業務中の事故で会社から損害賠償請求される?従業員のミスは全て自己負担? | アトム法律事務所弁護士法人

業務中の事故で会社から損害賠償請求される?従業員のミスは全て自己負担?

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業務中に事故を起こしたら会社から損害賠償請求される?

故意でなくても会社に損害を与えてしまったとき、会社から全額の損害賠償を求められてしまうのでしょうか。

「業務中の事故で歩行者に怪我を負わせてしまった」
「業務中に事故を起こして会社に損害を与えてしまったが、自分も怪我を負った」

もし、業務中の事故で会社から全額の損害賠償を求められている場合、不当である可能性が考えられます。会社から労働者に対する損害賠償請求は通常、一定の制限が設けられているのです。

本記事ではまず、業務中の事故に関する賠償責任の考え方をみていきましょう。そして、業務中の事故はほとんどが労災事故にあたることむしろ会社に賠償請求すべき労災事故があることを解説していきます。

業務中の事故で会社から損害賠償請求される2つのケース

業務中の事故で何らかの損害を生じさせてしまった場合、原則として労働者本人がその賠償責任を負います。

しかし、すべてにおいて労働者だけが賠償責任を負うわけではなく、会社にも同様の賠償責任が問われるものです。労働者が会社から損害賠償請求されるケースには、次の2通りが考えられます。

  1. 会社に対して損害を負わせたとき
  2. 損害を負わせた相手に会社が賠償をしたとき

この2つの違いについてくわしく整理すると、業務中に起こった事故の賠償責任の考え方がみえてきます。

(1)会社に対して損害を負わせたとき

まず「会社に対して損害を負わせたとき」とは、労働者の不法行為によって会社が損害を被った場合をいいます。

不法行為とは

第三者の権利や利益に対して、違法に損害を与えること。故意または過失どちらでも不法行為にあたる。

たとえば、会社の壁に社用車をぶつけてしまった場合があげられるでしょう。社用車の修理費や買い替え費用、代車費用にとどまらず、壁の補修も必要な場合があり、会社にとっては損害といえるのです。

また、会社との労働契約に違反するような事故であった場合、会社から債務不履行に基づいて損害賠償請求される可能性があります。

債務不履行とは

契約上、果たさなければならない義務を守らないこと。

労働者が労働契約上の義務を守らず会社に損害を与えた場合、会社から損害賠償請求される可能性があるでしょう。

ただし、会社はあらかじめ違約金を定めて損害賠償額を予定するような労働契約を結ぶことを禁止する規定があります。これは、あくまで損害賠償額を労働契約で定めることを禁止しているだけで、会社から労働者に対する損害賠償請求そのものを禁止している訳ではありません。

(2)損害を負わせた相手に会社が賠償をしたとき

つぎに「損害を負わせた相手に会社が賠償をしたとき」とは、会社が労働者の不法行為による賠償を支払った場合に該当します。

労働者が業務中に不法行為によって第三者に損害を負わせたとき、会社も賠償義務を負うことになるのです。これは使用者責任に基づいています。

使用者責任とは

会社が雇っている従業員が、第三者に対して業務上の過程における不法行為による損害を与えたとき、会社も賠償責任を負う。

もっとも、労働者が故意で悪質な不法行為をしたような場合は、会社が使用者責任を負わないケースも存在します。ただし、労働者が第三者を殴って怪我をさせるなど、よほど悪質な不法行為ではない限り、使用者責任に基づいて会社も賠償義務を負うことになると考えておくと良いでしょう。

さらに、業務中に労働者が交通事故を起こしてしまった場合、会社は運行供用者責任に基づいて損害賠償義務も負います。

運行供用者責任とは

自動車の運転で経済的利益を受けているものは、逆に、自動車による交通事故の賠償義務も負う。

社用車やトラックなどの交通事故の場合、会社は使用者責任と運行供用者責任の両面において賠償義務を負うのです。

交通事故は過失割合により事故の責任が決まり、過失が付いた場合はその分の賠償義務を負います。事故の相手方は、会社に対して使用者責任または運行供用者責任に基づく損害賠償請求をしてくる可能性があります。

