事業承継・引継ぎ補助金のすべて|M&Aで活用できるお得な補助金とは…
- 事業承継・引継ぎ補助金とは?
- M&Aによる事業承継で活用できる?
- 事業譲渡を成功させるために専門家に依頼したいが、費用の心配がある…
事業承継・引継ぎ補助金という補助金制度をご存じでしょうか?
事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業者等の事業承継(M&A、事業譲渡)などを応援するために、国が用意した補助金制度です。
事業承継を検討しているけれど、M&A仲介会社の利用などの手数料に心配がある場合などに、活用できる補助金になります。
この記事では、事業承継・引継ぎ補助金の種類、申請要件、採択率、補助金申請から交付までの流れ、注意点などを解説しています。
是非最後までご覧ください。
目次
事業承継・引継ぎ補助金とは?
事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業者や個人事業主(中小企業等)の事業承継(M&Aを含む)や、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎなどを支援してくれる国の補助金制度です。
事業承継・引継ぎ補助金の種類
事業承継・引継ぎ補助金には、大きく分けて経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3類型があります。
経営革新事業や専門家活用事業については、さらに細分化することができます。
種類
- 【Ⅰ型】経営革新事業
創業支援類型、経営者交代類型、 M&A類型の3類型がある - 【Ⅱ型】専門家活用事業
買い手支援類型、売り手支援類型の2類型がある - 【Ⅲ型】廃業・再チャレンジ事業
①経営革新事業枠
概要
経営革新枠は、事業承継をきっかけに、経営革新にチャレンジして、地域経済に貢献する事業者を対象とする補助金制度です。
事業再構築、設備投資、販路開拓等に挑戦するための費用の補助を受けることができます。
具体的には、経営革新枠の補助金の対象となる経費は、人件費、店舗等借入費、設備費(1品目につき税抜き20万円以上)、原材料費、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、マーケティング調査費、広告費、会場借料費、外注費、委託費などがあげられます。
補助金として支給される額
経営革新枠の事業承継・引継ぎ補助金について、補助率、補助金額は以下のとおりです。
類型 | 補助率 | 補助金額 |
---|---|---|
創業支援型 経営者交代型 M&A型 | 2/3以内 または 1/2以内 | 100万円~ 600万円以内 |
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
* Ⅱ型専門家活用枠と、Ⅲ型M&A枠のいずれとも併用可能。
* 補助率については、400万円以下は3/2以内、400万円超600万円以下は1/2以内となる。
* 廃業・再チャレンジ事業と併用した場合、廃業費として150万円以内が、補助金額の上限に上乗せされる。
* 生産性向上要件(付加価値額または1人当たり付加価値額の伸び率が年3%)を満たさない計画の場合、補助金額の上限が400万円以内となる。
なお、経営革新枠の補助対象となる経費が150万円未満の場合、その3分の2が100万円未満となるため、補助対象額を下回り、補助金の交付申請はできません。
補助対象者の要件
経営革新枠で事業承継引継ぎ補助金を受けるためには、補助対象者となるための11要件を満たすことや、Ⅰ型からⅢ型までの各類型に該当することなどが必要です。
補助対象者の要件
- 国内に拠点、国内で事業をおこなう
- 地域経済への貢献
- 反社会的勢力ではない
- 法令を順守している
- 事務局からの質問などに適切に対応すること
- 事務局への再度通知の同意すること
- 返還等の費用負担に同意すること
- 補助金指定停止措置や指名停止措置を受けていないこと
- データ利用に同意すること
- 調査等に協力すること
- 4項目の一定要件のいずれかに該当すること*¹
*⁰ 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
*¹ 要件11の4項目については、以下①~④のとおり。
①中小企業基本法等の小規模企業者であること
②直近決済機の営業利益や経常利益が赤字であること
③コロナ禍での売上高減少(2020年4月2020年4月以降の連続する6か月のうち、任意の3か月の合計売上高が、新型コロナウイルス感染症拡大期以前(2019年1月~2020年3月)の同3か月の合計売上高と比較して10%以上減少)
④再生計画等を策定中であること
経営革新型のⅠ型~Ⅲ型の特徴については、以下のとおりです。
【Ⅰ型】創業支援型
創業支援型とは、他の事業者の経営資源を引き継いで、創業する場面で用いることができる補助金制度です。
創業者支援型の要件
- 事業承継対象期間内に、法人を設立、又は個人事業主として開業すること
- 廃業予定の者から、株式譲渡や事業譲渡などにより有機的一体としての経営資源(設備、従業員、顧客等)*を承継して創業すること
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
* 設備のみを引き継ぐ等、個別の経営資源のみを引き継ぐ場合は原則該当しない
* 物品・不動産等のみを保有する事業の承継(売買含む)は対象とならない
【Ⅱ型】経営者交代型
経営者交代型とは、親族や従業員が経営資源を引き継ぐ場面で利用できる補助金制度です。
経営者交代型の要件
以下2要件を満たす場合、経営者交代型として、支援補助金をもらえる可能性があります。
- 親族内承継や従業員承継等の事業承継(事業再生を伴うものを含む)
- 経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること
例)産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者etc.
