剣道中の事故|学校や教諭の責任は?熱中症や失明など重大事故の損害賠償請求
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剣道は学校の部活や授業でも採用されている活気ある競技のひとつです。全日本剣道連盟によると、剣道は心身を鍛え人間形成を目指す「武道」であり、教育的な側面も重視されています。その一方で、どんな競技にも事故が起こるリスクは存在し、剣道も例外ではありません。
保護者の中には、事故発生の原因に学校や指導教諭の責任があるなら、学校側への損害賠償請求といった対応を考えている方もいるでしょう。
この記事を読めば、保護者が取るべき対応や利用できる共済制度がわかります。弁護士に相談・依頼するメリットも紹介しますので、最後までお読みいただき、あらゆる選択肢をご検討ください。
目次
剣道の事故|学校で起こった事例
剣道は剣道具により身体を防護しているため、基本的には安全に競技に取り組むことができます。しかし、剣道具が適切に使用されないケースや、習熟度に合わせた指導を受けられないケースなど不慮の事故は起こりうるものです。
また、剣道は原則屋内施設で行われることから熱中症による事故も発生しています。学校での剣道に関連する事故の事例をみていきましょう。
(1)剣道の練習中に倒れ、熱射病により死亡した
高校の剣道部で稽古をしていたところ熱中症状を呈し、搬送先の病院で熱射病により死亡してしまった事故です。
剣道部の顧問教諭による部活動中の状況判断・対応ならびに搬送先の病院の医師にも治療上の過失があるとして、家族が損害賠償請求を行いました。(大分地方裁判所 平成22年(ワ)第222号 損害賠償請求事件 平成25年3月21日)
(2)練習中に竹刀が目にあたり、斜視や弱視の後遺症が残った
中学校での剣道部の活動中、他の生徒が横に振った竹刀が目にあたり、右眼視力の低下や斜視・弱視といった傷害を負ってしまった事故です。
顧問教諭が仮入部期間中の練習にほとんど立ち会わず、直接指導もありませんでした。これらより注意義務を怠ったとして、部活動における指導監督義務違反で市に対する損害賠償を行いました。(仙台地方裁判所 平成17年(ワ)第836号 損害賠償請求事件 平成19年9月27日)
(3)遊んでいた他の生徒の竹刀が目にあたり、失明した
中学校の剣道部員が竹刀をスティックにみたててホッケー遊びをしていたところ、竹刀が手からすっぽ抜けて被害生徒の目を直撃・失明してしまいました。治療を続けたものの視力は戻らず、義眼の装着を余儀なくされたのです。
剣道用具を本来の目的外に使用しないこと、他の部員に危険を及ぼす遊び・行為をおこなわないように指導することを怠ったなど教諭の過失を求め、損害賠償請求を行いました。(大阪高等裁判所 平成9年(ネ)第2611号 損害賠償請求控訴事件 平成10年5月12日)
災害共済給付は剣道事故に利用できる共済
学校の管理下で起こった剣道事故は、独立行政法人日本スポーツ振興センターによる「災害共済給付」の補償対象となる可能性があります。部活動や体育の授業中に負傷したら、まず災害共済給付を申請しましょう。
災害共済給付とは、学校の管理下で生じた不測の事故を補償する共済制度です。ただし、全ての学校に対して加入が義務付けられている制度ではないため、共済利用の可否は学校に問い合わせる必要があります。
災害共済給付の申請には医療機関の証明が必要
剣道事故で怪我を負い、災害共済給付から給付金を受けとるには、医療機関の証明が必要です。証明にかかる用紙は学校からもらえるので、医療機関に提出して証明をもらいましょう。医療機関に医療費の証明をもらった用紙を学校に提出すると、あとは学校が申請を進めてくれます。
災害共済給付の申請後からおよそ3ヶ月ほどで給付金が支払われる見込みです。
ポイント
医療費の証明は療養した月ごとに必要です。医療機関への受診が複数月にわたる場合は注意しましょう。
災害共済給付は全ての損害を補償するものではない
災害共済給付金は、学校の管理下で起こった不慮の事故に対する補償として、下表のとおり支払金額を設定しています。
金額 | |
---|---|
医療費※ | 治療費の40% |
障害見舞金 | 88万円~4,000万円 |
死亡見舞金 | 3,000万円 |
※初診時からの医療費の総額が5,000円以上(3割負担時に1,500円以上)であること
剣道事故にあっても軽傷で済んだ場合は、災害共済給付金の支払金額内で足りることもあるでしょう。しかし重大な後遺障害が残ったり、死亡してしまった場合の損害額は、災害共済給付金の支払基準内におさまらない可能性があります。
例えば、剣道の稽古中に熱中症で命を落としてしまうケースや、寝たきりになって介護が必要になるケースもあります。事故さえなければ卒業後に就職して収入を得ていたはずが、全て失われたり、本来予想されていた金額から減ってしまうのです。
こうした損害は「逸失利益」と呼ばれ、障害見舞金・死亡見舞金の支払金額を上回る超えることも十分あるでしょう。
災害共済給付の支払金額を超える損害については、剣道事故の原因が学校側にある場合、災害共済給付金の不足分を損害賠償請求できる可能性があります。
後遺症が残った場合の慰謝料や逸失利益の相場・計算方法については、関連記事『学校の怪我で後遺症|慰謝料や逸失利益の計算と相場は?』も併せてお役立てください。
まとめ
- 学校で生じた剣道事故には災害共済給付を利用できる
- 災害共済給付を受けるには医療機関の証明が必要
- 災害共済給付だけでは剣道事故による全損害をカバーできない恐れがある
学校や顧問教諭への損害賠償請求は剣道事故の原因しだい
部活動や体育の授業で剣道をしていて子どもが怪我をしてしまったとき、学校や顧問教諭に対する損害賠償請求を検討する人もいるでしょう。結論としては、剣道事故の損害賠償請求が通る可能性は十分あります。
しかし、どんな事故であっても学校や顧問教諭に対する損害賠償請求が通るわけではありません。損害賠償請求の可否について、学校の責任と教師の責任という観点から説明します。
学校に責任を問える?剣道事故のケース別に解説
学校に対して剣道事故の責任を問えるパターンは2つあります。
- 指導教諭の故意や過失が認められる
- 学校の施設や設備に瑕疵がある
それぞれについて解説を進めます。
(1)指導教諭の故意や過失が認められるケース
まず、指導教諭が故意に生徒を負傷させる行き過ぎた指導や体罰が起こった場合には、学校側の責任を問えます。
もっとも、指導教諭が故意に生徒に損害を負わせたり、わざと事故の発生を招くということは大問題ですが、社会通念上やや考えにくいケースです。
より学校側と保護者の見解が対立する傾向があるのは、指導教諭による過失です。
指導教諭の過失とは?
