後継者不足の解決策はM&A?後継者問題の実態は…
- 後継者不足の解決策は?
- 後継者問題の実態は?
- 後継者問題の解決事例は?
後継者不足は、中小企業にとって深刻な問題です。
後継者がいない、または適任者がいないといった後継者問題が生じた場合、事業を廃業せざるを得ないケースも少なくありません。
昨今、このような後継者不在による隠れ倒産が急増しています。
ですが事業の廃業は、経営者や従業員、取引先の今後の生活に大きな影響を与えるものです。
この記事では、後継者問題に悩む経営者の方に向けて、後継者不足の解決策、M&Aのメリット、後継者問題の相談先、後継者不足の解決事例などを解説しています。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
後継者不足の解決策
解決策①親族内承継(親族から後継者を指名)
後継者不足の解決策として、最も一般的なのが親族内承継でしょう。
親族内承継とは、親族の中から後継者を指名する方法です。
中小企業の経営者の場合、とくに実子に後を継がせたいと思うものです。しかし、実子が後を継がない選択をした場合、後継者問題が表面化します。
このような場合、経営者としては「実子でなくても、せめて自身の血縁者に後を継いでもらいたい」と考えるものでしょう。
親族で家業を切り盛りしているようなケースであれば、実子以外の親族を後継者とすることで、後継者問題を解決できる可能性があります。
▼この解決策のメリット
- 事業のノウハウや伝統が継承されやすい
- 従業員の雇用が維持されやすい
- 事業の存続可能性が高まる
▼この解決策のデメリット
- 適任者がいない可能性がある
- 親族間のトラブルが発生する可能性がある
解決策②社内承継(社員から後継者を指名)
親族内承継の次にポピュラーな後継者不足の解決策が、社員承継です。
社員承継とは、社員から後継者を選んで事業を承継させる方法です。
日頃から社員の活躍に目を凝らし、優秀な人材に目星をつけておけば、いざという時に後継者として指名することも可能でしょう。
自社の内部事情にくわしく、経営能力も秀でているのであれば、実子などの血縁者を後継者にするよりも、事業を発展させてくれるかもしれません。
▼この解決策のメリット
- 社員なので、早期に育成が可能
- 従業員のモチベーション向上につながる
- 事業の存続可能性が高まる
▼この解決策のデメリット
- 適任者がいない可能性がある
- 従業員間の不公平感が発生する可能性がある
解決策③第三者承継(M&A)
親族内承継や社員承継以外の後継者不足の解決策として、第三者への事業承継(M&A)があります。
M&Aとは、他の企業との合併・買収により、事業を承継する方法です。
M&Aの割合はどのくらい?
2023年の事業承継について、ある統計では、以下のような結果がでています。
M&Aによる事業承継は、全体の約20.3%も占めており、後継者不足の問題を解決する有効な対策であることが分かります。
- 社内で後継者に昇格したケース
約35.5% - 身内を後継者とするケース
約33.1% - M&A(買収・出向・分社化)
約20.3%
2023.11.21 株式会社帝国データバンク「特別企画:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231108.pdf(2023.12.29現在)より数値を抜粋して整理した。
M&Aの手法
さて、中小企業がおこなうM&Aの手法のうち、代表的なものとしては株式譲渡があげられます。
多くの場合、中小企業の株式には譲渡制限がついており、同族経営に支障をきたさない工夫がされています。
とはいえ株主総会の承認決議があれば、非上場株式でも第三者に譲渡可能です。
経営ノウハウのある買い手を見つけて株式譲渡ができれば、後継者問題を解決できる可能性があります。
M&Aの注意点
M&Aの後は、新しい経営者による経営方針や事業内容の変更によって、売り手側企業の従業員が不安を感じたり、不満を持ったりする可能性があります。
社員は、今まで会社に尽くしてきてくれた仲間でもあり、M&A実施後の経営統合を成功させるために大切な人的資源でもあります。
そのため、M&Aの実施に際しては、従業員のその後の処遇についても十分配慮する必要があります。
また、従業員にM&A実施についての報告をおこなう際は、適切なタイミングで、丁寧な説明を心がけましょう。
▼この解決策のメリット
- 後継者候補の育成は不要
- 事業の規模拡大や事業内容の転換も期待できる
▼この解決策のデメリット
- 株式譲渡の対価の算定が難しい
- 従業員が不満に思う可能性がある
解決策も提示?後継者不足の相談先は?
①公的機関:事業引継ぎ支援センター
後継者問題を解決するために、M&Aを検討している場合、まずは買い手とのマッチングが必要です。
中小企業のM&Aについて相談できる公的機関として、事業承継・事業引継ぎ支援センターという公的機関があります。
これは国が設置する公的相談窓口で、中小企業の事業承継に関する相談を無料でおこなってくれる公的機関です。
また、後継者となる人材が名簿登録されているので、後継者不在の中小企業から問い合わせをした場合、マッチングできそうな後継者候補がいるときは、お知らせしてもらえます。
ただしM&A実務について、企業価値の算定、条件交渉、契約書の作成などを専門家に依頼する場合は、手数料が発生するので注意が必要です。
▼この解決策のメリット
- 公的機関なので安心感がある
- 相談料は無料
▼この解決策のデメリット
- M&A実務のサポートには手数料がかかる
- 相談窓口が限られている
②民間:M&A仲介会社など
後継者問題を解決するための相談先として、民間のM&A仲介会社があげられます。
民間の相談先は、公的機関よりも専門的なサポートを受けられる場合も多いでしょう。
ただし、サポート内容や手数料はM&A仲介会社によって異なります。
ご自身のニーズにあったM&A仲介会社を選びましょう。
▼この解決策のメリット
- 事業承継の専門家がサポートしてくれる
- 事業承継の実行までのスピードが早い
- 自分のニーズにあったサービスを選べる
▼この解決策のデメリット
- 費用が高額になることがある
- 両手取引の仲介の場合、買い手優位で成約に至る懸念がある
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後継者問題の実態は深刻?