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
* 承継者が法人の場合、事業譲渡や株式譲渡等による承継は原則として対象とならない
【Ⅲ型】M&A型
M&A型とは、M&A(株式譲渡や事業譲渡など)により、経営資源を承継す場面で利用できる補助金の枠です。
M&A型の要件
- 事業再編・事業統合等のM&A
- 経営等に関して一定の実績や知識等を有している者であること
例)産業競争力強化法に基づく認定市区町村又は認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者etc.
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
* 物品・不動産等のみを保有する事業の承継(売買含む)は対象とならない
このほか、営資源引継ぎの要件、対象となる中小企業等などについてのルールもあります。詳細については、事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)のホームページや公募要項などで、よく確認しましょう。
②専門家活用事業枠
概要
事業承継・引継ぎ補助金のうち、専門家活用事業は、事業承継にあたり、FA、仲介業者、弁護士、司法書士などを活用する場合に利用できるものです。要件を満たせば、専門家の手数料にかかる費用の補助金を出してもらえます。
M&Aをおこなう場合、企業価値の算定、デューデリジェンス(買収監査)、M&A契約書の作成など、専門家でなければ難しい手順が多くあります。通常、公認会計士、税理士、弁護士などに依頼することになりますが、その手数料はかなり多額になります。そのため、このような補助金制度があることで、事業承継をおこないやすくなるといえます。
専門家活用事業には、買い手支援型(Ⅰ型)と、売り手支援型(Ⅱ型)の二種類があります。
買い手支援型は、事業を譲り受ける承継者の支援のための補助金です。
売り手支援型は、事業を譲り渡す被承継者に補助金をだす制度です。
補助金として支給される額
専門家活用枠の補助率・補助金額については、以下のとおりです。
補助率 | 補助金額 | |
---|---|---|
買い手 支援型 | 2/3以内 | 50万~600万円以内* |
売り手 支援型 | 1/2以内 または 2/3以内 | 50万~600万円以内* |
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
* 廃業・再チャレンジ事業と併用した場合、廃業費として最大150万円が上乗せされます。
* 補助事業期間内に経営資源を承継できなければ、補助上限額は300万円以内に変更され、廃業費は補助対象外になる。
補助対象となる経費は、M&A仲介契約に基づく中間報酬や成功報酬などの例外を除き、原則として事業実施期間内に契約を締結し支払いを終えた費用になります。
補助対象者の要件
補助を受けるには、以下の11項目にも該当する必要もあります。
補助対象者の要件
- 日本国内に拠点、国内で事業をおこなう
- 反社会的勢力ではない
- 法令を順守している
- 事務局からの質問などに適切に対応すること
- 事務局への再度通知の同意すること
- 返還等の費用負担に同意すること
- 補助金指定停止措置や指名停止措置を受けていないこと
- データ利用に同意すること
- 調査等への協力すること
- M&A支援機関登録制度事務局への報告に同意すること
- M&A支援機関が補助対象者ではないこと
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
このほかにも、経営資源引継ぎの要件、対象となる中小企業等などについてのルールが細かく決められています。詳細や最新の情報については、ホームページや公募要項などでチェックしましょう。
④廃業・再チャレンジ事業枠
概要
廃業・再チャレンジ枠は、廃業・再チャレンジをおこなう中小企業等を支援するための補助金制度です。
事業承継やM&Aにともない、買い手側が譲受した既存事業を廃業する場合や、売り手側が譲渡できなかった事業を廃業し再チャレンジするような場合に活用できる補助金です。
単独申請もできますが、これまで見てきた経営革新事業や専門家活用事業との併用が可能です。
併用申請にあたる場合
- 補助事業期間終了日までにM&Aまたは廃業が完了
- 以下、①~③のいずれかをおこなうこと
