バドミントン事故で損害賠償請求する方法|被害者の賠償を認めた判例紹介
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バドミントンはネットを挟んでシャトルをラケットで打ち合う競技なので、一見すると事故とは無縁のようなスポーツに思えます。しかし、他のスポーツと同様にさまざまな事故が発生しています。
スポーツに怪我は付き物とはいえ、場合によっては怪我に関する責任を問うことで、適切な補償が得られるケースがあります。バドミントンの事故において、どんなケースであれば損害賠償請求できるのでしょうか。
本記事では、実際にあったバドミントン事故の裁判事例を紹介しつつ、誰に損害賠償請求できるのか、慰謝料の相場はどのくらいなのかなどについて解説していきます。
目次
バドミントン事故の裁判事例|ダブルスでラケットが眼に当たった
バドミントン教室でペアを組んでダブルス競技を行っていたところ、被害者の目にペアのラケットが当たりました。被害者は前衛、加害者は後衛でプレーしており、対戦相手の打ったシャトルを打ち返そうとしたときに、加害者のラケットが被害者の目を直撃したのです。被害者は、ラケットをぶつけてきた加害者に過失があると主張し、不法行為にもとづく損害賠償請求を起こしました。
このバドミントン事故は、被害者にも一定の過失があるという東京地裁の判決が東京高裁で取り消され、被害者側に過失なしという判決となり注目されました。加害者に対して約1,300万円の賠償が命じられたのです。
一審|加害者に損害の6割を負担させるのが相当
一審では、後方にいた加害者は前方にいる被害者の動きを把握できたはずであり、声掛けも適切に行わなかったとして、裁判所は加害者に過失があったと判断しました。(東京地方裁判所 平成28年(ワ)第3343号 損害賠償請求事件 平成30年2月9日)
もっとも、裁判所は、バドミントンという競技は一定の頻度で事故発生の危険を伴うものであり、ダブルス競技は狭いコート内で行う競技でもあるとしています。
このような危険性を双方が引き受けたうえで競技に参加しており、加害者は故意にラケットをぶつけて負傷させたものではないことから、損害のすべてを加害者に負担させるのではなく、6割を負担させるのが相当であると裁判所は判断しました。
金額 | |
---|---|
治療関係費 | 約8万円 |
休業損害 | 約68万円 |
入通院慰謝料 | 73万円 |
逸失利益 | 約760万円 |
後遺障害慰謝料 | 290万円 |
小計 | 約1,199万円 |
過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など最終合計 | 約789万円 |
控訴審|被害者に過失なし、加害者に約1,300万円の賠償判決
高裁は、加害者は被害者(前衛)の動静を把握できたことを指摘しました。さらに被害者に危険回避行動をとるべき義務があったとは認められないことから、被害者に4割の過失があるとした原審を取り消しました。バドミントン事故の加害者に対して約1,300万円の賠償を命じたのです。(東京高等裁判所 平成30年(ネ)第1183号、平成30年(ネ)第2401号 損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件 平成30年9月12日)
金額 | |
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治療関係費 | 約8万円 |
休業損害 | 約68万円 |
入通院慰謝料 | 73万円 |
逸失利益 | 約760万円 |
後遺障害慰謝料 | 290万円 |
小計 | 約1,199万円 |
既払い金控除、弁護士費用など最終合計 | 約1,300万円 |
バドミントン事故|誰に損害賠償請求できるのか
バドミントンをしている最中に事故にあった場合、発生した事故について責任を負うものに対して損害賠償請求することができます。
先ほど紹介した裁判事例のように、ラケットをぶつけてきた人に対して損害賠償請求を行うような場合はイメージがつきやすいと思います。しかし、事故の状況によっては、さまざまな請求相手が想定されます。では、いったい誰に損害賠償請求をするべきなのでしょうか。
ここからはプレーヤー・バドミントン教室側(指導者や運営会社)・施設側の3者に分けて損害賠償請求の可否を考えていきます。
バドミントン事故でラケットをぶつけてきたプレーヤーに責任を問える?
