子どもを連れ去られたときの対処法と親権への影響

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子どもを連れ去られた場合、「子の引渡し」と「監護者指定」を求めることが実務上の基本的な対処法です。審判が確定するまでの間は「保全処分(仮の処分)」を活用することで、より迅速に子どもを保護できる場合もあります。

連れ去りから時間が経つほど、相手の「監護実績」が積み上がっていきます。監護実績とは、実際に子どもの世話をしてきた期間・実績のことで、裁判所が監護者や親権者を判断する際の重要な考慮要素のひとつです。裁判所は現状維持の方向で判断する傾向があるため、対処はスピードが肝心です

令和6年司法統計年報によると、「子の監護者の指定」は夫婦・親族間の対立を扱う家事審判事件(別表第二事件)の中で最も申立件数が多い類型であり、毎年多くの親がこの手続きを利用しています。

2026年4月1日に施行された民法改正により、離婚後の「共同親権」が導入されました。この改正は、連れ去りの法的評価と親権者指定・変更の手続きに直接影響するため、対処を検討する際は改正後の制度を踏まえることが重要です。

この記事では、子どもの連れ去りへの対処法・手続きの選び方・強制執行の実務論点・親権への影響を解説します。

子どもを連れ去られたらすぐにやること

配偶者に子どもを連れ去られてしまった場合、子どもを取り戻し、その利益を守るためのいくつかの手続きが用意されています。

状況に応じてこれらを組み合わせることで、子どもの引渡しを目指します。

状況利用できる主な手続き
離婚前で別居中子の引渡し調停・審判、子の監護者指定調停・審判
離婚後で自分が親権者子の引渡し調停・審判
離婚後で相手が親権者子の引渡し調停・審判、親権者変更調停・審判
離婚後で共同親権子の監護者指定調停・審判、親権行使者の指定調停・審判

なお、審判の確定を待つ余裕がない緊急のケースでは、本案の申立てと同時に「審判前の保全処分」を申し立てることで、仮の引渡しを求めることが可能です。

実務上は、この保全処分を早期に活用することが子どもの保護につながるケースも少なくありません。

監護者指定および引渡し調停・審判

子どもを連れ去られた場合、まず「子の監護者指定調停・審判」と「子の引渡し調停・審判」を申し立てるのが実務上の一般的な対処法です。

この2つの手続きは、離婚前でも離婚後でも利用できます。離婚前の別居中であれば、原則として2つを同時に申し立てます。

子の監護者指定調停・審判

子の監護者指定調停・審判とは、別居中または離婚の際に、どちらが子どもの監護者になるかを当事者間で決められない場合に利用できる、家庭裁判所の手続きです。調停または審判で監護者に指定された親が、子の監護権を得ます。

監護権とは、子どもと生活をともにし、身の回りの世話や教育を行う権利のことです。通常は親権者が監護権も持ちますが、親権者と監護権者を別に定めることもできます。

調停では、当事者双方が家庭裁判所に出向き、調停委員を介して話し合いを行います。双方が合意に至れば調停が成立し、監護者でない親には子どもを引き渡す義務が生じます。

合意できずに調停が不成立となった場合は、自動的に審判に移行し、裁判官が当事者の主張や証拠をもとに判断を下します。

最初から審判を申し立てることも可能です。審判は当事者の合意を必要としないため、必ず結論が出るというメリットがあります。子どもが連れ去られたような事案では話し合いで解決できる見込みが薄いため、多くのケースで最初から審判が申し立てられます。

子の引渡し調停・審判

子の引渡し調停・審判とは、相手に連れ去られた子どもの引渡しを求めて、家庭裁判所で手続きを進めるものです。

監護者指定の手続きと同様に、調停が不成立となれば自動的に審判に移行し、最初から審判を申し立てることも可能です。

調停・審判の効果

監護者の指定や子の引渡しが調停・審判で確定した場合、相手方には子どもを引き渡す義務が生じます。

それでも相手が応じない場合は、強制執行の手続きを取ることができます。強制執行の詳細については、後述します。

なお、子どもへの虐待やネグレクトの疑いがあるなど急を要する場合は、審判前の保全処分もあわせて申し立てることを検討してください。ただし、保全処分が認められるには「急迫の危険」があると判断されることが必要であり、要件は厳格に審査されます。

離婚後に親権を取り戻すには|親権者変更調停・審判

離婚時に相手が親権者となった場合、親権者変更調停・審判を申し立てることで、親権者の変更を求めることができます。

調停では、当事者双方が家庭裁判所に出向き、調停委員を介して話し合いを行います。

話し合いがまとまり調停が成立すれば、その成立によって親権者が変更されます。合意できずに調停が不成立となった場合は、自動的に審判に移行し、裁判官が当事者の主張や証拠をもとに親権者を決定します。