①事業承継後に新たな取り組みをする(経営革新事業との併用)
②M&Aによって事業を譲り受ける(専門家活用事業との併用)
③M&Aによって事業を譲り渡す(専門家活用事業との併用)
単独申請(再チャレンジ申請)
- 2020年以降に売り手としてM&Aに着手し、6ヶ月以上経過している
- 補助事業期間終了日までに廃業が完了していること
- 廃業後に再チャレンジすること
- 再チャレンジにかかる事業が、公序良俗違反、風俗営業などではないこと
- 新しい法人を設立するなどして、地域の新たな需要の創造や雇用の創出できるような再チャレンジであること
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
補助金として支給される額
廃業・再チャレンジ事業の補助対象となる経費については、廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、現状回復費、リースの解約費、移転・移設費用などがあげられます。
補助率 | 補助金額 | |
---|---|---|
廃業・再チャレンジ | 2/3以内*¹ | 50万~150万円以内*² |
*⁰ 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
*¹ 補助対象となる経費が75万円未満である場合、75万円の3分の2が、補助金額の下限である50万円を下回るので、事業承継・引継ぎ補助金の申請はできない。
*² 廃業支援費の上限額は50万円となる。
補助対象者の要件
廃業・再チャレンジ事業として補助金を受けるには、以下の12項目にも該当する必要もあります。
補助対象者の要件
- 日本国内に拠点、国内で事業をおこなう
- 地域経済に貢献する中小企業者等である
- 反社会的勢力ではない
- 法令を順守している
- 事務局からの質問などに適切に対応する
- 事務局への再度通知の同意すること
- 返還等の費用負担に同意すること
- 補助金指定停止措置や指名停止措置を受けていないこと
- データ利用に同意すること
- 調査等への協力すること
▼再チャレンジ申請の場合は以下2項目も必要 - M&A・事業譲渡に着手したが、不成立*
- 廃業後、再チャレンジする事業の計画を策定し、認定支援機関の確認等を経る
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
* M&A等への「着手」が認められる場合は、以下①~③に限られる。
①事業承継・引継ぎ支援センターへの相談依頼
②M&A 支援機関(M&A仲介業者や地域の金融機関など)と契約を締結
③M&A マッチングサイトへの登録
なお、M&A支援機関登録制度に登録されていない業者の利用は、補助金の対象外となる。自力でのM&Aは支援の対象外。
このほかにも、対象となる中小企業等などについてのルールが細かく決められているので、ホームページや公募要項などでよく確認しましょう。
事業承継・引継ぎ補助金の申請の流れ
補助金申請から交付までのおおまかな流れ
事業承継・引継ぎ補助金のおおまかな流れとしては、まずは以下のようなものです。
今まで見てきた経営革新枠、専門家活用枠、廃業・再チャレンジ枠のいずれかで申請できるか検討をおこない、gBizIDプライムで、補助金の交付申請します。
交付決定がでたら、いよいよ補助対象事業を実施し、実績報告をおこない、問題なく確定検査が通れば、晴れて補助金交付となります。
* 2024年3月15日現在の情報です。最新の情報については、ご自身でご確認ください。
採択率と事業スケジュール
いままで実施されてきた事業承継・引継ぎ補助金にかかる事業のスケジュールは、以下のとおりです。
交付決定の割合(採択率)についても、経営革新枠、専門家活用枠は約60%であることから、比較的申請が通りやすい印象があります。
8次公募
事業承継・引継ぎ補助金の8次公募は、令和6年1月9日~令和6年2月16日の期間におこなわれました。
申請受付期間 | 2024.1.9~2024.2.16 17:00まで |
交付決定日 | 2024年4月上旬(予定) |
事業実施期間 | 交付決定日~2024.9.16 |
実績報告期間 | ~2024.9.26 |
補助金交付手続き | 2024年9月中旬以降(予定) |
7次公募
事業承継・引継ぎ補助金の7次公募は、令和5年9月15日~令和5年11月17日の期間におこなわれ、以下のとおり交付決定がだされています。