ペアのラケットがぶつかったり、衝突されたりして怪我した場合、相手に対する損害賠償請求が可能です。
- ダブルス競技中、声掛けせずに後衛が突っ込んできて怪我を負った
- 周りを確認せず、乱暴に素振りしていたラケットが当たって怪我をした
以上のようなケースで、プレーヤーの不法行為にもとづいて損害賠償請求が可能だと考えられます。
バドミントン事故で教室側に責任を問える?
バドミントン教室で事故が起こった場合、教室の指導者または教室の運営会社に対して責任を問える可能性があります。指導者は、生徒のレベルに合わせた指導や安全面を配慮した運営を行う必要があるのです。
このような注意義務や安全配慮義務に違反していると判断される場合に、指導者の不法行為を原因として事故が起こったのであれば、損害賠償請求が可能だと考えられます。
たとえば、以下のようなケースにおいて、指導者の責任を問える可能性があります。
- すべりやすい場所を把握しておきながら適切に注意喚起ができておらず、生徒が滑って転倒し、骨折した
- 場所がないからと狭いところで練習を強行し、生徒同士がぶつかって怪我をした
- 上級者を混ぜて、初級者のレベルに合わない練習をさせて怪我をした
生徒同士がぶつかった事故だとしても、生徒だけに全責任があるとは言い切れません。
指導者が事故を予見しており、適切に対応していれば事故を防げた可能性があったにもかかわらず対応を怠ったようなケースでは、指導者に対する損害賠償請求が可能です。
指導者を雇用する会社も損害賠償責任を負う
バドミントン教室の運営会社に雇用されている指導者が不法行為を行った場合、使用者責任にもとづいて運営会社に対する損害賠償請求が可能なケースもあります。
使用者責任は、民法715条で以下のとおり定められています。
使用者責任
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
バドミントン教室を運営する会社も損害賠償請求の相手となりえるのです。
バドミントン事故で体育館など施設側に責任を問える?
体育館を借りてバドミントンサークルの活動をしたり、バドミントン教室が体育館を借りて教室を開いている場合もあるでしょう。
体育館を管理する施設側には、利用者が安全に施設を利用できるように配慮した運営・管理が求められます。体育館の設備に瑕疵があって事故が起こった場合、施設の運営会社に対して損害賠償請求が可能です。
工作物責任は、民法717条で以下のとおり定められています。
工作物責任
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
「瑕疵があること」とありますが、イメージがつきにくいでしょう。そこで、体育館など施設の責任を問える例を紹介します。
- 間仕切りネットや防球ネットが適切に張られておらず、隣のコートからボールが飛んできて頭に当たった
- ネットを張るための支柱がもろくなっており、支柱が倒れてきて怪我をした
- 支柱などの体育器具を立てるため床に設置される床金具が適切に収納されておらず、蹴躓いて骨折した
体育館など施設の設備に不備があったために事故が発生した場合、施設を運営する会社に対して損害賠償請求が可能です。施設の安全性が保たれていたのかがポイントになります。
施設の利用にあたって免責同意書にサインしていても、施設側が全ての賠償責任を免れるものではありません。関連記事『「責任を負わない」免責同意書は無効?手術ミスやスポーツ事故での効力』では同意書の効力を解説しているので、参考にお読みください。
部活動中の事故は先生または学校に責任が問える
バドミントン部の活動中に事故に巻き込まれた場合、部活の顧問を務める先生にも責任を問える可能性があります。また、その先生に過失が認められる場合、学校の設置者や運営者にも責任を問えるのです。
学校管理下でバドミントン事故が起こった場合の対応については、以下の関連記事をご確認ください。
バドミントン事故で慰謝料は請求可能?
