事業承継問題とは?課題は後継者不在?解決策はM&A?

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事業承継問題
  • 事業承継問題とは?
  • 中小企業の事業承継の課題は?後継者問題で悩む経営者は多い?
  • 事業承継問題はM&Aで解決?相談先は?

近年話題になっている事業承継問題とは、後継者不在によって次の世代に会社を継いでもらうことができず、廃業を避けられないリスクのことです。

廃業をするとしてもある程度のコストはかかりますし、従業員にも迷惑がかかってしまします。

この記事では、事業承継問題の実態、解決策、相談先などをまとめています。

自分の子どもや社員に後継者候補がいなくても、M&Aによって第三者に事業承継ができれば、会社は存続することができます。

中小企業の経営者の方など、是非ご参考になさってください。

事業承継問題の現状は?深刻な課題とは

事業承継問題とは?

近年、「事業承継問題」が深刻化しています。

これは、経営者の高齢化や後継者不足により、事業を継続することが困難になるという問題です。

様々な要素があいまって、事業承継問題が顕在化しています。

事業承継問題の原因

  • 後継者不在
  • 後継者教育が難しい
  • ワンマン経営による事業承継準備の遅れ
  • 適した相談者の不在
  • 経営状況や将来に対する漠然とした不安の対処法が分からない
  • 取引先・従業員からの反発
  • 経営者自身に退く意思がない
    など

事業承継問題の実態は?70%が後継者不在

帝国データバンクの調査によると、2023年の後継者不在率は全国で53.9%となっています(「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」)。

このことから、後継者問題は一定の改善傾向にあるといわれています。

ですが、鳥取県、秋田県などの後継者不在率が約70%にものぼります。

全体的にみれば、事業承継問題は、いまだ深刻な課題に直面している状況といってよいでしょう。

2025年問題とは?事業承継の今後の課題

2025年問題とは、団塊世代の多くが75歳以上の後期高齢者となり、日本が超高齢化社会となることで生じる様々な問題のことを指しています。

事業承継問題も、2025年問題のひとつです。

2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、そのうち約半数である127万人は後継者未定、その結果、経営者が70歳を超える法人の31%、個人事業主の65%が廃業になると想定されています。

事業承継問題を解決できないデメリット

事業承継問題を解決できない場合、さまざまなデメリットが生じます。

廃業のコストがかかる

事業承継問題を解決できないと、廃業するためのコストがかかります。事業で使用しなくなった資産を処分する必要があり、従業員への退職金を支払う必要もでてきます。事業承継ができれば、譲渡益が手に入るメリットがあるのに、廃業を選択することで損をしてしまうのは勿体ないことです。

従業員が露頭に迷う

また、退職金を支払うにせよ、従業員の雇用を維持できなくなるというデメリットには注意を払うべきです。年齢によっては再就職が難しい場合もあるでしょう。経営者として、従業員の雇用を維持するには、廃業ではなく、理解のある相手とのM&Aが適切なのではないでしょうか。

自社ならではの技術が消滅・顧客が悲しむ

そのほか、自社で培ってきたノウハウ・技術がなくなるというデメリットもあるでしょう。大切に育ててきた会社の存在そのものがなくなることは、経営陣のみならず、顧客にとっても大きな損失です。廃業による自社の消滅を回避するには、どうにかして事業承継の課題を突破しなければなりません。

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【事業承継問題・課題チェックリスト】あなたの会社は大丈夫?

このチェックリストは、あなたの会社が事業承継問題に直面しているかどうかを判断するためのものです。

事業承継の可否・要否はあくまでケースバイケースですが、一般的にみて事業承継問題への対策が急務かどうかを判断する目安となる質問をご用意しました。

以下の質問に「はい」と答える項目が多ければ多いほど、事業承継問題への対策が急務といえます。

①後継者についての質問

当てはまるものに「はい」とお答えください。

  1. 後継者候補となる人材がいない。
  2. 後継者教育に着手していない。
  3. 後継者教育のプログラムがない。
  4. 後継者候補に意欲がない。
  5. 後継者候補に資質がない。

ひとつでもあてはまるものがあれば、いわゆる「後継者不在」の状態の可能性があります。

早急に後継者候補の選定・教育にとりかかってください。

②現経営者についての質問

当てはまるものに「はい」とお答えください。

  1. 経営者の年齢が60歳以上。
  2. 体力・健康状態に不安がある。
  3. 経営を続ける気力が低下した。
  4. 経営者の退職時期が不明確。事業承継の意欲がない。
  5. 経営者が会社の個人保証をしている。

ひとつでもあてはまるものがあれば、事業承継問題そのものを認識できていない可能性があります。社長の急逝などによる混乱を招きかねません。

経営陣において早急に、会社の将来・事業承継について向き合う必要があります。

③事業についての質問

当てはまるものに「はい」とお答えください。

  1. 将来の明確なビジョンがない。
  2. 事業の収益力が上がらない。
  3. 自社の資産を活用できていない。
  4. 自社の強みが分からない。
  5. 負債がある、あるいは赤字である理由をうまく説明できない。

