子の連れ去りの対処法と親権への影響を解説
親権や監護権で争っているケースでは、片方の親が子どもを連れて勝手に家を出てしまう、学校や幼稚園の帰りに子どもを連れ去ってしまうなどといった事態が起きる可能性があります。
配偶者に子どもを連れ去られてしまった時の対処法として、子どもを取り戻し、子どもの利益を確保するための手続きがいくつか用意されています。
子どもを連れ去られてから時間が経つほど、相手に有利な状況になっていくため、連れ去りへの対処はスピードが勝負です。
この記事では、子どもの連れ去りへの対処法や、親権への影響を解説します。
目次
子どもを連れ去られた時の対処法
配偶者に子どもを連れ去られてしまった時の対処法として、子どもを取り戻し、子どもの利益を確保するための手続きがいくつか用意されています。
これらの手続きを状況に合わせて組み合わせることで、子どもの引渡しを目指します。
離婚前で別居中 | 子の引渡し調停・審判、子の監護者指定調停・審判 |
離婚後で自分が親権者 | 子の引渡し調停・審判 |
離婚後で相手が親権者 | 子の引渡し調停・審判、親権者変更調停・審判 |
子どもを連れ去られたら|監護者指定および引渡し調停・審判
子どもを連れ去られたら、まずは監護者指定調停・審判と子の引渡し調停・審判を起こすのが一般的です。
この2つの手続きは、離婚前でも離婚後でも利用できます。離婚前の別居中の段階ならば、原則的に2つを同時に申し立てます。
子の監護者指定調停・審判
子の監護者指定調停・審判とは、別居時や離婚時に、どちらが子どもの監護者になるかを話し合いで決めることができない場合に利用できる、家庭裁判所の手続きです。
調停または審判で監護者に指定された方の親が、子の監護権を得ます。
監護権とは、子どもと生活をともにし、身の回りの世話や教育を行う権利のことをいい、通常は親権者が監護権も持ちますが、親権者と監護権者を別に定めることもできます。
調停では、当事者双方が家庭裁判所に出向いて、調停委員会の介入を受けて話し合いを行います。双方が合意に至れば調停は成立し、監護者でない方には引渡しの義務が生じます。合意ができず調停が不成立になった場合、自動的に審判に移行し、裁判官が当事者の主張や証拠を考慮して判断を下します。
最初から調停ではなく審判を申し立てることもできます。審判には当事者双方の合意が必要ないため、確実に決着がつくというメリットがあります。子どもが連れ去られたような事案では、話し合いで解決できる望みは薄いため、ほとんどの場合は最初から審判を申し立てます。
子の引渡し調停・審判
子の引渡し調停・審判とは、相手に連れ去られた子どもの引渡しを目指して、当事者同士が家庭裁判所で話し合いを行う手続きです。
監護者指定調停と同じく、調停が不成立になれば自動的に審判に移行します。最初から審判を申し立てることも可能です。
調停・審判の効果
調停・審判の手続きで監護者や引渡しが確定した場合、相手方には子どもを引渡す義務が生じ、引渡さなければ強制執行を実施することができるようになります。
強制執行の詳細については、後ほど説明します。
離婚後に親権を取り戻すには|親権者変更調停・審判
離婚時に相手に親権を取られてしまった場合は、親権者を変更して子どもを取り戻すために、親権者変更調停・審判を申し立てることができます。
調停では、当事者双方が家庭裁判所に出向いて、調停委員会の介入を受けて話し合いを行います。話し合いの中で双方が合意に至れば、親権者が変更されます。
合意ができず調停が不成立になった場合、自動的に審判に移行し、裁判官が当事者の主張や証拠を考慮して親権者を決定します。
ただし、離婚の後から親権者を変更するには高いハードルがあります。子どもが親権者から虐待を受けているなど、相当な事由が存在しなければ変更は認められません。
一刻も早く子どもを取り戻すために|審判前の保全処分
審判の確定を待っていると子どもの身に危険が及ぶ場合は、審判前の保全処分を申し立てることができます。
この申し立てが裁判所に認められれば、審判成立までの間は、仮の引渡しを受けることができます。
これはあくまで審判の結果が出るまでの一時的な処分ですが、ただちに子どもの引渡しを受けることができるのが大きなメリットです。
子どもを連れ去られてしまった場合、時間が経てば経つほど相手の監護実績が積み上がってしまいますので、保全処分を利用して1日でも早い引渡しを目指しましょう。
なお、保全処分が裁判所から認められたにも関わらず、相手が子どもの引渡しに応じない場合、2週間以内であれば強制執行の申し立てを行って子どもを取り戻せる可能性があります。
相手が引渡しに応じないなら|子の引渡しの強制執行
子どもを引渡すことが裁判所から命じられているにもかかわらず、相手が引渡しに応じない場合、強制執行を利用することができます。強制執行とは、裁判所が強制的に取り決めの実現を図る手続きで、以下の2種類に分かれています。
間接強制
引渡しまでの間、間接強制金を課すことによって、間接的に子どもの引渡しを促すのが間接強制です。
直接強制
裁判所の執行官が子どものもとへ赴き、強制的に引渡しを実現させるのが直接強制です。
直接強制は、子どもに強い負担がかかる手段ですので、間接強制を行っても子どもの引渡しに応じる見込みがない場合、もしくは子どもに急迫の危険がある場合でなければ認められません。
通常は、強制執行には期限がありません。ただし、例外として審判前の保全処分が認められた場合のみ、保全命令を受け取った日から2週間以内でなければ執行できないため注意が必要です。
強制執行を行うためには、既に調停・審判や保全処分などのような裁判所の決定によって子どもの引渡しが命じられていることが必要です。したがって、まずは調停や審判、保全処分などの申し立てを行うことになります。
子どもの連れ去りは親権に影響する!
相手が無理やり子どもを連れ去った場合、子どもの利益を害する行為として、裁判では相手に不利に働く可能性があります。
一方で、連れ去りから時間が経つほど相手の監護実績が積まれていきます。裁判所は現状維持の方向で判断をすることが多いため、相手の監護期間が長くなるほど、こちらが親権を獲得できる可能性は下がってしまいます。
したがって、配偶者に子どもを連れ去られてしまったら、すぐに子の引渡し調停の申し立てなどの法的な措置を取ることをおすすめします。
弁護士に相談して親権争いを有利に進めよう
親権のことで配偶者とぶつかってしまったら、早めに弁護士に相談してサポートを受けることをおすすめします。
弁護士に依頼するとできること
- 法律の専門家として、有利な主張・立証を行うことができる
- 調停・審判・裁判の各手続きを熟知しているので、適切なアドバイスやサポートを受けることができる
- 感情的になりやすい紛争において、冷静に判断・行動することができる
- 煩雑な手続きを任せることで、自分の負担を軽減できる
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
なお、子どもに虐待やネグレクトなどの危険が迫っており、一刻も早く相手と引き離すべきと思われる場合は、審判前の保全処分もあわせて申し立てましょう。