バドミントン中の事故で怪我をした場合、慰謝料を請求することができます。慰謝料とは、事故で受けた精神的苦痛を緩和するための金銭です。
バドミントン事故の慰謝料相場
慰謝料の金額を算定するには、一定の計算方法があります。入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3つにわけてみていきます。
入通院慰謝料
バドミントン事故で怪我を負って病院で治療を受けた場合、入通院慰謝料を請求できます。
入通院慰謝料は、治療期間の長さから金額を算定します。入通院慰謝料の相場は、以下の表をご覧ください。
※ 横軸は入院期間・縦軸は通院期間の長さを表します。
※ 1月は30日単位とします。
たとえば、怪我を負って1ヶ月入院、2ヶ月通院した場合、入通院慰謝料の相場は98万円となることが相場表からわかります。
もっとも、手術をくり返す必要があったり、麻酔なしの手術を受ける必要があったりしたケースでは、相場表よりも慰謝料が増額される可能性があるでしょう。
一方、打撲や擦り傷など軽傷の場合は、相場表よりも低額になる見込みです。
弁護士に入通院慰謝料の算定を依頼すれば、ご自身のケースではどれくらいの金額が見込めるのか確認することができるでしょう。
以下の関連記事では怪我の慰謝料算定方法や相場を解説していますので、あわせてお読みください。
後遺障害慰謝料
怪我の治療を適切に受けても後遺症が残った場合、後遺障害慰謝料を請求できます。
バドミントン事故に関する後遺障害慰謝料の相場は、障害の程度に応じて110万円~2,800万円になります。
障害の程度に応じて、1級から14級までの等級に分けた後遺障害等級というものが定められています。ご自身の後遺症が、何級に該当するのかは厚生労働省の障害等級表を参考にしてください。
後遺障害等級ごとに、後遺障害慰謝料は一定の相場があります。下表をご覧ください。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
弁護士に相談すれば、ご自身の後遺症が何級に該当しうるのかアドバイスがもらえるでしょう。無料相談の機会を活用して、弁護士にお悩みをお話しください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
死亡慰謝料
バドミントン事故で死亡してしまった場合、死亡慰謝料の相場は2,000万円~2,800万円となっています。この慰謝料相場は、亡くなったご本人とご遺族の精神的苦痛を反映した金額です。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他※ | 2,000万円~2,500万円 |
※ 独身の男女、子ども、幼児などをさします。
死亡事故の慰謝料は、精神的苦痛の程度によっては増額される可能性もあります。死亡慰謝料の増額理由については、関連記事『死亡事故の慰謝料相場はいくら?賠償請求の方法や増額理由を解説』を参考にしてください。
バドミントン事故で請求すべき損害賠償項目
バドミントンの事故で請求すべき代表的な損害賠償項目は下表の通りです。
項目 | 概要 |
---|---|
治療関係費 | 治療費、入院費や手術代など治療にかかる費用、通院にかかる交通費用、家族などが付き添った場合の付き添い費用 |
休業損害 | 治療で働けなくなった期間の損害 |
逸失利益 | 後遺障害や死亡により将来の経済的利益が得られなくなった損害 |
葬儀費用 | 葬儀にかかった費用 |
慰謝料 | 事故で受けた精神的苦痛を金銭に置き換えたもの |
損害賠償項目のなかには治療関係費のように実費が認められるものと、慰謝料のように一定の算定方法用いて金額が決まるものがあります。そのため、損害に応じた適切な算定が必要となるので注意しましょう。
バドミントン事故の損害賠償を請求する方法
バドミントン事故で損害賠償請求する方法は、示談・調停・裁判の3つがあげられます。多くのケースでは、示談から開始し、示談でまとまらない場合に調停や裁判へと移る流れになるでしょう。
(1)示談|当事者双方による話し合い
