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不正指令電磁的記録罪で有罪!Coinhive事件の無断マイニング判決#裁判例解説

「閲覧者の同意なく、その人のパソコンを使ってマイニングさせるのは極めてグレーな行為な気がするのですが……」
ウェブサイト閲覧者からの指摘を受け取った運営者は、軽く返信した。
「個人的にグレーとの認識はありませんが、ユーザーへの同意を取る方向で検討させていただきます」
しかし、その後も10日間、彼は何も変更しなかった。
閲覧者のパソコンは知らぬ間に仮想通貨のマイニングを続け、収益は運営者の懐へ──。この「新しい収益化手法」は、やがて刑事事件へと発展していく。
※東京高判令2・2・7(令和1年(う)883号)をもとに、構成しています
<この裁判例から学べること>
- 利用者に無断でコンピュータ機能を提供させ収益を得る行為は犯罪
- プログラムの違法性は機能内容で判断され技術の種類は無関係
- 「グレー」と認識しながら実行すれば故意が認定される
インターネット広告に代わる新しい収益化手段として、一時期注目されたウェブサイト閲覧者のパソコンを利用した「マイニング」。
ウェブサイトを閲覧するだけで、知らぬ間に閲覧者のパソコンが仮想通貨の採掘作業に利用され、サイト運営者に収益が入るという仕組みです。
しかし、この手法は本当に合法なのでしょうか?
今回ご紹介するCoinhive事件は、閲覧者に無断でマイニングを実行させるプログラムを設置したウェブサイト運営者が、「不正指令電磁的記録保管罪」で有罪となったケースです。
第一審では無罪とされたものの、控訴審で判断が覆され、罰金10万円の有罪判決が確定しました。
この事例を通じて、プログラムの「反意図性」と「不正性」の判断基準、そしてウェブサービス運営における法的リスクについて理解を深めていきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、東京高判令2・2・7(令和1年(う)883号)を取り上げます。いわゆる「Coinhive事件」として広く知られる重要判例です。
この裁判は、ウェブサイト運営者が、閲覧者の同意を得ることなく、閲覧者の電子計算機に仮想通貨モネロ(Monero)のマイニングを実行させるプログラムコード(Coinhive)を保管したとして、不正指令電磁的記録保管罪で起訴された事案です。
- 被告人:ウェブデザイナー(事件当時30歳前後)。インターネット上のウェブサイトを運営。
- 起訴内容:平成29年10月30日から同年11月8日までの間、閲覧者の同意なく仮想通貨マイニングを実行させるプログラムコード(Coinhive)をサーバー上に保管した不正指令電磁的記録保管罪。
- 第一審結果:横浜地方裁判所は「反意図性は認められるが不正性は認められない」として無罪判決。
- 控訴審結果:東京高等裁判所は第一審判決を破棄し、罰金10万円の有罪判決。
- 上告審結果:最高裁判所が上告を棄却し、有罪が確定(令和4年1月20日)。
🔍 裁判の経緯
「広告収入に代わる新しい収益源か……試しにやってみるか」
平成29年9月、被告人はネット記事である収益化手法を知った。サイト閲覧者のパソコンを使って仮想通貨を採掘し、報酬を得る──マイニングと呼ばれる仕組みだ。記事には「ユーザーに無断かつ強制的にマイニングを強いる仕様は許されないのでは」という否定的な意見も載っていたが、被告人は気にしなかった。
Coinhiveというサービスに登録し、専用のプログラムコードを自身が運営するウェブサイトに設置した。閲覧者がサイトを訪れると、その人のパソコンが自動的にマイニングを始める。CPU使用率は50%に設定した。若干の負荷はかかるが、極端には遅くならない。画面には何も表示されないから、閲覧者が気づくことはない。
そして平成29年10月30日──。
「ユーザーの同意なくCoinhiveを動かすのは極めてグレーな行為な気がするのですが」
閲覧者から指摘が届いた。被告人は返信した。
「個人的にグレーとの認識はありませんが、ユーザーへの同意を取る方向で検討させていただきます」
しかし、その後も何も変更しなかった。同年11月8日まで、閲覧者の同意なくマイニングは続いた。閲覧者のパソコンが知らぬ間に働き、報酬は被告人の懐へ入り続けた。
この「検討します」という言葉だけで終わった対応が、やがて日本初のCoinhive刑事事件として立件されることになる。
※東京高判令2・2・7(令和1年(う)883号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