ただし、親権者の変更が認められるには、子の利益の観点から変更の必要性があると判断されることが条件です。父母それぞれの監護能力や生活環境、経済状況、子どもの年齢・意思など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。

現在の親権者のもとで子どもが安定した生活を送っている場合には、変更のハードルは高くなります。一度決まった親権者を変えることは子どもへの負担が大きいため、裁判所は慎重に判断する傾向があります。

なお、2026年4月施行の民法改正により、親権者変更のあり方も広がっています。改正前は「相手から自分への変更(単独親権の切り替え)」のみでしたが、改正後は「単独親権から共同親権への変更」や「共同親権から単独親権への変更」も申し立てることが可能です。

ただし、DVや虐待のおそれがあるなど共同での親権行使が困難な事情がある場合は、裁判所は必ず単独親権を定めることとされています。

一刻も早く子どもを取り戻すために|審判前の保全処分

審判の確定を待っていると子どもの身に危険が及ぶおそれがある場合は、審判前の保全処分を申し立てることができます。

申し立てが認められれば、審判の結果が出るまでの間、仮の引渡しを受けることが可能です。あくまで一時的な処分ですが、ただちに子どもの引渡しを求められる点が大きなメリットといえます。

ただし、保全処分が認められるには、虐待や悪質な連れ去りがあった場合など、子どもに急迫の危険があると裁判所が判断することが必要です。要件は厳格に審査されるため、申し立てにあたっては具体的な事情をしっかり示すことが重要になります。

子どもを連れ去られた場合、時間が経つほど相手の監護実績が積み上がっていきます。裁判所は現状の監護環境を尊重する傾向があるため、保全処分の活用も視野に入れながら、できる限り早期の対応を検討しましょう。

なお、保全処分が認められたにもかかわらず相手が引渡しに応じない場合、送達から2週間以内であれば強制執行を申し立てて子どもを取り戻せる可能性があります。この2週間という期限は法律上の厳格なタイムリミットであるため、期間内に速やかに動くことが必要です。

相手が引渡しに応じないなら|子の引渡しの強制執行

裁判所から子どもの引渡しが命じられているにもかかわらず、相手が応じない場合は、強制執行を利用することができます。

強制執行とは、裁判所が強制的に取り決めの実現を図る手続きで、以下の2種類があります。

間接強制

引渡しに応じるまでの間、間接強制金を課すことで、相手に心理的な圧力をかけ、間接的に引渡しを促す方法です。

直接強制

裁判所の執行官が子どものいる場所へ赴き、相手による監護を解いて強制的に引渡しを実現させる方法です。民事執行法改正により、この手続きが明文化されました。

直接強制は子どもへの負担が大きい手段であるため、次のいずれかの要件を満たす場合にのみ申し立てることができます。

  • 間接強制の決定が確定した日から2週間が経過したとき
  • 間接強制を実施しても、相手が子どもの引渡しに応じる見込みがないとき
  • 子どもに急迫の危険があり、直ちに執行する必要があるとき

確定した審判や調停に基づく強制執行については、保全処分のような執行期限の定めはありません。ただし、審判前の保全処分が認められた場合に限り、保全命令を受け取った日から2週間以内に執行の申し立てを行わなければならないため、注意が必要です。

強制執行を行うには、調停・審判・保全処分など、裁判所による引渡しの決定(債務名義)がすでに存在していることが前提となります。まだ手続きを取っていない場合は、まず調停や審判、保全処分の申し立てを行うことになります。

子どもの連れ去りは親権に影響する

相手が無理やり子どもを連れ去った場合、その行為は子どもの利益を害するものとして、親権や監護権の判断において相手に不利に働く可能性があります。

ただし、実際の親権・監護権の判断は連れ去りの事実だけで機械的に決まるものではなく、緊急避難の有無・従前の監護実績・子の生活の安定性など、諸事情の総合考慮によります。

2026年4月施行の民法改正により、父母は婚姻関係や親権の有無にかかわらず、子の利益のために互いの人格を尊重し協力する義務を負うことが明文化されました(民法第817条の12第2項)。

正当な理由なく相手の同意を得ずに子どもを連れ去る行為は、この義務に違反すると評価されうるため、親権者の指定や変更の審判における考慮要素となり得ます。

一方で、連れ去りから時間が経つほど相手の監護実績が積み上がっていきます。裁判所は現状の監護環境を尊重する傾向があるため、相手の監護期間が長くなるほど、親権を取り戻すことが難しくなるのが実情です。

