離婚したら賃貸契約はどうなる?住み続ける方法や名義変更について解説

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離婚と賃貸物件

「離婚したあとも、夫名義で契約しているアパートに住み続けたい」
「離婚して家を出るものの、ひとり親になるため賃貸の審査が通るか不安だ」

離婚を考えている方のなかには、そのまま賃貸物件に住み続けられるかどうか、収入が少ない状態で賃貸契約ができるかどうかといったことで、不安になっている方もいるのではないでしょうか。

子どもがいる場合は、家を出ることになると転園・転校させる必要が生じるかもしれず、できればそのまま住み続けたいと思う気持ちもわかります。

原則として、離婚後も夫名義で契約していた賃貸物件に住むことができます。家を出て新しく賃貸物件を契約するという場合も、審査を通るための対処法がいくつかあります。

今回は、離婚したあとも夫名義で契約している賃貸物件に住み続けられることや、離婚後に賃貸の審査に通るにはどうすればよいか、離婚と賃貸について知っておくべきことについて解説します。

離婚後も夫が借りていた賃貸に原則住み続けられる

一般的に、夫婦で賃貸物件を借りるときには、夫や父親が契約者となることが多いでしょう。

夫と離婚をして夫が家を出ていき、アパートやマンションには妻が住み続けるという場合は、契約名義人と実際に住んでいる人が異なることになります。

そこで、「夫が出ていったけど、名義人ではない自分がアパートに住み続けてもよいのか」と不安になる方も多いでしょう。

基本的には、離婚後も夫名義で借りていた賃貸に住み続けることができます。

契約者と入居者が違えば、契約解除の原因にはなる

契約者と入居者が異なる場合は、契約解除の原因となり得ます。

賃貸借契約は、一度契約するとその関係が長期間続くような契約です。そのため、貸す側と借りる側の強い信頼関係が重要になると考えられています。

仮に契約者以外の人が勝手に物件を利用したとすると、大家さんとの信頼関係が破壊されてしまうことになります。

したがって、賃貸借契約では貸す側に無断で転貸(ある人から借りたものを他の人に貸すこと)や譲渡をすることが禁止されており、これに違反すると、基本的に貸す側は契約を解除できます。

信頼関係の点で、基本的にそのまま住み続けられる

一見すると、夫が借りていた物件に契約者ではない元妻が住み続けることは、転貸や譲渡をしているのと同じような状態になることから、「大家さんに契約を解除されてしまうのでは」と疑問に思う方もいると思います。

ただし、賃貸借契約は、貸す側と借りる側の強い信頼関係が重要になる契約です。

元妻がもともとそのアパートに住んでいて、婚姻中に大家さんとの間で信頼関係が破壊されるようなことがなかった場合には、解除原因には当たらないと考えられています。

そのため、離婚後に元妻が物件に引き続いて居住しても、貸す側が契約を解除することは基本的に認められないので、そのまま住み続けることができます。

もっとも、「結婚しているときからよく家賃を滞納していた」といった場合は、信頼関係が破壊されたことがあるとして、契約の解除原因になることはあるでしょう。

夫から妻への名義変更や再契約をするべき

離婚して夫が出ていった後も賃貸物件にそのまま住み続けることは可能です。ただし、実際の居住者と契約者が異なっているという状況には変わりありません。

そのため、大家さんと円満な関係を保つためにも、契約名義の変更や、再契約をしておくことをおすすめします。

契約名義の変更をするうえで気を付けておきたいポイントとして、新しく借りる側となる元妻に賃料を支払っていけるだけの収入があるかどうかの審査があったり、新たに連帯保証人を付けることを要求されたりする可能性があるということが挙げられます。

名義変更

名義変更をする場合は、まず、不動産を管理している管理会社や大家さんに相談しましょう。

管理会社や大家さんの連絡先がわからないという場合は、賃貸借契約書に書かれているはずですので、確認してみることをおすすめします。

必要な書類については、管理会社や大家さんによって異なります。「離婚で氏名が変わった」という場合は、新しい氏名がわかる身分証明書をもっていくと、手続きがスムーズに進みます。

費用については、目安として名義の変更には数万円から家賃1か月分かかると考えておくとよいでしょう。

再契約

再契約をする場合も、名義変更と同様に、管理会社や大家さんに連絡をしましょう。

再契約をするときは、敷金や礼金などの初期費用をあらためて支払う場合がほとんどです。大家さんや管理会社によっては、支払わなくても済むこともあるので確認を取ってみることをおすすめします。

その後は、新たに賃貸契約を結ぶときと同じような流れで進んでいきます。

離婚で賃貸の入居審査をするときの注意点

離婚で夫名義のアパートを出て1人暮らしを始めたり、子どもを連れてシングルマザー(母子家庭)として暮らしたりすることを選ぶ方もいると思います。

ここでは、離婚で賃貸の入居審査を受けるときの注意点について解説します。

離婚する前に家を探しておく

離婚をする前に、離婚後の住居について準備をしておきましょう。

自分が今住んでいる家を出て新しく賃貸を契約するという場合は、賃料の無駄が出ないように、家を出る日や離婚する日が決まってから新しく賃貸を契約することをおすすめします。