東京高等裁判所は、本件プログラムコード(Coinhive)について「反意図性も不正性も認められる」として、第一審の無罪判決を破棄し、有罪判決を言い渡しました。
裁判所が特に問題視したのは、このプログラムが利用者に何の利益ももたらさない一方で、無断でパソコンの機能を提供させるものだったという点です。しかも、利用者が被る不利益について何の説明もされていませんでした。
裁判所は、プログラムに対する信頼を守るという観点からも、電子計算機による適正な情報処理という観点からも、社会的に許容できる要素は見当たらないと判断しました。そして、プログラムの機能そのものを中心に検討した結果、反意図性も不正性も認められ、不正指令電磁的記録に該当すると結論づけたのです。
主な判断ポイント
反意図性の認定
裁判所は、プログラムの反意図性は「一般的なプログラム使用者の意思に反しないものと評価できるか」という観点から規範的に判断されるべきとしました。
本件プログラムコードは、ウェブサイトの閲覧のために必須なものではなく、閲覧者の電子計算機に一定の負荷を与えます。さらに、このプログラムによって報酬が発生しても閲覧者には利益がもたらされません。加えて、マイニングの実行は画面などに表示されず、閲覧者にその実行を拒絶する機会も保障されていませんでした。
このような「プログラム使用者に利益をもたらさないものである上、プログラム使用者に無断で電子計算機の機能を提供させて利益を得ようとするもの」については、一般的なプログラム使用者が許容しないことは明らかとして、反意図性を肯定しました。
不正性の認定
裁判所は、本件プログラムコードが、プログラムに対する信頼保護および電子計算機による適正な情報処理の観点から、社会的に許容されないと判断しました。
第一審が社会的許容性を肯定する事情として挙げた点について、裁判所は以下のように反論しました。
ウェブサービスの質の維持向上について:
裁判所は、ウェブサービスの質の維持向上という利益は、使用者の意に反するプログラムの実行を、気づかない方法で受忍させられた上で実現されるべきではないと明確に述べました。
他のケースとの比較について:
より違法な事例と比較しても、本件プログラムコードを許容することができないことは明らかであると裁判所は認定しました。
賛否が分かれていることについて:
裁判所は、「プログラムに対する賛否が分かれているということ自体で、社会的許容性を基礎づけることはできない」と判示しました。本件は、一般的な使用者が機能を認識しないまま実行され、反意図性が肯定できる事案であるため、賛否が分かれている事実は、社会的許容性を基礎づける事情ではなく、むしろ否定する方向に働く事情であると判断しました。
捜査当局の事前警告がないことについて:
裁判所は、「不正性のあるプログラムかどうかは、その機能を中心に考えるべき」であるとしました。したがって、捜査当局の注意喚起の有無によって、不正性が左右されるものではないと明確に述べました。
故意と目的の認定
被告人は、閲覧者の同意なくマイニングさせているという指摘を受けたにもかかわらず、本件プログラムコードの保管を継続しました。
このため、裁判所は、被告人が本件プログラムコード(Coinhive)の機能と否定的な意見を認識しつつ、自らの収入を得る目的で保管を続けた事実を重要視しました。
これらの経緯から、「被告人は、本件プログラムコードの不正指令電磁的記録該当性を基礎づける事実を実質的に認識した上で、本件プログラムコードを保管したものといえる」として、実行の用に供する目的と故意が認定されました。
👩⚖️ 弁護士コメント
プログラムの反意図性と不正性の判断基準
この判決は、不正指令電磁的記録罪(コンピュータ・ウイルス罪)の成立要件である「反意図性」と「不正性」の判断基準を明確にした重要なものです。
反意図性の認定には、単に機能が事前に不明なだけでは足りません。プログラムの機能内容そのものを検討し、一般的な使用者が許容しないと規範的に評価できる場合に成立します。
一方の不正性は、プログラムに対する信頼保護や電子計算機の適正な情報処理といった観点から、社会的に許容されるかどうかで判断されます。本件では、プログラムが使用者に利益をもたらさない上に、無断でコンピュータの機能を提供させていた点が特に重く見られました。
「閲覧に必要なプログラム」と「マイニングプログラム」の決定的な違い
弁護側は、本件プログラムコード(Coinhive)がウェブ閲覧時に断りなく実行されるのが一般的であるJavaScriptで記載されたプログラムであることを根拠に、反意図性を否定しようとしました。
