ガーゼ遺残の慰謝料と判例紹介|手術で体内に異物が残ったらどうする? | アトム法律事務所弁護士法人

ガーゼ遺残の慰謝料と判例紹介|手術で体内に異物が残ったらどうする?

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ガーゼ遺残の慰謝料

「ガンの手術をしてから数年後、定期健診で体内にガーゼと思われる異物が発見された
「手術後に体調が悪化した、体内に残っていたガーゼが原因のようだ」

公益財団法人日本医療機能評価機構がまとめた「医療安全情報(No.152 2019年7月)」によると、手術をするうえで、ガーゼカウントを行ったにもかかわらず体内にガーゼが取り残された事例が集計期間約3年の間に57件報告されたとのことです。(参考:https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_152.pdf)

医療事故の損害賠償請求の要点は、注意義務違反や説明義務違反など、医療従事者としての基本的な注意義務に違反していることの証明にあります。

ガーゼ遺残の事故でいえば、ガーゼカウントを怠って生じたようなガーゼ遺残は、基本的な注意義務に違反しているとして損害賠償請求できる可能性は高いでしょう。

本記事では、過去に裁判で争われたガーゼ遺残に関する判例を紹介し、どのような解決方法があるのか弁護士が解説していきます。

慰謝料をはじめとした賠償金を請求するにあたって、気を付けるべきポイントも弁護士が解説していますので、最後までご覧ください。

判例(1)ガーゼ遺残による異物肉芽腫の後遺障害を負った

概要と争点|ガーゼ遺残と異物性肉芽腫に因果関係はあったのか

左大腿骨の手術を2度受けた患者は、いずれかの手術で左大腿部にガーゼを遺残されたことによって異物性肉芽腫(ガーゼオーマ)の傷害を受けたと主張しました。さらに、異物性肉芽腫を摘出したことで醜状痕と神経症状の後遺障害が残ったとして、病院を設置・経営する法人に対して損害賠償を求めて訴訟を起こしたのです。(佐賀地方裁判所 平成16年(ワ)第342号 損害賠償請求事件 平成19年1月12日)

病院側は、いずれかの手術でガーゼが遺残したことは認めたものの、ガーゼ遺残によってガーゼオーマといった腫瘍が生じることはないなどと反論しました。

患者側と病院を設置・経営する法人の主な争点は以下の通りです。

  1. いつの手術でガーゼが遺残したのか
  2. ガーゼ遺残でどのような損害を被ったのか
    ガーゼ遺残で異物性肉芽腫の傷害を受けたのか
    異物性肉芽腫の摘出手術で醜状痕・神経症状の後遺障害が残ったのか
    患者の損害内容と損害額

判決|損害賠償請求の一部が認められた

裁判所は、2度目の手術の機会にガーゼが遺残されたもので、これによって生じた患者の損害を病院側が賠償すべき責任があると判断し、約870万円の損害賠償を命じました。

裁判所の判断

裁判所は、2度目の手術でガーゼ遺残したことで異物性肉芽腫が生じ、後遺障害が残存したと認定しました。

ただし、患者が主張した醜状痕については、患者の職業内容に悪影響を及ぼして労働能力を喪失させるような後遺障害に当たるとは認められませんでした。また、後遺障害等級12級13号に該当すると患者が主張した神経症状についても、後遺障害等級14級9号が相当であると裁判所は判断しています。

裁判所が認めた損害賠償額

裁判所は、ガーゼ遺残による左大腿部の腫瘤の治療費や入院雑費、慰謝料や逸失利益などを認めました。慰謝料に関しては、約15年間の長期にわたって肉体的苦痛を被ったことなどが反映された金額です。

以下の表にて、裁判所が認めた主な損害賠償内容と損害賠償金をまとめています。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
治療費40万3985円
入院雑費5万5500円
慰謝料※500万円
休業損害35万2000円
逸失利益99万2446円
後遺障害慰謝料110万円
損害立証のための費用3万9955円
弁護士費用80万円
合計874万3886円