ただし、違法な連れ去りによって作られた状態を、裁判所が既成事実として必要以上に重視すべきではないとする考え方もあります。速やかに子の引渡し調停や保全処分を申し立てた場合、元の監護状態に戻すことが相当と判断される可能性もあります。

配偶者に子どもを連れ去られてしまったら、できる限り早く法的措置を取ることが重要です。

2026年民法改正が連れ去り・親権者変更に与える影響

2026年4月1日施行の民法改正により、子どもの連れ去りへの対処において、当事者が利用できる手段と違法性の法的根拠が整備されました。

婚姻中の連れ去りへの影響

婚姻中の別居期間中も、父母は共同親権者として子の居所指定権を原則として共同で行使するものとされました(民法824条の2)。子の転居は「日常の行為」には該当せず、DVや虐待からの避難など急迫の事情がない限り、父母が共同で決定する必要があります。

正当な理由なく家庭裁判所の手続きを経ずに子どもを連れ去る行為は、親権者の指定や変更の審判において不利に考慮されたり、損害賠償義務が生じたりするリスクを伴います。

親権者変更の選択肢の拡大

2026年3月31日以前に離婚し単独親権を定めていた場合でも、2026年4月1日以降は家庭裁判所への申立てにより、「親権者変更調停・審判」の手続きの中で共同親権への変更を求めることができるようになりました。施行によって自動的に共同親権へ変更されるわけではなく、子の利益のための必要性を踏まえて家庭裁判所が判断します。

子どもを連れ去られ相手が単独親権者である場合、従来の「自分への単独親権への変更」を求めるだけでなく、「共同親権への変更」を求めるという選択肢が新たに加わっています。

ただし、DVや虐待のおそれがある場合には、裁判所は必ず単独親権を定めます(民法819条7項)。

共同親権下での監護者指定

共同親権下においても、家庭裁判所の調停・審判により父母の一方を「監護者」として指定することが可能です。監護者に指定された親は、進学先の決定や居所の変更といった重要な監護教育に関する事項についても、単独で決定・実行できます(民法824条の3)。

監護者が指定されていない一般的な共同親権の場合は、重要事項については原則として父母双方の合意が必要となり、意見が対立する場合は家庭裁判所に決定を求めることになります。

子どもを連れ去られた場合、共同親権の有無にかかわらず、子の引渡し調停・審判の申立てとあわせて監護者指定を求めることが有効な手段となります。

子どもの連れ去りについてよくある質問

Q. 子どもの連れ去りは犯罪になる?

子どもの連れ去りは、刑法224条の「未成年者略取罪」に当たる可能性があります。別居中の親権者が子どもを連れ去った場合でも例外ではなく、実際の裁判で有罪と判断された事例があります(最判平17・12・6)。

Q. 子どもの連れ去り後の調停・審判にはどのくらい時間がかかる?

令和6年司法統計年報によると、子の監護事件の審理期間は「1年以内」が最多で、次いで「6か月以内」の順です。緊急性が認められれば審判前の保全処分を活用することで、審判の確定を待たずに仮の引渡しを受けることも可能です。

Q. 相手が海外に子どもを連れ去った場合はどうすればよい?

国際的な子の連れ去りにはハーグ条約が適用されます。日本は2014年に同条約を締結しており、締約国に連れ去られた場合は外務省領事局ハーグ条約室を通じた返還申請が可能です。連れ去りから1年を超えると、子どもが新たな環境に適応しているとして返還が認められない場合があるため、できる限り早期に申請することが重要です。

Q. 2026年の民法改正で子どもの連れ去りへの対応は変わった?

2026年4月1日施行の民法改正で共同親権が導入されました。この改正により、婚姻中の別居期間中は共同親権・単独親権を問わず、子の居所はどちらか一方の親が勝手に変えられないことが法律上明確になり、緊急避難の事情がない連れ去りへの法的な歯止めが強化されました。

弁護士に相談して親権争いを有利に進めよう

親権のことで配偶者とぶつかってしまったら、早めに弁護士に相談してサポートを受けることをおすすめします。

弁護士に依頼するとできること

  • 法律の専門家として、有利な主張・立証を行うことができる
  • 調停・審判・裁判の各手続きを熟知しているので、適切なアドバイスやサポートを受けることができる
  • 感情的になりやすい紛争において、冷静に判断・行動することができる
  • 煩雑な手続きを任せることで、自分の負担を軽減できる

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了