ひとつでもあてはまるものがあれば、事業承継をする場面で、企業価値を高く評価してもらえない可能性があります。M&Aの相手が見つからないリスクもあります。

事業承継の専門家に相談するなどして、企業価値向上を目指してください。

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④情報についての質問

当てはまるものに「はい」とお答えください。

  1. 事業承継・引継ぎ支援センターを知らない。
  2. 民間のM&A仲介会社に相談したことがない。
  3. 事業承継のメリットを知らない。
  4. 事業承継の手法が分からない。
  5. 事業承継税制を知らない。

ひとつでもあてはまるものがあれば、事業承継の流れやメリットなどの重要な情報にアクセスできていない可能性があります。

実際に事業承継をするにしても、とどまるにしても、その経営判断をおこなうための十分な情報収集は欠かせません。

本サイトでは事業承継に関する情報発信をしているので、是非ご参考になさってください。

また、公的機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」や、民間のM&A仲介会社などで実施されている無料相談も活用してみてください。

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事業承継にまつわる課題と解決方法

事業承継問題の最重要課題…後継者探しはどうする?

後継者を見つける際は、以下の3点に注意をしましょう。

後継者探しの3つの注意点

  • 早めの取り組み
  • 社内外の人材育成
  • M&Aの活用

早めの取り組み

経営者の高齢化を見据えた長期的な視点で、社内外人材の育成やM&Aなどの選択肢を検討することが重要です。

社内外の人材育成

親族内承継や従業員承継などによる事業承継の場合は、社員教育プログラムや外部人材の採用を通じて、経営に必要な知識、経験、能力を持つ人材を育成する必要があります。

M&Aの活用

親族内承継、従業員承継ができない場合は、外部の第三者への事業売却・会社売却を検討する必要があります。

政府・自治体の支援制度や、民間のM&A仲介会社、税理士などの士業、金融機関などに相談することで、M&Aの相手探しをサポートしてもらえる可能性があります。

事業承継の方法の選択(M&Aの手法選択)

事業承継には様々な方法があります。事業承継の手法を選択する際には、以下の3点に注意しましょう。

事業承継の方法を選択する際の3つの注意点

  • 自社の状況分析
  • 専門家に相談
  • 情報収集

自社の状況分析

事業規模、財務状況、将来性などを分析し、最適なM&A手法を選びましょう。

たとえば、中小企業の経営者が後継者に事業承継をおこなう場合に、健全な財務状況が維持できており、収益性が見込めるときは、株式譲渡による事業承継が選択されることも多いでしょう。

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専門家に相談

事業承継の方法によっては、かかる税金が異なります。また、必要になる法的な手続きも変わります。

一生のうちに何度も事業承継を経験される経営者の方はめずらしく、不慣れな方も多いでしょう。

税理士、弁護士、M&A仲介会社などの専門家に助言を求め、その意見を参考にしながら、自社の状況や目標に合致したM&Aの手法を選択・判断するのをおすすめします。

情報収集

セミナー参加、書籍・ウェブサイトでの情報収集などを通じて、M&Aに関する知識を深めるのも良いでしょう。

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事業承継の実行(交渉・契約などの問題)

事業承継の実行については、適切な交渉と、不備のない契約の締結が必須です。また、その他にもクロージングに向けて真摯な態度で、条件の実現に奮闘する必要があります。

実行の注意点3つ

  • 適切な交渉をする・交渉術の活用
  • 不備のない契約の締結
  • クロージングに向けた努力

適切な交渉をする・交渉術の活用

まずは交渉をおこなうまでに、専門家の知恵を借りて準備をおこなうのが良いでしょう。この場合、事業承継を得意とする税理士、弁護士、公認会計士や、M&A仲介の担当者などに相談をおこないます。

そして、実際の交渉では相手方に誠意をもった対応をすべきですが、すべてを譲歩する必要はありません。自社の利益も尊重できるよう、Win-Winの交渉を目指せると良いでしょう。

交渉に関する古典的な概念のひとつであるBATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)を理解しておくことも大切です。BATNAとは、相手が提示してきた内容以外の最善の代替案のことです。BATNAを想起しておくことで、不利な条件ものまなければならないという強迫観念を捨てて、精神的に余裕をもって交渉にのぞむことができるでしょう。

不備のない契約の締結

M&Aによる事業承継では、書面の整備は重要です。 契約書や覚書など、合意内容を明確に記載した書面を作成する必要があります。法的書面作成については、弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。

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クロージングに向けた努力

クロージングに向けて、事業承継を実行できるように株主総会の承認決議を受けたり、従業員や取引先への連絡・調整をおこなう必要があるでしょう。

とくにキーマン条項や、COC条項がある場合は適切にクロージングができなければ、M&Aの中止を招くリスクがあります。

キーマン条項(ロックアップ)


