岡野武志弁護士

第二東京弁護士会所属。刑事事件で逮捕されてしまっても前科をつけずに解決できる方法があります。

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産業廃棄物の不法投棄で逮捕された建設会社代表の裁判例 #裁判例解説

更新日:
不法投棄

これは単なる泥水です。産業廃棄物ではありません。有害物質も含まれていないんです

法廷で被告の弁護人は強く訴えた。

砂利採取跡地に投棄されたのは、約130万キログラムの泥水。

しかし市職員は「汚泥を捨ててはいけない」と直接注意していた。

それでも被告人は投棄を続け、行政はこの事実を重く見ていた。

建設会社代表は逮捕され、「単なる泥水」か「産業廃棄物か」が争点となり、重大な刑事責任を問われることになった――。

※廃棄物処理及び清掃に関する法律違反被告事件(広島高判昭52・3・22(昭和51年(う)242号))をもとに、構成しています

<この裁判例から学べること>

  • 工事現場から出る含水率の高い泥状物は、有害性の有無にかかわらず産業廃棄物(汚泥)に該当する。
  • 砂利採取跡地の埋戻し目的であっても、無許可で反復継続して投棄すれば「業として」の処分に該当し違法となる。
  • 行政職員からの「捨ててはいけない」という助言を無視した投棄は、違法性の認識(故意)を裏付ける事情となる。

産業廃棄物とは何か――この基本的な問いが、多くの事業者にとって曖昧なまま残されています。

特に建設現場から排出される「泥水」については、「水分が多いから廃棄物ではない」「有害物質を含んでいないから問題ない」といった誤解が少なくありません。

今回ご紹介する裁判例は、建築基礎工事で使用されたベントナイト廃溶液を含む泥水が、産業廃棄物の「汚泥」に該当するかが争われた事案です。約4ヶ月間にわたり265回も投棄を繰り返した建設会社とその代表者に対し、裁判所はどのような判断を示したのでしょうか。

この判決を通じて、産業廃棄物の定義、特に「汚泥」の概念について正しく理解し、適切な廃棄物処理のあり方を学んでいきましょう。

📋 事案の概要

今回は、廃棄物処理及び清掃に関する法律違反被告事件(広島高判昭52・3・22(昭和51年(う)242号))を取り上げます。

この裁判は、砂利採取業者が、砂利採取跡地を埋め戻すために建築現場の泥水を大量に投棄し、市長の許可なく産業廃棄物処理業を行ったとして起訴された事案です。

  • 原告:検察官
  • 被告:株式会社(砂利採取業者)及びその韓国籍の代表者
  • 投棄状況:昭和48年8月6日頃から同年12月9日頃までの約4ヶ月間、約265回にわたり合計約1,306,000キログラムの泥水を投棄
  • 投棄物の内容:広島市内や近郊の建築工事現場・国鉄新幹線工事現場から排出された、アースドリル工法で使用されるベントナイト廃溶液を含んだ泥水(水分約39.6%、粒子の直径0.075mm以下が約12%)
  • 請求内容:被告らが広島市長の許可を受けずに産業廃棄物処理業を営んだとして、廃棄物処理法違反で起訴
  • 結果:第一審で有罪判決、控訴審(本判決)も控訴棄却