- 経営革新枠
313件中190件交付(約60.7%) - 専門家活用枠
498件中299件交付(約60.0%) - 廃業・再チャレンジ枠
28件中10件交付(約35.7%)
申請受付期間 | 2023.9.15~2023.11.17 17:00まで |
交付決定日 | 2023.12.25 |
事業実施期間 | 交付決定日~2024.6.30 |
実績報告期間 | 2024.3.29~2024.7.10 |
補助金交付手続き | 2024年7月上旬以降(予定) |
6次公募
事業承継・引継ぎ補助金の5次公募は、令和5年6月16日~令和5年8月10日の期間におこなわれ、以下のとおり交付決定がだされています。
- 経営革新枠
357件中218件交付(約61.1%) - 専門家活用枠
468件中282件交付(約60.2%) - 廃業・再チャレンジ枠
37件中23件交付(約62.2%)
申請受付期間 | 2023.6.23~2023.8.10 17:00まで |
交付決定日 | 2023.9.15 |
事業実施期間 | 交付決定日~2024.4.24 |
実績報告期間 | 2023.12.14~2024.5.10 |
補助金交付手続き | 2024年4月下旬以降(予定) |
5次公募
事業承継・引継ぎ補助金の5次公募は、令和5年3月20日~令和5年5月12日の期間におこなわれ、以下のとおり交付決定がだされています。
- 経営革新枠
309件中186件交付(約60.2%) - 専門家活用枠
453件中275件交付(約60.7%) - 廃業・再チャレンジ枠
37件中17件交付(約45.9%)
申請受付期間 | 2023.3.20~2023.5.12 17:00まで |
交付決定日 | 2023.6.16 |
事業実施期間 | 2023.6.1~2024.1.22 |
実績報告期間 | 2023.9.12~2024.2.10 |
補助金交付手続き | 2024年2月上旬以降(予定) |
事業承継・引継ぎ補助金の注意点
申請の注意点
事業承継・引継ぎ補助金の公募要領では、「申請締切りの直前になると、認定経営革新等支援機関に確認を依頼しても間に合わない場合があるため、余裕をもって依頼をすること。」との注意喚起がありました。
事業承継・引継ぎ補助金の申請は、2024年3月現在、「電子申請(Jグランツ)」を利用することになり、「gBizID プライム」アカウントが必要です。
「gBizID プライム」アカウントの取得には、少なくとも1~3週間程度かかるようなので、事業承継・引継ぎ補助金の公募期間に間に合うように、計画的に準備を進めることが大切です。
補助対象となる経費の注意点
補助対象となる経費については、使用目的の特定などが認められる必要があります。
補助対象経費の注意点
- 使用目的の特定
補助対象事業の遂行に必要であると明確に特定できること - 補助事業期間内
補助事業期間内に、銀行振り込みやクレジットカード1回払いで決済まで完了すること - 証拠書類等
対象会社・支配株主・株主代表・個人事業主が支出した経費で、証拠書類で金額・支払いが確認できること
* 令和3年度の情報です。最新情報については、ご自身でご確認ください。
実績報告の内容によっては、交付額が減額される可能性があります。契約上の不備、相見積もりの不備、支払い方法の不備などには十分注意して、事業承継を進めてください。
また、事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用枠では、M&Aの仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用について補助金がでますが、登録機関データベースにある登録機関に限られます。
事業承継・引継ぎ補助金以外の支援策
事業承継に役立つ制度・相談窓口一覧
中小企業庁のホームページでは、事業承継の支援施策(一覧)が紹介されています。
事業承継・引継ぎ補助金以外にも、多くの支援施策が用意されています。
事業承継(M&Aによる第三者承継を含む。)の不安を除去するためにも、活用を検討してみる価値はあるでしょう。
また、事業承継の相談窓口については、「事業承継の相談窓口は?事業承継成功の秘訣は専門家への無料相談?」の記事で紹介しているので、あわせてご参考になさってください。
この記事で事業承継・引継ぎ補助金に興味をお持ちになり、M&Aに前向きになれた方がいらっしゃったら幸いです。