※ 入通院慰謝料を含む

判例(2)子宮筋腫の手術でガーゼが遺残し妊娠不能となった

概要と争点|ガーゼ遺残と不妊の因果関係

子宮筋腫の手術を受けた患者は、体内にガーゼを遺残したまま医師に開腹部を縫合されたことにより、卵巣嚢腫が発生して卵管閉塞および子宮外の癒着が生じたため、自然妊娠や人工授精が不能になりました。さらに、妊娠できない状態になったにもかかわらず、医師も患者もこの事実に気づかないまま人工授精や体外受精を多数回行ったことで、無益な不妊治療の費用を要することになったとも主張したのです。

患者は、ガーゼ摘出費用に加えて、無益な不妊治療に要した費用や精神的苦痛に対する慰謝料などを賠償するよう、病院側に対して損害賠償請求を起こしました。(東京地方裁判所 平成15年(ワ)第12932号 損害賠償請求事件 平成18年9月20日)

患者側と病院側の主な争点は以下の通りです。

  1. ガーゼ遺残によって不妊などの損害が発生したのか
  2. ガーゼ遺残によって生じた患者側の損害内容(カーゼの摘出費用・無益な不妊治療に関する費用・慰謝料)と損害額

判決|損害賠償請求の一部が認められた

裁判所は、子宮筋腫の手術でガーゼが遺残した過失により患者が不妊になったと認められることから、病院側に約890万円の損害賠償を命じました。

裁判所の判断

裁判所は、ガーゼ遺残によって炎症反応が起こって癒着が生じたために卵管を埋没させ、術後3ヶ月程度で卵管閉塞が起こり、自然回復できないものになったと認定しました。この卵管閉塞によって、自然妊娠はおろか人工授精も不適応な状態になったと認められています。

さらに、ガーゼ遺残が不妊につながったことに加えて、その事実を認識せずに無駄な医療行為を受け、不妊治療の費用を負担したことは、ガーゼ遺残という過失との因果関係の流れであるとも認められました。

もっとも、ガーゼが遺残した手術後に突発性難聴を発症したと患者は主張していましたが、この点について裁判所は因果関係を否定しています。

裁判所が認めた損害賠償額

裁判所は、ガーゼの摘出手術に関する治療関係費や入院による休業損害、ガーゼ遺残で不妊になった後に要した不妊治療費、慰謝料などを認めています。

ただし、患者側が主張する突発性難聴に関する治療費と今後の体外受精に関する費用については、ガーゼ遺残によって生じた損害ではないとして、請求が認められませんでした。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
ガーゼ摘出手術に関する治療費と通院費4万1010円
ガーゼ摘出のための入院雑費1万8000円
ガーゼ摘出のための入院による休業損害13万1888円
人工授精・体外受精費用等491万5681円
慰謝料300万円
弁護士費用81万円
合計891万6579円

判例(3)出産時にガーゼ遺残となり敗血症を発症

概要と争点|ガーゼ遺残に関する説明責任の過失

第二子出産のために入院した原告は、経腟分娩を希望していたが、緊急の帝王切開手術を受けることになりました。その際にガーゼ1枚が下腹部内に遺残してしまったのです。

手術後に風邪の症状で別の内科を受診したところ、医師が右下腹部に腫瘤を触知したため、さらに別病院でCT検査および腹部X線検査により、下腹部のガーゼ遺残がわかりました。病院で異物除去術を受け、敗血症と診断されたのです。

医師は「帝王切開術の終了後閉腹前に,助産師がガーゼカウントを実施し枚数が一致することを確認している」として、ガーゼは納入業者のミスではないかと原告に説明しました。

原告は、帝王切開術の際にガーゼが遺残されたこと、経腟分娩の可能性がないことおよび閉腹前のガーゼカウントに関する説明において過失があるとして、損害賠償請求の訴訟を起こしました。(東京地方裁判所 平成28年(ワ)第11614号 損害賠償請求事件 平成29年12月8日)

患者側と病院側の主な争点は以下の通りです。

  1. 経腟分娩の説明義務違反
  2. ガーゼカウントの説明義務違反

判決|損害賠償請求の一部が認められた

裁判所は、帝王切開手術によりガーゼが遺残した過失により原告が敗血症を負ったこと、各説明義務違反があるとして病院側に約230万円の損害賠償を命じました。

裁判所の判断

裁判所は、帝王切開手術によってガーゼ遺残があったことは明白であると認めました。

そして、医師と助産師の会話内容から、医師は午後0時の時点では帝王切開手術になる可能性が高いと判断していたと認定しました。患者が経腟分娩を希望していると認識していたなら、なおさらその判断を伝える義務があったのに、その説明義務を怠ったと判断したのです。