後継者不足で廃業?後継者不在率は?
後継者不在率とは、事業の実態がある企業のうち、後継者が決まっていない企業の割合のことです。
後継者不在率は、近年、改善傾向にあるとはいわれています。というのも、帝国データバンクが発表した「後継者難倒産」動向調査によれば、6年連続で下がり、2023年の後継者不在率は53.9%になりました。
ただ、事業承継の適齢期とされる60歳代の経営者の後継者不在率は、37.7%にものぼるという数値も出ています。
これらのことからすると、まだまだ多くの方が後継者不足の問題に頭を悩ませているといえるでしょう。
高齢になればなるほど、病気や死亡により、後継者の教育がままならなくなります。
早期に後継者候補となる人材を見つけ出し、M&Aに踏み切る勇気も必要になるといえるでしょう。
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後継者不足の原因は?
後継者不足の原因は、後継者育成の失敗や、後継者候補自身の辞退など様々です。
素質がないので継がせられない
実子に会社を継いで欲しいと思い、長い目で後継者教育に力を注いできた場合でも、経営の素質がなかったというケースもあるでしょう。
この場合、ほかにも目をかけている後継者候補がいなければ、後継者不足の問題が生じてしまいます。
後継者候補がみずから辞退
後継者候補として申し分ない人望や能力があるとしても、候補者側が辞退を申し出たために、後継者不足の問題が生じることもあります。
後継者となることに重圧を感じ、後継者になりたくないと考えるケースもあるのです。
たとえば以下のような事情が原因で、「自身が引き継いだ場合にうまく会社運営ができるのか」と不安になる後継者候補も多いものでしょう。
辞退の原因となる事情(一例)
- 経営者としての重い責任
経営状態の維持・改善を図らなければならない重圧 - 個人保証を負いたくない
- 旧態依然とした経営方針についていけない
etc.
後継者は、経営者としての責任や負担を負うことになります。後継者として会社を引き継ぐことは、ただ単に、事業のノウハウや伝統を継承するだけではありません。先代から継いだ会社の経営状態の維持あるいは改善を図る必要があります。
また、先代のオーナーの個人保証がはずれた場合、その後継者が会社の債務の保証人になるというリスクが発生する可能性があります。
そのほか、中小企業の多くは、旧態依然とした典型的なワンマン経営、古参社員との関係構築など組織としての課題が多いこともしばしばです。
後継者候補がこのような不安をいだく場合には、払拭してあげることが必要です。
それが難しい場合には、M&Aによる事業承継を検討するのが良いでしょう。
後継者問題をM&Aで解決できた実例
後継者問題の解決事例①
SRホールディングス(HD)が、後継者問題をかかえていた「グラフィック機材(株)」の株式を取得することで、子会社化した事案があります。
買い手企業であるSRHDは事業多角化を進めたい狙いがあり、このM&Aを進めたといわれています。
グラフィック機材側の雇用は維持され、社名や業務内容も変わらないという条件で、最終合意が締結されました。
物流や貿易、アパレル事業を傘下に持つSRホールディングス(HD、広島県福山市)は印刷関連業のグラフィック機材(岡山市)の全株式を取得し、21日に契約書を交わした。日本M&Aセンター(東京・千代田)が仲介した。グラフィック機材は後継者不在の課題を解決し、SRHDのもとで事業存続とさらなる成長を目指す。
2023.9.21 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC210OA0R20C23A9000000/(2023.12.29現在)
後継者問題の解決事例②
三光産業が、後継者問題をかかえていた「ベンリナー(株)」の株式を取得することで、子会社化した事案があります。
ベンリナーは、欧米を中心に世界30カ国の販売チャンネルを保有していました。
これは、アジアから欧米への販売チャンネルを広げたいという三光産業のニーズに合致するものでした。
このM&Aについても、単なる後継者問題の解決策にとどまらず、双方にとって高いシナジー効果を得られるものになったといえるでしょう。
シールやラベルの印刷を手掛ける三光産業は22日、野菜調理器を製造するベンリナー(山口県岩国市)の株式全てを同日付で取得し、子会社にしたと発表した。買収額は7億6800万円。ベンリナーには後継者がいないため、三光産業の経営ノウハウを生かしてさらなる成長を目指す。
2022.12.22 日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC221GY0S2A221C2000000/(2023.12.29現在)
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後継者不足で頭を抱える経営者はM&Aを検討しよう
昨今、中小企業の後継者不足は深刻な問題となっていますが、第三者への事業承継が後継者問題の解決策となる可能性があります。
事業承継の方法としては、株式譲渡が考えられます。
しかし非上場企業の場合は特に、その株式の買い手となる第三者を自力で探すことに限界を感じるものでしょう。
M&Aを仲介してくれる公的機関や、民間のM&A仲介会社などをうまく活用して、M&Aの相手を見つけるのがおすすめです。