しかし、裁判所は「プログラムの反意図性は、その機能を踏まえて認定すべきであるから、JavaScriptのプログラムというだけで反意図性を否定することはできない」と明確に判示し、この主張を退けました。
これは、プログラムの種類や使用技術ではなく、その機能の内容そのものが反意図性判断の中心となることを示しており、閲覧に必要なプログラムと利益目的のマイニングプログラムとの決定的な違いを浮き彫りにしています。
ウェブサービス運営者への影響
この判決は、ウェブサイト運営者に対して重要な警鐘を鳴らしています。広告収入に代わる新しい収益化手段を模索することは理解できますが、利用者に無断で、その人のコンピュータリソースを使用して収益を得ることは許されません。
仮に新しい技術やビジネスモデルを導入する場合でも、利用者に対して明確に説明し、事前の同意を得る仕組みを設けることが不可欠です。「グレー」だと認識しながら実行することは、法的リスクを伴います。
📚 関連する法律知識
不正指令電磁的記録に関する罪(刑法168条の2、168条の3)
平成23年に新設された罪で、いわゆる「コンピュータ・ウイルスに関する罪」と呼ばれるものです。プログラムが「意図に反する動作をさせるべき不正な指令」を持たないという、社会一般のプログラムに対する信頼を守ることを目的としています。
不正指令電磁的記録(ウイルス等)に該当するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 反意図性:人の意図に反する動作をさせるプログラムであること。一般的なプログラム使用者が、その機能を認識しないまま使用を許容していないと評価できる場合に認められます。
- 不正性:社会的に許容されない不正な指令を与えるプログラムであること。「プログラムに対する信頼保護」や「電子計算機による適正な情報処理」といった観点から総合的に判断されます。
本件では保管罪(刑法168条の3)が成立し、罰金10万円が科されました。
仮想通貨のマイニングとは
マイニング(採掘)とは、仮想通貨の取引台帳に取引履歴を追記する承認作業等の演算を行うことです。この作業を成功させると、報酬として仮想通貨を取得できる仕組みになっています。
本件で使用されたサービスは、ウェブサイト運営者に対し、閲覧者の電子計算機を利用してマイニングを実行するための専用スクリプトを提供していました。そして、報酬の7割を運営者に、3割をサービス側が取得する仕組みでした。
マイニング自体は合法的な行為ですが、他人のコンピュータを無断で使用して実行することは、本判決が示すとおり違法となります。
🗨️ よくある質問
Q.第一審で無罪だったのに、なぜ控訴審で有罪になったのですか?
第一審は「反意図性は認められるが不正性は認められない」として無罪としました。しかし、控訴審はこの判断を誤りとし、第一審判決を破棄しました。
本件プログラムコードは「機能を中心に検討すると、反意図性も不正性も認められる」と控訴審で判断されたためです。特に、利用者に利益をもたらさず、無断で電子計算機の機能を提供させるプログラムである点が重く見られ、刑法の解釈が誤っていたとされました。
Q.マイニングについて閲覧者に説明していれば合法だったのですか?
はい、その可能性が高いです。
閲覧者に対してマイニングが実行されることを明確に説明し、事前の同意を得る仕組みがあれば、反意図性が否定され、違法とはならなかったと考えられます。
本件では、マイニングの説明がなく、閲覧者が気づくこともなく、さらに同意を取得する仕様にもなっていなかったことが問題とされました。利用者の「推定的同意」では不十分で、明示的な同意が必要とされています。
Q.JavaScriptを使った他のプログラムでも同じように違法になる可能性がありますか?
はい、技術の種類にかかわらず、違法になる可能性があります。
使用技術の種類(JavaScriptかどうか)は判断基準ではありません。裁判所が示したように、プログラムの機能の内容こそが判断の中心です。
利用者に無断でその人のコンピューターリソースを使用し、運営者が利益を得るような機能を持つプログラムであれば、マイニングプログラムと同様に違法と判断される可能性があります。
一方で、ウェブサイトの閲覧に必須なプログラムや、利用者に利益をもたらすプログラムであれば問題ありません。重要なのは、利用者の意思を尊重し、機能の透明性を確保することです。
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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

