下は、親権を持つ人でなければできない事項の代表例です。
- 手術の同意
- 銀行口座の開設
- 養子縁組の同意
例えば、子どもが手術を受ける必要がある状況でも、監護権者は手術の同意ができないことがほとんどです。監護権者は、親権者に連絡して同意を取りつけなければ、子どもに手術を受けさせることができないのです。
このように、親権者と監護権者を分ける場合は、許可が必要になるたびに父母が連絡を取る必要があります。両親が不仲でコミュニケーション不足の状態のまま分属させると、迅速な意思決定が妨げられるために子どもが重大な不利益を被る可能性があります。
親権や監護権を得るにはどうすればいい?
監護権者を決める手続き
①父母の協議で定める
監護権者は、父母が話し合って決めることができます。離婚後の子どもの監護について、民法は以下のように定めています。
民法第766条
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
条文は、父母のどちらが子どもを監護するかだけでなく、面会交流や養育費などの事項も話し合って決めると定めています。
財産管理権と身上監護権の区別には、明確な基準がありませんので、どちらが何を担うのかを具体的に決めておく必要があるでしょう。
また、話し合いに際しては、子の利益を最優先にすることが求められています。
監護権者は、親権者と違って戸籍に記載されません。後から言った言わないのトラブルになってしまうのを防ぐために、話し合って決めた内容は、離婚協議書や公正証書として残しておくのがよいでしょう。
監護権者を変更しても、役所などに届け出る必要はありません。
②子の監護者の指定調停・審判を申し立てる
父母間での監護者に関する話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に子の監護者の指定調停を申し立てることができます。
調停とは、家庭裁判所の調停委員会を交えて父母間の話し合いの場を設け、合意に至るように促す手続きです。
調停を行っても合意に至らなかった場合、調停は不成立となり、自動的に審判の手続きに移行します。
審判とは、裁判官が双方の事情を聞いたうえで判断を下す手続きです。調停と違い、夫婦の合意がなくても監護権者が決定します。子の監護者指定に関しては、調停を経ずに審判を申し立てることも可能です。
子の監護者指定調停・審判は、離婚時や離婚後に監護者を定めたいときだけでなく、離婚前の別居の段階でも利用できます。
実際に、離婚前の別居中であり、連れ去りのリスクが高いようなケースで使われることが多いようです。
参考
親権者を決める手続き
①離婚時に父母の協議で定める
親権者は、離婚時に父母が話し合って定めます。親権者の記載のない離婚届は受理されないため、必ずどちらか一人に決めなければなりません。
民法第819条
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
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②調停・審判を申し立てる
親権者を決めるための裁判所の手続きは、離婚時と離婚後で異なります。
離婚する時に親権者が決まらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて話し合うことができます。調停で双方が合意に至ることができれば、離婚が成立し、親権者も確定します。
離婚時に決めた親権者を後から変えたい場合は、父母の合意があっても自由に変えることはできず、親権者変更調停・審判を申し立てる必要があります。
調停で話し合っても決着が付かない場合は、自動的に審判に移行します。
親権者を決める手続き | 監護者を決める手続き | |
---|---|---|
離婚前(別居中) | – | 父母の協議監護者指定調停・審判 |
離婚時 | 離婚調停 | 父母の協議監護者指定調停・審判 |
離婚後 | 親権者変更調停・審判 | 父母の協議監護者指定調停・審判 |
参考
監護権者を調停・審判で決めるメリットとデメリット
監護権者は父母間の協議で決めることもできますが、家庭裁判所の調停や審判を使って決めると、法的拘束力が生まれるというメリットが得られます。
調停や審判によって監護権者を定めると、相手方がそれに反して子どもを引き渡さない場合や、子どもを連れ去ってしまった場合に、履行勧告や強制執行を行って子どもの引渡しを実現できるようになります。
話し合いで監護権者を決めていた場合、連れ去られた子どもを取り戻すためには調停・審判と保全処分の申し立てを行うところから始める必要があり、時間がかかってしまいます。
その他にも、第三者である調停委員や裁判官の目線から見ることで、子どもにとって利益となる判断が得られるなどのメリットがあります。
一方で、調停や審判にはこのようなデメリットもあります。
- 時間と費用がかかる
- 精神的な負担が大きい
- 必ずしも希望通りの結果になるとは限らない
どちらを選ぶかは、父母の関係性や状況によって決めるのがよいでしょう。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
父母が結婚している間は共同で親権を持っていますが、離婚する際にはどちらか一方を親権者に指定します。