会社が事故の相手方に賠償を支払ったあと、労働者に対してその賠償の負担を求めることは法律でも認められている行為です。これは「求償」といい、会社から損害賠償請求されるケースのひとつになります。

まとめ

  • 業務中の事故の賠償責任は労働者にあるが、使用者責任や運行供用者責任などに基づき、会社も同様の賠償義務を負う
  • 労働者は、会社が支払った賠償金の一部を「求償」という形で損害賠償請求される場合がある

業務中の事故で会社から損害賠償請求される時の注意点

業務中の事故で損害を出してしまった場合、会社から損害賠償請求される可能性はあります。

ここからは会社から損害賠償請求される時の注意点について詳しく解説します。

会社から全額弁償を求められている?

労働者本人のミスで事故が起きたと自覚している場合、会社から全額弁償するよう言われると大人しく従おうと考える方も多いのではないでしょうか。じつは、会社から全額弁償するように言われるケースはほとんどなく、一定程度の賠償義務にとどまるものと考えられます。

したがって、会社から全額弁償するよう言われている場合は、それが不当である可能性が高いかもしれません。

労働者がどのくらい賠償額を負担すべきかどうかは、労働者本人の過失の程度、会社が損害の防止策をとっていたか(社員教育や保険の加入)などの事情から総合的に判断されるものです。会社が一方的に指定した金額が賠償額になるわけではないので注意しましょう。

ここからは、物損事故(自損事故)と人身事故にわけて労働者の賠償責任についてみていきます。

業務中に物損事故を起こした場合

たとえば、トラックでの配送業務中に塀にぶつかった事故の場合を考えてみましょう。事故の主な損害は、塀の破損、荷物の破損、社用車の破損の3つがあげられます。

まず、塀や荷物の破損といった損害については、運転していた労働者本人が所有者等に対して賠償義務を負います。そして、業務中に労働者が負った賠償義務ですので、会社も使用者責任に基づき同様の賠償義務を負うのです。

先ほど解説したとおり、会社は所有者等に賠償をおこなったあとに、労働者に損害賠償請求(求償)する場合はあるでしょう。しかし、労働者が全額の賠償義務を負うわけではありません。

これまでの裁判でも、労働者は信義則上相当と認められる限度において賠償義務を負うとされているのです。(「茨城石炭商事事件」最高裁第一小法廷昭和51年7月8日判決)

次に、社用車の破損にかかる修理代については、運転していた労働者本人が会社に対して賠償義務を負います。この部分についても修理代を全額請求されるケースはほとんどないと推測されます。

会社は労働者の働きによって経済的利益を得ているため、労働者のミスで損害が出た場合にはその賠償義務を負うのが「使用者責任」の根本的な考え方です。そのため、社用車の破損にかかる修理代すべてを労働者に請求するというのは、適切ではありません

業務中の交通事故で相手に怪我をさせてしまった場合

交通事故の損害賠償義務については、まず労働者が事故の相手方に対して賠償義務を負います。そして、会社は使用者責任や運行供用者責任に基づいて賠償義務を負うことになるのです。

具体的な賠償は、会社が加入している自動車保険などをつかって対応することになるでしょう。

ただし、保険金だけで賠償しきれないときは会社が支払うことになるので、その分を後から請求される可能性も考えられます。もっとも、交通事故の原因が相当に悪質なものでないかぎり、会社から労働者への請求額は一部にとどまるでしょう。

給料から賠償額を天引きされる?

給料は全額支払いが原則なので、賠償金の天引きは適切ではない可能性があります。所得税や住民税、社会保険料、財形貯蓄などが天引きされていますが、これらは例外です。

判例上、たとえ労働者の不法行為などによって損害賠償責任を負う必要があったとしても、損害賠償金と賃金を相殺することは原則として禁止されています。

もっとも、会社からの一方的な損害賠償金と賃金の相殺が原則的に認められないという意味です。労働者も損害賠償金と賃金の相殺に合意し、労働者の自由意思に基づいていたことが合理的に認められるのであれば、賃金と相殺することができるとされています。

ケガの治療費は自己負担?

