労災における難聴の特徴は?事業主の防止義務等についても解説
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労働環境によっては、「職業性難聴」を発症させる危険性があります。このような職業性難聴は、労災認定を受けることで補償がもらえます。
しかし、常に労災認定がなされるとは限りません。
本記事では、どのような職業が難聴になる危険性が高いか、事業主に求められる防止策、難聴が労災と認められる要件、難聴になってしまった場合の補償内容等について解説を行います。
目次
労災における難聴とは?どんな職業がなるのか
難聴は、騒音のある職場での勤務が原因となります。まずは、どのような職業について難聴が多いのか、また、難聴になる原因はどのようなものが考えられるか解説します。
職業性難聴が多い職業とは
難聴は、工事現場での勤務・航空関係者・パチンコ店店員など、長時間大きな音にさらされる職業で多く発症します。また、ロックコンサートや爆発音がする作業に従事する職業など、長時間では無いものの激しい音にさらされる職業でも同様の危険性はあるといえるでしょう。
厚労省から公表されているガイドラインでは、安全衛生法規則588条に規定する作業場である8つの作業場(別表1)、別表1以外の作業場で騒音レベルが高い52の作業場(別表2)が例としてあげられております。(参考:「騒音障害防止のためのガイドラインの策定について」)
職業性難聴の多くは徐々に進行するものであることから、初期症状で自覚することがむずかしく、対策を怠ってしまいがちです。そのため、職業性難聴が多い職業に従事している事業主と労働者それぞれが、難聴の原因・予防策等をしっかりと認識することが必要といえます。
難聴の原因
難聴には、伝音性難聴と感音性難聴があります。
伝音性難聴は、外耳と内耳の障害によって音がうまく伝わらないというものです。感音性難聴は、内耳や脳に問題があり、音をうまく感じ取れないものです。また、両者が合併した混合性難聴というものもあります。
伝音性難聴では中耳炎や外耳炎といった診断名になることが多く、感音性難聴では突発性難聴・音響性難聴・騒音性難聴・メニエール病などの診断名になることが多いといえます。
難聴の治療法について
伝音性難聴は、一時的な症状である場合も多く、投薬治療で改善することも多くあります。一方で、慢性中耳炎や耳硬化症などは、投薬治療での完治はむずかしく、手術を行う必要性があるといえるでしょう。
感音性難聴は、慢性的に生じる騒音性難聴・加齢性難聴・生まれつきの先天性難聴など、その原因はさまざまであり、必ずしも薬物治療で改善するとは限りません。根本的な治療はむずかしく、補聴器などを利用するしか無い場合も多いといえます。
いずれにしても、難聴では初期症状での治療が必要であり、自然に治癒するものではないことを認識しておかなければなりません。
難聴が労災と認定される要件
業務災害の要件に該当する必要
難聴が労災であると認定されるには、業務災害による難聴であることを明らかにする必要があります。
業務災害の要件である、業務遂行性と業務起因性が認められるのかが問題となるのです。
- 業務遂行性
労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で生じた騒音により難聴が生じた - 業務起因性
業務行為が原因で難聴が生じた
難聴が労災であるといえるためには、難聴の原因が業務を行っている際に生じた騒音によることを明らかにしなければなりません。
ガイドラインが労災認定の参考になる
騒音作業が多い職場では、事業主の防止措置が必須になります。厚労省も騒音障害防止のためのガイドラインを公表しており、その解説も出されております。(参考:厚生労働省ホームページ「騒音障害防止のためのガイドライン」)
ガイドラインからすると、騒音対策が必要であったといえる作業を労働者が行っていたのであれば、業務行為が原因で難聴が生じたといいやすいでしょう。
また、ガイドラインに記載されている適切な騒音対策がなされていなかった場合も同様です。
ここからは、事業主にどのような防止措置が求められているのか解説を行います。
作業環境測定
まず、事業主は騒音レベルの測定が求められており、その結果を3つの管理区分に分け、各区分事に対策を行います。
測定の結果、85デシベル以上の騒音が生じる場合には第2管理区分、90デシベル以上では第3管理区分として、より対策が求められます。
防音措置
作業環境を測定した結果、85デシベル以上の騒音が確認された場合、防音措置を執ることが求められます。
たとえば、音源対策として、低騒音の機械や工具を使用することや騒音の発生源を防音カバーや防音パネルで覆うことが考えられます。
また、伝播経路に対する対策として、騒音の発生源と作業者との間についたてやシャッターなどの遮へい物を設けることも効果的でしょう。
なお、作業者も騒音の出る機械を遠隔操作するなどして、ご自身で騒音の予防をすることも大切です。
健康診断の実施
事業主は騒音作業従事労働者に対して、雇用時に健康診断をすることが求められており、6ヶ月に1回程度の定期的な健康診断をさせることが求められております。
加えて、騒音作業に従事する労働者に対して、労働衛生教育を実施して適切な知識を深めるよう指導が求められます。
難聴で受給できる労災補償
労災保険の給付内容
労災によって難聴となった場合には、労災保険により以下のような給付がなされることになります。
- 療養補償給付
難聴を治療するために必要な費用の給付 - 休業補償給付
難聴が原因で仕事ができず、賃金を得られないという損害に対する給付 - 障害補償給付
難聴が完治せずに後遺障害が残った場合に給付される一時金や年金
労災保険給付を受けるための手続きについては『業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう』の記事をご覧ください。
難聴が後遺障害といえる要件を紹介
難聴について治療を行ったものの、完治しない場合には後遺症が残ることになります。
そして、後遺症の症状が後遺障害が生じた場合は、障害等級に応じて障害補償給付を受けることが可能となるのです。