また、ガーゼについては、原告に対して業者の責任を示唆するような説明をするものの、業者に確認した形跡はなく、捜査段階では「業者の責任にするつもりはありません。」と述べています。

よって、閉腹後にガーゼカウントを実施しなかった、あるいはガーゼの枚数が合わなかったのではないかという疑いについては、医師が説明のために出廷する場を設けるも出廷しなかったことから、その疑いを強めることになり、医師の説明が虚偽と認めるのが相当であると判断しました。

裁判所が認めた損害賠償額

裁判所は、風邪症状でかかった医院およびガーゼ除去手術をおこなった病院での治療費だけでなく、本件により原告がかかった心療内科のカウンセリング費用も因果関係を認めました。

そのほか主婦としての休業損害や慰謝料の支払いを命じたのです。

その一方で、夫の付き添い交通費やタクシーによる通院交通費などは因果関係がないものとして、請求を認めませんでした。

損害の内訳と賠償金額

損害の内訳賠償金額
治療関係費43万9390円
入院費用3万5500円
休業損害37万4095円
慰謝料200万円
弁護士費用21万円
被告への未払い入院費など控除-70万5953円
合計235万3032円

ガーゼ遺残による慰謝料請求の手続きと弁護士の役割

ガーゼ遺残で損害を被ったと主張しても、患者側の言い分がすべて認められるとは限りません。
病院側に賠償責任が認められる場合に限り、賠償金の支払いが受けられるようになるのです。

本章では、病院側にどのような過失があれば賠償責任を問えるのかや、過失と結果の因果関係などについて解説していきます。

ガーゼ遺残という過失が病院側にあったか

ガーゼ遺残という過失があったかは、病院側が安全配慮義務(注意義務)を果たしていたかで判断されます。安全配慮義務とは、患者の身に危険が及ばないよう安全に配慮することです。

安全配慮義務違反に該当するかは、予見可能性と結果回避性から検討されます。

安全配慮義務違反の検討ポイント

予見可能性事故を予見できたのか
結果回避性適切な対応をとっていれば事故を回避できたのか

相手方に予見可能性や結果回避性が認められる場合に、安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求が認められることになるのです。

ガーゼ遺残における安全配慮義務違反を検討

ガーゼ遺残という事例に当てはめると、ガーゼを体内に残すことで体に与える影響は予見できますし、手術前後にガーゼや用具が患部に残存していないか数をカウントするなどすれば回避できた可能性があったと考えられます。

したがって、ガーゼカウントを怠って生じたようなガーゼ遺残は医師や看護師が基本的な注意義務に違反しているので過失があったといえる可能性は高いです。

また、医師や看護師がガーゼを遺残したという過失が認められて賠償責任を問える場合、雇用主である病院にも同じように賠償責任を問えることになります。

雇用主も同じように賠償責任を負わねばならないことを「使用者責任」と呼びます。

使用者責任

ある事業のために雇っている人が、その仕事中に誰かにケガをさせてしまったり、物を壊してしまったりした場合、その雇っている人だけでなく、雇っている側(使用者)にも責任がある(民法第715条)

医師などの個人に対する請求よりも、使用者責任に基づいて病院へ請求することで資力の期待が高まるので、適切な補償を受け取れる可能性も高まるでしょう。

ガーゼ遺残という過失と結果に因果関係があったか

病院側に一定程度の過失が認められても結果につながらなかったと判断されると、損害賠償請求しても補償は手にできません。過失と結果に因果関係があると認められなければならないのです。

先述した判例では、子宮筋腫の手術でガーゼ遺残が発生して不妊につながったと認められたものの、術後に生じた突発性難聴とは因果関係がないと判断されています。

ガーゼ遺残そのものは重大な過失といえますが、ガーゼ遺残があったことで損害が発生したと主張するだけでは不十分です。ガーゼ遺残と結果の間に、どのような因果関係があるのか証明せねば損害賠償金を手にすることはできません

因果関係の証明には、主にカルテ・X線写真などの検査画像といった医学的資料や、医師や看護師の証言・日誌などが証拠として扱われます。

「不調を感じて手術を受けたら、昔の手術場所からガーゼが発見された」という場合は、病院側の過失が認められるでしょう。ただし、その過失と損害という結果との間に因果関係があることを法的に証明していかねばなりません。どのようにして証明していけばいいのかは、弁護士に相談してみましょう。