事故が起こることを予見していたり、指導者として予見するべきであったにもかかわらず、適切な回避策を取らなかったこと
以下は指導教諭の過失をイメージしやすい例として紹介します。
- 剣道中に具合の悪くなった生徒に適切な救護処置をとらなかった
- 熱中症をおこしやすい状況を認識できたはずなのに、そのまま剣道の稽古や授業を続行した
- 一人ひとりの練度に合わせた剣道の指導を怠った
- 適切な用具の取り扱いや安全行動を周知徹底しなかった
指導教諭は、生徒が怪我をすることなく、安全な環境で部活動や授業に取り組めるように注意する義務(安全配慮義務)を負います。指導教諭が安全配慮義務を怠ったために事故が起こった場合には、教師の過失を問えるのです。
このように、指導教諭による故意や過失が原因となって事故が起きた場合、雇用者である学校に対しても使用者責任を問うことができます。
(2)学校の施設や設備に瑕疵があるケース
「瑕疵がある状態」とは、その施設・設備が本来そなえている安全性を欠いている状態です。
剣道場の老朽化で屋根が落下して生徒が怪我をしたり、設備の定期検査を怠ったことで不具合が生じて事故が起こったと認められれば、管理者である学校の責任を問えます。
関連記事では、学校の老朽化が原因となって起きた事故の法的責任について解説しています。
指導教諭本人に責任を問える?公立と私立の違い
剣道事故が指導教諭の故意や過失によるものと認められた場合、指導教諭本人に責任を問えます。
しかし、公立学校の指導教諭個人に対する損害賠償請求はできません。公立学校の場合は、学校を設置した国や地方公共団体が損害賠償責任を負うためです。
私立学校の場合は、指導教諭本人への損害賠償請求も認められる可能性があります。
学校 | 指導教諭本人への損害賠償請求 |
---|---|
公立 | 認められない |
私立 | 認められる |
損害賠償請求権に基づいて誰に、何を、どのように請求できるのかは関連記事『学校事故の損害賠償|請求相手と請求内容は?示談についても解説』にて詳しく解説しています。
まとめ
- 剣道事故の責任を学校に問えるのかどうかは、指導教諭の故意や過失の有無が分かれ目になる
- 学校の施設や設備に不具合があった場合は学校側に責任を問える
- 公立学校の指導教諭本人に対する損害賠償請求は認められない
学校で起こった剣道事故は弁護士に相談
学校や指導教諭個人への責任を問いたいと考えている方は、一度弁護士にご相談ください。事故の発生原因が学校や指導教諭にある場合、損害賠償請求が認められる可能性があります。
弁護士への依頼で得られるメリットは多数
弁護士に相談をすると、実際に弁護士が介入した場合にはどんなメリットが得られるのか説明を受けられます。
ここでは弁護士に依頼するメリットの代表例をみていきましょう。
金銭面のメリット
- 被害者の損害をもれなく算定できる
- 適切な損害賠償額がわかる
被害者が負った損害を適切に算定するためには、どんな損害が生じているかを正確に把握しなければなりません。
例えば、重い後遺障害が残ってしまい生涯の介護が必要になったなら、介護費用の請求もするべきです。介護の担い手への補償、居宅のリフォーム代、介護ベッドや車いすの購入および買い替え費用など損害は多岐にわたりますので、ご家族だけで判断せず、専門家である弁護士に見積もりを取ることをおすすめします。
また、慰謝料は過去の裁判結果や事例に基づく一定の相場があり、どんな金額でも通るものではありません。実務経験の豊富な弁護士に見解を聞くことが、慰謝料の相場を知る近道です。
負担軽減のメリット
- 学校側との話し合いや裁判の対応を任せられる
- 損害賠償請求に向けた書類や証拠の収集をサポートできる
学校事故に関して、学校側との話し合いは避けられません。しかし、保護者としては、剣道で怪我をした子どものケアに専念したいと感じるのも当然です。
弁護士に依頼すれば、学校側との話し合いや交渉を任せることができ、保護者の負担軽減につながります。
弁護士への依頼によって得られるメリットは多数ありますので、関連記事も併せてご覧いただき、ぜひ弁護士への相談を検討してください。
無料の法律相談予約を24時間受付中
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弁護士に相談すれば、保護者として取るべき対応や見通しに関する助言が受けられます。正式契約を考えている方には、弁護士費用もしっかりと説明をするのでご安心ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了