聴力の低下による後遺障害
難聴により聴力が低下することで生じる可能性のある後遺障害の症状とは、以下のようになります。
等級 | 症状 |
---|---|
第4級の3 | 両耳の聴力を全く失ったもの |
第6級の3 | 両耳の聴力が耳に接しなければ、 大声を解することができない程度になったもの |
第6級の3の2 | 一耳の聴力を全く失い、 他耳の聴力が40cm以上の距離では、 普通の話声を解することができない程度になったもの |
第7級の2 | 両耳の聴力が40cm以上の距離では、 普通の話声を解することができない程度になったもの |
第7級の2の2 | 一耳の聴力を失い、 他耳の聴力が1m以上の距離では、 普通の話声を解することができない程度になったもの |
第9級の6の2 | 両耳の聴力が1m以上の距離では、 普通の話声を解することができない程度になったもの |
第9級の6の3 | 一耳の聴力が耳に接しなければ、 大声解することができない程度になり、 他耳の聴力が1m以上の距離では、 普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
第10級の3の2 | 両耳の聴力が1m以上の距離では、 普通の話声を解することが困難である程度になったもの |
第10級の4 | 一耳の聴力が耳に接しなければ、 大声を解することができない程度になったもの |
第11級の3の2 | 両耳の聴力が1m以上の距離では、 小声を解することができない程度になったもの |
第11級の4 | 一耳の聴力が40cm以上の距離では、 普通の話声を解することができない程度になったもの |
第14級の2の2 | 一耳の聴力が1m以上の距離では、 小声を解することができない程度になったもの |
医師による聴力検査を受け、どの程度聴力が低下しているのかを証明することが必要です。
難聴による耳鳴りで生じる後遺障害
難聴により耳鳴りがある場合の後遺障害等級は以下の通りです。
12級 | 耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの |
14級 | 難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの |
「難聴に伴い」とは、騒音性難聴にあっては、騒音職場を離職した方の難聴が業務上と判断され、当該難聴に伴い耳鳴がある場合をいいます。
また、騒音性難聴以外の難聴にあっては、当該難聴が業務上と判断され治癒後にも継続して当該難聴に伴い耳鳴がある場合です。
「耳鳴のあることが合理的に説明できる」とは、耳鳴の自訴があり、かつ、耳鳴のあることが騒音ばく露歴や音響外傷等から合理的に説明できることをいいます。
後遺障害が認められる場合に給付される金額
後遺症が認められる場合に給付される障害補償給付の金額は、認定される等級に応じて異なります。
1級から7級の場合は年金を、8級から14級の場合は一時金となります。
等級ごとの具体的な金額は以下の通りです。
等級 | 給付金額 |
---|---|
第4級 | 給付基礎日額の213日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 |
第11級 | 給付基礎日額の223日分 |
第12級 | 給付基礎日額の156日分 |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 |
給付基礎日額とは、難聴が発生したと確定した日の直前3ヶ月間に労働者へ支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った金額をいいます。
年金の場合は、1年間に給付される金額です。
難聴を原因とする損害賠償請求の方法
労災保険給付だけでなく損害賠償請求も行うべき
職業上の環境によって難聴になってしまった場合には、労災保険給付だけでなく、会社への損害賠償請求が可能となるケースがあります。
労災保険からの給付内容は法律で定められた範囲にとどまり、生じた損害全てを補てんできるとは限りません。
特に、労働者に生じた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料は、労災保険から給付されないので、慰謝料の請求を行うには損害賠償請求が必要となるのです。
労災事故の慰謝料には一定の相場があります。慰謝料額の決まり方は関連記事で解説していますので、あわせてお読みください。
事業主に安全配慮義務違反がある場合には請求可能
事業主には、予見可能な騒音によって労働者の生命や身体に対する侵害を防止するという安全配慮義務があります。
そのため安全配慮義務に反した結果、労働者に難聴が生じるようなことがあれば、事業主は労働者に対して損害賠償責任を負うことになるのです。
つまり、労働者は事業主に対して損害賠償請求をすることができ、労災保険では補償されない慰謝料等についても給付を受けることができます。
安全配慮義務違反の有無は、事業主への損害賠償請求を左右する重要ポイントです。どういった労災事故であれば損害賠償できるのか、くわしく解説した関連記事をお役立てください。
損害賠償請求を検討するなら早めに弁護士へ相談を
難聴の症状が出た場合、早期の治療はもとより、労働環境等にも問題がある可能性がありますので、弁護士への相談もぜひ検討してください。
事業主の安全配慮義務違反によって労災が発生して難聴に至ってしまった場合、会社に損害賠償請求が可能です。たとえば労災保険からは慰謝料がもらえませんので、事業主に対して請求していくことになります。
弁護士に相談することで、損害賠償請求を行うためにどのような書類や証拠が必要となるのか、慰謝料額の見通しについて、アドバイスを受けられます。
早期に弁護士が代理人になるほど、労働者の負担は減ることになるでしょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士


高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了