仕事が原因のアレルギーで労災は認定される?認定基準や具体例を紹介
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仕事で使用する薬剤の影響で皮膚疾患を発症したり、化学物質が日常的に蔓延する環境で働いたことによって化学物質過敏症に悩まされたりすることは考えられます。仕事が原因だと思われるアレルギー症状について、労災の申請は可能なのでしょうか。
結論からいうと、仕事と疾患との間の因果関係が認められれば、アレルギーも労災が下ります。
今回は職場で引き起こされる代表的なアレルギー症状や労災の認定基準、判例などを紹介します。アレルギー疾患が労災に該当するか判断できるようになる可能性が高いので、ぜひご一読ください。
目次
アレルギーによる労災認定の注意点
アレルギーで労災が下りるのか、不安を抱く方も多いでしょう。従来は仕事が原因だと思われるアレルギー疾患について、労災を申請しても認められないことが多くありました。
しかし、近年はその傾向に変化が生じており、裁判でも労災事故だと認めるケースが増えています。
こちらでは、アレルギーの労災認定に必要な要件や、要件を満たすために注意すべき点を紹介します。
業務災害の要件に該当する必要
労災保険の給付金は「業務上の災害、もしくは通勤災害が原因の傷病、障害、死亡」に対して支給されます。
そのため、アレルギーを原因として労災保険給付を受けるには、業務災害によってアレルギーが発生したという認定を受ける必要があるのです。
業務災害と認められるためには、業務起因性および業務遂行性を満たす必要があります。
端的にいうと、業務遂行性とは「その事故が事業主の支配下で起こったこと」、業務起因性とは「業務が原因で事故が発生したと判断できる因果関係のこと」です。
これらの基準は抽象的なもので、実際に労災事故に該当するかどうかは事故の個別具体的な状況を考慮して行われます。
業務災害といえるための注意点
業務災害といえるためには、事業主の支配下における業務行為を行っていたことが原因でアレルギーが発生したといえなければなりません。
そのため、業務行為がアレルギーを発生させる恐れがあるといえることや、実際に発生したアレルギーが業務行為を原因としたものであることを証拠から証明することが必要です。
具体的には、以下のような事実を証明すべきでしょう。
- 業務において使用している薬品や塗料の内容や危険性
- 業務中に薬品や塗料をどのように扱っているのか
- 業務中の環境(薬品や塗料を扱う時間、換気の程度など)
- 業務において使用している薬品や塗料から生じる可能性あるアレルギーの症状と実際に発生したアレルギーの症状が一致しているのか
アレルギーの症状に関しては、専門家である医師により証明してもらいましょう。
業務災害が認定されることで、どのような労災保険給付がなされるのかについては『業務災害にあってしまったら|複雑な労災保険制度を弁護士が解説』の記事をご覧ください。
職場で生じる代表的なアレルギー症状
一口にアレルギーといっても、何種類もの疾患・症状があげられます。
まずは、職場環境や仕事が原因の代表的なアレルギー疾患を紹介します。
いずれかの症状に当てはまれば、労災事故と認定される可能性は低くはありません。
職業性アレルギー疾患
職業性アレルギー疾患とは、職場環境が原因で引き起こされるアレルギー症状を指します。
たとえば、美容師が毛染め剤の使用によって発症する皮膚炎や、林業でハチに刺されたことによるアナフィラキシーショックなどが該当するでしょう。
職業性アレルギー疾患は仕事と密接に関係しているため、症状が出ても我慢してしまう傾向があります。しかし、無理に耐えていると、症状が悪化する可能性も高いです。
職業性アレルギー疾患を労災だと認定している事例もあります。重症になる前に職場に労働環境の改善を申し出てみてもいいでしょう。
シックハウス症候群
建材等から発生する化学物質やダニ、カビなどによる室内の空気汚染や健康被害を総じてシックハウス症候群といいます。具体的な症状としては、めまいや吐き気、嘔吐、じんましんなどの全身的な症状です。
庁舎の新築や増改築が原因でシックハウス症候群を発症するケースが多々見受けられます。特に、学校や医療機関で働く人が発症することが多いのが特徴です。
とりわけ、音楽や家庭科の先生など、1人で長時間同じ部屋にこもる環境では化学物質を吸い込む危険も高くなります。シックハウス症候群を放置すると、後述する化学物質過敏症を引き起こす可能性もあるので早めの対処が必要です。
化学物質過敏症
化学物質過敏症は化学物質との接触によって、頭痛や不眠などさまざまな症状が現れる疾患です。発症するとごくわずかな量の化学物質にも敏感に反応するようになり、洗剤や芳香剤など日常生活で使用するものに対しても症状が現れます。
有害な化学物質を晒され続ける環境で働いている人は、化学物質過敏症にかかるリスクも高いです。