慰謝料の請求方法は3つある

慰謝料をはじめとした賠償金を請求する方法は、示談・調停・訴訟の3つです。

賠償金の請求方法

  • 示談
  • 調停
  • 訴訟

医療事故など損害賠償を請求するさまざまな事案では、示談で解決を最初に図るケースが多くなっています。医療事故と聞くと医療訴訟がイメージされやすいですが、実際の現場では病院側との示談からはじめられることが多いのです。

示談は争う相手と話し合いを行って双方が納得できる内容で紛争を終了しようとする方法なので、双方が主張する内容に大きなずれがなければ、比較的はやく解決に至ります。

また示談交渉の手続き自体は費用が発生しないため、訴訟と比べると患者側の負担は少ない方法です。

事案によっては、双方の意見が対立して示談ではまとまらないこともあります。このような場合に、調停や訴訟へと進んでいくこともあり得るのです。

示談や調停は双方の合意を元にしている分、納得感も感じやすいといえます。一方の訴訟は「判決を言い渡される」もののため、内容によっては被害者にとって納得いかないこともあるのです。

解決方法による違い

示談調停訴訟
要する期間短いやや長い長い
費用負担ないあるある
納得感あるある判決次第

※一般的な傾向

どの請求方法を選ぶかは自由ですが、事案の内容や請求をはじめようとしたタイミングに応じて最適な方法は異なります。どの方法からはじめるのがベストなのかは、弁護士に相談してみることをおすすめします。

医療訴訟も検討しているという方は関連記事の解説をお役立てください。医療訴訟の基本情報のほか、医療訴訟で勝てないと言われている言説についても説明しています。

どのくらいの慰謝料が見込めるかの算定が大切

慰謝料をはじめとした賠償金を請求する場合、まずはどのような損害を被って、その損害を回復するためにはどのくらいのお金が必要なのか算定しておく必要があります。

ガーゼ遺残といった医療事故で発生する主な損害の内訳と基本的な算定方法を紹介します。

主な損害の内訳と基本的な算定方法

損害算定方法
入通院慰謝料治療期間や怪我の程度
後遺障害慰謝料障害を負った部位や症状
死亡慰謝料家庭内での役割
休業損害・逸失利益事故前の収入や年齢など
治療費実費
葬儀費用実費(上限150万円)

上記で紹介した損害の内訳は、多くの方が共通して請求する可能性の高い主な項目にとどまります。また、事情に応じて慰謝料の金額が増額されることもあるでしょう。

増額の判例

ガーゼと同じように異物が体内に遺残したとしても、その遺残した異物が手術針のようなものであった場合、鋭利な物質が体内に遺残している不安を考慮して高額な慰謝料が認定された判例もあります。(さいたま地方裁判所 平成23年(ワ)第3733号 損害賠償請求事件 平成26年4月24日)

事案ごとに発生する損害はそれぞれ異なります。医療過誤で生じた損害ごとに請求すべきものは違うので、どのような損害を被ったのか適切に把握することが大切です。

また、ガーゼ遺残の過失を認めた病院側が提示してきた金額は、必ずしも適正な金額であるとは限りません。

法的には増額の余地が残されている金額提示を受けている場合もありえますので、弁護士に適正な金額はどのくらいなのか、法律相談で質問してみてください。

以下の関連記事では、示談金の相場について解説していますのであわせてご確認ください。

ガーゼ遺残による損害の請求は弁護士相談を検討する

ガーゼ遺残に関する判例を紹介し、病院に対する損害賠償請求が可能な案件かなどについて解説してきました。改めて、ポイントをまとめてみます。

  • ガーゼ遺残による慰謝料請求は、病院側の過失などが認められる場合に可能となる
  • 病院側の過失は、安全配慮義務違反(注意義務違反)があった場合に認められる
  • ガーゼ遺残という過失と、その結果として生じた損害の間に因果関係がある場合に損害賠償の請求が認められる

ガーゼ遺残といった医療事故が発生し、大きな後遺障害が残ったりご家族を亡くされた場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。無料相談をはじめるにあたっては、相談の予約をお取りいただくところからお願いしています。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了