示談とは、民事上の争いごとに関して、裁判外での話し合いによって解決内容を決めることをいいます。示談で決めた内容に従って争いが終了することになるので、示談で決まった内容は「示談書」として書面に残すのが通常です。
もっとも、示談はお互いに一定の譲歩で納得できるラインを決めるものなので、お互いの意見が食い違っている場合、金額面で折り合いがつかない場合などには、示談で解決するには困難なこともあるでしょう。このように示談で解決が難しい場合は、調停や裁判といった方法に進むことになるでしょう。
(2)調停|裁判所を介入しての話し合い
調停とは、民事上の争いごとに関する話し合いに裁判所などを第三者として介入させ、解決内容を決めることをいいます。
第三者的な立場の意見を取り入れることで、示談がまとまらなかった場合でも進展する可能性があります。その一方、調停は当事者双方の合意を前提としているため、ここでも話し合いが決裂する場合は裁判へと進むことになるでしょう。
(3)裁判|裁判所による判決で賠償が確定
裁判とは、民事上の争いごとに関して、裁判官が当事者双方の主張を聞き、証拠を調べるなどして、最終的な判決を言い渡すことで解決を図ることをいいます。
裁判では、裁判官が出した判決がすべてです。これまでの判例にならって、適切な金額を算定して支払いを命じてくれます。示談などで相手が根拠のない金額を提示してきた場合でも、裁判では適切な金額を受けとることができるでしょう。
もっとも、示談や調停と異なり、判決は当事者双方の合意に基づくものではありません。被害者の主張がすべて認められるとも限りませんし、敗訴してしまう可能性もあることを認識しておく必要があります。
スポーツ事故の賠償請求に関して裁判を考えている方は関連記事も併せてお読みください。裁判提起に必要な手続きや流れをさらに詳しく解説しています。
バドミントン事故にあったら弁護士に相談
バドミントン事故で負傷する被害を被ったら、弁護士に相談・依頼してみることをおすすめします。
バドミントン事故を弁護士に相談すべき理由ならびに弁護士への無料相談窓口を案内します。
なぜバドミントン事故を弁護士に相談するべきなのか
バドミントン事故を弁護士に相談、依頼すべき理由としては、大きく3つあげることができます。
- 適正な金額の損害賠償の算定
- 客観的証拠・資料の収集サポート
- 示談から裁判まで一任
それぞれ簡単に解説します。
1.適正な金額の損害賠償の算定
事故で被った損害の洗い出しから算定までをご自身だけで行うと、請求すべき損害賠償項目を漏らしてしまう可能性があります。弁護士に相談、依頼いただくと、どのくらいの損害があるのか漏れのない算定が可能です。
最終的に受け取ることになる損害賠償の金額は、示談や裁判で決まることになりますが、請求する段階で適正な金額よりも低い金額にならないようにしておかねばなりません。弁護士がついていれば、適切な金額で請求をはじめることができるので安心です。
2.客観的証拠・資料の収集サポート
バドミントン事故では、事故現場の状況や目撃証言など広い範囲にわたる情報収集が必要です。ご本人やご家族のみでの収集は大きな負担となることが予想されます。
弁護士に依頼すれば、損害賠償請求するうえで必要になる客観的証拠や資料の収集をサポートできるでしょう。
3.示談から裁判まで一任
突然、事故に巻き込まれて被害者の立場になってしまった時、損害賠償請求を一人で行うことはむずかしいと思います。とくに、事故で負った怪我の治療や、仕事をしながらの示談交渉は肉体的にも精神的にも大きな負担となり得ます。
弁護士に依頼すれば、やり取りをすべて一任することができます。
弁護士にやり取りを一任すれば、治療や仕事に集中することができるでしょう。
このように、弁護士に依頼するメリットは多数あります。関連記事『スポーツ事故の解決を弁護士に依頼するメリット』ではより詳しく解説していますので、弁護士への相談・依頼の検討にお役立てください。
弁護士による事故被害の無料相談窓口
バドミントンなどスポーツに関する事故で重い後遺障害を負ったり、ご家族を亡くされたという場合は、アトム法律事務所の無料法律相談をご活用ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了