持久走中の学校事故について解説|学校に事故の責任はある?  | アトム法律事務所弁護士法人

持久走中の学校事故について解説|学校に事故の責任はある? 

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持久走での学校事故。損害賠償責任は?

体育の授業でやらされた持久走やマラソンが苦痛だったという方も多いのではないでしょうか。

学校現場では、激しい運動によって体調を崩して意識不明になったり、そのまま死亡してしまったりする事故も発生しています。

今回は、学校で行われる持久走に関して、事故の原因や具体的なケースとあわせて法的問題について解説していきましょう。

持久走中に起こった学校事故

コロナ禍で起こった持久走中の死亡事故

2021年2月、ある小学校で当時小学校5年生の男子児童が体育で持久走を行ったあとに体調が悪化し、死亡してしまう事故がありました。

この男子児童が保健室に運ばれた際にはあごの部分にマスクがかかっていました。これについて市の教育委員会は死因が特定できておらず、マスクと死亡の間の因果関係が判断できなかったと公表しています。

この学校事故では、担任の教員が持久走の際に「マスクは着けても着けなくてもよい」と指導していたと報道されており、児童に持病もなかったことから学校側の指導に問題があったのではないかという点が話題になりました。

このように、持久走に関連する学校事故は多数報告されています。

持久走で過呼吸になる原因を解説

学校の持久走やマラソン大会で「過呼吸」を経験したことがある方も多いのではないでしょうか。

過呼吸は、激しい運動などをして息が荒くなる過剰換気という状態になったことが原因で引き起こされる場合があります。この過剰換気の状態になると、二酸化炭素が排出され過ぎる結果、血中の二酸化炭素量が減少してしまいます。

その結果、血中酸素濃度が通常より高くなっているので、反射により呼吸を停止させて血中の二酸化炭素を増加させようとするのです。

しかし、脳は呼吸の停止を異常な事態であると捉えてさらに呼吸させようとします。

本人としては、呼吸をしても空気が吸えていないような感覚に陥って、不安によってさらに息が乱れていくという状態になってしまうのです。このような症状は「過呼吸症候群」と呼ばれます。

症状としては、息苦しさや動悸・頻脈、両手の指先や口の周りのしびれ等が起こることもあるでしょう。

持久走やマラソンなどの激しい運動が原因で起こることもありますが、ストレスや不安といった心理的な要因によっても同様の症状が現れる場合もあります。

持久走中や運動後に体調不良となった事故事案

運動後に体調不良によって子どもが死亡してしまったケースを具体的に紹介します。

持久走中の死亡ケース

運動場を出発し、学校周辺の道路を3.5km走行して再び学校に戻ってくるというコースで実施された持久走中の事故です。

このコースをある高校3年生の男子生徒が体育の授業で30分程度走り、19人中18位で運動場に戻ってきました。

しかし、ゴールした後、この生徒は座っていたところ突然、意識を失いその場に倒れてしまったのです。

病院に搬送されて直ちにAED・心臓マッサージが開始され、約40分後に心停止から回復しました。翌日の午後1時ころ再び危篤状態となったものの、透析治療を開始すると容態が安定し小健康状態となります。

人工呼吸器を装着し、人工透析や薬物投与などの治療が継続されましたが、入院から25日後に亡くなってしまいました。

この男子生徒の死因は心臓系の突然死であると考えられています。

ジョギング中の死亡ケース

中学校3年生の男子生徒が亡くなった事案です。

小学生のころから心臓に障害があると診断されていた男子生徒は、これまで継続的に治療を行ってきました。

学校での指導区分としては「軽い運動は可」とされており、医師からこの生徒が疲労を訴えるような場合には無理をさせずに休息を取らせるように指示されていたので、学校側も配慮しながら指導していたとのことです。

事故当日の体育の授業では、この男子生徒から特に疲労を訴える申し出などもなく、他の生徒と一緒にウォーミングアップのために軽いジョギングを行っていました。

この生徒がジョギングを開始してから約3分後、トラック4周目にさしかかろうとしていた段階で崩れ落ちるように倒れ、呼吸はしていたものの意識不明の重体に陥ってしまいました。

その後、この生徒は亡くなってしまいました。心臓系の突然死であると考えられています。

20mシャトルラン中の死亡事故

この事案は、20mシャトルラン中に中学3年生の男子生徒が死亡してしまったケースです。

この男子生徒は、体育の授業中の体力診断テストで20mシャトルランを20往復した後に自己の判断で休憩していました。体育館の横側の壁に背を持たれて休憩していましたが、突然体勢を崩して気を失うことになります。