🔍 裁判の経緯

砂利採取の跡地を埋め戻すだけです。何が問題なんでしょうか

被告人は、違法性があるとは考えていなかった。建設省から砂利採取の認可も受けている。

昭和48年8月、建築工事現場から出る泥水を受け入れ、料金を徴収して「残土捨券」なるものを発行し、砂利採取跡の穴に流し込む事業を始めた。

しかし、行政はこれを厳しく見ていた。事業が本格化する前の同年2月頃から、建設省の職員が現場を訪れていた。

計画書には山土で埋め戻すと書いてありますよね。この泥水は何ですか。河川管理上支障があります。すぐに中止してください

何度も指示を受けたが、投棄は続いた。

9月か10月頃、今度は広島市環境事業局の職員から直接電話がかかってきた。

本件現場に汚泥を捨ててはいけません

県の方の許可を受けているから、別に問題ないでしょう

だが実際には、広島市が求める正式な処理業の許可は得ていなかった。

約265回にわたる投棄は続けられ、ついに刑事告発された。

単なる泥水です。水分が多いじゃないですか。これは産業廃棄物の『汚泥』には該当しません

法廷で弁護人は主張した。

それに、有害物質も含まれていません。有害でないものまで規制する法律ではないはずです

さらに「正当な業務行為です。砂利を採った跡地を埋め戻すことは、認可の条件だったんですから」とも主張した。

裁判所は、これらすべての主張を退けることになる。

※廃棄物処理及び清掃に関する法律違反被告事件(広島高判昭52・3・22(昭和51年(う)242号))をもとに、構成しています

⚖️ 裁判所の判断

判決の要旨

裁判所は、被告人らの控訴をすべて棄却し、第一審の有罪判決を支持しました。

判決は、産業廃棄物である「汚泥」の定義を明確にしました。そのうえで、本件で投棄された泥水がこれに該当すること、被告人らに違法性の認識があったこと、そして本件行為が正当な業務行為とはいえないことを明示しました。

主な判断ポイント

 産業廃棄物「汚泥」の定義

裁判所は、廃棄物処理法が定める産業廃棄物の「汚泥」とは何かを定義しました。
それによれば、工場廃水等の処理後に残る泥状のものや、各種製造業の製造工程で生じる泥状のもの、そして工事現場から排出される含水率が高く粒子の微細な泥状のものがこれにあたるとしました。

つまり、本件のように工事現場から出る含水率の高い泥状のものは、「汚泥」に該当すると判断されました

 有害性は要件ではない

被告側は「有害・有毒な物質を含んでいないから汚泥ではない」と主張しました。

しかし裁判所は、この主張を明確に否定しました。産業廃棄物とは事業活動で生じた汚物や不要物であり、その物が有害・有毒であるかどうかは、「汚泥」と認定するうえで全く関係がないと判断しました。

有害性の有無は、産業廃棄物該当性とは無関係であるという重要な判断です。

 違法性の認識

被告側は「市の職員から許可は不要と言われた」と主張しましたが、裁判所は証拠に基づいてこの主張を退けました。

証言によれば、市の職員が現場を視察した際、管理人に対して「地下汚染の危険がある。正規の届出をしないと問題になる」と注意していました。さらに被告人本人にも電話で「汚泥を捨ててはいけない」と直接警告していました。

しかし被告人は「県の許可を受けているから問題ない」と答え、その後も投棄を続けました。また、被告人らは以前(昭和47年8月)にも県から産業廃棄物処理業の許可について指導を受けていました。

これらの事実から裁判所は、被告人らに「違法性の認識がない」とはいえないと判断しました。

 正当な業務行為ではない

被告側は「砂利採取の認可を受けた跡地の埋め戻しだから正当な業務行為」と主張しましたが、裁判所はこれも退けました。

建設省に提出した採取計画認可申請書には「埋め戻しは山土で行う」と記載されており、その趣旨で認可を受けていたにもかかわらず、実際には産業廃棄物である汚泥を投棄して埋め戻しを行っていたからです。

裁判所は、これが埋め戻し行為であったとしても、直ちに正当な業務行為とはいえず、法の規制対象になると判断しました。

 「業として」の要件

被告側は「埋め戻しが完了すればその後は投棄する意思はなかったから、業として行ったとはいえない」と主張しました。

しかし裁判所は、約4ヶ月間にわたり約265回も反復して投棄し、依頼者から料金を徴収して「残土捨券」を発行していた事実を指摘しました。

たとえ埋め戻し完了後に投棄する意思がなかったとしても、この一連の行為は「産業廃棄物の処分を業として行った場合」に該当すると判断しました。

反復継続性と対価の徴収という事実から、「業として」の要件を満たすと認定したのです。

👩‍⚖️ 弁護士コメント

「汚泥」概念の明確化

この判決では、産業廃棄物の「汚泥」とは何かを明確に定義しました。

特に注目すべきは、有害性の有無は産業廃棄物該当性とは無関係であるとした点です。事業者の中には「有害物質を含んでいないから大丈夫」と考える方もいますが、これは明確な誤解です。

廃棄物処理法の目的は、生活環境の保全と公衆衛生の向上にあり、有害性のない廃棄物であっても、不適切な処理によって環境に悪影響を及ぼす可能性があります。

工事現場から出る泥水も、含水率が高く粒子が微細なものは「汚泥」として規制対象となることが明確になりました。単に「水分が多いから水だ」という言い訳は通用しないのです。

行政指導を軽視した結果

本件で特に重要なのは、被告人が複数回にわたって行政機関から警告を受けていたにもかかわらず、投棄を継続した点です。

建設省の職員からは「河川管理上支障がある」として再三中止を指示されていました。広島市の職員からも「地下汚染の危険がある」「汚泥を捨ててはいけない」と明確に注意されていました。