ご自身がケガをしてしまったときの治療には、労災保険を利用しましょう。

業務中の交通事故は、ほぼ労災事故にあたります。
ふだん私傷病の治療で提示する健康保険は、労災事故では使えません。

むしろ健康保険だと原則3割負担ですが、労災保険では労働者の治療費負担はなく、労働者にとって労災保険を利用するメリットは大きいものです。

会社に対して損害賠償請求すべき労災事故もある

ここからは業務中の事故でケガをした場合、会社から損害賠償請求されるだけではなく、むしろ会社に対して損害賠償請求すべきケースがあることをお伝えします。

注目すべきなのは、会社の安全配慮義務違反の有無です。

会社に安全配慮義務違反があれば請求可能

会社は、労働者に対して安全配慮義務を負います。

安全配慮義務とは?

会社は、労働者が怪我をすることなく安全に働けるように配慮しなければならないという義務

会社の安全配慮義務違反が原因となって労災事故が起こった場合には、会社は労働者に対して損害賠償義務を負うのです。つまり、安全配慮義務違反が認められる労災事故では、会社に対して損害賠償請求が可能になります。

安全配慮義務に違反しているかどうかを判断するポイントは、以下の2つです。

  1. 事故を予見することはできたのか
  2. 適切に対応していれば事故は回避できたのか

以下の例を用いて、安全配慮義務違反を詳しく解説します。

工場のラインで指を切ってしまいました。その結果、汚れた商品やラインを止めたことへの損害賠償請求を会社から求められてしまったのです。しかし、この日初めての作業にも関わらず、会社から安全面の指導は受けておらず、本来付けるはずの怪我防止の手袋を着用させてもらっていませんでした。このラインでは先週も同じようなケガ人が出たそうです。

この例では、初めての作業にも関わらず、会社から安全面の教育を含んだ指導がなかったこと、怪我を避けるための手袋を付けさせなかったことが問題でしょう。

また、以前にも同じような事故が起こっていることからも、会社側は事故を予測できたこと、再発防止を徹底すべきだったといえそうです。

このように、安全配慮義務違反の有無は慎重に検討する必要があります。
安全配慮義務違反にあたる可能性があるケースや、会社に損害賠償請求すべき慰謝料を詳しく知りたい方は、関連記事をお役立てください。

労災保険の給付が不十分な場合がある

損害が大きければ、労災保険の給付だけでは不十分な場合があります。

  • 何らかの後遺障害が残ったとき
  • 寝たきりになってしまったとき
  • 死亡してしまったとき

こういった場合には、弁護士に依頼するなどして損害の見積もりをしてもらうべきでしょう。会社側に安全配慮義務違反などの落ち度がある場合には、労災給付の不足分について損害賠償請求も検討せねばなりません。

たとえば、労災事故のせいで後遺障害が残ったり、命を落としてしまった時には、逸失利益という損害を請求できます。この逸失利益は計算方法が複雑な一方で高額になる可能性もあるので、正しく見積もる必要があります。

労災保険から慰謝料は支払われない

被害者が負った損害のうち、目に見えない精神的損害を金銭で補償するものが慰謝料です。労災事故の原因が会社にある場合、会社にして慰謝料を含む損害賠償請求が認められる場合があります。

  • 入院や通院治療が必要になった
  • 後遺障害が残ってしまった
  • 死亡してしまった

こういった精神的苦痛は慰謝料の支払い理由となりえますが、労災保険の給付内容には慰謝料は含まれていません。労災事故に伴う慰謝料は会社に請求しないと受けとれないのです。

労災事故で会社に損害賠償請求するなら弁護士に相談

業務中の事故はほとんどが労災事故です。
そして、労災事故のなかには、会社の安全配慮義務違反などの落ち度があって起こったものも存在します。

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業務中の労災事故で、ご自身が重い後遺障害を負われたりご家族を亡くされたりして、会社への損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

労災認定を受けても、その給付額だけでは十分な補償とはいえない場合がありますので、一度弁護士に見積もりを依頼してみませんか。

こんな方におすすめ

  • 会社の安全配慮義務違反による労災事故である
  • 重い後遺障害が残ってしまった
  • 労働者本人が死亡してしまった

法律相談は正式契約とは異なりますので、法律相談を利用してから正式契約するかどうかを検討していただけます。

弁護士依頼を悩んでいる方も、より具体的に弁護士依頼を検討するためにも、お気軽に法律相談をご利用ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


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代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了