M&Aの売り手側と買い手側の間で締結する条項。
売り手側企業の業務遂行において重要なポジションを担う役員・従業員などのキーマンが、M&Aの実施後も一定期間、会社を辞めてはならないという義務を負う条項。

キーマン条項に違反して、キーマンが退職してしまった場合、売り手は、買い手側企業から損害賠償を請求されるリスクがあるほか、M&Aそのものの中止が問題になります。

COC条項(チェンジオブコントロール)


M&Aの売り手側とその取引先が締結している条項。
M&Aなどを理由として、一方当事者の経営者が変更した場合、他方当事者は契約の解除等ができる。

COC条項の発動をおさえるには、他方当事者へ丁寧な説明をおこない、理解を得ることが重要です。

COC条項が発動され、取引中止となる場合も、売り手企業の企業価値の低下につながることで、M&Aがとん挫するリスクがあります。

事業承継の課題解決で頼りになる相談先と制度(一覧)

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターとは、中小企業庁が設置する、事業承継に関する相談窓口です。

事業承継・引継ぎ支援センターは、全国各地に拠点があり、専門家が相談に応じてくれます。相談は無料で、秘密厳守で実施してもらえるうえ、国が設置する相談機関ということで安心感もひとしおでしょう。

主な相談内容

主な相談内容は、後継者候補の選定から手続きまで幅広いものです。

相談内容(一例)

  1. 事業承継・引継ぎ(親族内・第三者)に関する相談
  2. 事業承継診断による事業承継・引継ぎに向けた課題の抽出
  3. 事業承継を進めるための事業承継計画の策定
  4. 事業引継ぎにおける譲受・譲渡企業を見つけるためのマッチング支援
  5. 経営者保証解除に向けた専門家支援など

利用方法

基本的には、最寄りの事業承継・引継ぎ支援センターに相談することになります。

たとえば、東京都事業承継・引継ぎ支援センターを利用する場合は、電話またはメールで問い合わせをおこない、相談予約をとり、来所して相談することになります。

税理士・公認会計士・弁護士などの事業承継を支える専門家

税理士、公認会計士、弁護士などは、事業承継に対応可能な専門的な知識を有する専門家です。

主な相談内容

専門家相談内容
税理士税務のアドバイス、M&A価格の税金対策など
公認会計士財務状況の分析、事業価値評価など
弁護士契約書作成、交渉のサポートなど

利用方法

各専門家の事務所に直接連絡をいれて相談予約をするか、M&A仲介会社を利用する際に照会してもらうという方法があります。

事業承継問題の相談先(一覧)

事業承継に関する相談先については、以下の記事で整理しています。

課題の解決は、良き相談相手があってこそ叶うものです。

あわせてご参照ください。

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事業承継問題で活用できる国の制度・支援

中小企業庁では、事業承継にまつわる様々な問題を解決する豊富な支援策を提示してくれます。事業承継に取り組む中小企業にとって、とても頼りになる公的機関です。

中小企業庁のホームページでは、事業承継の支援施策についての紹介があるので、こちらもチェックしてみると大変参考になります。

また、中小企業庁が主導する「事業承継・引継ぎ補助金」の制度を活用できると、事業承継にかかる経済的負担を軽減することが可能です。

事業承継・引継ぎ補助金の過去の実施状況については「事業承継・引継ぎ補助金のすべて|M&Aで活用できるお得な補助金とは…」の記事をご覧ください。最新の募集状況については、中小企業庁のホームぺージでお確かめください。

事業承継問題の原因のひとつとして、経営者の個人保証の重い責任を引継ぎたくないから、後継者候補に辞退されてしまうという問題もあります。経営者の個人保証の解除に関する制度もあるので、活用できるか確認してみるのも、事業承継問題を解決する方法のひとつの策です。

事業承継問題の解決にはM&A仲介会社もおすすめ

民間のM&A仲介会社のメリットとは?

民間のM&A仲介会社に相談するメリットは、最適なM&Aパートナーを提案してもらえること、必要な時に専門家を紹介してもらえること、ニーズに合わせてサービスを選択できることなどです。

M&A仲介会社のメリット

  • 最適なM&Aパートナーの提案
  • 必要な時に専門家を紹介
  • ニーズに合わせてサービスを選択

自身でM&Aの買い手や、M&Aに詳しい専門家を探すとなると、かなり手間がかかります。M&A仲介会社に依頼しておけば、マッチングや専門家を紹介してくれるので大変便利です。

そして、自分のニーズにあわせた活用ができます。たとえば、後継者候補とのマッチングで足りる場合はそれのみを利用する、M&A価格の算定を専門家に依頼したい場合は公認会計士による企業価値評価のサービスを受けるなど、サービスをカスタムできることが通常でしょう。

M&A仲介会社にもそれぞれ特色があるので、複数にアクセスしてみて、使い勝手が良さそうな会社を選ぶのがおすすめです。

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