それでも「県の許可を受けているから問題ない」として投棄を続けた結果、刑事責任を問われることになりました。

行政指導は単なる「お願い」ではありません。法令違反の可能性を指摘するものであり、真摯に受け止めて対応すべきです。

「正当な業務行為」との主張の限界

砂利採取の認可を受けた跡地の埋め戻しであっても、その方法が法令に違反していれば違法となります。

本件では、建設省に提出した計画書に「山土で埋め戻す」と記載していたにもかかわらず、実際には産業廃棄物である汚泥を投棄していました。形式的に認可を受けていることと、その範囲内で適法に行為することは別問題なのです。

また、近隣住民への影響がないことや土地所有者の同意があることなども、違法性を阻却する理由にはなりません。廃棄物処理法は、個別の利害関係者の同意だけでは克服できない公益的な規制なのです。

📚 関連する法律知識

廃棄物処理法における「産業廃棄物」

廃棄物処理法は、廃棄物を「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に分類しています。

産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、法令で定められた20種類の廃棄物をいいます。その中の一つが「汚泥」です。

本判決が示したように、汚泥には以下のものが含まれます。

  • 工場廃水等の処理後に残る泥状のもの
  • 各種製造業の製造工程において生ずる泥状のもの
  • 工事現場等から排出される含水率が高く粒子の微細な泥状のもの

建設工事に伴う汚泥は、建設業者にとって最も身近な産業廃棄物の一つといえるでしょう。

産業廃棄物処理業の許可制度

産業廃棄物の収集・運搬や処分を業として行うには、都道府県知事(または政令市長)の許可が必要です。

「業として」とは、反復継続する意思をもって行うことをいい、必ずしも営利目的である必要はありません。本判決でも、約265回にわたり料金を徴収して投棄を受け入れていた行為が「業として」に該当すると認定されました。

たとえ「埋め戻しのため」という目的があったとしても、反復継続して他者から廃棄物を受け入れて処分する行為は、許可が必要な「業」に該当するのです。

違法性の認識と故意

刑事責任を問うためには、行為者に「故意」、つまり違法であることの認識が必要です。

本件では、被告人が「市の職員から許可不要と言われた」と主張しました。しかし裁判所は証拠に基づいて、実際には複数回にわたって「違法である」との警告を受けていたことを認定しました。

行政機関から「これは違法です」と明示的に言われている場合はもちろん、「正規の届出をしないと問題になる」といった間接的な表現であっても、違法性の認識を裏付ける事実となり得ます。

河川法と廃棄物処理法の関係

本件では、建設省(当時)から河川管理上の問題として投棄中止を指示されていました。

河川区域内で土地を掘削したり埋め立てたりする場合、河川法に基づく許可が必要です。本件でも砂利採取について認可を受けていましたが、その計画内容(山土での埋め戻し)と実際の行為(汚泥の投棄)が異なっていたため、河川管理上も問題となりました。

一つの行為が複数の法令に抵触する可能性があることを理解し、関係法令を総合的に遵守する必要があります。

🗨️ よくある質問

Q.建設工事で出た残土は産業廃棄物ですか?

建設工事に伴って排出される土砂のうち、廃棄物に該当するものは「建設汚泥」として産業廃棄物に分類されます。

ただし、含水率が低く粒子が粗い通常の土砂で、建設資材として利用できるものは「有価物」となり、廃棄物に該当しない場合もあります。判断が難しい場合は、都道府県や政令市の廃棄物担当部署に相談しましょう。

本判決が示すように、含水率が高く粒子が微細な泥状のものは産業廃棄物の「汚泥」に該当します。

Q.無償で引き取ってもらう場合でも「業として」に該当しますか?

「業として」とは、反復継続して行う意思を指し、必ずしも対価を得ることは要件ではありません。ただし、本判決のように対価を徴収している場合は「業として」の認定がより明確になります。

無償であっても、反復継続して廃棄物の処分を行っている実態があれば、産業廃棄物処理業の許可が必要となる可能性があります。

Q.行政から「問題ない」と言われた場合、後から違法とされることはありますか?

行政機関の職員の個人的見解と、正式な行政判断は区別して考える必要があります。
本判決でも、被告人は「県の許可を受けているから問題ない」と主張しましたが、実際には正式な許可を受けていませんでした。

重要な判断については、口頭での確認だけでなく、文書での照会や正式な許可申請を行うことが重要です。また、複数の法令が関係する場合、一つの行政機関からの助言だけでは不十分な場合もあります。

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岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了