労災だけでなく損害賠償請求も行おう
会社の安全配慮義務違反を証明しよう
労災保険による給付により生じた損害全てが補てんされるとは限らないため、不足部分については会社への損害賠償請求を行う必要があります。
労災事故で損害賠償を請求するには、会社側の安全配慮義務違反を立証しなければなりません。
会社は労働者の生命や身体に危害が生じないように労働環境を整えるという安全配慮義務を負っています。
そのため、会社がアレルギーを発生させる危険性を予測できる業務を行わせ、アレルギーの発生を防ぐための適切な措置を行っていなかったために労働者にアレルギーが発生した場合には、安全配慮義務違反が認められるのです。
しかし、安全配慮義務違反に関しても、当時の労働環境においてアレルギーが引き起こされると会社側が予測することは困難だと判断するケースは珍しくありません。
安全配慮義務違反が認められたケース
事件の流れ
近年、職場環境が原因のアレルギー疾患について、労災の認定がなされるケースが増えてきました。画期的だと話題になった化粧業界大手「花王」の裁判事例を見てみましょう。
商品の検査・分析を担当する職員が、化学物質過敏症を発症してしまった事例です。有害な化学物質を扱っているにも関わらず、部屋の換気が不十分で、防護マスク・手袋などの防具も支給されていない状況でした。
本人は何度も職場に改善要求を出していましたが、基本的に1人で作業する環境だったこともあり、この想いは受け入れられませんでした。しだいに手足のしびれや全身の倦怠感などの症状を訴えるようになり、その後もなかなか体調は改善せず、結果的に自主退職を余儀なくされます。
裁判では症状が出始めてから20年以上が経過していたことから、当初は時効だと判断されました。
しかし、2013年になって「職場で長期間にわたり晒された化学物質が原因で、過敏症を発症した」と、事故とアレルギーとの因果関係が認められています。
裁判所は事業主の安全配慮義務違反を認め、花王側に約2,000万円の損害賠償を命じました。この事例は労働環境と化学物質過敏症の因果関係を認めたこと、職場側の安全配慮義務違反を判じたことにおいて、画期的な判例だといえます。
本事例のみならず、職場環境が原因でアレルギーが引き起こされたと思われる事例について、労災認定がされることが増えています。以前よりも労災だと判断される事故の範囲が広がっているといえるでしょう。
本件の事例から注目すべき点
本事例では、判決の前に労働基準監督署の立ち入り検査がなされ、労働環境が劣悪であるため改善するよう勧告がなされていました。
また、本人が仕事をしていた時と同じ条件で再現実験を行い、高度の有害化学物質が発生することが証明されており、このような事実の存在が安全配慮義務違反を認める大きな根拠となったのです。
そのため、「労働環境が法律に則った適法なものであるのか」、「アレルギーが発生する危険性のある労働環境であったといえる専門家の証明があるのか」という点が安全配慮義務違反の判断において重要といえるでしょう。
労災における損害賠償請求においてどのような損害を請求できるのかについては『労災の損害賠償算定と請求方法!労災と民事損害賠償は調整される』の記事をご覧ください。
アレルギーによる労災に関しては弁護士に相談
損害賠償請求を視野に入れるなら弁護士相談がおすすめ
アレルギーが労災であると認定されたならば、治療費や休業に対する一定の補償を受けられる点がポイントです。
しかし、労災の原因を吟味した結果、会社に安全配慮義務違反があるならば慰謝料を含む損害賠償請求も視野に入れるべきでしょう。
労災保険の給付内容に慰謝料は含まれていません。入院したり、何らかの後遺障害が残ったり、死亡に至った場合には慰謝料が高額になる傾向にあるので、とくに重大な労災事故の被害者ほど気を付けないと損をしかねません。
弁護士に依頼すれば、損害賠償請求額を算定し、会社に対する損害賠償請求を代理してくれます。
そのため、労働者は会社との交渉に直接立ち会う機会を最低限に減らせて、ストレスから解放されるのです。
業務災害に関して弁護士に相談や依頼を行うメリットについては『業務災害を弁護士に依頼するメリット!どんなときに弁護士が必要?』の記事をご覧ください。
アトム法律事務所の無料相談窓口
労災によって生じたアレルギーで重篤な後遺障害が残ったり、ご家族が亡くなられたりして、会社などに対する損害賠償請求を視野に入れている場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。ご自身の不安点や疑問点を解消することができるでしょう。
法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、いつでも気軽にご連絡ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了