また、子どもがいるという場合は、子どもの学区や通学に配慮して家を探してみることも重要です。

離婚届を出す前に家を探しておけば、離婚後すぐに引っ越せるほか、離婚調停や離婚裁判に移行したとしても別居することができます。

離婚の引っ越し費用を請求する権利はない

離婚で自分が家を出るとなった場合に、「相手に引っ越し費用を請求したい」と考える方も多いと思います。しかし、法的な手続きによって強制的に引っ越し費用を支払わせることはできません。

ただし、離婚条件に含めて交渉することはできます。相手の合意があれば引っ越し費用をもらうことはできるので、離婚をする際に引っ越し費用についても話をしておくことをおすすめします。

離婚後無職でも賃貸の審査に通るためのポイント

もともと専業主婦だったり、働き口がなかったりして、「金銭的に余裕がなく、審査に通るか不安だ」という方もいるでしょう。審査に通るためのポイントとして、以下のようなものが挙げられます。

審査に通るためのポイント

  • 預貯金審査をしてもらう
  • 両親などに代理契約をしてもらう
  • 連帯保証人を立てる

預貯金審査をしてもらう

預貯金審査とは、自身の貯金額がわかるようなコピーを保証会社に提出して、入居審査の判定材料として使ってもらう審査のことです。専業主婦や子どもが小さいなどの理由で職に就いていなかったときでも、支払い能力があることを証明することができます。

一般的には、提出したときの預貯金額で2年分の家賃支払いが確保できるかどうかが、預貯金審査の基準の目安とされています。

物件によって対応していない場合もあるので、まずは不動産会社に相談をしてみることをおすすめします。

両親などに代理契約をしてもらう

両親などの信頼できる人に、自分の代わりとして契約をしてもらうことも一つの手です。

代理契約を結ぶ場合は、自分ではなく代理契約者に家賃の支払い義務が生じるため、自分だけでなく代理契約者の属性も審査される点に注意が必要です。

連帯保証人を立てる

連帯保証人を立てることで審査に通りやすくなる可能性があります。

誰を連帯保証人に選ぶかについては、友人などでは審査を通過するのが難しいケースがありますので、できるだけ信頼できる親族を選ぶことをおすすめします。

準備しておくべき書類

「離婚で家を出てひとり親家庭になる。審査で準備しておくべき書類を知りたい」という方もいるでしょう。

以下のような書類を準備しておけば、スムーズに新生活を始めることができます。

審査で準備しておくべき書類

  • 入居者全員の現在の住民票(入居申込書と同じ住所のもの)
  • 運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書
  • 認印
  • 前年度分の源泉徴収量や直近3か月の給与明細など収入証明書
  • 無職の場合は預貯金がわかるもの
  • 働く場合は内定証明書
  • 連帯保証人の住民票、印鑑証明書、収入証明書 など

離婚で1人暮らしを始めるときやひとり親家庭になるという場合は、家の審査だけでなく、金銭面での不安もあると思います。離婚でもらえるお金についてくわしく知りたい方は、『離婚したらもらえるお金は?手当や公的支援を解説!』をご覧ください。

離婚と賃貸について知っておくべきこと

夫名義のままだと勝手に解約されることがある

離婚後に夫名義で契約していた賃貸物件にそのまま住むことはできます。ただし、名義を変更していなかったり新しく契約を結んでいなかったりした場合、名義人である夫が勝手に契約を解除するおそれがあります。

夫名義のままであれば、契約者は夫ということになり、解約すること自体に法的な問題はありません。

もちろん、解約後に新しく契約を結ぶということは可能です。しかし、敷金や礼金を払う必要があったり、審査があったりと、一から契約を結びなおすことになるので注意しましょう。

夫からの退去費用の請求は気にしなくてもよい

場合によっては、自分が家から出て新しい家を契約したり、賃貸物件を解約して夫婦そろって家を出たりすることがあると思います、

このとき、修繕費や原状回復に使うお金という名目で、夫から退去費用を請求されることがあります。

原則として、修繕費などの退去費用の請求をされても、応じる必要はありません。

原状回復のためのお金は敷金から払われますし、もし敷金で補てんできない程の状態だったとしても、請求は契約名義人である夫にいくことになります。

離婚で賃貸の保証人を変更するのはハードルが高い

一般的に、賃貸物件に入居する際には、万が一家賃の支払いができなくなってしまった場合に備えて連帯保証人を付けると思います。

「自分が賃貸物件の保証人になっているけれども、離婚して家を出るため保証人を変えたい」という方もいるでしょう。

しかし、原則として、本人の自己都合から賃貸の保証人を変更することはできません。保証契約は大家と保証人との間の契約です。そのため、大家さんの許可がないかぎり、保証人を変更することはできません。

もちろん離婚で保証人を変更して別の人にしたいと大家さんに申し出ることは可能です。ただし、新しく保証人になる人には、「現在の保証人と同じくらいかそれ以上の収入がある」「安定した職業収入が見込める」といった条件が必要です。

離婚と賃貸で困ったことがあれば弁護士に相談!

離婚後も夫名義で契約していた賃貸物件に住むことができます。そのまま住み続けるという場合は、名義変更や再契約をおこなうようにしましょう。

離婚に関係する賃貸のトラブルについて不安があるという方は、弁護士に相談することをおすすめします。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了