この生徒は幼少期から心臓の病気を患っており、ペースメーカーを装着していました。心臓系の突然死であったと考えられています。

その他の運動中に発生した死亡事故

持久走の他に、学校で運動中に発生した死亡事故について紹介します。

ソフトボール中の死亡ケース

体育の授業中にソフトボールをゲーム形式で行っていました。ある高校3年生の男子生徒が3回裏に打席に着き、ショートゴロを打ち一塁まで全力疾走しましたがアウトとなったたのです。

その後、チームの控え場所に歩いて戻り、防球ネットにもたれかかり座って休んでいましたが、攻守交代になったにもかかわらず、この生徒が守備に着こうとしなかったため、担当教員が様子を確認しに行きました。

すると、この男子生徒は意識がなく、救急車を呼んで病院に搬送され、病院で救急治療を受けました。その後、日赤医療センターに転送されて蘇生治療を受けましたが、回復せずに死亡してしまいました。

ソフトテニスの部活中の死亡ケース

ある中学1年生の男子生徒は、ソフトテニスの部活中、1周80mの周回コースを10周ランニングした後、10mの幅を連続5往復するシャトルランを行いました。その後、急に気分が悪くなり吐き気をもよおし、手洗い場でうずくまってしまいます。

他の生徒が声をかけると、立ち上がって少し歩いたところで非常扉に顔をぶつけ、そのまま後ろに倒れこんでしまいました。

職員が駆けつけた時に痙攣を起こしていたため、救急搬送され、経過観察のため入院することになります。

しかし、その後、容態が急変し心停止のため心臓マッサージをしながら他の病院に搬送されましたが亡くなってしまいました。

この男子生徒の死因は大血管系の突然死であると考えられています。

学校事故の損害賠償責任

ここでは、運動中の学校事故における法的責任について解説していきます。

学校側の注意義務について

学校で行われる体育活動などは、怪我や故障が発生する危険性が常にあります。そこで、学校側には人為的な要因や施設・設備の状況、自然現象などによって事故が起きないように指導・監督する義務があります。

このように、教師が生徒児童の生命・健康に対して負っている注意義務のことを「安全配慮義務」といいます。

教員が、事故を予見することができ、事故を未然に防止できたにもかかわらず、適切な措置を怠った場合は、安全配慮義務違反があったと判断され、学校側への損害賠償請求が認められる可能性あります。

損害賠償の請求相手は公立校と私立校で異なる

教師に安全配慮義務違反が認められる場合には損害賠償請求が可能となりますが、その請求相手は、学校が公立校であるのか私立校であるのかにより異なります。

公立校の場合は教師が公務員であるため、国家賠償法にもとづいて損害賠償請求を行います。
そして、損害賠償請求の相手は、国または公共団体となるのです。学校や教師へ請求を行うわけではないことに注意してください。

一方、私立校の場合は民法にもとづいて損害賠償請求を行うため、安全配慮義務違反を行った教師や、教師を雇用している学校に対して請求を行うことになります。

学校事故における損害賠償請求の法的根拠については、関連記事『学校事故の法的責任|民事上の損害賠償請求と法的根拠』でも詳しく解説中です。

学校事故を補償する保険も利用しよう

学校事故によって生じた損害については、災害共済給付制度により補償を受けられる可能性があります。

災害共済給付制度

学校の管理下において生じた損害を補償するための制度。被害生徒の保護者が加入契約を行っている場合に利用できる。

災害共済給付制度を利用すると、弓道事故で負った怪我の治療費、後遺症が残った場合の見舞金、死亡してしまった場合の見舞金などの給付金を受け取れます。

もっとも、補償上限額があるため、生じた損害全てに対して給付を受けられるとは限りません。災害共済給付制度を利用してもなお不足する部分については損害賠償請求が必要となるでしょう。

災害共済給付制度に関して詳しく知りたい方は『学校で起きた事故で怪我をした場合に利用できる保険は?』の記事をご覧ください。

学校事故の解決は弁護士に相談

法的責任に関する検討は弁護士の専門的な知見が必要

学校事故が起こったからといって、ただちに学校側に法的な責任が発生するわけではありません。

前述のとおり、損害賠償責任については、教員が事故について予見可能性があり、結果について回避できたにもかかわらず、その義務を怠ったといえなければ安全配慮義務違反は認められないのです。

そして、安全配慮義務違反の有無を検討するには、事故に遭った生徒の状態や、教員の認識、どれくらい事故を予見できたか等といった諸要素についての情報収集が必要不可欠といえるでしょう。

法的責任の検討には専門的な知見が必要となります。学校事故についてお悩みの場合、まずは学校事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

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代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了