監修者：アトム法律事務所 代表弁護士 岡野武志

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スピード違反の判例｜公務員が高速道路を140キロ運転し一審懲役・控訴審罰金判決#裁判例解説

「末期がんの義母を喜ばせたくて…釣りで内妻に大きな釣果を挙げさせようと思い、つい急いでしまったんです」

弁護人は、被告人の心境を法廷で説明した。地方公務員として26年間勤務してきた男性が、首都高速で時速140キロという猛スピードで運転し、道路交通法違反で起訴された事件。

一審では懲役3月・執行猶予2年の判決が言い渡されたが、控訴審では一転して罰金10万円に刑が減軽された。公務員の失職という重い社会的制裁を受けた被告人の運命を変えた判決とは…。

※東京高判令2・10・16（令和2年（う）708号）をもとに、構成しています

高速道路での速度超過事件において、一審で懲役刑を受けた地方公務員が、控訴審で罰金刑に刑が減軽された注目すべき判決です。

被告人は首都高速道路において、制限速度60キロの区間を時速140キロで運転し、道路交通法違反で起訴されました。

一審の東京地方裁判所は、速度超過の程度が著しく危険であるとして懲役3月・執行猶予2年の判決を言い渡しました。しかし、控訴審の東京高等裁判所は、被告人の反省の態度や公務員としての失職という社会的制裁を総合的に考慮し、罰金10万円に減刑しました。

この事例は、単純な速度超過事件でも、被告人の個別事情や社会的制裁の程度によって量刑が大きく変わることを示しており、交通事犯の量刑判断における重要な指針となる判決といえます。

📋 事案の概要

今回は、東京高判令2・10・16（令和2年（う）708号）を取り上げます。 この裁判は、地方公務員が首都高速道路で大幅な速度超過運転をしたことで道路交通法違反に問われた事案です。

🔍 裁判の経緯

「実は、内妻の実母が末期がんで…。今回の釣りで内妻に大きな釣果を挙げさせて、少しでも義母を喜ばせてあげたいと思ったんです。それで、つい先を急いでしまいました」

被告人は、なぜあの夜、首都高速道路で時速140キロという猛スピードで運転したのか、その理由を法廷で語った。地方公務員として26年間真面目に勤務してきた男性にとって、それは人生を変える一瞬の判断だった。

事件が起きたのは深夜の首都高速中央環状線内回り。交通量の少ない時間帯とはいえ、制限速度60キロの区間を80キロも上回る時速140キロで運転していた被告人は、速度違反で検挙された。

「私は二度と運転しません」

被告人は起訴後、強い反省の意思を示した。運転免許証を自主的に返納し、所有していた車両を内妻に譲渡。さらに、車の鍵を被告人の手の届かないところに保管させ、物理的に運転できない状態を作り上げた。交通贖罪寄付も行い、深い反省の態度を示した。

一審の東京地方裁判所は、「深夜で交通量の少ない都市高速道路上であったことを踏まえても、その運転の危険性は明らか」として、懲役3月・執行猶予2年の判決を言い渡した。

公務員である被告人が受ける失職という不利益の大きさを考慮してもなお、速度超過の程度が著しく、短期の懲役刑を科すのはやむを得ないと判断したのだった。

※東京高判令2・10・16（令和2年（う）708号）をもとに、構成しています

⚖️ 裁判所の判断

判決の要旨

東京高等裁判所は、「本件は、個別具体的な事情を踏まえた罰金刑の選択が許容されない事案であるとまではいえない」として、一審判決を破棄し、罰金10万円に刑を減軽しました。

主な判断ポイント

速度超過の危険性と酌量事情の検討

裁判所は、指定最高速度を80キロ上回る運転の危険性は明らかであるとしつつも、空いている高速道路の左車線を走行中で前後左右に走行車両が存在しない状態であったことを認定しました。

ただし、自損事故や後続車両を巻き込む重大事故の危険性があることから、危険性が軽微とは言えないと判断しました。

社会的制裁の考慮

被告人は令和2年1月の起訴に伴う休職処分により給与が大幅に減額され、原判決後も含めて7か月以上この状況が続いていたことを重視。一定程度の社会的制裁を受けたと評価できるとしました。

反省の態度と再犯防止措置

運転免許証の自主返納、所有車両の譲渡、車の鍵の保管など、被告人が講じた再犯防止措置を「再犯可能性を大きく低減させる取組として評価できる」と高く評価しました。

👩‍⚖️ 弁護士コメント

量刑判断における個別事情の重要性

この判決は、交通事犯の量刑判断において、単純に速度超過の程度だけでなく、被告人の個別事情を総合的に考慮することの重要性を示しています。

特に、公務員の場合、刑事処罰により失職という重い社会的制裁を受けることになり、これが量刑判断に大きな影響を与えることが確認されました。

控訴審での新たな事情の考慮

控訴審では、一審判決後の被告人の反省の深まりや、長期間の休職による経済的不利益といった新たな事情も考慮されました。

これは、控訴審が単に一審判決の当否を判断するだけでなく、現時点での適切な量刑を検討することの重要性を示しています。

再犯防止措置の評価

被告人が講じた運転免許証の自主返納や物理的に運転できない環境の構築は、単なる反省の言葉以上の具体的な行動として高く評価されました。このような積極的な再犯防止措置は、量刑の軽減要因として重要な意味を持つことが示されています。

📚 関連する法律知識

道路交通法違反の法定刑

速度超過による道路交通法違反の法定刑は、「6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金」です。

80キロという大幅な速度超過であったため、今回のケース（刑法改正前）では、一審では懲役刑が選択されましたが、控訴審では罰金刑が選択されました。

地方公務員法による失職規定

地方公務員法では、拘禁刑以上の刑に処せられた職員は、その職を失うことが規定されています。

執行猶予付きの拘禁刑であっても失職の対象となるため、公務員にとって刑事処罰は職業上の重大な不利益となります。

退職手当への影響

拘禁刑以上の有罪判決が確定したことで失職した場合、退職手当の全部又は一部が支給されない可能性があります。本件では、被告人の勤続年数が26年を超えていることから、この不利益も量刑判断において考慮されました。

🗨️ よくある質問

Q.高速道路での速度超過はどの程度で拘禁刑になるのですか？

明確な基準はありませんが、制限速度を大幅に超過した場合（概ね50キロ以上）は拘禁刑が選択される可能性があります。ただし、本件のように個別事情によっては罰金刑が選択される場合もあります。

Q.公務員の交通違反は一般人よりも重く処罰されるのですか？

法定刑は同じですが、公務員の場合は拘禁刑以上の確定により失職という重い社会的制裁を受けるため、この点が量刑判断で考慮されることがあります。本件では、むしろ量刑軽減の要因として考慮されました。

Q.運転免許の自主返納は量刑にどの程度影響しますか？

単なる反省の言葉以上の具体的な行動として、量刑軽減の重要な要因となります。特に、物理的に運転できない環境を構築するなど、実効性のある再犯防止措置は高く評価されます。

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